本日から3回シリーズでお届けするのは、プロフェッショナルスキルを活かした社会貢献「プロボノ」のご案内です。
仕事で培った専門スキルを活かしたボランティアを意味するこの“プロボノ“は、2010年頃からビジネスパーソン、デザイナー、クリエイターの中でじわじわと確実に広がりを見せています。テレビや新聞でも取り上げられ、新たな社会との関わり方、働き方としても注目されるこのキーワードをめぐる動きをご紹介します。
広がり始めるプロボノ -見つめ直される「自分のできること」
「自分のできることで何か役立てることはないのか」
3.11の大災害を目の当たりにして、誰もが問い直した「自分ができること」。
1000年に一度の出来事にいてもたってもいられない思いは、さまざまなボランティア活動へと形を変えて一斉に広がり表現されました。義援金・寄付といったお金による支援、食料や衣類など現地に必要とされる物資の提供、がれき撤去や泥かきなど現地での直接的な支援に加え、時代を象徴するように、ここそこから溢れる情報の中から有益な情報をまとめて一覧性を高めたり、オリジナルの寄付サイトや復興支援のキャンペーンサイトが次々と立ち上げられるなど、ITスキルを活かしたボランティアは、随所でパワーを発揮し効果的な支援として今にも繋がっています。迅速、かつ、状況に即した可変的な貢献は、まるで磁石のように必要なモノ・カネ・ヒトを引き寄せ、あるところでは何百万、何千万単位の義援金を生み出し、かつ、必要とする協力者の獲得を支えるなど確実な成果もあげています。こうした光景は改めて、Webサイトの持つ情報発信機能の高さと、より良い社会に向けた行動変容を促す強力なコミュニケーションツールであることを改めて印象付けました。ユーザとしてその社会的インパクトを感じ、「やっぱりWeb業界の専門知識・技術のある人は影響力が違うな」と感じた人も多かったはず。
またこうした取り組みの多くは「普段の仕事で培った自分のできること」を無償提供するボランティアが支えています。ボランティアと仕事がまったく別のことではなく、「これまで積み上げてきた専門的スキルや経験を活かしたボランティア」が、実行可能性の高く、かつ、現実的な社会貢献の選択肢になり得るという新たな認識を運んでくれました。
社会課題解決の現場で求められるニーズの筆頭
このように、ビジネスを行っている職業人が日頃の仕事を通じて培った知識やスキル、経験やノウハウなどを活かして社会貢献する動きはボランティアの中でも、“プロボノ”と呼ばれています。プロボノの語源はラテン語のPro Bono Publico(公共善のために)です。欧米のホワイトカラーの中でも特に、弁護士や会計士、コンサルタントなどが「月に数時間」「年間で数日」など一定の時間をNPOの法律や会計、経営の相談などを無償で提供することが一般的な“プロボノ”のイメージといわれています。
この“プロボノ”を限られた職域のみならず、さまざまな業界・業種で活躍するビジネスパーソン・クリエイターにも当てはめ、仕事で培われた専門的なスキルやノウハウを社会貢献に活かす取り組みを進めているのがNPO法人サービスグラントです。
サービスグラントには、プロジェクトマネジメント、マーケティング、プランニング、営業、コピーライティング、編集、デザイン、マークアップ、プログラミングなど実に多様な分野で活躍するビジネスパーソン、クリエイター・デザイナーがボランティアとして登録[1]しています。3ヵ月に一度、社会問題の解決を目指して活動するNPOの中から審査を通過したNPOが決定され、支援先のニーズに応じて役割分担された平均4名~6名が約半年の期間限定のプロジェクトチームとしてNPO支援に関わっていきます。
しかし、果たして見ず知らずのメンバーが集まって、プロジェクトが本当に成功するのでしょうか。
こうした不安を解消するのが、サービスグラントの「進行ガイド」です。進行ガイドには、ボランティアのイメージにそぐわないほど“ビジネスライク”に、プロジェクトの進め方が事細かに記述されています。クライントであるNPOが置かれている環境やステークホルダーからの情報収集・分析を行うマーケティング、成果物の仕様設計を行うプランニング、そして構築……と段階を踏んでより具体的な形に落とし込んでいきます。その過程でメンバー各々の得意な力を最も効果的な形で発揮していただきながら、最終的にはNPOにWebサイトなど所定の成果物を納品することによってゴール完了、解散となります。
2005年のサービスグラントの活動開始以降、NPOが持つさまざまな運営上の課題の中でも特に、必要性を認識していながらも専門的知識を要するために手が届かない「切実な課題」の筆頭に挙げられているのがWebサイトです。
サービスグラントを通じてこれまでに支援してきたNPOは延べ70件に上り、彼らが取り組む社会課題は、DV、自殺防止、メンタルヘルス、障害者の雇用創出、多文化児童の学習支援など、実に多様です。しかしながら、限られた少人数の運営の中では専属のWeb担当者の確保はまず難しく、伝えたいメッセージや有益な情報をたくさん持ちながらも、伝え方や見せ方がうまくなかったことで、訴えたい社会問題が十分に広まらない、また知ってほしい当事者に団体の存在が知られていないことがたくさんあります。
少人数の組織だからこそ、Webサイトをまずはしっかりとした武器にして活動効率をあげたい!という要望に応えてプロボノに関わったWebディレクターの言葉を借りれば、「自分にとって簡単にできることが、社会のために意外と役に立つ」のです。
Web業界の皆様が日常的に関わっているデザインやコミュニケーションの設計は、人びとの注目や関心を引きつけ、大切なことを広め、知らせることに大きな力を発揮します。例えば、デザインやコミュニケーションの力で、NPOが対峙する社会問題について広く知らせたり、未来の活動協力者との接点を生み出しやすい技術的対策を考えたり、NPOの求める行動変化を起こすようなページ設計など、NPOの皆様に「嬉しい驚嘆」を届けることで、社会課題の解決を後押しし、弾みをつけられることがたくさんあります。
実際にWebサイトが生まれ変わった後、「寄付金を支払いたいので銀行口座を教えてください」「Webサイトで活動がよくわかりました。一緒にプロジェクトをしませんか?」など、NPOが求めていた企業や寄付者からの支援の問い合わせが寄せられたり、「私も何か手伝えることがあれば。」と協力者が見つかったといった確実な効果がみられる他、「前はWebが分かりにくいために問合せも多く、時間を取られていたが、Webがみやすくなったことで本当に時間を割きたいサービス提供に集中できます」というように、内部の業務効率化にも大きく貢献しています。
皆さまの手さばき一つで、より良い社会に向かう大きな変化をつくるフィールドは、大きく広がっていきます。
発想転換 自分の引き出しを増やす方法として捉える
NPOの多くがWeb業界のプロフェッショナルの力を求めていることは自明のことですが自分が持っているものをただ一方的に提供するだけ、がプロボノではなく、自分に返ってくるものがあるのも嬉しいポイントです。
最新技術が次々と移り変わっていくWeb業界は、常に自己研鑽、スキルアップへの投資が無ければ生き残れない業界であり、さらに、ビジネスに関わる仕事人として経済動向や社会の流れにも敏感であることが求められます。そうした常に自分の引き出しを増やすにはどうすればいいのか、その方法の1つとしてぜひ、プロボノという選択肢も!というのが本稿の大きなメッセージです。
プロボノは、社会人が仕事を続けながら、いまの会社に所属しながら、会社以外の一部の時間をうまく活用して参加することができます。しかも、「社会貢献」のみならず、同時に、これまでにない人的ネットワークを広げたり、新しい視座の獲得など、自分の引き出しを増やす方法として実に効果的です。
サービスグラントに登録しているボランティアの多くは、“自分ができること、得意なことで社会に貢献する意思”をベースにしながらも、同時に、プロボノが自分へのリターンも期待できる合理的、現実的なボランティアスタイルであるという認識を持っています。
ここで皆さまの声を一部ご紹介しましょう。
「私の動機は以下の3つです。自分のスキルを生かして、何かの役に立ちたい。仕事だけじゃない何かで充実した毎日を送りたい。仕事以外で実績を作りたい」(Webデザイナー)
「純粋に誰かの笑顔のために。というキモチもありますが、活動を通して新しい人脈作りやNPOへの理解を深めたいというキモチもあります」(Webディレクター)
「さまざまな所で、「もう少しかっこよくすれば手に取ってもらえるのに」「もう少し読みやすくすれば内容は面白いのに」などと感じることがよくありました。意志ある人の手助けになればいいなという思いと、インターフェースのダサいサイトを一掃したいです」(Webデザイナー)
「活躍できるフィールドを広げたいのと、クライアントワークやプライベートワーク以外で自分のスキルを活かし、磨いていきたい。また人脈形成にもなれば」(マークアップエンジニア)
「色々な価値観の人と触れる事で刺激にもなるし、色々と学ぶことも多いと思うので。通常のボランティアではなく、仕事を生かせ、仕事に生かせる所がとても魅力だと感じ、参加しようと思いました」(プログラマー )
「体力などに自信があるほうではないので、体を動かして貢献するような事は向かないなと思い、今持っているスキルを活かした活動ができれば、と。また子育ての合間の時間を、自分のスキルを利用して何か社会に役立てないかと感じ、応募いたしました。また、社会貢献をおこないながら、子供にも、人に役立てることの喜びを感じてほしいという、個人的な親の感情もあります」(Webディレクター)
「デザインは好きだし、仕事も毎回新しいことをできるので刺激的です。ただデザインが社会の中で果たせる役割は、企業の利益を増やすための広告だけではないはずで、わたしもその中でなにかできることはないかと探していました。自分の持つ資源が社会の役に立つのであればうれしいです」(Webデザイナー)
このように、プロボノは、自分のいつもの仕事での経験やスキルを活かしながら、NPOや“ソーシャル”という日ごろあまり接する機会がないフィールドでチャレンジする、という知的刺激に満ちた大人の社会科見学です。
ぜひ、みなさまも経験してみませんか?!
次回からはリアルトーク、プロボノを実践されている3名のWeb業界人のプロボノ鼎談をお届けします。プロボノと自分、プロボノの実際、プロボノのこれからなど。どうぞお楽しみに!
サービスグラントでは、ボランティア登録を随時受付中です。
また、プロジェクトの進め方やスケジュールなどについて共有させていただく説明会を東京エリア(渋谷)、関西エリア(阿波座)にて定期的に開催しています。詳しくはこちらから。