前回は、実際にメモを取る練習について話をしました。しかし、そこで意識的に書かなかったことがあります。メモはどうやって取ればいいのか、ということです。
メモの取り方に関しては、絵や記号を使えとか、日付と時刻は必ず入れろとか、略号を使うと早く書けるなど、書籍やネット上で多くの達人がいろいろなやり方を紹介してくれています。しかし、前回の「メモを取る練習をする」のときには、実際にメモを取るときにどうすればよいかは、あえて言及しませんでした(第4回で「持ち歩くペンは単色でいい」と書きましたが、それ以上のことは、これまでにもほとんど言及していません)。
最初のうちは、細かいやり方をいちいち指定されるよりも、自分の書きたいように書いた方が、ずっと書きやすいはずなんです。練習のときに、変にメモの取り方を指示されて、それが面倒で練習をしなくなってしまっては意味がありません。そのため、これまでメモの取り方は特に指定しませんでした。
しかし、書き方というよりも、メモを取る練習をするときの心構えとして、いくつか伝えておきたいことがあります。
未来の自分は赤の他人
まず、「メモは必ず他人が読むもの」と考えてください。
「いや、俺は自分のためのアイデアメモを残したいんだ」という方もいると思います。そういう場合でも、メモは他人が読むものだ、と考えてください。つまり、今の自分と将来の自分は他人だと考えて、他人である自分にわかるように、メモを残してほしいのです。
1時間や2時間、1日や2日程度であれば、それほど大きな変化はないかもしれません。しかし、1ヶ月、1年、10年と時間がたつと、明らかに同じ自分ではないはずです。
数年前に自分が残したメモを読んだときの驚きは、経験した人にしかわからないかもしれませんが、そりゃもうとんでもないものです。
「すげぇぞ、1年前の俺!」と思うこともありますし、「ばかだなこいつ」と思うこともあります。どちらにしても、過去の自分が書いたメモを見たときの衝撃は、下手な推理小説で犯人が明かされたときよりも、ずっとすごいものです。
その感動を味わうためには、1年後、10年後の自分が読んで理解できるメモを残す必要があるのです(もちろん、すべてのメモがそういう衝撃や感動を与えてくれるわけではありませんが)。
なんにしても、未来の自分は赤の他人と心得ましょう。
早く書く必要はない
そのために、というわけでもありませんが、メモを取るときには、基本的に早く書く必要はありません。早く汚い字で書くよりは、少しゆっくり丁寧に書いた方が良いのです。そうすれば、未来の自分にもちゃんと読めます。
もちろん、時間の制約がある状況でメモを残さなければならないこともあるでしょう。そういう場合は、必ず、可能な限り時間を空けずにメモを読み返して、少しゆっくり丁寧に補足を書き込むなり、清書するなりしてください。
省略する必要はない
"早く書く必要はない"ということは、"変に言葉を省略する必要もない"ということです。むしろそんなことはしてはいけません。
たとえば、これはアイデアメモの類ではありませんが「19:00 田中 TEL」とだけ書いてあるメモでは、田中に電話をするのか、田中から電話がくるのか、それとも電話をしたのか電話があったのか、さっぱりわかりません。書いた時にはわかったのかもしれませんし、前後のメモからわかることもあるかもしれませんが、この場合は「19:00に田中にTELすること。」と書いても、書く時間はそれほど変わりません。
書くときに1秒を惜しんで、あとで10分悩むのは無駄ですよね。
記号や略語を使う必要はない
同じような理由で、記号や略語もあまり使わない方が良いでしょう。
電話をTELと略すのは一般化しているから良いとしても、メモを取るためにわざわざ略語を考えて、それを使うのは少々考え物です。それが完全に身についていて、頭の中で一切変換せずに理解できればかまいませんが、書くときにも読むときにも、一度頭の中で変換作業が必要になるような記号の使い方は少なからずストレスになります。
ましてや、メモを取るときに、その場で考えた記号や略語は、あとで理解できない可能性大です。絶対にやめてください。
「どうしても記号や略語を使いたいんだ」という方を止めるつもりはありませんが、無理をしてまで記号や略語を使う必要ないはずです。
もちろん、必要に応じて絵や図を入れたり、その記号や略語に自分の中でしっかりした意味が確定しているのなら、話は別ですよ。
難しい言葉を使う必要はない
ただし、早く書く必要はないとはいえ、メモを取る流れが止まってしまっては意味がありません。特に、メモを取るときには思考の流れが止まらないようにしてください。
メモを取る練習をするのに気取る必要はありませんから、難しい単語や使い慣れない言い回しを使おうとして、考え込んだりしないようにしてください。そんなことをすると、せっかく書こうとしていたことを忘れてしまうかもしれません。
メモを取るときには、目や耳に止まった言葉や風景、頭に浮かんできた言葉やイメージをそのまま書いてください。可能な限り、余計なことは考えず、手を止めることなく、ペンを走らせてください。必要であれば、あとでいくらでも書き足しや書き直しはできますから。
漢字を使う必要はない
手を止めるなと言われても困るのは、漢字が出てこないときでしょうか。
普段、ペンで紙に字を書いていないと、読めるけど書けないという漢字が山のように出てきます。そういうときでも、メモを取る手は止めてはいけません。では、どうすれば良いのでしょう?
簡単です。漢字がわからなかったらカタカナで書いてください。一瞬でも悩んだら、即カタカナです。必要ならば、あとで時間のあるときにじっくり調べて、上でも下でも横でもいいので、漢字を書き込んでおけば良いのです。場合によっては、カタカナのままでも問題ありません。要は意味が通じれば良いのです。
日付時刻を入れる必要はない
「メモを取るときには、日付と、できれば時刻を入れておけ」という指示が、メモ術にはよく出てきます。しかしこれも、絶対に入れなければいけない、ということではありません。
自分で残したメモをあとから見直したときに「あれ、これいつのことだっけかなぁ」と気になったら。そう思うことが多かったら。自分にとって、いつメモを取ったのかがあとで重要になってくるんだ、と気がついたら。そうしたら、次からはメモを取るときに日付や時刻を入れるようにすればいいのです。それまでは、別に無理して日付や時刻を入れる必要はありません。
ついでに言うと、メモを見直して「次からは日付時刻を入れなきゃダメだな」と思ったら、即座に「次からは日付時刻を入れること」とメモしてくださいね。もちろん日付時刻入りで。
「1枚1件、表のみ」の必要はない
また、メモの取り方でよく言われているのが、「一枚一件。裏は使うな」ということです。しかしこれはあくまでも実践術です。練習の時には、あまり気にする必要はありません。おそらく、最初のうちはあまり多くを書けないこともあるでしょう。「もったいないなぁ」という思いがストレスになっては練習になりません。ですから、一枚に何件書いてもかまいませんし、表も裏も使いまくってください。
もちろん、「1枚1件。使うのは表のみ」という使い方でもかまいません。そのほうが"メモ帳"を早く使い切ることができますしね。
もし1ページに複数のメモを書く場合は、できるだけ余裕を持った使い方を心がけてください。
たとえば練習に使っている"メモ帳"が、A4サイズぐらいだったら1ページ3件、B5サイズぐらいだったら1ページ2件ぐらいがベストです。もう少し多くてもいいかもしれませんが、あまり詰め込み過ぎないようにしてください。
そして、メモとメモの間にしっかり横線を入れるなり、かなり間をあけるなりして、メモの区切りがはっきりわかるようにしておいてください。
ただし、用意した"メモ帳"がA7やB6サイズくらいであれば、ケチケチせずに1枚1件にしてくださいね。練習中は、裏も使ってかまいませんから。
色分けする必要はない
ついでに、すでに書いたことですがもう一度書いておきましょう。
練習中は、メモを取るときに色分けする必要はありません。
たとえば「重要なことは赤で書く」と決めたとして、困ることはいくつかあります。
手元に赤いペンがなかったらどうしましょう。それ以前に、黒と赤、2本のペンを持ち歩かなければなりません。3色ボールペンもありますが、「書き味が好みじゃない」とか「太さがいや」とか「そもそもボールペンは嫌い」という不満があったら、それがストレスになって、メモを取る習慣をつけにくくなります。
また、メモを取っている最中に「重要なこと」かどうかの判断に迷うこともあります。これは赤で書くべきか、黒のままで良いのか、と悩むのは、メモを取る流れを止めてしまうことになります。それでは練習になりません。
重要なことは色分けするまでもなく、丸でも四角でも雲形でもいいので、好きな形で囲んでおくか、下線でも引いておけばいいのです。どうしても色をつけたかったら、あとで見直して、囲む色を赤にするとか、マーカーで塗るとか、いくらでもやりようはあります。
これらを厳守する必要はない
念のためにお断りしておきますが、今回紹介している内容も、基本的にはメモを取る練習をしているときの話です。もちろん、実践のときにも意味のある内容もあると思っていますが、そもそも「これが正しいメモの取り方だ」というものは存在しない、と思っていますので、今回紹介した内容をすべて厳守しろ、というつもりはありません。
要は自分にストレスのないメモの取り方で練習をして、メモを取ることに慣れれば良いのです。ほんの小さなストレスの積み重ねが、メモを取らない原因になってしまうことだってあるのですから。
最初に説明したように、自分の書きたいように書いたほうが、ずっと書きやすいはずなんです。書きやすいようにたくさん書いて、まずは書く癖をつけてください。