前回は、情報カードの書き方について説明しました。今回は、情報カードをどのように蓄積し、運用するかについて解説していきます。
PoICでは、頭に浮かんだ順にカードを書き、そのままドックに放り込んでいきます。これを、「時系列スタック法」と呼びます。情報蓄積法としては、最も自然な(そして原始的な)方法です。
「時系列」とは?
単に「時系列」と言った時、そこには二種類の意味が含まれています。まずは、この二種類の時系列の違いを確認しておきましょう。
絶対時系列
一つ目の時系列は、「みんなに共通の時系列」です。例えば、私はある日の朝、街路樹が紅葉をし始めたのに気付き、同じ日の夕方、オフィスに友人が訪ねてきたとします。
当然、二つの出来事は、
- ある日の朝、街路樹が紅葉をし始めたのに気付いた(R1)
- その日の夕方、オフィスに友人が訪ねてきた(R2)
の順番で発生しています。
この時系列は、私にも、通行人にも、友人にも共通です。すなわち、公共的・社会的・歴史的な時系列で、時間軸は一本だけです。これを簡単に「絶対時系列」と呼びます。
相対時系列
これに対し、PoICの時系列は、「個人の心の中の時系列」です。例えば、先の例の出来事を、私が眠る前に日記に書くとします。その時、頭の中では、最初にR2が思い浮かび、次にR1が思い浮かんだとします。
つまり、二つの出来事は、私の心の中では、
- その日の夕方、オフィスに友人が訪ねてきた(R2)
- ある日の朝、街路樹が紅葉をし始めたのに気付いた(R1)
の順番で出現しました。
この時系列は、私に固有のものです。心の中の時間軸は相対的なもので、個人の数だけあります。これを、「相対時系列」と呼びます。
時系列スタック法
PoICシステムの中心にいるのは、あくまでも私たち自身です。PoICの「時系列スタック法」とは、言い換えれば、「相対時系列に沿ってカードを書き、そのままの順番でドックに蓄積していくこと」を意味します。
書きながら考えていると、出来事の発生順序と心の中での出現順序が逆転することは頻繁に起こります。これは、直近の出来事の方が思い出しやすいためです。PoICでは、出来事を絶対時系列に沿って頭の中で並べ替えたりせず、心に浮かんだありのままの順番(R2、R1)で書きます。
重要なのは、出力の初期段階でボトルネックを作らないということです。バラバラのカードを使っているので、出来事を絶対時系列に並べ替える必要があっても、あとでいくらでも並べ替えることができます。相対時系列を採用することで、書くカードの数は自然と増えます。
3ないの原則
以上の定義に加えて、さらに「3ないの原則」を導入します。
カードは、
前回紹介した4カードは、ドックの中でカードを仕分けるためにあるのではありません。カードを分類しないのは、枠組みを外し、思考を自由にするためです。積極的に分類しないことで、カードの内容に多様性が生まれます。
PoIC の中のカードは頻繁に検索するためのものでもありません。アナログのカードが検索性に優れないのは自明です。検索性に特化したデータベースが必要であれば、パソコンを使ったほうが無難でしょう。カードの内容を部分的に憶えている時は、その記憶を頼りに新しいカードに書いてします。
また、カードシステムは情報単位が小さいため、「超」整理法型の時系列更新ルール(野口、1993)はうまく働きません。ドックの中で並べ替えをしてしまうと、時系列の中でカードが迷子になってしまいます。
タスクフォースの編成と再生産
時系列スタック法の3ないの原則のため、PoICを始めたばかりの頃は、ドックの中の情報は渾沌とします。しかし、しばらくすると、そこには私たちの「思考の流れ」、「行動の流れ」が明確に現れてきます。PoICの真の目的は、その中からパターンを見いだし、新しい知恵・知識・価値・成果を創出することです。
ドックの中のカードにパターンが見えてきたところで、関連するカードを全て選り抜き、再生産を行います。このカードを選り抜く作業は、PoICの中でも重要な作業の一つで、「タスクフォース(機動部隊)を編成する」と呼びます。
タスクフォースは、具体的には、文章を書いたり(Blog、レポート、プログラム)、実際にモノを作ったり、得られた知恵・知識を生活に反映させるために使われます。タスクフォースの編成の仕方には、状況に応じて次の二種類があります。
時系列解析
例えば、記録カードを使って自分の健康状態の推移を見ることは、「時系列解析」に相当します。ある一つの事象を、時間軸(t)に沿って追跡していきます。一枚一枚のカードに付けたタイムスタンプ(日付・曜日・時刻)は、この時に役に立ちます。
Excelやgnuplotなどを使って数値をグラフ化すると、推移がより明確になるでしょう。
空間解析
一方で、カードを使って文章を構成することは、「空間解析」に相当します。カードを使った文章構成術の代表例としては、KJ法(川喜田、1967)が挙げられます。編成したタスクフォースを机の上(x、y)に展開し、カードの内容を元にグループ化していきます。新しいアイディアが浮かんだ時は、既存のカードに赤で書き加えるか、新しいカードに書きます。
文章をまとめるツールとしては、大きめの情報カード、エディタ、Word、Blog、Wikiなどを利用します。実際に文章を書く時は、カードの内容をただつなげるよりも、それをたたき台にして、そのグループの印象を記述した方が良いようです。さらに、グループを並べ替え・組み合わせて、節、章と構成していきます。
お役御免
新しい知恵・知識・価値・成果を創出し、役目を果たしたタスクフォースは「お役御免」となります。数百枚規模のカードを抜き出した時、それを元の時系列に戻すことは、実質的に困難です(枚数が少ない時は戻しても可)。そこで、抜き出したカードは、元の時系列には戻さず、別の場所に保管しておきます。カードの内容を参照したい時は、成果の方を参照します。
自分にとって役に立つ情報は、他の人の役に立つ可能性が高いと言えます。再生産した成果は、インターネットで公開したり、仲間内・家族で共有するのも良いでしょう。Flickr やはてなダイアリーといったサービスは、無料で利用することが可能です。
まとめ
今回は、時系列には二つの意味があること、PoICの時系列スタック法の「3ないの原則」、そしてタスクフォースの編成から再生産までの流れについて解説しました。
次回は、最終回、PoICを楽しく続けるコツについて考えてみましょう。