ここ数年、
人間中心設計の普及には自社の社員の理解が不可欠です。しかし、
人間中心設計を社内に普及させていくには、
UXを会社の強みの1つとして出している
- ――IMJでは、
ユーザエクスペリエンス (以下UX) や人間中心設計の社内普及のため、 専門部署を立ち上げられたとお聞きしました。設立の経緯など、 お伺いできますか。 佐藤:昨年7月に
「R&D室 UXD Unit」 という部署を立ち上げました。IMJでは、 今、 UXを会社の強みの1つとして打ち出しています。 IMJは、
企業規模が大きいこともあり、 もともと人間中心設計に自発的に取り組んでいるメンバーが、 あちこちの部署にいました。たとえば、 常盤晋作 (HCD-Net認定 人間中心設計専門家) や私も含め、 「R&D室 UXD Unit」 はそういったメンバーを集めて、 専門部署にしました。 「R&D室 UXD Unit」 は、 今、 12名 (主務2名・ 兼務10名) で構成されており、 「HCD-Net認定 人間中心設計専門家」 も6名在籍しています。担当執行役員も 「HCD-Net認定 人間中心設計専門家」 の認定を受けていまして、 認定専門家の人数はWeb制作会社の中では多いほうですね。今年も 「人間中心設計専門家」 「人間中心設計スペシャリスト」 を数名受験する予定です。
「人間中心設計に合わせるんじゃなくて、自分たちの制作スタイルに合わせられる」感覚を持ってもらう
- ――
「UXデザインや人間中心設計を社内に取り入れたいけれど、 うまく広まらない」 という声を多くの会社で聞きます。社内に普及させるポイントはどんなところにありますか。 佐藤:どの会社にも、
これまでの仕事のスタイルというものがあります。人間中心設計という別のプロセスをいきなり入れようとすると、 混乱や拒否反応が起こります。社内に普及させるには 「人間中心設計のプロセスに合わせるんじゃなくて、 自分たちの制作スタイルに合わせられる」 という感覚を持ってもらうのが大切です。 IMJでは
「人間中心設計とは何をどうするのか」 という話から、 誰でもわかるくらいのシンプルな図にすることで、 何か面倒なことをやらされるのではなくて 「今のプロセスの中でもできますよ」 というアプローチにしました。 それから、
初めの一歩はなるべくわかりやすい言葉にする。ペルソナという言葉を初めて聞く人もいるし、 ユーザジャーニーマップって単語を見て、 難しいんですか、 と思う人もいます。 UXデザインや人間中心設計を使うのは、
現場のメンバーです。毎日の仕事に、 UXデザインや人間中心設計を役立てなければならない。それには、 本人が納得している必要があります。納得していないと 「やりたい」 と思うところまでいきません。 「やりたい」 けど、 やったことがないメンバーも多いため、 いきなり実際の案件で実施する前に、 試しに手を動かしてもらい、 手応えを感じられる機会も我々で設けています。具体的には、 昨年・ 今年と社外から専門家をお招きして、 人間中心設計の講座を開催しました。講座には毎回30名ほどが参加しています。昨年は浅野智先生を講師に迎え 「UXデザイン ワークショップ」 全5回コース、 今年は樽本徹也先生を迎え 「UXリサーチ講座」 全6回コースで開催しました。お二方とも 「HCD-Net認定 人間中心設計専門家」 ですね。 講座の開催にあたり、
社内全体に告知メールを送るため、 その告知メールを目にしてもらうだけでもUXデザインや人間中心設計が社内で必要になってるんだ、 という社内認知も得られます。
「R&D室 UXD Unit」の人間が、強くコミットすることで社内普及を進める
- ――
「社内への、 具体的な説明が難しい」 という意見も多くの会社で聞きますが、 そのあたりはどのように解決されているのでしょうか。 佐藤:具体的な例を挙げて説明する、
ということをしています。 たとえば、
Webサイトを制作してユーザに一度も使ってもらわないまま公開という案件があるとします。もし、 それで公開してコンバージョンが上がらないとか、 満足度が上がらないとか、 公開後に課題が現れるというリスクもあるわけです。プロジェクトの途中でそういった問題点を解決できるほうが、 クライアントも満足しますよね。 こういった例を挙げて説明すると、
社内も 「それはそうだね」 「やったほうがいいね」 という気持ちになってもらえます。 - ――
「とはいえ」 という意見は返ってきませんか? 佐藤:そうですね
(笑)。もちろんあります。 社内への説明の難しさは、
大きく2種類あります。 「クライアントに提案するときの難しさ」 と 「受注してからの難しさ」 です。 「クライアントに提案するときの難しさ」 は、 コンペやサイトリニューアルの際に、 UXデザインや人間中心設計を提案書に盛り込みたいが、 どう提案したらいいかわからないという声です。とくにプロデューサーからの意見で、 クライアントにUXデザインや人間中心設計の有用性を説明したいけれど、 手法も見積もスケジュールもわからない、 ということがあります。 たとえば、
インタビュー調査をしてもその成果物は調査結果やユーザ考察資料となり、 具体的なWeb画面デザインや設計書などと比べてカタチがなく派手さはありません。クライアントに、 その価値をしっかりと説明してお金を払っていただく必要があり、 それにはどうすればいいのかという声も挙がります。 そういうときは、
人間中心設計の価値や中間成果物がどのように活用されるかをきちんとアピールすることが必要ですので、 「R&D室 UXD Unit」 の人間が加わり、 プロデューサーの理解も高めるようにしています。 「受注してからの難しさ」 は、 現場のディレクターやデザイナーが、 進め方がわからず困るというケースですね。 いずれの場合も今は、
我々 「R&D室 UXD Unit」 の人間が、 強くコミットすることで解決しています。提案に同席するとか、 提案書自体をつくることもします。現場には、 「我々がサポートしますので、 呼んでください」 と伝えています。 - ――その場合、
プロジェクトの原価に 「R&D室 UXD Unit」 の費用が乗ってしまうのではありませんか。 佐藤:
「R&D室 UXD Unit」 は、 社内普及として現場の方々にノウハウを伝えるのもミッションです。なので、 提案のサポートやR&Dとしてのチャレンジングな取り組みなど、 場合によっては現場にその費用を請求せずに対応する選択肢も用意しています。その場合は、 提案活動の支援をして、 そのプロジェクトに貢献できているか、 または新しい取り組みによって会社のバリューを上げられたかどうかが、 私たちの主たる評価になります。 - ――それはすごい制度ですね。
佐藤:社内に無償でも動ける部署をつくってでも、
IMJ全体を良くしていくことに価値がある、 という理解が、 経営層にあるのでしょうね。 その意味では、
社内普及には人間中心設計を無償でサポートできる部署をつくるのがいい、 というのも答えの1つかもしれません。
社内だけでなく、社外のクライアントにも伝えていく
- ――クライアント向けにも、
活動をされているとお聞きしました。 佐藤:社内だけでなく、
クライアントにもUXデザインや人間中心設計の説明をしています。社内が理解するだけでなく、 クライアントも 「やりたい」 と思っていただかないと、 案件として成立しません。 クライアントに説明する際も、
社内と同じように、 わかりやすく説明することを心がけています。 「実装する前にプロトタイプテストをしたほうがいいですよ」 「利用ユーザの行動を把握してから設計するといいですよ」 などから、 丁寧に話をしていきます。 Web業界では、
たとえば、 ユーザの日常生活でどのようなタッチポイントで接点があるかの行動調査や、 ユーザがWebサイト内でちゃんと情報を集められるかといったテストは、 予算やスケジュールの兼ね合いで割愛されがちです。 他の分野を例にすると、
建築業界では模型をつくって角度をあれこれ変えて眺めてみたり、 小さな人形模型をつけて 「この人からは、 どう見えて、 どう歩くんだろう」 という動線の検討をします。図面だけを描いたのち、 いきなり建築物を建て始めるということはしません。 「公開する前にユーザに使ってもらい確かめましょう」 「ユーザにとっていいWebサイトができたほうが良い結果につながりますよね」 という話を、 上から目線にならないように、 やわらかく伝えるようにしています。
「クライアントあってのIMJ」
- ――
「社内・ 社外とも普及していく」 というと壮大な話に思えますが、 なぜ取り組もうと思われたのですか。 佐藤:
「クライアントあってのIMJ」 だと思っているからです。 IMJは、
社内にWeb構築のスキルレベルの高い人が多く、 UXデザインや人間中心設計の手法を使わず、 一定以上の品質のものをつくってきたと自負しています。 ただ、
スマートフォンの普及でフューチャーフォン時代とは比べものにならないほどユーザとのタッチポイントが増えていますし、 他サービスとの連携や動的表現等々、 利用動線もどんどん複雑になってきています。従来のスキルセットの人が、 従来のものづくりをしていると、 多様化した利用スタイルに追いつかなくなってくる可能性もあります。最近は、 クライアントの側から 「UXデザインに取り組みたい」 という要望も出始めています。 現在は、
コンペのオリエンテーションの内容に、 「UXデザイン」 という単語が入っています。以前は、 コンバージョンアップや売上アップという項目に 「ユーザの目線で」 と書いてあります。また、 ご自身でUXデザインや人間中心設計を勉強されて、 かなり詳しいクライアントもいらっしゃいます。 そうなると、
UXデザインや人間中心設計を知らないプロデューサーやディレクターでは、 コンペに出てクライアントと対峙することができません。クライアントの要求に応えるためには、 社内にUXDのスキルを持った人が必要なのです。 - ――なるほど、
市場の要求も変わってきていると。 佐藤:IMJでは、
受託業務がメインとなるため 「言われた通りつくる」 ことから脱皮しきれていない、 というのも課題に挙がっています。 「ただ納品する」 だけではコモディティ化していきます。たとえば、 オフショアで海外に量産を頼むと方法もあるわけで、 金額だけなら他社でもっと安くできるところもいっぱいあります。きっちり品質管理・ 納期管理をした上でオーダー内容の本質的な価値を追求していかないと、 淘汰されてしまいます。 その一方で、
ユーザ視点に立ったものづくりは、 クライアント側では、 当事者故に気がつきにくいものです。クライアントの一歩先を行って、 新しい提案を投げかけられる強みを持った会社になれます。
UXデザインや人間中心設計は、Web制作に携わる人なら、みんなが知ってほしい
- ――社内で多くの方がUXデザインや人間中心設計に取り組めれば、
すばらしいことですね。 佐藤:今は
「R&D室 UXD Unit」 として頑張っているのですが、 UXデザインや人間中心設計は、 Web制作に携わる人なら、 みんなが知っていてほしい知識です。そのため、 この部署を大きくするというよりは、 幅広く、 いろいろな人にUXデザインや人間中心設計のスキルを伝え、 メンバーそれぞれがクライアントに価値を提供できれば素晴らしいですね。 多くのプロデューサーやディレクターに、
UXデザインのプロセスを会得してもらう、 スキルとしてHCDの手法を覚えてもらうというかたちで、 なるべく裾野を広げています。 理想としては、
「R&D室 UXD Unit」 が必要なくなることです。社内に広まって、 みんなが実践できるようになり、 クライアントの理解も深まれば、 専属の部署はいりません。みんなにとってあたりまえのものになってくれれば、 我々は本望です。
「HCD-Net認定 人間中心設計専門家・人間中心設計スペシャリスト」は若手が評価されるきっかけになる
- ――最後に
「HCD-Net認定 人間中心設計専門家」 の今年の受験者に向けて、 メッセージをいただけますか。 佐藤:若い方も、
どんどん 「HCD-Net認定 人間中心設計専門家・ 人間中心設計スペシャリスト」 を受験するとよいと思います。特に、 新設された 「人間中心設計スペシャリスト」 は、 管理職やプロジェクトマネージャの経験は必要ありません、 どんどんチャレンジしてください。 UXデザインや人間中心設計の部署は、
成果物が目に見えません。開発者ならアプリができたとか、 デザイナーならビジュアルデザインができたとか、 目に見える成果物があります。 成果物が見えにくいからこそ、
存在価値を示すのに 「HCD-Net認定 人間中心設計専門家・ 人間中心設計スペシャリスト」 の認定は強みになります。名刺にも書けますし、 それで給与が上がるのは難しいかもしれませんが、 「お前、 やるじゃん!」 という評価が周囲から得られます。 これからのUXデザインや人間中心設計を担う若手にとって、
「HCD-Net認定 人間中心設計専門家・ 人間中心設計スペシャリスト」 は、 まさに評価されるきっかけになると思います。 - ――ありがとうございました。
人間中心設計専門家・人間中心設計スペシャリスト
2013年12月20日(金)~2014年1月10日(金) 受験申し込み 受付中!
2013年12月20日
佐藤哲さんも取得している、
応募要領・
今年度から、
「人間中心設計専門家」
概要 | 人間中心設計の実務能力と、 |
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受験資格 | 人間中心設計・ |
想定受験者 | 人間中心設計を主業務とする方、 |
概要 | 人間中心設計の基本的な実務能力をもつ実務担当者 |
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受験資格 | 人間中心設計・ |
想定受験者 | 人間中心設計が主業務で5年未満の方や、 |
人間中心設計のご業務に携わられている方は、