マネジメントの現場 ――良いチームを作るために必要なこと

第3回チャレンジングな目標を設定するには

なぜ目標設定をするのか?

メンバーの目標設定と振り返りをするプロセスは、多くの会社で定期的に行われているマネージャーの役割の一つです。一定期間のスコープを持った目標を設定することで、メンバーは果たすべき役割にフォーカスでき、マネージャーはメンバーの成果創出に貢献しやすくなります。また目標の振り返りでのフィードバックは納得感のある形になり、それがメンバーの成長にもつながります。

目標によるマネジメントは、1950年代にPeter Druckerが提唱した組織マネジメント手法の一つでマネージャーとメンバー間で明確な目標を決め業務に取り組むことがメンバーに主体性とやりがいを与え、より大きな成果と達成感を得ることを目的としていました。

この目標管理は1960年半ば以降、MBOManagement By Objectivesという形で多くの企業に導入されてきました。最近ではOKRObjectives and Key Resultsという目標設定手法も注目を集めています。

では、この2つはどう違うのでしょうか?

MBOとOKR

MBOの考え方は、Druckerの著書『The Practice of Management』注1の中で、⁠MANAGEMENT BY OBJEC TIVES AND SELF-CONTROL」と題される章で書かれています。

一般的に「MANAGEMENT BY OBJECTIVES = MBO」と言われていますが、Druckerの著書の中ではそれに続き「AND SELF-CONTROL」という言葉が書かれています。実はこの違いがMBOを運用をする場合に重要なポイントであり、メンバーが主体性を持って目標を自己管理することがDruckerの意図していたことでした。マネージャーが都度指示をしなければならなかったり、特定の手段を用いるときに許可や承認が頻発したりするマネジメント方法では、大きな成果ややりがいは得られないからです。これはOKRにも言えることです。MBOとOKRは違った思想ではなく、近しい思想があると思えます。

『Measure What Matters』注2という書籍の第2章には「OKRの父」というタイトルの章があります。そこでは、Andy Grove氏がIntelでどのようにOKRを作っていったかが書かれています。その中で、以下のような記述があります。

1954年に出版された代表作『現代の経営』注3では、この原則を「目標と自己統制による管理」注4としてまとめた。これがアンディ・グローブの出発点となり、今日われわれがOKRと呼ぶものの起源となった

─⁠─⁠Measure What Matters』第2章「OKRの父」「MBOの起源」
(脚注は執筆者によるもの)

つまりMBOとOKRは近しい思想からスタートしており、根本的な思想に変わりはないということになります。

MBOとOKRの違い

では、MBOとOKRが異なる点はどこなのでしょうか? 一番大きく異なるのは、設定する目標の基準です。MBOは100%達成を目指す目標なのに対して、OKRは70%ぐらいの達成を目指しストレッチしてチャレンジする目標となっています。MBOからOKRに変更する際に苦戦するのが、この目標の基準の違いです。

ほかにも「MBOは評価に利用するが、OKRは評価に利用しない」⁠MBOはマネージャーとメンバー間で決める目標管理ツールで、OKRは組織の目標を階層的に決めていく目標管理ツール」⁠OKRは優先事項にフォーカスする」など違いがあがってくるかもしれません。しかしこのあたりは長年MBOを運用している企業はその運用を見なおしながらカスタマイズを進め、OKRとの違いを吸収しているケースも多いように思います。過去僕が所属してきた企業でもMBOを目標設定に用いる会社もありましたが、より成果をあげるためや評価に対する納得感を増すために、事業目標からチームや個人へとブレイクダウンさせ階層化した目標設定方法の導入、360度評価やグレード制度と組み合わせて個人の成長にもフォーカスを当てるなど、工夫を凝らしている会社がほとんどでした。

OKRは目標設定がキモ

僕がはじめてOKRに取り組んだとき一番難しさを感じたのが、前述した「70%ぐらいの達成を目指しストレッチしてチャレンジする目標」の設定でした。

100%ゴールの目標設定のやり方だと現状からの積み上げ視点となり、現実的な範囲で手堅い目標を設定してしまいがちです。そうなると目標実現に対するアクションも自分が想像できる範囲のアクションにとどまり、新しい方法を学習して模索していくチャレンジをしなくなってしまいます。結果、自らの成長を制限してしまいます。これは僕が支援させていただいている企業でOKRを導入する際でもよく起きる問題です。

この考え方を変えていくことがOKRを導入する一番のキモであり、個人の成長とより大きな組織成果につなげていくための要だと感じています。

そこで参考になるのは、このコラムに何度も登場しているGoogle re:Workの「OKRを設定する」に書かれている内容です。特にOKRの作成時には、OKRの作成時に注意すべき落とし穴に書かれている5つのことが回避できているかを確認するとよいでしょう。

このあとの節に、僕なりのOKR設定に困ったときに意識しているポイントを参考までに書いておきます。

ObjectiveとKeyresult設定のヒント

Objective[5]は、達成したあとに実現していたら理想的、と思える目標を設定する。

「3ヵ月後までに開発中のプロダクトをリリース」という目標があった場合、そのプロダクトがリリースしたときの理想の状態を考えます。たとえば「プロダクトがリリースされており、改善のための定期的なリリースが行える開発体制が整っている」という目標のようにするとよいです。

Keyresult[6]はOKRに対する仮説で考え、極力measurable(測定可能)な目標に設定する。もしプロジェクト初期などで計測可能な目標設定が難しい場合、アクションプランを立て、その進捗率などで計測できるようにする。

「今年の10月から目標設定にOKR導入する」というプロジェクトがあり、そのプランニングがKeyresultの一つになっていた場合、以下のようなアクションプランを定義して、その進捗率で設定したKeyresultを評価するとよいです。

  • 7/10 OKRについての他社運用状況のリサーチが完了
  • 7/20 リサーチ結果に基づき、自社での運用ルールの素案作成と運用ツールの選定が完了
  • 7/30 選定した運用ツールを用いて有志でOKRのトライアルをしフィードバックを得る
  • 8/10 フィードバックを参考にした導入プランのたたきを作成
  • 8/20 各事業部のステークホルダーと合意し、運用ルールと導入プランを具体化が完了

日々のチャレンジを通じてどうなりたいかを考える

目標を立てアクションすることにより成果が出しやすくなり、組織の成長と自身の成長確度は高まります。結果として評価され、昇進して給与が上がり、より大きな役割を任されることもあるでしょう。ですがその視点だけでは、自身の将来やりたいことや目指しているキャリアにはつながらないこともあります。

そのズレをなくすため、中長期的に自分がどうなりたいか、どんなライフスタイルを実現したいかを考え、そこから逆算をした目標設定が必要です。

  • 「3年後にCTOになりたい!」
  • 「30歳までに年収を〇千万稼ぎたい!」
  • 「40歳を越えたら地方に住んでリモートで仕事をして自然の中で暮らしたい!」

こういった欲望にも近いような個人の根本にある想いを目標として言語化し、それをマネージャーに共有します。そうするとマネージャーは業務での活躍を通して将来の目標に近付くための支援

ですのでマネージャーが初めてのメンバーと1on1を行う際には、将来のキャリアについてヒアリングし、将来の目標をしっかり持っている人なのかそうでないのかは見極めてあげ、もしその目標がなければ、業務での成長を通じて将来の目標を考えられる支援をしてあげるとよいでしょう。

組織に貢献していれば自然と成長し評価され、それが積み重なりやりたいことができるというのはあります。しかし、ほとんどのケースにおいて企業の業種と個人の職種は特定の領域にフォーカスしているので、業務やドメインの知識と経験の強みが偏り、特定の業界/業種や特定の職種で活躍できるような個人成長を遂げます。自身の将来の目標しだいでは、それが理想とはかけ離れてしまったなんてことも起こり得ます。

そうならないためにも、⁠将来どうなりたいのか」を考え中長期的な目標を持っておき、定期的に振り返れるようにすることをお勧めします。

よりチャレンジングな思考になる

僕がチャレンジングな目標を立てるときに意識している一つのことがあります。それは、任天堂の宮本茂氏がおっしゃっていたとされる「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」という言葉です。

目標を考える際にまず「理想的な状態」を定義し、それに向かって取り組む際に起こる課題を洗い出します。そして、複数の課題を解決するアイデアを試行錯誤して考え出します。そうすると積み上げの思考にもならず、ゼロベースで考えたり、普段と違ったアクションに導かれます。

こうして自然とチャレンジしていく思考とスタイルが身に付き、その繰り返しがいつか大きな成果と成長のイノベーションにつながっていくのだと思います。

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