はじめに
東京のラジオ局・TOKYO FMでは、2009年12月21日から実証実験として、iPhone/iPod touch向けアプリケーション「TOKYO FM iPhone Radio」の配布を開始しました。
このアプリケーションは、弊社の放送がほぼ24時間、無料で3GまたはWi-Fiから聴取できるもので、地上波ラジオ局のiPhone向け常時サイマル送信は、日本初となります[1]。このアプリケーションの仕組みや「実証実験」の目的、そしてラジオ局が取り組んでいる放送と通信の「現場でのリアルな」融合について、3回に分けてご紹介させていただきたいと思います。
開発の背景
2011年7月、アナログテレビの地デジへの移行後、VHF帯跡地を利用した「マルチメディア放送」がスタートする予定です。当社ではこれまでにも「見えるラジオ」のようなデータ放送、放送番組とネットが連解したさまざまな取り組み、FMラジオ内蔵携帯電話「FMケータイ」の推進など、さまざまな聴取者とのコミュニケーション接点の開拓・コンテンツ開発を行ってきましたが、マルチメディア放送はラジオでもテレビでもない、放送波を使った全く新しいサービスです。「マルチメディア放送ビジネスフォーラム」では、のべ100社以上の参加社と共に、新しいビジネスモデルを研究しています。
マルチメディア放送におけるノウハウの蓄積、またスマートフォン向けの新たな放送のあり方や、従来の尺度以外の聴取率・聴取質の評価について研究するために、今回は同フォーラムに参画している株式会社フライトシステムコンサルティング(以下フライト社)と共に、iPhone / iPod touchユーザー向けに現行のFMラジオが聴取出来るアプリの試験提供を1年間、まずは実施することになりました。iPhoneの自由度の高いプラットフォームを活用したマルチメディア放送のシミュレーションのひとつとして、サービスの研究・開発などを行ってまいります。
なお、当社グループが提供している衛星放送「MUSICBIRD」(SPACE DiVAサービス)や一部の有線放送での再送信を別とすれば、当社としてFMラジオ放送を全く別の方法でリスナーの皆様に常時お届けするのは、初の試みです。
アプリケーションの概要と開発チーム
アプリケーションの開発とオンエア楽曲のiTunesマッチングはフライト社が、音声技術とオンエア番組情報の送出は当社が担当しています。
放送用音声からCMを別音声に差し替え、さらにiPhone向けに配信するための許諾が得られなかった番組についても差し替え処理を行った上で、エンコードサーバからCDN[2]サーバに細分化された音声ファイルが送出されています。
アプリはこの音声をバッファし、随時再生を行います。音声ストリーミングの技術自体は新しいものではありませんが、iPhoneの通信事情や利用環境に最適化している点は、フライト社の豊富な経験によるところが大きいです。
位置特定技術
県域放送局であるTOKYO FM特有の問題として、東京地域で放送する前提で制作しているコンテンツを、全国に一律に送出することは非常に難しいという事情があります。そこでフライト社の「iPhone向けラジオソリューション」を利用し、iPhoneのGPS情報や、iPod touchでは既知のWi-Fi基地局情報を活用して位置を特定し、放送エリア内のみでご提供させていただく方法を、今回採用しました。この制御手法をセキュアに実現できるのはiPhoneならではであり、従来のIPアドレスからの位置推定やIPマルチキャストを活用した方法より、簡易でありながら精度良くエリア判定が可能となっております。前例のない手法にご理解をいただいた各権利者団体およびご出演者の皆様にはこの場を借りて感謝申し上げます。
インターネットラジオなのに位置を制限する必要があるのか、といった厳しいご意見も頂いておりますが、そもそもFMラジオはAMラジオに比べ、地域により根ざしたメディアとして誕生した経緯があります。趣旨をご理解頂いた上で、無償サービスとしてどれだけコストを抑えつつ、難聴取対策、そしてラジオの聴取機会の創出として、どの程度の需要が見込まれるのか検証すべく、今回実証実験としてサービスインに踏み切ることになりました。
なお、位置情報は端末側でサービスエリア内かどうかを判定するだけの目的で使用しており、当社には位置情報は個人を特定できる形では送信されておりません。
第2回では、アプリのリリース後にいただいた反響や、今後の戦略についてお話したいと思います。