2022年のRed Hat Enterprise Linux、そしてCentOS Streamの今後は―Red HatにOS戦略を聞いてみた

Red Hatの日本法人であるレッドハットは4月12日、代表取締役社長 岡玄樹氏による2022年度事業戦略説明会を開催しました。グローバル/国内ともに前年度比2桁を超える成長を果たした同社ですが、その牽引役となったのがコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」です。2020年には2800社だったOpenShiftの導入社数は、2021年にはプラス1000社の3800社と大幅に増え、さらにこれまで主流だった金融業界だけではなく、通信や製造業、流通/小売へとさまざまな業界に採用が拡がりました。

OpenShiftの導入社数は2021年度で1000社増え3800社に。日本でもNTT東日本や東京エレクトロン、日立製作所などさまざまな業界の大手企業が導入を果たした
OpenShiftの導入社数は2021年度で1000社増え3800社に。日本でもNTT東日本や東京エレクトロン、日立製作所などさまざまな業界の大手企業が導入を果たした

2022年度はさらにOpenShiftの国内アダプションを拡大するため、その施策として岡社長は

  • 新しいOpenShiftマネージドサービス(Kafkaおよびデータサイエンスにそれぞれ特化)の提供
  • キーコンポーネントの「Kubernetes Engine」⁠Data Foundation」の大幅値下げ
  • ARM on AWSやAzure Stack Hubなど新たな基盤のサポート

を発表しています。コンテナプラットフォームがどんな業種/業界でも活用しやすくなるように、導入の敷居を可能な限り下げていく戦略だといえます。

2022年度に国内で展開するOpenShiftの施策は「OpenShift活用の幅を拡げる」⁠OpenShift導入の敷居を下げる」がポイント。とくに主要コンポーネントの「Kubernetes Engine」は33%、⁠Data Foundation」は40%とそれぞれ大幅な値下げを実施する
2022年度に国内で展開するOpenShiftの施策は「OpenShift活用の幅を拡げる」「OpenShift導入の敷居を下げる」がポイント。とくに主要コンポーネントの「Kubernetes Engine」は33%、「Data Foundation」は40%とそれぞれ大幅な値下げを実施する

一方で、創業以来、Red Hatを支えてきたフラグシップ製品である「Red Hat Enterprise Linux」⁠以下、RHEL)のビジネスに関しては、12日の説明会ではほとんど触れられませんでした。Red Hatがここ数年来提唱してきたハイブリッドクラウド戦略においてもRHELはもっとも重要な役割を担っているはずですが、2022年度はどのような方針でビジネスを展開していくのでしょうか。

また、2021年でサポートを終了したオープンソースプロダクト「CentOS」の後継プロジェクトについてRed Hatはどう考えているのでしょうか。説明会終了後、レッドハットに質問状を送ったところ、本社(Red Hat)の意向も含めた回答をいただいたので、以下、⁠Red HatのOS戦略 2022」として紹介します。

2022年のRed Hat Enterprise Linux

――2022年度のRHELビジネスはどのように展開されるのでしょうか?

RH:これまで、そして将来においても、RHELはRed Hatのオープンハイブリッド戦略に欠かすことのできない基礎となる製品になります。RHELにより、顧客が多様なITインフラにおいても共通の体験を得られるようにしていくことは今後も変わりません。顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進にともなって利用が拡がるクラウドを中心に、RHELのビジネスは今も強力に成長しています。

とくに昨年(2021年)から今年(2022年)にかけて、オープンソースの世界では、ソフトウェアサプライチェーン攻撃、利用者の多いコンポーネントの深刻な脆弱性の発覚とその対応など、セキュリティに対する意識が過去にないほど高まっており、我々が過去よりRHELで推進してきたセキュリティに対する取り組みへの評価、そして新たな対応のための相談が増えています。そしてRHELを構成する技術の活用は、データセンターの外やエッジ領域への広がりを見せています。顧客によりRHELを使いこなしてもらえるよう、その適用範囲を拡げ、オープンソース技術を安心して活用するための支援を、2022年度は引き続き推進していきます。

また、もうひとつの方針として、RHELを多くのアプリケーションやソリューション開発者の方に活用してもらいたいと考えています。昨年来、開発者向けにさまざまなリソースを提供する「Red Hat Developer Program」 から、個人の開発用途に限り16台までRHELを無償で利用できる「Developer Subscription for Individual(D4I⁠⁠」や、企業のチーム開発でRHELを無償利用できる「Developer Subscription for Teams(D4T⁠⁠」といった施策を拡充/展開しています。

さらにコンテナという観点では、無償で利用でき、かつ再配布も可能なベースイメージ「Universal Base Images ⁠UBI⁠⁠」も提供しています。これらを通して、より多くの開発者が安定したOSとライブラリ、最新のツールセットを活用してソフトウェア開発に集中できるように注力していきます。

そして、来る5月10日より「Red Hat Summit 2022」が開催されます。2019年にRHEL8がリリースされた際、RHELのメジャーバージョンは3年ごとにリリースするという方針が定められましたが、今年はその最初の3年目にあたります。Red Hatはさまざまな発表を予定していますので、どうぞご期待ください。

CentOS Streamの位置づけは?

――2021年12月末でサポートが終了したオープンソースプロダクト「CentOS」について、サポート終了後のユーザ移行などをどう考えているのか教えてください。また、CentOSはこれまでRHELのクローンOSという位置づけでしたが、CentOSの名前を残した「CentOS Stream」は新たにRHELのテストプラットフォームに変更されたという解釈で良いでしょうか。

RH:まず最初にお伝えしておきたいのですが、CentOS Streamというプロジェクトの目的は、CentOSおよびRHELの開発を真にオープンにし、多くの方々が将来のRHELのリリースにいち早く触れ、自身の実現したいことのためにRHELの開発に対してのフィードバック、改善の方策、そして修正そのものを提案できるようにする、つまりコミュニティに「参加」できるようにすることです。コミュニティへの参加はオープンソースソフトウェア開発の最も重要なファクタのひとつです。それを実現するためにCentOS Streamが存在します。詳細は「CentOS Streamとは」を参照してください。

具体的な例としては、ハイパースケーラーのような大規模システムについて検討する「CentOS HyperScale SIG」や車載Linuxを実現するための活動を行う「CentOS Automotive SIG」などは、プロダクトを利用されるユーザ自身が多く参加することを歓迎しています。また、Automotive SIGが2022年3月に発表したバイナリディストリビューション「CentOS Automotive Stream Distribution」は、まさにそのようなコミュニティ活動の成果として期待されます。

一方で、これまでCentOSを利用してきたユーザの声があることもよく理解しています。我々はこの方針の発表後、多くのCentOSユーザの声を聞いてきました。CentOSの移行先をどうしたらいいのか、迷われている方の声も多く耳にしています。その解決策のひとつとして、たとえばCERNとFermi Labのように、実際にCentOS Streamの検証を行い、CentOSのEOL後はCentOS StreamをメインのOSとして活用するという方針を出している組織も存在しています参考PDF⁠。もちろん、こうしたやり方がすべてのCentOSユーザのユースケースをカバーできるとは思っていませんが、今後はCentOS Streamのことを(CentOSユーザに)よく知ってもらう活動に注力していきたいと考えています。

RHELエコシステムにおけるCentOS Streamは、アップストリームのオープンソースプロジェクト「Fedora Linux」と、プロダクショングレードなOSであるRHELの間に位置づけられる。Fedoraで実装された先進的なイノベーションの中から、近い将来RHELに取り入れられる機能をRHELに先駆けてテストし、RHELのソースコードを開発する役割を担う。CentOS Stream開発者はRHELエンジニアと同じ開発コードに早期に触れることが可能になるほか、次のバージョンのリリース前にフィードバックを共有できる(画像はRed Hatのサイトから引用)
RHELエコシステムにおけるCentOS Streamは、アップストリームのオープンソースプロジェクト「Fedora Linux」と、プロダクショングレードなOSであるRHELの間に位置づけられる。Fedoraで実装された先進的なイノベーションの中から、近い将来RHELに取り入れられる機能をRHELに先駆けてテストし、RHELのソースコードを開発する役割を担う。CentOS Stream開発者はRHELエンジニアと同じ開発コードに早期に触れることが可能になるほか、次のバージョンのリリース前にフィードバックを共有できる(画像はRed Hatのサイトから引用)
――CentOSユーザをRHELに移行させるプランはとくに用意しないのでしょうか。

RH:これまで申し上げたように、CentOS Streamの目的はCentOSとRHELの開発を真にオープンなものにし、コミュニティに参加できるようにすることであって、CentOSユーザの方々を強制的にRHELに移行させるためではありませんし、短期的/長期的な収益のためでもありません。

しかしながら、CentOSプロジェクトの方針変更とは関係なく、企業におけるOSSの活用を推進するためにRed Hatが提供できるRHEL、そしてRed Hatサブスクリプションの価値については、さらに多くの人々に引き続き伝えていきたいと考えています。このRHELの価値に共感してくれるCentOSユーザの方々には、移行のためのファイナンス面およびテクニカル面での支援をすでに提供しています。たとえば、柔軟なお支払いの方法、教育機関に向けたアカデミックオファリング、CentOSからRHELへインプレースで変換できるconvert2rhelツールの提供などです。また、前述したDeveloper Subscription for Individualsの適用範囲の拡充などもすでに発表しています。グローバルでも国内でも、実際にCentOSからRHELへの移行を決定した顧客が存在しますので、⁠CentOS→RHELの移行に関して)相談してもらえれば、非常にうれしく思います。


Red Hatはそのミッションとして「To be the catalyst in communities of customers, contributors, and partners creating better technology the open source way(顧客、開発者、パートナー企業の架け橋となり、オープンソースのチカラですぐれたテクノロジを創り出す⁠⁠」を掲げています。そのミッションの中心にあるのはやはりRed Hat Enterprise Linuxであることを、あらためて実感しました。5月のRed Hat SummitでRHELに関するどんな画期的な発表が用意されているのか、引き続き注目していく必要がありそうです。

Red Hatがグローバル(上)と日本市場向けにそれぞれ掲げるミッション。⁠オープンソースのチカラ⁠の中心的存在は現在もこれからもRHEL
Red Hatがグローバル(上)と日本市場向けにそれぞれ掲げるミッション。”オープンソースのチカラ”の中心的存在は現在もこれからもRHEL

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