はじめに ~勉強会はlifehacksなのか?~
「勉強会」とは、「特定のテーマやトピックについて一緒に学ぶ有志の集い」のことです。本稿ではlifehacksの視点から勉強会の運営について考えてみます。
筆者はソフトウェア開発企業に勤務するプログラマです。業務と家族サービスの合間を縫って社内向けのプライベートな勉強会やパブリックな勉強会を開催しています。本稿では筆者の経験をもとに、数人の小規模から30人程度の中規模なサイズの勉強会の開き方を紹介します。筆者の勉強会経験は職業柄ソフトウェア技術に関するものが中心ですが、基本的な考え方はほかの分野にも適用できます。
「lifehacks」は日々の情報収集の効率化や人生の密度の向上のためのコツや取り組みです。勉強会は、次のようにも定義できます。「勉強会とは、学習を低コストで効果的かつ効率的に行うために、参加者間の対話を重視するボトムアップな活動である」と。これはどうみてもlifehacksです。
勉強会には勉強会へ参加することと、勉強会を開くことの2つの側面があります。勉強会に参加することは、自分の学習効果を効率化するlifehacksです。勉強会を開くことは、自分のみならず参加者も巻き込んで互いの学習効果を効率化するlifehacksです。加えて、勉強会を新たに開催するということは、「世界」にそれまで存在しなかった「場」を作りだす行為であり、hackの名にふさわしい活動であると言えます。
勉強会の意義と参加するメリット
まず、勉強会の意義と勉強会に参加するメリットを簡単に整理します。
各種学校やセミナー、カンファレンスと勉強会とのもっとも大きな違いは、運営側と参加者とが一体となって勉強会という場を作りあげ、維持していく点です。勉強会では「壇上の講師」と「聴衆」といった固定された関係は存在しません。
コミュニケーションという側面だけ見ると、今やインターネットも普及し、わざわざ参加者がどこかに集まる必要はありません。メール、Webサイト、チャット……。しかし、いくら昨今の技術革新や回線速度の向上がめざましくとも、同じテーマに関心を持つ人たちが集まることで醸しだされる「雰囲気」を直接体験できるまでには(まだ)至っていません。学習の効果―というよりは動機づけとして、こうした雰囲気の体験や参加者との会話、新しい人との出会いがもたらす自分自身への「刺激」に勝るものはありません。もちろん、勉強会に参加することによる自分自身を学習する状況へと追い込む効果は、学習の効率化に直結します。
勉強会は、対話と学習とを通じて参加者それぞれに「変化」を促進します。変化といっても小さな変化かもしれません。しかし、突然起きるように思える大きな変化も、結局は小さな変化の積み重なりです。
昨今ではインターネットで少し検索すれば、さまざまなテーマの勉強会がさまざまな参加者層によって各地で開催されています。その中で自分に参加できそうなものがあれば、参加してみることをお勧めします。
ところが、自分の興味のあるテーマの勉強会が開催されていない場合や、開催されていても自分のニーズに合わない場合―自分の求めるものが初学者向けであったり、もっと専門的なものだったりする場合は、どうすれば良いのでしょうか。もちろん、自分で開催してしまえばよいのです。
勉強会を開こう
いま述べたような「場」を自分自身のみならず他人に対しても提供するのが勉強会です。では、勉強会を開くために必要なものは何でしょうか。筆者が運営側として必要だと思うものをリストアップします。
- 参照テキストとする書籍またはテーマ
- 参加対象はパブリックか、プライベートか?
- 告知および参加者間の連絡手段
- 勉強会を開催する会場と設備
- 勉強会当日の形式
- ちょっとした勇気
それぞれについて、簡単な説明と、運営側の視点からのアドバイスを述べます。
参照テキストとする書籍またはテーマ
まず、勉強会で扱う題材を検討しましょう。書籍をテキストとしてもよいですし、何かテーマを決めて、それに関連するトピックの勉強会としてもよいでしょう。
書籍を選ぶ場合は、テキストやリファレンス形式になっているものを題材に選ぶと、各回のトピック構成に悩まなくてすみます。テーマを基調としたトピック重視の勉強会の場合は、参加者の中からどれだけコミットメントが得られるかが成功の鍵となります。積極的な参加者が多い場合は、トピック重視のほうが盛り上がります。
参加対象はパブリックか、プライベートか?
勉強会の参加対象者とする範囲には、大きく分けてパブリックなものとプライベートなものとがあります。パブリックなものは、告知をインターネットなどで行い、広く参加者を募るものです。プライベートなものは、勤務先や通学先などの自分が所属する組織やコミュニティの成員に参加対象者を限定するものです。
筆者の経験では、パブリックなものとプライベートなものとの間には、思ったよりも大きな差異はありません。パブリックなもののほうが、新規参加者への配慮など気を遣う箇所は増えますが、違いといっても常識的な範囲です。とはいえ、いきなりインターネットで勉強会の告知をするのも勇気が必要でしょう。最初はプライベートなものから始めるほうが気軽だと思います。運営の経験を積む練習にも向いているでしょう。
告知および参加者間の連絡手段
パブリックなものであれプライベートなものであれ、開催の告知や参加者間の連絡のための手段が必要です。イマドキであればインターネットを積極的に活用しましょう。道具立てとしては、最低限メーリングリストとWikiがあれば十分です。運営者自身や勤務先などのサーバー資源を利用することが可能であれば、それを活用すればよいですし、最近はさまざまなサービスを無料で利用することもできます。筆者の近頃のお気に入りは、qwik.jpです(図1)。qwik.jpはメーリングリストとWikiが一緒になったサービスで、Wikiはメンバーだけが見ることができます。投稿が1ヶ月行われないと消滅するという時限性もあり、勉強会存続(または廃止)への動機づけにもなります。
勉強会を開催する会場と設備
会場については、運営者や参加者の勤務先などに許可を得て会議室を借りるか、それが困難な場合は貸会議室や地方公共団体の施設を借りるとよいでしょう。参加者から会場代の実費ぐらいは徴収することも考慮に入れてよいと思います。
会場の設備としては、最低限ホワイトボードは用意しましょう。参加者への告知や、議論の対象を明確化することに役立ちます。会場にない場合はA3サイズのものを持参することをお勧めします。取り回しもよく、価格も1,000円程度と入手しやすいです。また、デジタルカメラがあると、ホワイトボードの内容を撮影したものを画像データとして利用できます。議論の内容や決定事項の記録する手軽な手段として重宝します。
PCを使ったプレゼンテーションなどを行う参加者もいると思いますので、プロジェクターもあると便利です。会場に設備として用意されていれば積極的に利用しましょう。近頃はプロジェクターもポータブル化、低価格化が進んでいるので、個人で購入するという作戦もあるかもしれません。
また、会場にインターネット接続があれば何かと便利ですが、勉強会のために必須というわけではありません。
勉強会当日の形式
勉強会当日の形式にはさまざまなものがあります。後ほど、詳しく紹介します。
ちょっとした勇気
最後に挙げていますが、実はもっとも重要なのがこの「ちょっとした勇気」です。自分が音頭を取って何かを始めることには、運営側特有の面倒臭さや気恥ずかしさ、人が集まらないことへの不安など、さまざまな心理的抵抗があります。世の中にはおっかない人や批判的な人も多いのですが、それ以上に何かを始めることに対して好意的な人も多いと、筆者は経験的に感じています。
何かを変えていくためにまず必要なものは、自分自身を変えることです。といっても大きく変える必要はありません。今までよりも少し積極的に、少し厚かましくなるだけで充分です。
(つづく)