PoICの特異点
情報には、ストック情報とフロー情報があります。
フローとは、一定期間内に流れた量のことを言い、ストックとは、ある一時点において貯蔵されている量のことです。この2つは、ストックの変化量がフローにあたるという関係になります。
例えば、バスタブに貯まっているお湯がストック、これに対して溢れたり継ぎ足したりしたお湯がフローという関係になります。そして、フロー情報と言う場合には、その時にだけ意味があり、かつ保存される必要のない情報という意味であり、対してストック情報と言う場合には、後々参照するために保存される情報のことを指します。
すでに何度も述べているように、PoICではすべてのカードに4つのタグをつけています。
記録カードは「身の回りの事実や現象を記録する」のに使用します。これはすなわち「あったこと」のためのカードです。発見カードは「頭・心から湧き出てくるもの」を記録するのに使用し、これは「考えたこと」と言えます。GTDカードは「やるべきこと(To Do)を記述するカード」のことであり、これは「すること」と言い換えられます。参照カードは「自分以外の他の誰かのアイディアを記すカード」のことであり、これは「判った(知った)こと」と言えるでしょう。
そして、「あった」「考えた」「する」「判った(知った)」の中で、「する」だけが、過去形ではないことに注目して下さい。GTDカードだけが、未来の予定を扱っているのです。
言い換えれば、記録、発想、参照カードは、動詞の活用形でいうところの已然形(いぜんけい)であり、後々参照するために保存されるストック情報だとも言えます。已然とは、「すでにそうした」「すでにそうなった」という意味です。そして、GTDカードは動詞の活用形でいうところの未然形(みぜんけい)であり、その時だけ意味のあるフロー情報です。未然とは「まだそうではない」という意味です。
GTDカードだけがPoICの4種類のカードの中で異質であり、特異点なのです。そして、すでに過去となったストック情報と、まだ完了していないフロー情報を、同じ時系列で管理すると、システムの中に無用な混乱を招くことになります。
GTDカードの再帰問題
なぜGTDカードは混乱を招いてしまうのでしょうか。
それは、GTDカードは2つの時間を持っているからです。第1には「予定が発生した時間」であり、これはカードの作成時に当たります。第2には「予定が完了した時間」で、これはオープンになっていたタグを塗り潰し、カードの中の情報が過去のものになった時を指します。
PoICとは、情報をストックするためのシステムであり、特に時系列で保存したカードは更新しない、つまり移動させないということを旨としています。他のカードでは、カード作成時とストック時はほぼ同時期なので問題はありませんが、GTDカードでは問題が生じます。
PoICはカードを時系列で管理するので、GTDカード作成時にその位置に放り込まれることになります。そして、「予定が発生した時間」から「予定が完了した時間」までの時間の間に、新しいカードが次々とストックされ、GTDカードは過去に追いやられていきます。しかし、「予定が完了した時間」が来たら、管理者はGTDカードを遡って探し出し、タグを塗り潰し、タスクを完了させなければなりません。
すると、管理者は常に未完了のカードの存在に気を配る必要が出てきます。つまり、継続的なモニタリングの必要性があり、常にGTDカードの存在を意識しながら、それが完了しているかを問い返すことになります。これは、毎日毎日GTDカードを監視しなければならないということです。これでは予定をカードに書くこと自体がストレスになり、意味がなくなります。なぜなら、予定を符号化(カードに記入)するのは、その予定を一定期間忘れるためだからです。
時間と位置の関係でGTDカードを観察すると、他のカードと異なり、ループを描いていることが判ると思います。フローチャートにすると、条件分岐のループ構造になります。このような時間と位置のループ関係は、GTDカードだけに特有なものです。
PoICリマインダー
前述のような混乱は、ストック情報とフロー情報の混在が招いていると言えます。
ならば、この2つを分離して管理すれば良いのではないでしょうか。
つまり、予定が完了し、「(これから)すること」が「(既に)したこと」になった時点でPoICのドックにストックすれば、ドッグの中に矛盾は生じなくなります。TODOは完了するまではフロー情報です。それは完了しないかも知れませんし、別な形に変形されたり、あるいは完了する日時に変更が生じるかも知れません。今後どうなるか判らないという意味で、これは未然情報なのです。しかし、TODOが完了すれば、それはストック情報となります。すなわち確定した過去であり、已然情報となるからです。
しかし、GTDカードだけを別のドックに入れたり、束にして持ち歩いたりしても、カード作成時間で管理していては問題は解決しません。タスク完了日時を基準に、着手日を設定しなければ意味がないのです。そして、GTDカードの管理法はGTDのような「今日やること以外はやらない」為のものである必要があります。今日やることだけがクローズアップされて、今日やらないことはブラインドされなければなりません。すなわち、PoICにはGTDカードを使用した、リマインダー機能が必要とされているのです。
リマインダー機能とは「然るべき時に、然るべき内容を思い出すための方法」のことであり、その方法には以下の3つの段階があります。
- 1. Planning(プランニング)=「符号化」
- 「未来に行うことを意図した行為」をカードに書き付けることです。
- 2. Maintenance(メンテナンス)=「保持」
- その行為を意図してから実行に移すまでの遅延期間に、カードをまとめて管理しておくことです。
- 3. Reminding(リマインディング)=「想起」
- その行為を実行しようとする意図が一度意識からなくなり、再度それをタイミングよく思い起こさせるべく働きかける、ということです。
リマインダーを用いない自然な想起には、「日付」と「内容」の2種類があります。
「日付」の想起は、「その日」に何か行うべきことがあった、という思い出し方をします。「日付」の想起には自発性とタイミングが要求され、カレンダーや手帳に記す、他人に頼むなどの技術化した認知スタイルが手がかりとなります。
「内容」の想起は、いつか行うべき、「その内容が何であったか」という思い出し方をします。
そして、「日付」を思い出すことが手がかりとなって思い起こすことが多く、カレンダーに丸印をつけてあるだけで、その内容を思い出すということも少なくありません。
GTDカードを、タスク完了日時を基準にして管理するということは、情報カードを用いたリマインダーが必要だということです。そして、「GTD」と「リマインダー」という単語で思い出されたのが、「43Folders」こと「Tickler File」でした(※)。
43Tabs
理論
Tickler Fileとは、GTDにおけるアナログのリマインダー機能のことです。
A4サイズの個別フォルダを、1年12ヶ月分と、ひと月31日分の、合計43個の個別フォルダを利用する方法です。ビジネス文書の多くがA4サイズを基準にしているため、A4の個別フォルダを使用するのですが、PoICでは、5×3サイズの情報カードを使うので、A4サイズでは大きすぎます。そこで思いついたのが、5×3サイズの見出しインデックスを用いたカムアップシステムでした。
カムアップシステムとは、「生産計画とスケジューリングの用語集」では以下のように説明されています。この方法は、そもそもは生産管理の生産統制における管理システムのことです。
To Doリストを管理する方式(コンピュータを利用するとは限らない)。仕切紙のタブに日付を記入し、これを使ってカードを時間の順に整理して、その日にやらなければいけない仕事が、その日になると手元に現れてくるようなやり方がしばしば用いられてきた。
「生産計画とスケジューリングの用語集」より
PoICのために、5×3サイズの情報カードと仕切りタブ(見出しカード)は大量に購入してありましたので、カムアップシステムをTickler Fileのように用いれば、PoICとシームレスに繋がるリマインダーシステムが構築できると思い当たりました。つまり、「43Folders」ならぬ「43Tabs」という訳です。しかも、タブインデックスは一枚の厚紙ですから、二つ折りにされた個別フォルダのように、いちいち中を開いて改めなければならないということもありません。文字通り、GTDカードがカムアップされてくるわけです。
準備
用意するもの
- 情報カード 5×3サイズ [コレクト C-3532 セクション 5ミリ方眼]
- Tabインデックス [ライフ J116 仕切見出 5×3] (5山のものが3枚ずつ入ってるので4セット必要)
- RHODIA No.11 (切り離し可能なA7サイズのメモパッドならなんでも良い)
- 筆記具 (最低でも2色が必要)
- Tabケース (100円ショップ「Can DO」や「Meets」で売っている「クリアークラフトケース」のレタースタンドというポリスチレンケースが最適。なければ、ライフのシンプリーBOXなどでも代用可)
- 卓上カレンダー (繰り返しのタスクを次の督促日に振り替えるのに必要)
運用方法
準備
- 5山のインデックスから、一番左側に山のあるものを12枚抜き出し、それぞれ1~12のナンバーを振ります。手書きでも、スタンプでも、またテプラでも構いません。これが「月」のインデックスになります。
- 残りの4山のインデックスに1~31のナンバーを順に振ります。これが「日付け」のインデックスになります。
- 「日付け」インデックスと「月」インデックスを順に並べます。
- 「日付け」インデックスを1~昨日まで(=A)と今日~31まで(=B)に分け、Bの束の後ろに今月の「月」インデックスを置き、その後ろにAの束を、そして来月以降の残りの「月」インデックスを順に並べます。
- 全てのインデックスをTabケースに入れて、準備完了です。
運用
- 繰り返しのTODOは情報カードに書きます。毎週×曜日とか、毎月×日とか、毎月第×金曜日などと実行日を記し、左上の方眼を赤く塗り潰す。これはPoICとの整合性のためです。
- 通常の一過性のTODOは情報カードやRHODIA(横位置で使用する)に実行日を記し、内容を書くことで済ませます。後で転記するため、一件一枚にはこだわりません。
- カード、あるいはRHODIAを、実行日から逆算した督促日のタブの前に放り込み、そのことについては忘れます。RHODIAは横にして入れると見出しタブからはみ出しません。
- 就寝前に当日のインデックスを、あるいは、起床後に前日のインデックスをケースから抜き出し、来月のインデックスの直前に挿入します。前日にやり残したTODOがあればタブを引き抜くだけで、翌日に回されることになります。
- 当日にTODOがあれば、情報カードやRHODIAが現れるので、タスクキャリア(メモ帳、手帳、PDA、iCal、Googleカレンダー、エディタ、ワードなどなんでも良い)に転記します。
- 一過性のTODOの場合、完了した情報カード、もしくはRHODIAは捨てます。繰り返しのTODOは情報カードを次の督促日に放り込みます。
- 以上を繰り返します。
基本的には、タスクを書き、督促日に放り込み、日毎にタブをめくる、という3ステップになります。
『PoIC + 43Tabs』システム
「43Tabs」は、PoICの考え方の上で、GTD的にTODOを管理するシステムであり、PoICと併用することができるように構築されており、両者を併用したシステムを『PoIC + 43Tabs』と呼称しています。
例えば、その日に消化したTODO(を記した情報カード)が重要なものであれば、情報カードの上部の左から2番目の「記録」(あるいは4番目の「GTD」)のタグを塗り潰してから、PoICのドックの最前面に放り込んでしまえばいいのです。それは未来から漂流(フロー)してきたひとつのTODOが、過去として固定(ストック)され、スタックされた瞬間です。
PoICは「ストック情報」を貯蓄する為のシステムであり、現在から過去に向かって過ぎていく時間を記録し、蓄積したものですが、「43Tabs」は「フロー情報」を管理する為のシステムであり、未来から現在にやってくる時間の中に存在するはずの予定を捕捉し、日付け毎に配置していくことで、PoICを補完するものなのです。
まとめ
未来から現在までを管理するのが「43Tabs」であり、過去から現在までを見通すのが「PoIC」であると考えるとき、現在とは、今この時の僕らの視点の存在する場所であり、その現在を中心に時間軸を分断した『PoIC + 43Tabs』システムは、時間の模式図としてなかなか良く出来ているのではないかと思います。
今回「PoIC++~43TabsとPoIC拡張」と題して書き始めた記事が、思いもよらぬ分量へと膨れ上がってしまったために、今回の前編「43Tabs~PoIC機能拡張」と次回の後編とに分けさせていただきました。次回は「PoIC++~プラットフォームの拡張」と題して、デジタルデバイス上でのPoICにについて考えていきたいと思います。