株式会社ミクシィと株式会社ディー・エヌ・エーは2012年3月21日、ソーシャルコマースサービス「mixiモール」をリリースしました。今回、ミクシィにてプロジェクトに関わったコマース部コマースグループの白石耕介氏、志村主税氏、杉田絵美氏、岡部馨氏の4名に、mixiモールリリースの背景、狙い、展望について伺ったのでその模様をお届けします。
現状のソーシャルサービス×コマースの問題点
まずはじめに、ソーシャルサービスとコマースの掛け合わせ、ソーシャルコマースに関して現状を伺いました。
白石:
現状のソーシャルコマースには3つの問題点があります。
1つ目は、ユーザの皆さんにとってソーシャルサービスはコミュニケーションの場であって「モノを買う」場ではない。すなわち、購買へつなげる心理的ハードルが高い点です。
2つ目は、すでに確立されたEコマース(ビッターズや楽天など)があることです。何かしらのインセンティブがない限り、わざわざソーシャルサービス上で購買する動機付けが難しいと言えます。
最後は、既存のソーシャルサービス上にコマースに特化された場がないため、出店者(マーチャント)のページに集客する仕組みが弱いという点です。
こうした点がソーシャルコマースを立ち上げるにあたって最も難しく、そして解決しなければいけない課題でした。
mixi×DeNAという組み合わせ
白石:
これらの課題解決にあたり、私たちが目指したのが、コマースの要素をすべてソーシャルネット上のコミュニケーションと完全に融合させるというものです。
ソーシャル時代では、
- Sympathize(共感する)
- Identify(確認する)
- Participate(参加する)
- Share&Spread(共有・拡散する)
というSIPSと表現できる生活者行動モデルがありますが、このモデルに対して、ソーシャルネット上のコミュニケーションを当てはめるとソーシャルコマースには次の4つのマーケットがあると考えられます。
今回のmixiモールでは、①に当たる部分、共感消費×個人消費のマーケットをターゲットに展開することにしました。この「共感消費」こそ、mixiモールが目指すところです。
岡部:
そして、DeNAさんと組んだ理由としては、「ソーシャルサービスへの知見が深い」「両社ともモバイルに強い」、そして、何より「開発にあたってのスピード感があること」が挙げられます。
こうした背景で今回DeNAさんとmixi上にモールをオープンすることができたわけですが、今後はmixiが目指す「共感消費」という購買行動をたくさんのmixiユーザに体験してもらいたいと思っています。
リリース後の反響
リリース後の反響はどうだったのでしょうか?(今回の取材は2012年3月29日に実施しています)
白石:
想定以上に「もってる!」「きになる!」ボタンを押してもらえています。mixiモールにおいてはこのボタンが押されるかどうかが最も重要な要素なのですが、非常にいいスタートが切れたと思っています。
志村:
現時点で本当に多くの方にボタンを押してもらえているのは嬉しいですね。「共感消費」の1つのポイントは、気軽なアクションにあると思っていまして、この2つのボタンはその気軽さを誘発できているのではないかと思います。
意識した言葉の表現と
岡部:
各アクションボタン・友人に流れるフィード文言には気を配りました。とくに「きになる!」というネーミングには悩みましたね。当初は「ほしい!」という名前も考えていました。ただ、mixiにおいては友人へフィードが流れることを意識したうえでボタンが押されることが多く「ほしい!」だと(ユーザ自身の気持ちが)強すぎる(重すぎる)と捉えられて、結果、押すことに抵抗を覚えてしまうのではと考えたのです。
mixiモールでは、ボタンを押すことで自分から友人に対して商品の情報を発信することになるので、そこに対して友人が気軽に反応できるもの、そういった観点で考えた結果、「きになる!」という表現になりました。
mixiモールの可能性
リリースにあたっていくつかの企画がスタートしました。中でも、株式会社ローソンHMVエンタテイメントとのオープニング特別企画「青春タイムライン」は、大きな反響があったそうです。この企画とともに、mixiモールの可能性について伺ってみました。
白石:
オープニング特別企画には、
- サンリオヒロイン特集
- 青春タイムライン
- mixi福袋
を用意しました。サンリオヒロイン特集では、サンリオオンラインショップmixi店という位置付けで、サンリオ関連のグッズの販売をしました。また、mixi福袋では3,941(ミクシィの当て字)円の福袋を用意するものでした。この中で、最も大きな反響があったのが株式会社ローソンHMVエンタテイメントとのオープニング特別企画「青春タイムライン」です。
岡部:
音楽って誰にでも好きな楽曲、思い出の楽曲があって、時系列と合わせることで自分史を振り返ることができます。誰しもが慣れ親しんできた往年のヒットチャートをフックに、それぞれの友人間で共通の思い出を振り返って盛り上がる、という共感がmixiの多くのソーシャルグラフ内で熱量を持つことで相乗効果を生み、自分たちが予想した以上にサービスを利用してもらい、「もってる!」「きになる!」を押してもらえましたね。
ただ、今回は楽曲が決められたものしか表示されなかったので、ゆくゆくはユーザ自身で選曲できるような仕組みの企画にも取り組んでみたいと思っています。
ソーシャルグラフとインタレストグラフを掛け合わせ「共感消費」へつなげる
今紹介された「青春タイムライン」は、まさにソーシャルコマースにおける共感消費につなげる企画と言えます。このあたりが、これからのmixiモール成功のポイントになっていきそうです。
志村:
青春タイムラインは非常にわかりやすい例なのですが、ソーシャルグラフ上のコミュニケーションだけでなく、商品に対する興味から生まれるもってる・きになるのカウント数が相乗効果をもたらしました。今後もこれらがどうやって掛け合わさるかというのは、ソーシャルコマースでビジネスを行ううえでとても大切なポイントだと思っています。サービス提供側としては、その掛け合わせが自然に生まれるような仕組みを用意していきたいですね。
また、「共感消費」という点では、アイテムリスト(※)機能も重要になります。現在はまだ自分でしか見ることができませんが、今後、アイテムリストの公開機能の提供も予定しており、商品に対する興味を軸としたつながり(インタレストグラフ)を構築していけると考えています。「共感消費」というアクションを生む1つのきっかけとなる機能でもあるので、ぜひ多くの方に作成してほしいですね。
岡部:
また、mixiならではのポイントとして、クローズド・プライベートコミュニティという点が挙げられます。それから生まれる安心感が、インタレストグラフの価値を高めることにもなります。そして、閉じている分、コミュニケーションの深さ、深度が深くなっていくので、消費という気持ちにもつながりやすいと思っています。
また、具体的なところでは、現在、コスメ系やアパレル、雑貨といった幅広い出店者(マーチャント)に参入してきてもらっているので、そういった商品の特徴を活かした企画づくりも大切だと思っています。
出店者(マーチャント)へのフォローアップ
杉田:
出品者側へもしっかりとサポートを行っていきたいと考えています。今回mixiモールに出店すると出店者のmixiページが生成されますが、そこでご利用いただけるmixiページアプリの提供を無償で行っています。まだまだそれらは機能的には不十分ですが、それにより、出品者に開発や制作の負担をかけることなく、mixiモールと連動させながら、mixiページを効果的に運営頂けるようになるかと思います。
mixiモールとしてまず最初に必要なのは、ユーザにmixiモールへ来てもらうことです。ですから、そのための導線作りなどもさらに強化していきたいですね。その点でも、出店者のmixiページをフォローしてもらいフォロワーに対して情報を発信したり、フォロワーとのmixiページ上でのコミュニケーションを活性化させ、顧客の拡大や継続的な利用に繋げるということは重要な課題の1つと言えますし、そのための参考とになる活用方法や成功事例といった情報は公開していきたいと思います。
志村:
先ほどの話に戻りますが、アイテムリストはもっと活用できる機能だと思っています。まだ実現はできていませんが、たとえば、同じmixiページやコミュニティをフォロー・利用しているユーザのアイテムリストが(公開する側のユーザが希望した場合)レコメンドされたり、そのアイテムリストを「お気に入り」するといった展開も考えられますね。
杉田:
いずれにしても、まだスタートしたばかりなので、いろいろな場所にタッチポイントを作り、試行錯誤を繰り返しながら、質の良い「共感消費」を実現したいと思っています。
岡部:
もう1つ、これも検討中の課題ではあるのですが、コミュニティやmixiレビューといったmixiの既存サービスとどのように連携させるかも大事な要素だと思っています。mixiにはすでに多くのユーザさんに活用いただいているサービスが多数あるので、ぜひ活用したい資産ではあります。
mixiモールの成功に向けて
最後に、それぞれの担当者からmixiモールへの意気込み、期待を伺いました。
白石:
これまでのECサイトというのは、モノを売るためにただモノを置いているというサービスがほとんどで、「ショッピングの楽しさ」という観点ではあまり魅力的ではなかったと感じています。今回のmixiモールでは、日常で行われている友人との商品に関する会話やリアルにあるデパートと同じように友だちを誘って買い物に行くような体験、そういったことをオンライン上で実現し、これまでにはない「楽しさ」を提供できるEコマースサービスを展開したいと思っています。
志村:
今回のボタンで実装した「もってる!」「きになる!」というのは、イイネ!ボタンとは少し意味合いが違って、自分の感情をより伝えられると思っています。ユーザの皆さんには、共感を意識して押してもらいたいですね。また、商品数についても他のECサイトと比較して同量になるのはもう少し先かもしれないですが、だからこそ、自分で探す楽しみ、友人に伝える楽しみ、人から教えてもらえる楽しみを体験しながら購入していってもらえればと思っています。
岡部:
私たちの考えるソーシャルコマースは通常のECサイトとは運用方法が異なります。そして、まだまだスタートしたばかりのサービスであり、新しいコマースの形を築いていくのはこれからが勝負です。このスタートのタイミングだからこそ、いろいろとチャンレンジしながらポジティブに進めていける出店者の皆さまと連携していけたらと考えております。
杉田:
今までのECサイトは一人で観て買って楽しむツール的な役割のサービスがほとんどでした。ソーシャルコマースでは、複数のユーザが同じ空間で物を軸に趣味を共感することが可能ですし、友達同士のショッピングを仮想的に体感できます。この楽しさを、ぜひとも体験していただきたいです。
mixiはコミュニケーションプラットフォームですので、mixiモールでは「共感消費」という体験から、新しいコミュニケーションが生まれてきたらとても嬉しいですね。
――ありがとうございました。