GTDは自己啓発に役立つか
前回は、大きなプロジェクトに考えるための「自然に計画するためのモデル」について説明しました。このモデルは、大きなプロジェクトを分解するのに役立つモデルです。今まで私は、このモデルを含め、GTDが仕事管理にどのように役立つかを説明してきました。
人生をよりよくしたい、そのために仕事管理で手際よくする以外に、GTDは何かもたらしてくれるのか――今回は、私がGTDを経験して成長したなと感じた3点について、紹介したいと思います。
GTDで成長した3つのこと
さて、私がGTDを体験するにつれて、成長したことは何だったのか? 成長したと感じた3点は、以下のようにまとめることができました。
- 細かいことをさっさと終わらせる瞬発力
- 高い空からでも対象を見据える俯瞰力
- 自分の欲するものを選択できる自分軸
細かいことをさっさと終わらせる瞬発力
GTDを使いながら仕事をしていく上で、私が以前より力がついたのは、「細かいことをさっさと終わらせる瞬発力」でした。今までの私だと、ちょっとした作業でもすぐに後回しにしてしまい、最終的にうんざりしながらそれらを済ませていました。
これは、GTDの2分間ルールが効果的に働きました。
2006年の春頃、私はまじめにウィークリーレビューを実施していました。家の中の気になるものを収集し、それを処理ステップのワークフローに従って、一つずつ処理していきます。この方法を、毎週実施していました。この時の作業時間は非常に長く、終了するまでに3時間かかるのがざらでした。特に時間がかかっていたのが、処理ステップです。収集した『物』には2分間ルールで実施できるものが多くありました。2分間ルールで実施できる『物』が30個あったとすると、これで最大60分はかかってしまうのです。
そこで私は考えました。どうやったら、ウィークリーレビューの時間を短縮することができるのか、と。結局そこで行き着いたのは、2分間ルールで処理するものを、ウィークリーレビューにまで持ち越さないことです。つまり、収集するその場で実施してしまうのです。2分間ルールに適用される『物』は、それこそ本だったり、片付けを忘れてしまったものが大半だったからです。こうして私は、2分間ルールを毎週のレビュー時間に実行するのではなく、収集するタイミングで前倒しで実行することに切り替えました。
このような経緯を経て、私は「細かいことをさっさと終わらせる瞬発力」を以前より手に入れることができ、それを通常の生活でも発揮できるようになりました。
このように、私がウィークリーレビューではなく、日々の生活の中で2分間ルールを実行するように切り替えられたのには、2つ理由があります。
- 一つは、ウィークリーレビューでそれなりに処理ステップを理解し、どういったものが2分間ルールで適用するかが判断できるようになったことです。
- もう一つは、ウィークリーレビューでそれなりに処理ステップを実施し、実際に2分以内程度で作業が完了することを体感していたことです。
人間は、ある程度の確実性がなければ、それを実行するまでに至りません。たとえそれが、2分で作業が完了するにしてもです。
日常で2分間ルールを実施する前に、私はウィークリーレビューでそれを実施していたため、どんな時間であっても実行できるようになったのだと思います。これが、いきなり日常に実施してみなさいと言われては、きっと実行できなかったと思います。
高い空からでも対象を見据える俯瞰力
『俯瞰力』という言葉自体は、自己啓発の中でもよく聞く言葉だと思います。その中では、高い視野で物事を捉えること、という意味でよく使われています。私はこの意味に付け加えて、高い視野から低い視野に焦点を自由自在にできることが、培われたなと思います。
GTDでは、アクションで各作業を確認する一方、その上位のプロジェクト単位で確認したりします。つまり、GTDをすること自体が、複数の視点から物事を見るようになっています。また、プロジェクトからアクションに分解したり、アクションを実行することでプロジェクトを達成したりも経験しました。これらの作業が、俯瞰力を作っていったのだと思います。
俯瞰力があると、どのように捉え方が変わるのか――例えば、私は年に一回、会社で仕事の目標設定を行います。それには、会社の方針があり、そのために部の方針があり、そのために各個人の目標を設定します。GTDをする前だと、部の方針と自分の行動とに関連性を見出せず、「目標設定してもなんだかなぁ」という印象を受けていました。しかし、GTDをした後では、「この部の方針だったら、私の目標はこれに設定しよう」という風にブレイクダウンするようになりました。
特に、影響が顕著に現れたのは会社の総会の際です。会社の総会では、前年度の成果をまとめ、次年度の方針を社員に連絡します。それまでは漫然と会社の成果を聞いていましたが、俯瞰力が培った後では、会社の方針についてリアルに考えるようになったと思います。会社の方針に対して、部の方針は妥当なのか、自然とそういう風に考えるようになっていました。
これは、部の方針と自分の目標設定が繋がっていることを実感していることに他なりません。鳥は高い場所からも獲物がクリアに見えるそうです。それゆえ、低い場所に何がどこにいるのかを正確に捉え、高い所から急降下しても、鳥は正確に獲物を獲得することができるのでしょう。鳥には、高いところから低いところまで、対象物に通じる道が繋がっているのです。鳥が高いところからでも低い所からでも対象物に向かっていけるように、私はいろいろな視点に移動することができるようになったと思います。
自分の欲する何かを選択できる自分軸
突然ですが質問です。「あなたは今、何がしたいの?」 いきなりこんな質問がやってくると、昔の私はとても困りました。多分こんなことがしたいんだろうな、と思っていても、それに対して"うん"と頷ける程には確証がありませんでした。確証がなかったのは、自分に対してです。また、仮に答えられたとします。では、次の質問はどうでしょう? 「その大切なもののために、あなたは選べられる?」
私は最近、自分にしては大きな決断をしました。数ヶ月前の1ヶ月間、休職をしました。もちろん、すんなり「はいそうですか」と会社が返事をすることはありませんでした。上司を説得し、最終的に了承を得ることができました。昔の私では、考えられないようなことです。今でも不思議に思いますが、 GTDで、自分の欲する何かを選択できる自分軸が培われたように思います。
この自分軸は何から構成されているのでしょうか? 自分が何を重要としているか、ということを認識していました。しかしそれだけでは不十分です。具体的に何をしようとしているのかも把握していました。それを実行する際の目に見えたデメリットも理解していました。最後に私が天秤にかけたのは、同じことを一生涯のうちに実現可能か、ということでした。答えは否でした。これが決定打となり、私は実行することを選択できました。しかし一番重要なのは、私は悔いなく選択することができたということです。あなたの決めたことに間違いはない? 私は胸を張ってうんと頷くことができます。
GTD自体は、意思をどうこうするものではありません。そうと思っていただけに、何をもってこのように自分の軸が強くなったのかが不思議でした。しかし、一つだけ思い当たるものがあります――それは、処理ステップです。処理ステップは、ある『物』についてどうするかを決めるためのステップです。その決めるためのステップを実行するだけで、こうも意思が固くなるものなのか、と今ですら不思議です。しかし、『物』の大小はどうあれ、回数だけは非常に多く実施してきました。それ自体は単純な作業ですが、いろいろな状況を鑑みる力が、いつの間にか成長していったという他ありません。
ホライズンとパースペクティブ
私自身から見て、GTDを通じて成長したであろうと思われる3点について話してきました。それとは別に、GTDでは、ホライズンとパースペクティブという概念があります。
パースペクティブは、1年後、3年後、それ以降の人生に対して行いたいと思っていることに対して、今の自分に行動させようと考えるためのものです。つまり、パースペクティブは、時間軸をまたがって、やるべきことを見据えようと言っています。今現在は考えられなくても、今後そういった未来に対して考慮していこう、と次に向かう先を示しています。
一方、ホライズンは、時間軸を現在に固定し、家庭と仕事、その他自分が従事している活動に、偏りがないかどうかを考えるためのものです。つまり、ホライズンは、役割をまたがって、やるべきことを見据えよう、と言っています。今あるプロジェクトのうち、仕事ばかりに偏っていないか、あるいは自分が対応できないぐらいの過剰な仕事を持ってはいないか、などを確認します。何に対して活動しているかを確認することが必要ですが、どれくらい活動しているかの活動量を確認することも大切です。ホライズンではこの部分を大切に捉えていこうと言っています。
これらは、GTDを続けていくうちに培われていくと思います。ホライズンは、現在稼動中のプロジェクトの進捗を確認することで強化されます。パースペクティブは、未来を見据えた質問に答えることで、ぐっと意識するようになっていきます。パースペクティブは、『仕事を成し遂げる技術』の259 ページの「仕事を見直すための六つのレベルからなるモデル」に詳細が書かれています。詳しくはそちらを参照ください。
さて、先ほど私が感じた成長した内容が、このパースペクティブとホライズンのいずれに相当するのかを考えてみたところ、以下のように当てはまるのではないかと思いました。
- ホライズン-自分の欲する何かを選択できる自分軸
- パースペクティブ-高い空からでも餌が見える俯瞰力
ホライズンでは、活動のバランスを捉えることです。しかしどのバランスでよしとするかは、本人が決めることです。今はこれに注力すべきかどうか、といった部分は結局の所、自分軸がはっきりしていないと感じ取ることができません。そういう意味で、「自分の欲する何かを選択できる自分軸」がホライズンに相当するのでは、と思います。
次にパースペクティブですが、これは「高い空からでも餌が見える俯瞰力」です。未来のために今現在できることをしようというのが、パースペクティブの言わんとしていることです。そこには、今進む道が未来のその先まで繋がっていることが大切なのです。
ホライズンとパースペクティブを身に着けることは、人生をよりよくするのに、非常に重要だと思います。GTDを実行することで、これらの力が自ずと備わっていくことと思います。詳細の内容については、2008年12月に出版されるDavid Allenの『Making It All Work』にて、詳細が説明されるようです。今から楽しみですね。
GTDに見える、いろいろな一歩先
自分が経験した成長内容を紹介してきましたが、GTDは自己啓発に十分役立つと私は確信しています。いろいろな自己啓発本があり、どれを実行したらいいのか悩んだら、まずはGTDを実行してみるのもいいかもしれません。
GTDは、仕事管理をしながらも、その一歩先にいろいろなものが横たわっています。仕事と合わせて家の用事も管理したり、新たな能力を培っていったり、いつかしたかったことを思い出したり――GTDは仕事管理以外にも様々な可能性を秘めており、きっとあなたのしたいことに役に立つことと思います。
次回最終回では、私なりににGTDについてまとめ、締め括りたいと思います。