運営側の心がまえ
運営側にとって勉強会当日のもっとも重要なミッションは、「当日の進行をつつがなく行うこと」です。
参加者のコミットメントを促す
ポジションペーパー
ポジションペーパーとは「立場表明書」の意味で、参加者それぞれが「勉強会に臨む今日の立場」をA4サイズ1枚の紙にまとめたものです(図1)。勉強会当日には各自がポジションペーパーを持参し、参加者に配布します。勉強会の最初にポジションペーパーを元に参加者全員が発表を行います。1人あたりの持ち時間は5分が目安です。人数が多ければ、3分や2分にするのもよいでしょう。
ポジションペーパーを導入する狙いと効果には以下が挙げられます。
- 名刺交換の代替手段であり、名刺よりも情報量が多い
- 参加者全員に必ず発言してもらえる
- ポジションペーパーの準備を通じて勉強会への意識を高めてもらえる
- セッションを始める前に場の雰囲気を和らげることができる(アイスブレーク効果)
- 参加者間の交流を促すきっかけになる
参加人数が多いと印刷コストが気になりますが、同枚数の名刺の印刷コストと名刺1枚に含められる情報量との差を考えてみてください。実践した参加者の反応もおおむね好評です。ポジションペーパーについては、江渡浩一郎さんのサイトの記事も参考にしてください。
名札
参加者が多い場合や、参加者間の面識が薄い場合に威力を発揮します。懇親会の席でも名札をつけておくことをお勧めします。少し恥ずかしいかもしれませんが、会話のきっかけ作りにもなります。参加者に目的を伝えたうえで協力してもらいましょう。
座席の配置
勉強会当日は、できるだけ参加者間の顔を見ることができるように机と座席を配置しましょう。筆者がよく行い、参加者からも好評な座席の配置は、馬蹄形(コの字形)に机と椅子を並べるというものです。人数が多い場合は、入れ子の馬蹄形にします(写真1)。
あまりに人数が多い場合はそもそも馬蹄形に配置することが難しいです。そうした場合はオープンスペースのような形式でグループに分けたほうがコミュニケーションは活性化するでしょう。
時間はもっとも貴重なリソース
勉強会でもっとも貴重なリソースは、参加者の時間です。勉強会当日の進行管理は、もっとも重要な仕事です。運営の協力者がいる場合には、進行管理を担当する役割を設けてもよいでしょう。
当日のセッションでは適度な間隔で休憩を入れましょう。50分から90分につき、5分から10分程度の休憩を入れるリズムが、経験上、適切だと思っています。セッションの最中に議論が白熱することもありますが、その場合も極力タイムテーブルを守るようにしましょう。
そのために、タイムテーブルには各セッションごとに多少の余裕を持たせると、当日の進行状況に応じた柔軟な進行管理ができます。
また、時間が来たことをキッチンタイマーなどの機械に通知させるようにすると、気兼ねなく割り込むことができます。
次への備えが第二のゴール
勉強会当日の第一のゴールはすでに述べたとおり「当日の進行をつつがなく行うこと」です。しかし、これだけでは勉強会の存続にとっては十分ではありません。勉強会を継続したいのであれば、当日のうちに次の2点はすませてしまいましょう。
また、これらがうまくいかなかった場合は「やめる勇気」を持つことも重要です。
「ふりかえり」を行う
どうしても当日のセッションを優先してしまいがちですが、当日の勉強会のなかで極力時間をとって、当日の「ふりかえり」を行いましょう。「ふりかえり」はホワイトボードの領域を三分割し、それぞれに領域に「KEEP」「PROBLEM」「TRY」と書き入れます。これらの意味はそれぞれ「良かったこと、次回も続けたいこと」「良くなかったこと、問題だと感じたこと」「次回以降に試してみたいこと」です(図2)。
当日どうしても時間が足りない場合は、後日メーリングリストやWikiを通じての「ふりかえり」を呼びかける作戦もあります。しかし、その場合はあまりふりかえりの効果は期待できません。
次回の日程を決める
次回の開催日程についても、極力当日の場で決めてしまいましょう。「あとでメーリングリストで…」とするとなかなか決まらず時間だけが過ぎていくことも多いです。当日の参加者だけで次回の日程を決めてしまうことには賛否があると思いますが、筆者は「きちんと次回の日程を決めてしまうこと」と「来るかどうかわからない今回参加していない人たちの都合よりも、今回参加している人たちが次回に参加するための都合」を優先したほうが、勉強会全体の「幸福の質と総和」に貢献すると思います。
また、担当者による発表形式をとっている場合であれば、このタイミングで発表担当者も決めてしまうことをお勧めします。このとき気をつけたいことは、担当者を誰かが割り当てるよりも、自発的に名乗り出てもらうようにすることです。発表を担当するという責任は参加者が自ら引き受けるものです。他者から割り当てられるべきものではありません。
やめる勇気
次回の日程が決まらない、担当者が決まらない、ふりかえりで何もフィードバックが得られない……。参加者の「勉強会継続への意思」が見られないな、と思ったら、いさぎよく勉強会は打ち切ってしまいましょう。何かをやめることは決断を必要とする寂しいものですが、勉強会本来の意義に立ち返って考えましょう。あくまでも勉強会は「学習を低コストで効果的かつ効率的に行うために、参加者間の対話を重視するボトムアップな活動」です。
なんとなく続けることは時間の無駄ですし、自然消滅的に開催されてないのも居心地が悪いものです。思いきってやめてしまえばいいのです。自分自身が楽しくないと思うものを続けていくには、人生はあまりにも短いのです。
勉強会が終わったら
懇親会を開こう
勉強会が終わったら、懇親会を開いて参加者間の親睦を深めるとよいでしょう。なかにはこの懇親会を目当てに参加する参加者もいたり、勉強会によってはセッションの時間よりも長くなることもあります。
事後レポートを書こう
パブリックな勉強会の場合は、当日参加した人たちへのねぎらいの気持ちと、当日参加できなかった人たちへの告知を兼ねて、終了報告をメーリングリストに流しましょう。終了報告には当日の様子や決定事項、次回の日程などを含めるとよいでしょう。また、当日の参加者が自分のブログなどに参加レポートを書いたことを知らせることができる、トラックバック先を用意するとイマドキっぽいです。
プライベートな勉強会の場合は、会場の提供や開催したことについての説明責任(アカウンタビリティ)として、終了報告を参加者のメーリングリストや関係者(会場を管理しているセクションや上長など)に対して行いましょう。
おわりに ~勉強会はlifehacksである~
勉強会当日に、参加者たちを目の前に「本日はお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます」とあなたが口にするそのとき、文字通りあなたにとって世界の見え方は変わっているはずです。hackとは世界を変えることで、世界はあなたにhackされることを待っています。勉強会という場をこの世界に作りだすことは間違いなくあなたと、あなたの勉強会参加者にとってのlifehacksとなるでしょう。この記事を読んで1人でも多くの方が勉強会を主催することになることを願います。勉強会に参加する側はたいへんですが :-)