こんにちは、OSTER projectです。いよいよ今回から、VOCALOIDの具体的な調整の方法やコツについてご紹介していこうと思います。今回は主にVOCALOIDの調整に必要となる前提の知識や、調整の基礎について取り上げようと思います。
この講座の方針について
この講座で取り上げる調整の方針について説明しておこうと思います。私の方針は「細部にこだわりすぎない調整」です。意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は常に細部にこだわりすぎないことを心がけて調整しています。一体それは何故か。
私は楽曲制作において最も大切なことはモチベーションの維持だと考えています。卓越した技術や才能を持ったクリエイターがいても、モチベーションという燃料がなければその力を十分に発揮することはできません。
VOCALOIDの調整は時にかなり骨の折れる作業です。モチベーションが高い状態で細部までこだわり尽くした調整から入ったとしても、作業が長期に渡ってしまえば当初のモチベーションは低下し、途中で挫折してしまうこともあります(特に初心者に多い傾向だと思います)。そのために、私はいじっても僅かしか変化がないような調整は省き、効果がすぐ表れる調整だけを使って仕上げています。そのため、細かい調整の積み重ねによって作られる完璧な調整を目指している超上級の方ではなく、比較的楽にそれなりのクオリティーで仕上げたい!という初・中級者の方向けの講座だと思って見て頂けると幸いです。
ただし初めてVOCALOIDを触る初心者の方にとっては、いきなりこの講座の内容をすべて取り入れての調整はかなりシビアだと思います。そういう方は無理をせずに、自分の実力に見合った調整のハードルを設け、作品を作るごとに段々ハードルを上げていっていただきたいと思います。大事なのは挫折せずに作品を完成させることです。
調整の基礎と予備知識
前回ご紹介したとおり、VOCALOIDエンジンは自然な歌声を生成できるように様々な工夫がされています。その一方でその仕組みが複雑かつ繊細なために、前後の言葉の繋がりや音階、音程などによって同じノートでもまったく違う感じで発音される場合があります。実際にVOCALOIDを使ったことがある人は、ベタ打ち無調整の状態で聞いて「こ れ は ひ ど い」という経験をしたことがあると思います。
まずその不自然な部分を補い、より自然な歌声に近づけるための調整が必要になります。その上で細かい楽曲のニュアンスを出すための調整を施していきます。
後者の調整で必要となってくるのが想像力です。シンガーにどのように歌わせたいか、という完成形が頭の中で描けなければ調整のしようがありません。実際にシンガーが歌っているのをイメージしながら、それに近づけるように調整していくのが調整の基礎です(シンガーの声に合った曲調や音域を考えることも自然に歌わせるためにはとても重要です)。イメージが沸かないときは自分でそのフレーズを歌ってみたり、誰かに歌わせてみたりして想像力を補うのも良いでしょう。
VOCALOIDの調整では、主にパラメータ・表情コントロール・ビブラートの三つをいじります。自分のイメージに近づけるためには何をどういじれば良いのか、というのがスムーズに分かるためには、この三つについてあらかじめよく把握しておくことが大切です。
パラメータ
まずパラメータについて説明したいと思います。VOCALOIDには10種類のパラメータが付いており、パラメータごとにその役割が違います。すべてのパラメータについて簡単に説明しておきます。
- VEL(ベロシティー)
子音の長さを調整します。大きな変化が得られないので私はあまりいじっていません。
- DYN(ダイナミクス)
音量を調整します。調整において最も重要なパラメータの一つです。
- BRE(ブレシネス)
声に含まれる息の量をコントロールします。かなりニュアンスが変わります。同時に音量も変化します。
- BRI(ブライトネス)
声の明るさを調整します。同時に音量も変化します。
- CLE(クリアネス)
声をシャープにします。かなり印象が変わるのでいじりすぎに注意。
- OPE(オープニング)
口の開け具合による発音の変化を再現します。同時に音量も変化します。あんまりいじりません。
- GEN(ジェンダーファクター)
声を男声風にしたり女性風にしたりできます。基礎の声作りには欠かせません。
- POR(ポルタメントタイミング)
ポルタメントの開始位置を調整します。私は使いません。
- PIT(ピッチベンド)
ピッチを調整します。細かいニュアンスを出すためには必須です。
- PBS(ピッチベンドセンシビティー)
ピッチベンドの変化幅を変えます。ピッチベンドと併せてよく使います。
なお、各パラメータをいじったとき、副作用的に自分の意図しない方向に音が変化してしまう場合があります。上の説明でも書きましたが、BREやBRI、OPEを変化させると、同時に音量まで変化してしまいます。それが自分の意図しない変化の場合は、音量の変化をDYNで補う、などの処置が必要になります。
また、発音中にパラメータをいじるときは、値を離散的に変化させるのはタブーです。例えば発音中にPITをいきなり0から5000あたりまで変化させると、時間をかけずに瞬時に音程が変わることになり、非常に不自然になってしまいます。ほかのパラメータに関してもできるだけ発音中は離散的な変化を避け、連続的に変化させるようにしましょう[1]。
表情コントロール
各ノートの歌詞のすぐ下にある突起をダブルクリックすると、表情コントロールプロパティが表示されます。表情コントロールプロパティでは、ピッチコントロールとダイナミクスコントロールの二つの設定が行えます。
- ピッチコントロール
ピッチコントロールでは、ノートのピッチの微妙な変化を表現します(特に音の立ち上がり部分のピッチについて)。
このセクションをいじると、すぐにそのノートの音程を発音するのではなく、下から音程をずり上げるように歌わせることができます。
上手くいじれば人間らしい歌わせ方にできますが、あまり多用しすぎると、かえってしつこく不自然になってしまったり、音程が悪くなったりするので注意が必要です。
- ダイナミクスコントロール
ダイナミクスコントロールでは、音の立ち上がりの音量と長さをコントロールできます。ただし、あまり大きな変化は期待できません。
最初のうちはどこをどういじれば良いのか分からないと思います。そういう方は右上にあるテンプレートを有効活用しましょう。例えばアタックを強くしたい、というときはテンプレートからstrong accentを選びます。すると、自動的に設定値が決定されます。この状態から値を微調整すると手間が大きく省けます。
ビブラート
ビブラートは人間らしさを出すために非常に重要です。しかし、上手く使わないと逆に機械っぽさが出てしまうという諸刃の剣です。各ノートのすぐ下にある平らな部分(ビブラートが既に設定されている場合ギザギザの部分)をダブルクリックすると、ビブラートプロパティが表示されます。ビブラートプロパティではビブラートの長さ、種類、振幅、周期が設定できます。
VOCALOIDには、全部で4種類のビブラートがあます。
- Normal
一般的なビブラートです。
- Extreme
振幅の大きいビブラートです。使いどころが難しいのでほとんど使いません。
- Fast
周期の短いビブラートです。たまに使います。
- Slight
振幅の小さいビブラートです。自然に聞こえるので一番良く使っています。
この4種類すべてに、それぞれType1~Type4の4種類の振幅、周期のテンプレートがついています。私は[Normal]Type2と[Slight]Type4をよく使います。
シンガーを手懐けるためには
VOCALOIDにスムーズに歌ってもらうには、シンガーに合った調整は必須です。例えば、ミクのために制作したデータをリンに歌ってもらうと、ガタガタで聞いていられません。つまりシンガーごとで調整の方法がまったく異なってきます。それぞれの調整の方法に慣れるためには、シンガーたちと全力で付き合うことが大切です。私たちが日常生活で誰かと付き合うとき、その人との関係やその人の性格に応じて接し方を変えるのと同様です。シンガーにはシンガーなりのクセがあります。例えばリンは「し」の発音が苦手だったり、ら行の発音が上手くなかったり、という印象を受けました。付き合っていく中でそういったクセを発見して、それに見合った調整を模索することで、自然と「こういうケースはこの調整」というのが身についていくはずです。
しかしながら、シンガーごとで調整難易度が異なるのも事実です。キャラクターボーカルシリーズの調整難易度としては、ミク<リン<レンという印象を受けました。初心者の方はミクから入るのがいいと思います。もちろんリンやレンにも彼らなりの良さがあります。そういったものも付き合っていく中で発見できると思います。
おわりに
今回は調整の前に知っておいていただきたい予備知識についてご紹介いたしました。まだ実践には入れていないので退屈なところもあったと思いますが、どれも次回からはじまる本格的な調整のためには欠かせない知識ですので、この機会に是非マスターしましょう。
それでは、次回からもよろしくお願いします。