本は背表紙だ!
本は背表紙だと思うのです。
いや、本は中身だとか、装丁だとか、表紙だとか、作者だとか、いろいろなご意見があるのはごもっともではあります。
なにが背表紙かとかいうと、いちばんよく目にするのは、です。
新刊であれば平積みの本で表紙を見て買うこともありますし、Amazonでもページに表紙のサムネイルを表示しています。それでも、買うのは一瞬ですが、買った本を書架に入れれば、背表紙はかなり長いあいだ目にし続けるものです。表紙を見える状態で書架に置くことは、あまりないかなと思います。
余談ながら、デジタル化によってだいぶ書架に透き間ができたために、特製本だけを平台に置くことができるようになっています。紙の本は紙の本で、そうでなければデジタルで、ということです。
デジタルで本のイメージを表現する
背表紙には表紙にないメリットがあります。
背表紙は表紙よりも相対的に面積が小さいことです。表紙をデジタル化した場合には、サムネイルにする必要がありますが、背表紙は原寸大に近くても、それなりの数をひとつの画面に表示可能です。背表紙は、書架でよく見ているのでなじみもあります。
本は背表紙だと仮定したときに、よのなかのデジタルシステムで書物を扱うときに、表紙/背表紙はどうなっているかというと大きくわけて次のようになります。
- (1) 表紙
- (2) 仮想的な背表紙
- (3) 本物の背表紙
ひとつひとつ見てみましょう。
(1) 表紙を扱うシステム
デジタルで本というときに、いちばんよく目にするのが表紙のサムネイルです。
代表的なものは、アマゾンです。このアマゾンの書影を応用したシステムに、慶應大学の増井俊之教授の『本棚.org』があります。『ブクログ』も表紙のみです。
増井教授は以前表紙を横につぶして、擬似的に背表紙を表示しようとしていましたが、表紙と背表紙には似ているところもあり、実験の域を出なかったと思います。
アマゾンはかなり手間をかけて表紙をデジタル化したものを、APIを公開し自由に使用できるので、手軽に使うのには最適です。ただしアマゾンの場合は解像度は低く、現在の比較的高い解像度のディスプレイで見るにはややもの足りないところがあります。
Googleのブックスキャンも同様に表紙を使っています。
(2) 仮想的な背表紙
既存のイメージ(あるいは単色画像)などの上にテキスト文字を載せて背表紙風にイメージを作成するシステムがいくつかあります。
などです。
これらは、背表紙風ではあるのですが、本物の背表紙とは違うので、背表紙を見ても本のクオリアを喚起されない決定的な問題があります。背表紙風なものと背表紙とは違うのです。
筆者は未見なのですが、後述の『仮想書架における背表紙画像生成の自動化』によれば、背表紙風の関連システムとしては次のようなシステムがあるそうです。
- 佐藤衛, "CG映像による電子図書館「孫悟空」", 情報処理学会情報学基盤研究会報告,Vol.1991, No. 2, pp. 9-16, Nov. 1991.
- 神谷俊之, 呂山, 原雅樹, 宮井均, "3次元ウォークスルーとCG司書を用いた電子図書館インタフェースの開発", 情報処理学会情報メディア研究会報告, Vol. 1995, No. 1, pp. 25-32,Nov. 1995.
- 梶山朋子, 小川貴英, 大野義夫, "書誌検索システムにおけるGUIの研究", 第45回冬のプログラミングシンポジウム予稿集, pp. 71-76, Jan. 2004.
(3) 本物の背表紙
本物の背表紙を使うシステムの代表例としてふたつあげます。
ひとつは、『図書館における利用者のための書棚ガイドシステム』(名古屋大学 加藤範彦 2003年)です。これは、RFIDや移動式カメラなどを用いて、図書館の書架状況を表示します。ソフトというよりは、装置産業的なシステムです。
もっとも背表紙をリアルにデジタル化している例が九州大学のこのシステムです。
『仮想書架における背表紙画像生成の自動化』(九州大学 宮川拓也、大森洋一、池田大輔 2006)は、九州大学付属図書館の蔵書39,665件と背表紙1,499冊をデータ化した論文です。これは本格的な背表紙システムで、冒頭に記したとおり、「本は背表紙である」とすれば、もっとも本格的なシステムであります。
もうひとつ同様にリアルなシステムとしては、『新書マップ』の「書棚で見るテーマ一覧」があります。こちらも本物の背表紙を使っています。冊数は不明ですが、ITとメディアのジャンルに限ると、ざっと300冊程度はあるようです。ジャンルが32ジャンルあるので、9,000冊くらいあるでしょうか。これはすばらしい規模です。
ただし10冊程度を単位にして写真撮影してデジタル化しているようで、並べ換えなどはできず、書棚をユーザーが利用する観点からいうとやや乖離している感じがあります。
おおお。既存の背表紙システムを紹介していたら、自分の作成したシステムと構想しているシステムについて紹介するスペースがなくなってしまいました。この項、次回に続きます。