2008年11月29日、楽天株式会社にて「楽天テクノロジーカンファレンス2008」が開催されました。同カンファレンスは、楽天の各種サービスの基礎となっている大規模トラフィック、その先にあるビジネスを支える技術について、さまざまな角度からフォーカスし、その裏側を見せることを目的としたイベントです。また、楽天以外に、各種コミュニティによるセッションが用意されるなど、これからの日本のエンジニアリングの方向性が見える1日でした。
今回は、基調講演の模様を中心にお届けします。
舵を切り始めた楽天
開幕に先立ち、楽天株式会社取締役常務執行役員 開発部部長兼CPOの杉原章郎氏による開会の挨拶が行われました。今回のカンファレンスに関して、同氏は「昨年のテクノロジーカンファレンス以降、楽天は大きく舵を切ってきています。それがエンジニアリングへの着目です。技術力は当社の源泉の1つとなっています。今後も今まで以上に技術を意識した展開をしていきます」と述べ、技術力の重要性とともに本カンファレンスの開催意図について説明しました。
さらに「これからは、技術力とともに人的ネットワーク、技術者のネットワークの活性化を目指します。今年のカンファレンスでは、たくさんのエンジニアの後押しができればと思います」と、カンファレンスに対する期待を込め、イベントがスタートしました。
基調講演:まつもとゆきひろ氏「グローバル化する世界」
オープニングの講演は、Ruby開発者でもあり、楽天技術研究所フェローのまつもとゆきひろ氏が務めました。同氏は「グローバル化する世界」をテーマに話を進めました。
まつもと氏は今の状況について、技術の変化と進化によって世界における距離がなくなり、加えて低下する通信コストといった要因から、情報隠蔽の無意味さが生まれてきていると説明しました。これを「箱庭の喪失」と表現したうえで、これからのエンジニアの生き方について語りました。
最終的には自分で決めることが重要だが、という前提のもと「(箱庭がなくなってはいるものの)言語と文化、日本人というアイデンティティが残っている」と説明しました。そして、これらを残すべく、リスクテイクとともにチャレンジを行っていくことを勧めました。
さらに、この先に重要になるポイントとして「価値創造」を取り上げ、エンジニア1人1人の考え方、創意工夫というのが今まで以上に注目され、そこに生き残っていくための鍵があると述べました。この具体的な答えが「オープンソースソフトウェア」であるとしました。
以上のように、まつもと氏独自の理論を展開した後、エンジニアとして生き残るための戦略として「ラストマン戦略」について紹介しました。これは、「その分野に関して、質問や問い合わせが発生したときに、この人に聞けば大丈夫、つまり最後の人(ラストマン)になること」という戦略です。
そのために必要なこととして「周囲からの信頼」が最も重要であるとしました。一方で、信頼を得るにはたくさんの知識を身に付けたり、何でも知っている必要はなく、最終的な答えにつながる、人的・知識的なコネクションを確立すれば良いというアドバイスも付け加えました。
最後に「ラストマンになれることにより周りからの信頼や評価が付いてきて、結果として自尊心やアイデンティティの確立にもつながり、エンジニアとして生き残れるはずです。また、そのためには、他の人との差別化や価値創造を追求していくことが大切でしょう」とまとめました。
基調講演:最首英裕氏「Ride on Rubinnovation」
まつもと氏に続いて、株式会社イーシー・ワン代表取締役社長兼RBC(Ruby Business Commons)会長の最首英裕氏が「Ride on Rubinnovation」と題した講演を行いました。
最首氏は、現在、福岡でのRubyコミュニティの活性化に尽力している人物で、今回も地域とコミュニティをテーマに話を進めました。まず、福岡で始めた理由として「Rubyの楽しさやわかりやすさを伝えるには、さまざまな切り口がありますが、それは東京ではなく別の場所で始めたほうが良いと感じました。そして、自社の子会社が福岡にあるという理由などから、福岡で活動を始めました」と、コミュニティを始めた経緯について紹介しました。
同氏曰く、地域コミュニティを広げたい理由として「ノウハウを自分のものだけにするよりも、もっと積極的に共有したほうが価値が高くなるから」とのことです。この信念のもと、現在は福岡以外にも東京多摩や会津、金沢などさまざまな地域での勉強会を積極的に開催しています。
さらに、勉強会に関しても
- 技術的勉強会:イケテルRails勉強会
- ビジネス的勉強会:イケテル“ビジネス”勉強会
という、2つの異なったコンセプトの勉強会を開催しています。技術的な勉強会のみに絞らなかった理由には「ソフトウェア開発では受発注というモデルが前提になりがちですが、元請けを目指すのであれば、技術論だけではない、企画やビジネス的な感覚も必要になるからです」と、ビジネス勉強会を併せて開催している目的について解説しました。
また自分の活動以外に、今回の主催者である楽天に対して、「(今回のカンファレンスのように)貢献をして企業活動をしたいという楽天が、もっとうまくコミュニティやエンジニアたちと連携しはじめると、企業活動だけでは成立しなかった、新しい価値の高まりを生み出すと思っています」と、期待とともに、今回のカンファレンスの開催を高く評価していました。
最後に、こうした流れについて、最首氏は「Rubinnovation」という言葉を使って表現し、「これからのRubyと地域コミュニティの、さらなる活性化に尽力していきたいです」という豊富で講演を終えました。
- 楽天テクノロジーカンファレンス2008
- https://www.rakuten.co.jp/event/techconf/2008/