買ってその場ですぐに使えるSIMはまだ日本にはない?
こんにちは! 携帯電話研究家の池端です。2回目のコラムもどうぞよろしくお願いいたします。今回はまさに2014年のトレンド、「MVNO」について語ります。
さて、問題です(ジャン♪というジングルを脳内に流しつつお読みください)。
「ヨーロッパやアジアの国際空港では売っていて、日本の国際空港で売っていないもの」、これって何だと思いますか?
ヒントをひとつ。成田空港では、国内で使用可能なものがなく、海外で使用可能なものを扱っています。
正解は、携帯電話の「SIMカード」です。
意外に思われるかもしれませんが、日本では海外からの旅行者が即使える格安SIMを実は売っていないのです。
格安SIMカードの普及
日本でも2014年に入り、MVNOのサービスに注目が集まり始めています。タレントさんが宣伝する月額980円の格安SIMのテレビCMなどを見かけたことがあるかもしれません。
格安のSIMカードは、通称「イオンSIM」「ヨドバシSIM」などと呼ばれ、これまで主に端末を2台持ちする人や、私のような端末マニア向けの安価なデータ通信用として2012年頃から売られていました。この安価なSIMカードの普及は、日本通信さんのb-mobileなどが筆頭となって早くから取り組んできました。
先ほど、来日した旅行者向けにすぐ使えるSIMがない、といいました。しかし厳密には、いま日本で売られている格安SIMで、日本人も買ってその場で使えるようなSIMはまだ存在していません。
現在の日本の格安SIMは、SIMカードを端末に挿しただけでは使えません。SIMカードを購入したら、別のスマホやPCを使ってMVNO業者の登録サイトにアクセスして自分で回線の開通手続きを行い、そのSIMカードを端末に挿し、ようやくネットや通話ができるようになります。
これが海外の国際空港ですと、カウンター販売はもちろんのこと、自販機でSIMカードを売っている国も少なくありません。もちろん身分証明書の提示等は不要。ペットボトルを買うのと同じ手軽さでその国で通話やデータ通信ができるSIMカードが手に入るのです。
日本でも今年4月からSo-netさんが関空に日本初のSIMカード自販機を展開しています。ただ自販機の設置場所がちょっとわかりにくいのと、付属のマニュアルを読みながら端末で開通手続きが必要とのこと。ややITリテラシーの高い人でないと、まだとまどうかもしれません。
日本はまだまだ「SIM鎖国」
日本に来た外国人旅行者やビジネスパーソンに対して、わが国は回線契約をオープンにしていないのが現状です。日本では回線契約数の制限や、相変わらず煩雑な手続き、簡単に接続設定ができないなど、さまざまなネックが存在しています。
たとえば、格安SIMをお試しで開通させて、そのSIMが気に入ったので2枚目を購入しようとしても問題が起きます。1枚目の契約と同じクレジットカードを使うと、なんと「アカウントの重複」になって電話手続きへと誘導され、結局IDとパスワードは郵送でしかお知らせできない、という対応も実際にあります。
このような日本での煩雑な手続きの理由として、よく犯罪利用やセキュリティへの懸念を挙げていますが、そこは海外のように通信キャリアがしっかりトレースや管理するしくみをつくればもっとオープンにしても問題ないはずです。しかし、主要キャリアはその責任やリスク、手間を取りたがりません。回線数にしても、手続きにしても、なんでわざわざ制限をかけてユーザーに不便や負担をかけるのでしょうか?
海外SIMはこんなに便利
いっぽうで、海外の格安SIM事情はどうでしょうか? 海外でSIMを使えばわかりますが、さきほども紹介したように、そもそもSIMカードの購入が簡単で、本当に簡単に使い始められます。
現地のSIMカード自販機やコンビニなどでジュースを買うようにSIMカードを買い、SIMフリー端末に入れればすぐにSMSでアクセスポイントへのリンクが送られてきます。そのリンクから携帯電話の「空メール登録」のようにアクセスすれば、あとは勝手に端末設定がされて回線の開通が完了します。まさに「挿せばすぐ使える」という感じです。グローバルではもともとこのようなSIMフリーが標準だったのです。
日本でも、日本通信をはじめとするMVNO業者さんの努力や総務省のテコ入れもあって、値段もようやく下がってきています。このようなサービスはぜひ伸びてほしいと思います。
回線のオープン化なくして、観光立国なし!
日本のキャリアでも海外渡航時の国際ローミングや海外パケット利用のプランがありますが、それでも現地キャリアのサービスよりもはるかに割高です。
ドコモの多くの端末はSIMフリーにできますが、それでも限定的で、一般的にはまだまだSIMや課金のしくみが知られていません。SIMフリー端末や格安SIMを普及させて、日本の回線がもっとオープンになって認知されれば、商社や外資系企業も日本への駐在コストを削減できます。
東京オリンピックまでには、せめて香港や台湾並みの通信インフラのサービスを提供できなければ、国として大きな経済的損失になるでしょう。回線のオープン化なくして観光立国はないので、国を挙げて積極的に携帯通信のインフラを改善してほしいと思います。
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