メモは読まれて初めてメモになる
前回の記事を読んで気がついた方もいらっしゃると思いますが、前回はやたらと「あとで読み返したとき」といった意味の言葉が出てきました。「そんなにしょっちゅう読み返さなきゃいけないの?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
でもよく考えてください。『「メモを取ろう」と思った』ということは、『「あとで必要になる(かもしれない)」と思った』ということです。『メモが必要になる』ということは、『そのメモを読み返す』ということです。
もちろん、書いた本人が読み返すとは限りません。誰か他の人に宛てたメモかもしれませんから。そうだとしても、基本的には「メモは必ず誰かが読むもの」なのです。誰にも読み返してもらえないメモは、メモとしての意味をなしません。「メモは書かれた時点ではなく、読み返された時点で初めてメモになる」といってもいいかもしれないぐらいです。
たしかに、第5回で紹介した練習で取ったメモは、あとで必要になると思ったから取ったわけではないかもしれません。そういう意味では、あとで読み返すことはないのかもしれませんが、あれはあくまでも"練習"です。
そこで、練習とはいえせっかく取ったメモですから、可能な限り読み返してあげましょう。
もちろん、それも「メモを読み返す」練習です。「いや、たかが読み返すぐらい、練習しなくてもできるから」と思う人もいるかもしれませんが、なかなかどうして、これができない人が多いのです。「読み返すほどのメモは残してないしなぁ」と思う人もいるかもしれません。
しかし、メモを読み返す習慣がつかないと、そのうちに「メモを残す意味がないんじゃないか」と思い始めます。そうなると、メモを取る習慣もつかなくなってしまうのです。ですから、メモを取る習慣をつけたいと思ったら、メモを読み返す習慣を身につけなくてはいけないのです。
いつ読み返すか
まず、「メモはいつ読み返せばいいのか」という問題です。
よく言われるのは、「日次、週次、月次でレビューをしましょう」というようなことでしょうか。朝一番もしくは夜寝る前に一日分のメモを読み返し、週のはじめ、もしくは週末に一週間分のメモを読み返し、月初または月末に一ヶ月分のメモを読み返す、という習慣をつけましょう、というのが、よくある教えです。
基本的には、これはおそらく正しい考え方です。定期的にメモを読み返すことで、自分で書いたメモの内容を、自分自身にフィードバックするわけです。そして、そこから何かが得られるかもしれないのです。
ところが、これが意外と面倒臭い。
やるべきタイミングでやるのを忘れてしまったり、覚えていたのに忙しくてできなかったり、いざやってみたら意外とメモの量が少なくてガッカリしたり、逆に多すぎて途中で読むのがイヤになったり。そういうことが続いて、結局メモを読み返す習慣がつかなくなってしまう、というのがよくあるパターンです。
時間を決めずに読み返す
そこでわたしがお勧めしたいのは、まずは時間や日付を決めずに読み返す、という方法です。では、いつやるかということですが、一番単純なのは"メモ帳"を手にしたタイミング、つまりメモをとったら、ついでにふたつみっつ前にさかのぼってメモを読み返してみる、という見返し方です。
時間や日にちを決めて、一日分や一週間分のメモをまとめて読み返すことも大事ですが、それにとらわれるあまり「ああ、夕べもメモを読み返さないで寝てしまった」と後悔する毎日では楽しくありません。それならばむしろ、"メモ帳"を手にした時点で読み返してしまおう、という発想で、メモを取ったら少し戻って読んでみる方法をお勧めします。
もちろん、メモを取ったときに限らず、気が向いたとき、暇なときに、手元の"メモ帳"をパラパラとめくって眺めてみる、ということでかまいません。やるべきことは「自分が書いたメモを読み返す習慣をつける」ということですから。
ただし、元々メモを読み返す習慣のない人は、暇なときに"メモ帳"を手に取る、という習慣もないでしょうから、そのやり方はうまくいかない可能性が高いのです。そのため、とりあえずはメモを取るために"メモ帳"を手に取ったタイミングで、それをきっかけに少し前を読み返してみる、という癖をつける努力をしてみてください。
実はここでも「バラバラにならない"メモ帳"を用意してください」といったことが意味を持ってきます。バラバラになる"メモ帳"では、おそらく書き終わったものは別に保存していたりしますので、暇なときにいつでも読み返す、ということができなくなります。むしろ、時間を決めたレビューをする以外に、読み返すタイミングがなくなってしまうのです。
それに比べると、過去に書いたものも常に一緒にくっついている「バラバラにならない"メモ帳"」は、いつでも過去のものを読み返すことができます。
さらに、"メモ帳"が一冊終わった時点で、その一冊を見返してみる、というのも忘れずに行ってください。
時間を決めて読み返す
中には、日次や週次や月次のレビューがしたい、もしくはその必要があるのに、どうしてもうまくできない、という人もいるでしょう。そういう人は、区切りの良いタイミングでレビューする、という考え方を捨ててみてください。本来区切りの良いタイミングでやるべきレビューを、わざと区切りではないタイミング、むしろ流れの中に組み込んでしまうことで、やりやすくする、という考え方です。
区切りの良いタイミングというのは、実はやるべきことがたくさんあってバタバタしていたり、逆にホッとしてしまったりして、まだ習慣化していないものを組み込むには良いタイミングでないことが多いのです。
そこで、区切りの良いタイミングではなく、日次レビューならば午後3時ごろに、週次レビューならば水曜あたりに、月次レビューならば17日ごろに実施するようにしてみるのです。もちろん、午後3時とか水曜とか、はっきり決める必要もありません。なんとなく他の作業の合間に、というやり方でかまいません。
そして、レビューをしたら「レビューをした」とメモを残す。レビューをした結果どうだったか、などと書く必要はありません(書いてもかまいませんが)。レビューをした、という事実をとりあえずそのまま記録として残す。それも、メモを残す習慣のひとつになります。
そして、次回のレビューのときには、その「レビューをした」というメモのところまでを見返すのです(もちろん、それ以上前にさかのぼって見返してもかまいません)。
さらに、それらの定期レビューを忘れてしまった場合は、「じゃあ明日、2日分まとめて」とか「来週2週間分まとめて」などと考えずに、レビューを忘れていたことに気づいた時点でレビューしてしまいましょう。もし無理な場合でも、最低「レビューを忘れていた」とメモを残してください。
読み返して何をするか
メモを読み返していったい何をすればいいのかわからない、という人もいるかもしれません。
とりあえず何もしなくてよい
とりあえず最初のうちは、あまり深く考えないでください。練習のうちは、ただ漠然と読み返せばそれで良いのです。目的は、読み返す習慣を身につけることです。誰にも読んでもらえないメモはメモではないのですから。
読み返すことで、そこから何か出てくるかもしれませんし、何も出てこないかもしれません。どちらかというと何も出てこない可能性の方が高いでしょう。過去の自分に、そんなに期待をしてはいけません。しかも、過去といっても数日前程度の過去だったら、それほど違いはないでしょう。まだ練習の段階ではなおさらです。
練習の時点では、メモを取る習慣を身につけるには、メモを読み返す習慣を身につけることが不可欠なんだ、ということを忘れないように、可能な限り頻繁にメモを読み返してください。読み返す習慣を身につけるためですから、ただ読み返すだけでかまいません。
場合によっては、それほど時間が経過していなければ、書いた内容は全部覚えているので、読み返す必要はない、と考える人もいるかもしれません。しかし、たとえ覚えていることでも、必ずもう一度読み返してください。繰り返します。練習の時点では、メモを読む習慣を身につけるために、読み返すのです。覚えているかどうかは関係ありません。
どうしても何かしたいなら
そうはいっても、せっかく読み返すのなら何か意味があった方がいい、と考える人もいると思います。そういう場合は、とりあえず自分のメモを読み返した感想をメモしてください。読んだメモの横や上や下に追記してもかまいませんし、新たなメモとして書いてもかまいません。
どんな感想を書けばよいかということですが、通常はその読んだメモから得た新たな発想をメモするとか、書き忘れていたことを追加するとか、前回お伝えしたような、重要な部分に色をつけるとか、カナを漢字に直すとか、そういうことでかまいません。
中にはそういうことがまったく出てこないメモもあると思います。そういう場合は、文字通り感想を書いてください。たとえば、読み返したときに「汚い字だなぁ」と思ことがあるかもしれません。もしそう思ったら、まずは素直に「字が汚い」とメモしてください。そのあと、どうすればきれいな字でメモを取れるか、考えてみれば良いのです。もちろん、考えるだけでなく、それをメモに残してください。
ひょっとすると、ほんの数時間前に自分で書いたメモにもかかわらず、反対意見を思いついてしまうことがあるかもしれません。そのときはしっかりと反対意見を書けばよいのです。
そのほかにも、自分で書いたにも関わらず、何を書いたのかわからないようなメモが出てくることもあるかもしれません。メモをたくさん取るようになると、ちゃんと読めるのに、意味が分からないメモというのが時々出てきます。そういうときには、潔く「意味不明」とでも追記してください。もちろん、それが読み返した時点での感想であることがわかるようにするのを忘れずに。
その後もう一度そのメモを読み返したときに、今度は意味が理解できるかもしれませんし、結局一生意味が分からないまま終わるかもしれません。それはそれでメモの面白さだと考えて、そのメモを読み返す度に「どういうつもりで書いたんだろう」と考え、考えた結果をまたメモに残してみてください。ひょっとするとその考えも、毎回毎回変わっているかもしれません。そこから何か生まれてくる可能性だって、ゼロではないのです。
ではさっそく、手元の"メモ帳"に「メモを読み返す」と書いてください("メモ帳"は手元にありますよね)。そして、そのままふたつみっつ前のメモにさかのぼって読み返してみてください。何か思いつくことがあったら追記するなり、新しいページにメモを書き込むなりしましょう。何も思いつかなくてもかまいません。「メモを読み返した」と書いてください。
書いて読んで、再び書く。
これが、メモを取る習慣を身につけるコツです。