まだまだ大変アメリカ生活
アメリカに本格的に引越してきて2ヶ月が経ちました。とはいえ、年末には日本に2週間ほど一時帰国していて、その後戻って部屋探しを再開したので、実質本稿を書いてる今が引越しの真っ最中という感じです(まだ部屋にネットが来ていないので、オフィスに休日出社して書いています…)。
日本の「まわりがなんでもやってくれる」的な手続き社会に比べると、こっちは「なんでも自分でやる」的な風土が強く、また何をするにも結局最後は電話で交渉、みたいなところに落ち着きがちで、なかなか慣れずにストレスが溜まったりしますが、これも最初はしょうがないことなんでしょうね。
米→日 リモートでのプレゼン
渡米してきていきなりの休日だったThanksgiving Holidaysに、日本で行われた「XML開発者の日」というイベントに参加しました。もちろん自分の体はアメリカにあるので、実際に出席したわけではなく、ネットを使ったプレゼンテーションをしてみました。
リモートでのプレゼンを行うにはいくつか方法があるかと思いますが、今回はUS本社で全体会議を行う際にも使用している、AdobeのMacromedia Breeze[1]とSkype[2]を併用して行ってみました(US本社はサポート人員が東海岸やシアトルなどからSOHOで参加するために、リモートプレゼンテーションツールを利用しています)。
アメリカと日本の太平洋をまたいでいるので遅延などが若干心配でしたが、1回接続が途切れてしまった以外はほとんど順調で、こちらからのビデオ、音声、PowerPointスライドの同期や、会場からのフィードバックなども問題なく受け取ることができました。インターネットの進歩に感動しながらも、これで「日本にいないので」という理由でプレゼンを断れなくなってきたなぁと、変な心配をしてしまいます。なお、カンファレンスでのプレゼンの内容は、YouTubeで“xmldevday”と検索[3]すると一部を観ることができます。
聴衆の心をつかむプレゼンとは
最終回となる今回ですが、このところプレゼンの話が続いているので、『聴衆の心をつかむプレゼンをするには?』という話を少しだけ。国内外問わず、自分がプレゼンするときに気をつけているのは、簡単に言うと「自分自身が楽しむ」「聞いている人が飽きないための工夫をする」ということになるかと思います。
自分自身が楽しむ
プレゼンにおいて、話者のトーンというのは大事です。つまらなそうに話していたり、スライドに書いてある内容を読んでいるだけでは、聞いているほうも楽しくありません。自分に過度のプレッシャーをかけず、またそのためには自分自身がどういうプレゼンをしたいのかを客観的に理解しておく(リハーサルなど)ことが大事だという気がします。これはもちろん、場数を踏むことで慣れていく部分でもありますね。
私は(多くのハッカー・ギーク系のプレゼンターと同様に)スライドを書き始めるのがとても遅く、ひどい場合は前日の24時をまわったぐらいに作成を始めて朝に終え、一休みしてプレゼンにのぞむ、なんてことをよくやっています。これは典型的な一夜漬け体質に起因するのはもちろんですが、ポジティブにとらえると、
前日の夜に書く
→内容が新しい、時事ネタなどを入れることができる
→話している本人にとってもフレッシュ。また内容を覚えきっていないので適度な緊張感を持続しながらプレゼンできる
というメリットがあります。特に私がYAPC(Yet Another Perl Conference)やOSCON(Open Source Convention)、XML開発者の日などでやってきたPlaggerの紹介のトークは、ともすれば毎回同じ内容になりがちで、聴衆のみならず話をしているほうも退屈になってしまう可能性がありますが、このように前回のスライドをベースにしながら、新しい内容を直前に入れてアップデートする、という手法をとることで、その問題を回避できていると思います[4]。
飽きさせない工夫をする
自分が楽しんでいれば、基本的には聴いている人もつまらないと感じることは少ないはずですが、スライドを作るうえで飽きさせないための工夫というのもいくつかあります。
高橋メソッド
技術系のカンファレンス(特に日本)ではおなじみになりつつある「高橋メソッド」は、そうした工夫のひとつといえます。1ページにたくさんの内容をブレット(箇条書き)で埋め込む旧来のスタイルでは、スライドを一見しただけで次の5分ぐらい何をしゃべるかだいたいわかってしまい、話を聴かないでノートPCで調べ物をしたり…なんて行動を引き起こしがちですね。高橋メソッドは1枚に費やす時間がだいたい10秒から15秒程なので、聴いているほうも目が離せないという感じで、ちょっとした緊張感が生まれてきます[5]。
また、高橋メソッドといっても「ただ字をでかくする」というやり方ではなく、ときに図や動画を入れてみたり、パロディ的な画像を差し込んだりして、インパクトを高めるというのも重要です。やはり人間というのは視覚的な効果でものごとを覚えることが多く、文字ばかりのプレゼンはいくら高橋メソッドで勢いよくやっても、あとで何にも覚えてない、なんてことになりがちです[6]。
ライブデモ
その意味では、ソフトウェアやサービスのプレゼンであれば「ライブデモ」を行うのが一番のインパクトということになりますが、とくにネットワークを使ってのライブデモなどは失敗するリスクも高く、いざデモを見せる、という時になって「ネットがつながらなくて…」とかで時間を食ってしまうと、聴いているほうも待ち時間でかなり盛り下がってしまいます。事前にデモした様子をScreencast[7]などで動画録画しておいて、うまくいかなければそれを再生する、というバックアップを用意しておくことも有効でしょう。
印象に残る英語のプレゼン法
漢字を使って文字の大きさを極限にしてインパクトを出せる日本語や中国語などの文化と違い、英語ではどんな単語もある程度の文字数を食ってしまうので、画像や写真などと併せてインパクトの強いスライドを作る人もよくみかけます。著書『コモンズ』(注8)で有名なLawrence Lessigがこのスタイルのプレゼンを始めたといわれています(編注)。また、O'ReillyのOSCON 2005での、SXIPのCEOであるDick Hardtによるキーノート“ Identity 2.0 ”[9]も、スライドと同期しながらしゃべる怒涛のようなプレゼンテーションだったのが印象に残っています。
聴衆とのインタラクション
個人的に海外でのプレゼン経験は3、4回しかありませんが、アメリカやヨーロッパでプレゼンをしていて最も違うのは、聴いている人とのインタラクションが多く発生するということです。「~のサービス・ソフトウェアを使っている人?」と質問すれば多くの人が手を挙げ、またわからないところがあったり間違いを見つければどんどんツッコミを入れてきます。恥ずかしがりな日本人が多い会場ではあまりないことですが、慣れてくるとこうしたフィードバックに対応していくことにも、楽しみを見出すことができるんじゃないでしょうか。あまりフィードバックを気にし過ぎると、脱線して時間をオーバーしたりなんてことにもなりがちですが…。
おわりに
1年にわたりお付き合いいただいた連載も最後になります。サンフランシスコから書いた原稿が6回のうち2回しかなく、タイトルと中身が一致していなかった感はありますが、外資系ソフトウェア企業ではたらくおもしろさや、オープンソースソフトウェアにコミットする楽しみなどが伝わっていたらうれしいです。