Amazon Web Services
中でもre:Invent開催前からリリースが噂されていたIoTとQuickSightは、
QuickSightのインパクト
- ──BIとIoT、
予定通りAWSが出してきた感じですが、 それぞれどう評価していますか。 藤川:IoTのほうはほぼ予想通りという感じでしたね。個人的にはそれほど大きなインパクトはなくて、
むしろ先日日本で発表された玉川さんのソラコムのほうがIoTをSIMという形で見せたぶん、 衝撃は大きかったと思います。QuickSightに関しては 「さすがAWS」 という感想を新たにしました。 - ──アンディ・
ジャシーSVPの基調講演でQuickSightのデモを見て、 「これってTableau殺しなんじゃ…」 と思ってしまったのですが、 AWSの担当者に聞くと 「そんなことはない、 従来のBIパートナーとの関係はそのまま続く」 と明言しています。ほかのBIベンダが軒並みやられるのでは、 と見ているプレス関係者は少なくないのですが、 藤川さんはどう思いますか。 藤川:Tableau殺し!? いや、
そんなこと全然ないですよ。僕はむしろあのデモを見てTableauやQlikTechみたいなBIベンダはこれからも安泰だと思ったくらいですから。QuickSightの登場でキツくなるのは、 Tableauよりももっと簡易なタイプのBIツールを出していたところでしょうね。 - ──そう思われる理由は?
藤川:QuickSightの最大の特徴はバックエンドエンジンとビジュアライゼーションが分離されていることです。今回、
AWSがより力を入れているのはこのエンジン (SPICE:Super-fast Parallels In-memory Engine) のほうですね。これはユーザの要望、 つまりもっとライトなタイプのBIが欲しいという声に応えて作りこんだエンジンです。見た目よりも、 速さや手軽さにこだわっている。もちろん従来のBIの10分の1という価格設定も魅力ですが。
- ──QuickSightはRedshiftやS3に入っているデータをSPICEにロードして、
その分析結果をすぐに見るためのツールですよね。デモでは描画もかなり速いなと思ったんですが、 それに加えて価格も安いとなるとやっぱりTableau殺しでは? 藤川:TableauやQlikTechのユーザはビジネス層、
もっといえば経営層などエグゼクティブが中心です。彼らのニーズを満たすほどにQuickSightのビジュアライゼーションは作りこまれていません。というか、 AWSはもともとあまりビジュアライゼーションは得意じゃない。そのことをわかっているから、 あえてエンジンとUIを分けて出してきたんだと思います。このかたちであれば、 SPICEの上にTableauのUIをかぶせるといった使い方もできますから。 - ──つまりこれまでBIベンダと培ってきたパートナー関係を壊すようなことにはならないと。
藤川:最初にもいいましたがQuickSightでつらくなりそうなのは、
フリーミアムモデルのBIを提供していたような中堅以下のベンダです。 「最初は安く、 無料で始められるBI」 みたいなサービスを出していたところはQuickSightに取って代わられる可能性が大きい。AWSはほかのベンダと違ってすでにRedshiftやS3というクラウド上にデータを格納できるソリューションがあるから、 フリーミアムモデルは必要ないんです。一方で他のベンダはそれがないから、 フリーミアムモデルのBIやダッシュボードを提供することで、 クラウド上にデータを集めようとする。でもQuickSightの登場で、 その辺のニーズは全部AWSに持っていかれるかもしれないですね。
"AWSロックイン"はイヤじゃない
- ──QuickSightはユーザの声を聞いて作ったとジャシーさんは言ってましたが、
ユーザとはRedshiftのユーザでしょうか。 藤川:Redshiftユーザが中心だと思います。Redshiftのデータをそのままクラウド上でライトに見たいというユーザは本当に多いんです。Tableauだと別にサーバを立てる必要があるし、
データが大きくなるほどレスポンスが重くなる。あとユーザ、 とくにエグゼクティブが投げるクエリはいつもキレイだとは限らないので、 分析には時間がかかることが多かった。でもSPICEにデータをロードするならあっという間です。 - ──Redshiftのようなクラウド上のデータの取り込みだけじゃなく、
オンプレミスとのつなぎ込みも要望として上がってきそうな気がしますが。 藤川:可能性としてはあると思います。ただしAWSの場合、
いちどクラウドにデータをアップしたら簡単にはオンプレミスには戻れない。絶対に戻れないわけじゃないけど、 相応のコストがかかります。逆にクラウド上でデータを回していこうとするとすごく安くてラクなしくみ、 いわゆるエコシステムが幅広く提供される。QuickShiftもそういう流れの中で出てきた製品だといえます。 - ──それを"AWSロックイン"と呼ぶ人もいるわけですが…
藤川:ある意味、
ロックインという表現は正しいと思います。たとえばKinesisもそうですね。今回のre:InventでAWSはKinesis FirehoseやKinesis Analyticsといったストリーミング処理を固めるラインナップを出してきました。Kinesisもいったん使い出すと、 もうよそには移れない。そして今回さらにKinesisファミリを補強するサービスを出してきた。Kinesis、 そしてあとLambdaもそうですが、 こういったサーバレスのサービスはほかでほとんど出していません。あまりにも便利なので、 ほかに移れないんです。でも、 AWSのユーザでロックインを嫌がる人はそんなに多くないんじゃないかな。 - ──それはどういう意味でしょう?
藤川:Googleの"Don't be evil
(邪悪なことはするな) "じゃないですけど、 AWSユーザの多くはAWSが邪悪なことをしないということをわかっているんだと思います。何より新しいサービスやアップデートが次々に出てきてロックインを感じているヒマがない。これほど圧倒的に便利であれば、 別にロックインされてもかまわないんじゃないかと考えているユーザは多いと思いますよ。 たとえばオンザフライでアナリティクスができるKinesis Analyticsなんて、
ほかのベンダが出そうと思っても出せない製品です。Firehoseにも同じことがいえますが、 AWSはクラウドにおけるラストワンマイルの取り込みに本気になってきたと感じます。
- ──たしかにQuickSightもKinesisの拡充も、
すでにクラウド上に大量のデータをもっているAWSならではの製品だといえますね。ただKinesisの場合、 既存ベンダにはあまりライバルがいなくても、 Kafkaというオープンソースの処理系が台頭していますが、 こちらはどう見ていますか。 藤川:ソースコードの中身を見ることができるオープンソースのKafkaを使うか、
マネージドサービスのKinesisを使うか、 これは会社の文化と思想によると思います。Kafkaを自前で運用するには相当なスキルをもったOSSエンジニアが必要です。Yahoo!やLinkedInならできるかもしれませんが、 ふつうの会社にはかなり難易度が高い。Kinesisなら管理をAWSに任せることができる。どちらを採用するかはユーザ企業の方針しだいですね。
インフラの"Code as a Service"化は止まらない
- ──FlyDataでKinesisやQuickSightをサービスとして提供する予定はありますか。
藤川:Kinesisは今回、
細かいアップデートをいろいろ出してきて、 たとえばレコードの保持時間がこれまでの24時間から7日まで伸びました。これで大きなデータをインポートするときも躊躇なく対応できるので、 今後は検討していたきたいと考えています。QuikSightもRedshift以降のデータの分析や閲覧に困っているユーザがいれば、 使用を推奨していきたいですね。 - ──最後に今回のre:Invent 2015の感想をぜひ。
藤川:やはりAWSは"クラウドをいちばんわかっている会社"だと実感しました。たとえばAWS IoTにしても、
ルールエンジンにSQLクエリが使えるようにしているところなんかを見ると、 「ああ、 わかっているなあ」 と。HadoopでもHiveが大人気になったように、 SQLでデータを扱いたいというニーズは今もすごく強い。その辺のことをきっちり理解して細部を作りこんでくるのはさすがだと思います。 もうひとつ、
時代はどんどんサーバレスやDevOpsに移ってきていることをあらためて感じました。インフラの"Code as a Service"化はもう止められない動きで、 これについていけない旧世代のエンジニアは仕事がなくなっていくんじゃないかな。サーバレスの時代にはDBAの考え方はもう古いということを自覚する必要があると思います。