“プロボノ”という新しいキャリアパス

第3回鼎談:私とプロボノ(後編)

Webサイト構築に関わるディレクション経験やデザインスキルを仕事だけでなく、NPO支援や復興支援などのボランティア活動に活かす⁠プロボノ⁠⁠。今回は、この新たなソーシャルなキーワードを実践するWeb業界から3名が結集し、豊富な経験に裏付けられたそれぞれの目から、プロボノをどうとらえ、どのように実践し、どのように仕事に活かしているのかを語って頂きました。

第2回では、Web制作会社を経営される中野さん、Web構築のディレクターとして数々のプロジェクトマネジメントに従事されている吉崎さん、そしてWebマガジンgreenz.jpの編集長兼松さんそれぞれの経験から語られるさまざまなプロボノの形、そして、⁠新たな人の出会い⁠⁠仕事とはまた異なる学びの場⁠など、プロボノの醍醐味の共通項が浮かび上がってきました。前回に引き続き、これからのプロボノについてへと話が及んだ鼎談後半の様子をお届けします。

プロボノとこれからのキャリア

吉崎:今はまだなかなかプロボノというものの認知がないけど、僕は、キャリアパーツとしてあるのではないかと思っています。たとえば、マークアップエンジニア(ME)は大体35歳くらいまででその先のキャリアというとプロジェクトマネジャー(PM)の道はあっても50代、60代までやっている人はあまりいない。キャリアパスとしては切れているわけですね。オーサリングだけ職人的に突き詰めたいという人もいるだろうけど限界はあって、その時1つの選択肢としてプロボノとかスキルを活かした社会貢献的な枠組みが何かないのかな、と思っています。生活が成り立つような仕組みを伴わないといけないけど、先のキャリアの道筋を作っていくということをしないとWeb業界に若い人が入ってこない。

兼松:Webに関わる人の中には、Webがマーケットとして伸びそうだからやり始めて、今改めて本当にWebをやりたかったのかと自問自答している人がいるような気がしています。僕なんかまさにそういう感じで。

たまたま自分のスキルがWebデザイナーだったけれど、デザイナーだからデザインしかしない、できないという⁠職種⁠に限定されるのではなく、自分の興味があるもの、解決したいと思う⁠イシュー⁠を軸に考えて、Webデザインだけではなく、他の関係者との繋がりかたなど含めたコミュニケーションプランニングも……とさらに広い仕事の捉え方が必要になってくるのかなと思います。

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プロボノとこれからの働き方

中野:働き方という話で、あるデザイナーさんが示唆的だなと思ったことがあって、たとえば、自分のリソースが月10あるとすると、そのうち仕事で受けるのは7まで、残りは3はプロボノをやるとか、受ける仕事の中にも一定のポリシーがあって社会の利にかなうと思える仕事じゃないと引き受けないとか、会社員だとなかなか難しいと思うけど、決めたポリシーの中にプロボノを組み込んだ働き方をしている。そういう人は今後もっと増えていくと思うし、プロボノを考えている人のとっかかりとしても、まずはサービスグラントで経験してもらうというのもいいのかもしれないね。

吉崎:働く場所という意味では、移住も含めノマドワークみたいなものに憧れている人は多いと思いますよね。

兼松:働き方というポイントではWebSigの参加者などで何か変わってきていることはあるのですか?

中野:Web業界で働いているとスキルの進化が速いから、ただでさえ覚えなければいけないことがたくさんあるし職人としてのスキルを磨くことに忙しいですよね。最近では、ディレクター層や戦略を考えたりする人達は他の業界の動きも見えたりして、Web業界に限らずコンサル業界に入ったり、メーカーや企業のWeb担当へと転職する人も多いですよね。一度スキルを身に着けたらWeb業界じゃなくてもいい、という感じで飛びだす人も多い。

兼松:働き方とは話は違いますが、だんだんとWebサイトを作ることが挑戦することではなく、当たり前になってきましたよね。今だったら「アプリ」って誘い方をすると結構乗ってくる人が多い。⁠試してみたい」という気持ちをくすぐるというか、面白いテーマがあるとそれが話題になったときに自分の宣伝になる、自分の仕事といえるとかメリットがあるとやりたい人が多いですよね。

中野:だとすると、Web業界でプロボノを広げるキーワードは「キャンペーン」⁠アプリ」とか「スマートフォンサイト」とか、⁠ソーシャルメディア連動」とかかな。仕事ではやったことがないけどキャンペーンサイトを短期間で作る、ということであれば興味を持つ人は多いかもしれないね。

兼松:もちろん、今のようにちゃんとNPOの顔となるWebサイトを作るというのは当たり前に大事なことに変わりはないのですが、たとえば、⁠アプリグラント」⁠ソーシャルメディアグラント」みたいなことも可能性はあるのでは。

中野:そうだね、NPOが盛り上がる企画を考えるということで「レバレッジのきくキャンペーンやるよ」とかね。先日NPO法改正と新税制の成立があって、今から認定NPOを目指して寄付も集めなきゃ、ってNPOが増えてくるからね。

兼松:ソーシャルセクターの⁠いいキャンペーン⁠を見たいですよね。クリーンなキャンペーンというのか。たとえば、LIGHT UP NIPPON(http://lightupnippon.jp/)は、震災で軒並み花火大会が中止になる中、東北の人に元気になってもらうために東北での花火大会を開催するという企画だったのですが、自分が書いた絵がサイト上で花火になるんですね。寄付の集め方にギミックが入っていると「あ、楽しそう」と思いますもんね。寄付を増やすためのデザインとか、絶対もっとやった方がいい。それだけのクリエイティブをみんなで考える、というのはいいと思う。

中野:キャンペーン的なもの、寄付者を増やすための領域においてはWeb業界のプロボノ活動のポテンシャルはとても高いかもね。ただ、スピード感がないとダメなので、NPOもサイトを持っていることが前提で、内容にもよるけど、リソースはこれだけって決まっているからその中で驚きのあるキャンペーン、アプリをやりましょう、みたいなことは夢がありますね。

兼松:クリエイティブがいいだけで寄付をする、ってあると思うんですよね。Webはコミュニケーションツールだし。

プロボノの始め方 心の準備について

吉崎:まだプロボノの認知が業界内に広がっていないけれど、社会科見学くらいの勢いで入ってもらったほうがいいですよね。まずやってみないとなんとなく分からないところもある。

中野:一番いいのは、やっている人が楽しそうな姿を見せることだよね。

吉崎:自分のスキルがどの程度か、というのはわかりますよね。世の中で一般的に通用するのか、ある会社の中にいればその中では当然通用するだろうけど、他の会社にそんなにポコポコ移れるものでもないので、自分のスキルが一般的であるかは分からない。でもそれが全く色んな異業種の人が集まった中でもちゃんと機能すればある程度自分は使えるんだなというのは分かるので、その確認のためにいいですよ。

中野:そうだね。自分の持っているスキルとモチベーションとお客さんとの関係みたいなことをがらっと見直すことができるところはある。こういうことで喜ぶんだ、ということもあるし、このスキルはこうやって役立つんだ、とか。情報設計ってこうやって役立つんだと確認をしたり、デザインもこういう意味付けをするとこうなるんだ、とか自分の仕事をもう一度レビューできるということはあると思います。

社会科見学的にはどうなんですか?プロジェクトの中でNPOにヒアリングするときとか……。

吉崎:アレルギー友の会もすごかったな。一番最初のヒアリングに行ったときに人の生死にかかわるようなすごく衝撃的な話を聞いて、この思いを受け止めることは大変な仕事だなと思いました。でもやっぱり思いが一般の企業サイトをやっているのとは違う。当事者意識が違うというか。たとえば、人の生死を左右する問題と向き合っていることもあると、Webサイトへの思いが人の命と直結しているので意識がまったく違いますよね。

中野:僕が今回お手伝いしたプロジェクトの特徴は、⁠震災」というまさに未曾有のできごとに対処するものだったから、支援先の団体が考えていることと実は現場は全然違っていてプロジェクトの方向性が変わってしまったり、もともとWebサイトの構造としてこうあればいいだろうと考えていたものが実は違っていて情報構造そのものを変えないといけないとまずいということが今になって分かったり。そういうむずかしさがありますよね。団体自体がダイナミックに動いているからそれに従ってWebサイトを変えなければいけないところがあったりします。でもとにかく、復興支援の動きというものは広い意味でものすごくプロボノ的ですよね。

兼松:モチベーションに火がついたのは震災がきっかけですよね。自分事になっちゃった、というか。そういう人が多かった気がする。ただ、いつまで続けるのか、フェーズをどういう風にやっていくか、いつ引くかを考えないとですね。

中野:期間限定が望ましいですね。いつまでもといっても無責任になってしまうしね。あまり自分の生活に極端に負担がかからない範囲でここまでだったらお手伝いできますときちんと明言することがお互いに大切です。

吉崎:心の準備としては、今の仕事がつまらないとか、逃げで使ってもダメだと思いますね。プロボノはポジティブな人というか、前向きな人と一緒に仕事をしたいならやってみたら?と思っています。プロボノに参加している人でネガティブな人はまずいない。そもそもネガティブだとボランティアには来れないですものね。そういう前向きな人達が集まるチームで仕事をしてみたいと思うんだったら一回サービスグラントで試したら?

中野:プロボノの中でもサービスグラントでやる意味の1つはそこにあるかもしれないですよね。チームで取り組むから。

吉崎:チームでできるし、日本カスタマイズのプロボノのノウハウに蓄積ができてきていて安心感がありますよね。プロボノの入口としてサービスグラントはいい気がします。

兼松:ただ最近気になっているのはとくに学生に見られることで、自分はプロボノと思ってしまっているけど、提供しているスキルはプロフェッショナルなものではないということがあったり、その辺りの正しい線引きが難しいところもあるかなと思います。

でもいずれにしても、プロボノをやるというとき、自分の仕事がうまく回っていない、余裕がないのにプロボノをするのはよくない。やはり、自分の仕事がコントロールできる人がやるのがいいと思います。

 プロボノにチャレンジをするといいと思う人。以下のようなマインドの方はプロボノが合っていると思います
自分の力を試したい
仕事を見直したい
プロとしての自覚がある人(自分の仕事に値段がつけられる、自分のスキルや経験を安売りしないという過程を経た人)
最後まで責任を持ってやり切れる人
勤め先がプロボノ活動を後押ししている人

兼松:気持ちの良いマッチングならいいなと思うのですよね。たとえば会合があってそこにデザイナーさんが1人しかいないとその人にロゴをプロボノで頼む、みたいにそこにしかいなかったから頼んでしまう場面も時々あるのは本当はあまり理想的ではないなと。

そういうところではサービスグラントは公平に選ばれるという信頼できるところがいいな、と思いますよね。結局タダであることイコールプロボノである、といわれないように気を付けなければいけないですよね。プロボノは無理してやるものでもなく、すべての人がするものでもなく、考え方や働き方として共感する、いいなと思う人がやるといいと思います。

プロボノにまつわる色々なご意見が繰り広げられた今回の鼎談はいかがだったでしょうか? 新しい社会貢献の働きかけが持つ、多面的なエッセンスを色々な言葉で表現していただく中で、3人の経験者に共通する認識についても浮かび上がってきたのではないかと思います。

プロボノが色々な気づきや広がりのきっかけとなるポジティブなアクションとなることを願い、今回の3回に渡る連載は終了です。

少しでも気になった方、最初の一歩はサービスグラントの説明会から!

ぜひ、皆さまもプロボノのネットワークに参加してみませんか?

サービスグラントでは、ボランティア登録を随時受付中です。

また、プロジェクトの進め方やスケジュールなどについて共有させていただく説明会を東京エリア(渋谷⁠⁠、関西エリア(阿波座)にて定期的に開催しています。詳しくはこちらから。

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