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第26回ベンチャー企業の役割

終身雇用制の崩壊

日本の大企業が絶好調だったバブルのころと比べると、終身雇用制が崩壊しつつあることは誰の目にも明らかになってきた。そのおかげで、私が会長を務めるUIEvolution⁠株⁠でも、以前よりは大企業からエンジニアを引き抜くことが容易になってきているし、学生時代から起業する元気の良いエンジニアたちが増えていることは歓迎すべきだと考えている。

しかしそうは言っても、日本ではいまだに「大企業の正社員」という地位が、あたかも階級社会における「身分」のような存在で、その「身分」を捨ててベンチャー企業に転職したり、起業することには大きなリスクが伴うと感じている人が多いことも事実である。

日本の大学生が、大学で勉強をして実力・実践力を付けることよりも、できるだけ早いうちに大企業から内定をもらうことを優先するのも、人生に一度だけ訪れる「新卒で大企業に正社員として採用される」⁠つまり「大企業の正社員」という身分を手に入れる)ことを何よりも重視しているからである。

そして、一度その「身分」を手に入れると、できるだけ失敗はしないように冒険は避け、上司に言われたことを着々とこなす「会社人間」としてできるだけ長く同じ会社に勤め、退職後は子会社や関係会社に役員として天下るというのが、これまでの日本のエリートの成功方程式であった。

欧米のビジネスをまね、ひたすら彼らよりも品質の高いものを安く生産すればよかった高度成長期は、この手法がとてもうまくいっていた。奇抜なことをする「出る杭」よりも、やるべきことを着実にこなす「会社人間」のほうが重要だったのである。

ゾンビ化する日本の企業

しかし、中国が「世界の工場」となって製造業を日本から奪った今、日本に必要なのは、イノベーションを起こす奇抜な発想であり、⁠出る杭」なのである。⁠大企業の正社員」という身分にしがみついて会社から最後の汁を搾り取るような人たちは、社会全体にとって負の資産であり、⁠子会社への天下り」など根絶すべき悪習以外の何物でもないのである。

にもかかわらず、なかなか日本の社会が変わることができないのは、大企業で働く40代・50代の人たちが、終身雇用を前提に雇われた人々であり、会社と彼らの間に「若いうちは安月給で一生懸命働いてくれれば一生面倒もみるし、天下り先も世話する」という暗黙の了解ができているからである。

若いうちに「会社人間」として一生懸命働いてきた彼らからすれば、ようやく会社から「借りを返してもらう」時期が来たわけで、今さら「給料の高い中高年は不要だ」とか「天下りのためだけに存在する子会社は解散する」と言われても困るのである。少なくとも彼らが引退するまでは、これまでのシステムを維持してもらう必要があるのだ。

会社のビジョンを描いた創業者はすでに会社を去り、終身雇用制を前提に雇われたサラリーマン経営者や管理職たちが、そんな「逃げ切りメンタリティ」で会社の方向性を決めているから、日本の大企業はことごとく国際競争力を失ってしまったのである。

ベンチャー企業の役割

こんな状況を打破するには、若くて優秀な人材がゾンビ状態の大企業から飛び出して、ベンチャー企業に参加するなり、自分で企業を起こすしかないと私は考えている。

そもそも終身雇用のような発想のない米国では、大企業の正社員と言えどもいつクビになるかわからない。また、競争力のなくなった企業は、たとえ大企業でもすぐに倒産してしまうのである。

そんな米国では、競争力を失った企業からは優秀な人たちから先に辞めてしまう。それどころか、本当に優秀なエンジニアは、すでに上場してしまったGoogleやMicrosoftのような企業に入っても、ストックオプションをもらうメリットが少ないため、非上場の伸び盛りのベンチャー企業を好む傾向がある。

重要なことは、そんな人々の行動が企業の新陳代謝を加速し、米国という国全体の国際競争力を高めることに大きく寄与している、という点である。優秀な人材の流出は、旧態依然とした企業の寿命を縮め、逆に、時代に即したビジョンを持ったリーダーの率いるベンチャー企業に才能と資金が集まり、そんな新しい企業が、イノベーションを起こして国際競争力を持つのである。

その意味では、貴重な人材を活かすことのできない旧態依然とした企業に無駄な延命措置を施すのはやめ、大企業からベンチャー企業への人材の移動や、大企業からのスピンアウトを加速することが日本の再生にとって何よりも大切である。野心に溢れた「出る杭」が起こすイノベーションがこれからの日本の発展を支えるのだ。サラリーマン経営者の時代から、再び起業家の時代に大きく舵を切るタイミングが来ている。

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