P2Pで不正防止をするBitcoin
この業界でBitcoinの存在を知らない人はいないと思うが、実際のところBitcoinがどんなしくみでできており、そこにどんな利点や危険があるかまできちんと理解している人は意外に少ない。
Bitcoinは電子マネーの一種だが、PayPalなど通常の電子マネーと大きく異なるのは、アカウントを管理する中央機関が存在せず、マネーの発行や取引がすべてP2P(Peer to Peer)ネットワーク上で行われる点にある。そのため、トランザクションのコストが非常に低い。
Bitcoinが画期的なのは、中央機関がなくとも不正防止のしくみがしっかりと組み込まれている点にある[1]。詳しくは論文を読んでいただくのが一番良いが、一言で言えば「善意のユーザの操るコンピューティングパワーのほうが、悪意を持ったユーザの操るそれを遥かに上回る」という前提のもとに作られている。
BitcoinはSatoshi Nakamotoと名乗る人物によって投稿された論文に基づいて運用されているが、その人物の正体だけでなく日本人であるかどうかすら確認されていない。発案者の正体が不明という点も、Bitcoinに不思議な魅力をもたらしていることは否定できない。
変動相場制のBitcoin
Bitcoinのもう1つの特徴は、米ドルなどの特定の国の通貨とは独立して、独自の通貨単位[2]による変動相場制を採用している点である[3]。Bitcoinと通常の通貨との換金はネット上にある「Bitcoin交換所」で行われている。誰にでも簡単に交換所がオープンできることもあり、ネット上に交換所が乱立し、相場も交換所ごとに異なるのが現状である。
Bitcoinそのものの取り引きはネット上で行われるため、ある国のBitcoin交換所で現地の通貨をBitcoinに交換し、別の国のBitcoin交換所にネット上で転送したうえでその国の通貨に交換すると、政府の目に触れずに海外送金(マネーロンダリング)が可能になる。
Bitcoinは、2013年後半に急騰して暴落するという相場の不安定さを見せたが、その背景には2013年前半に発生した、中国からのcapital flight[4]があったとされている。そのときのcapital flightは、不動産バブルの崩壊を恐れた中国の富裕層が海外に大量に資産を移すことにより起こったがバブルの急速な崩壊を恐れた中国政府が海外送金に規制をかけた。しかしその後、この規制をくぐり抜けるべくBitcoinを利用した海外送金が起こり、これがBitcoinの対元・対ドル相場を大幅に押し上げる原因になったのである。
年末になってBitcoinが暴落したのは、不正送金の道具としてのBitcoinの問題点に気がついた中国政府と米国政府が、今度はBitcoinに対する規制を厳しくしたためである。
Bitcoinの今後
Bitcoinが広がりはじめた当初は、Bitcoinがドルに代わる基準通貨[5]になる可能性があると主張する人もいたが、私はその可能性はまずないと見ている。
通貨であれ株であれ、この手のものの相場は、そのものの価値が上がることによる長期的なキャピタルゲインを期待して投資する「投資家」と、ほかの人が買うことにより価格が一時的に上昇する(もしくは下降する)タイミングに合わせて売買することで利ざやを得る「投機家」の売買により決まる。投機家の行動は短期的に価格を乱高下させるが、中長期的には投資家が「適切」と判断する価格に落ち着くのが経済の原則である。
国の発行する通貨であれば、国力・国の信頼度が「適切な価格」を決めるし、会社の株であれば、その会社の持つ資産や生み出す利益が「適切な価格」を決める。Bitcoinの場合、その後ろには国も会社も資産もないため、投資家から見た場合の「適切な価格」はゼロである。株で言えば、資産も借金も持たず、利益も損失も出さないペーパーカンパニーの株のようなものであり、BitcoinのPER[6]とPBR[7]は常に無限大である。つまり、Bitcoinの価格は投資家[8]の思惑のみで決まる、100%投機的なものである。
国の規制を逃れて海外送金をするためにBitcoinを使った中国の富裕層は、投資でも投機でもなく、純粋なマネーロンダリングの道具としてBitcoinを活用したが、それが原因で高騰したBitcoinで濡れ手で粟の利ざやを稼ぐことができた投機家がいたことも事実ではある。しかし、投機はギャンブルであり、タイミングを一つ間違えば大やけどをする。長期的な投資には向かないし、まっとうなビジネスの課金のしくみにBitcoinを使うことも適切とは思えない。私としては、「次の時代の基準通貨として期待されるBitcoinに投資して一儲けしませんか?」と善良な市民を騙して手数料を儲けようとする悪徳業者が現れないことを望む。