先週、5日間にわたって開催された2009 JavaOne Conference/CommunityOne が終了しました。ここでは「2009 JavaOne Conferenceフォローアップ」と題して、今回のホットワードになっていた「クラウドコンピューティング」 、その実演を行っていたCloud Zoneを中心にレポートします。
盛況だったSun Cloudブースから
CommunityOne のレポートでもお届けしたように、今回、クラウドコンピューティングに関してたくさんの展示、セッションが組まれていました。まずはじめに、クラウドコンピューティングブース「Cloud Zone」の中心となっていた、Sun Cloudの展示からお届けします。
Sunが実現するクラウド環境
CommunityOneでも紹介されたSunのクラウドコンピューティングの軸となるのが、「 Sun Cloud Compute Service」ブースで紹介されていた技術です。ここでは、Sunのクラウドについて、「 コンピュータ/ネットワーク/ストレージに関して、必要に応じてセキュアにアクセスできるもの」と紹介し、具体的に仮想データセンタの構築、利用状況に応じた課金システムなどに関して説明が行われました。今回のカンファレンス時点では、一般ユーザ向けのサービスは始まっていませんが、今後、順次正式なサービスとして展開されていくとのことです。
写真1 Sun Cloud Compute Seviceのブース
また、その隣には「Sun Cloud Storage Service - Data in the Cloud」と題したブースが設けられていました。ここでは、Sunの強みの1つ、データストレージにおけるクラウドコンピューティングに関する説明が行われており、Web APIおよびプロトコルを通じたデータ転送、インターネット上でのインフラ構築を基本としたシステムになるとのこと。また、具体的な利用プロトコルにはWebDAVおよびS3のようなものを状況に応じて利用することで、オープンでセマンティクスな状況を構築していきます。
Sunのクラウドコンピューティング
http://www.sun.com/solutions/cloudcomputing/
開発環境から見たクラウドコンピューティング:(1)NetBeans/Project Kenai
現在、Sunが推しているIDEがNetBeansです。Sun Cloud内には、NetBeans、それに関連してProject Kenaiの展示が行われていました。NetBeansのブースには「NetBeans IDE - Connecting Developers」と説明が書いてあり、クロスプラットフォームで開発できること、JavaやPHP、Ruby、Groovy、JavaScript、C/C++、Pythonなどさまざまな言語開発が行えること、そして、Project Kenaiを通じて複数メンバーによる開発と連携が行えることが説明されていました。
そして、最後に出てきたProject Kenaiに関しては、1つのブースが用意されており、詳細な説明が行われていました。Kenaiは、SubversionとMercurialに対応したコードホスティングサービスで、メーリングリストやフォーラム、Wikiなどを提供することにより、共同開発における情報共有、複数メンバーによる開発をサポートするためのプロジェクトです。RC2がリリースされたばかりの最新NetBeans 6.7には直接Kenaiを利用できる機能が実装されており、その利便性が高まっています。
写真2 Project KenaiのWebページ
Kenaiのブースには「Participate in Sun's developer cloud」と、デベロッパー群への参加という表記がされていましたが、説明員曰く、将来的にはSunのクラウドコンピューティングを利用した開発・テスト環境などが利用できるようになるとのことです。
NetBeans 6.7情報
http://ja.netbeans.org/downloads/67/
Project Kenai
http://kenai.com/
開発環境から見たクラウドコンピューティング:(2)Project Speedway
クラウドに関連した開発環境はいくつか展示が行われており、この「Project Speedway」もその1つでした。これはクラウド上におけるSPARC対応の開発環境です。クラウドに構築したSPARC版OpenSolaris上仮想デスクトップで実行し、Webブラウザ上での開発が行える他、NetBeansを利用したローカル開発+クラウド上でのビルドが行えるというもの。
Project Speedway
http://developers.sun.com/speedway/
開発環境から見たクラウドコンピューティング:(3)Zembly
写真3 Zemblyのブース。Webベースで利用できる開発環境、さまざまなWeb APIを手軽に利用でき、クラウド上のリソースを活用できるといった特徴から、今後の可能性を感じる製品でした
3つ目に紹介する開発環境は、Webベースの「Zembly」です。これは、Sunが提供する開発環境で、(X)HTML、CSS、JavaScriptをフルサポートし、クラウド環境に対応しているWebベースのIDEおよびそのホスティングサービスです。
Zemblyは、操作性の高さや標準化への対応に加えて、Zembly Web API Gateway(ZWAG)を使うことで、外部のWeb APIの利用を単純化できるのが特徴です。具体的には、外部のAPIからZemblyのMaster Keyの発行を行い、それを使うことでJavaやJavaFXのアプリケーションを構築することができます。すでに公式サイトには、FlickrやFacebookなどさまざまなソーシャルアプリケーションに対応したサンプルアプリが公開されています。また、このページ から、実際にZemblyで開発している様子のビデオが閲覧できます。
Zembly
http://zembly.com/
その他―OpenOffic.orgやSun Software Library
その他、ユーザの観点から見たクラウドコンピューティングに関する展示が行われていました。
1つはOpenOffice.org 3.1に関するものです。ここでは、OpenOffice.org 3.1が持っているさまざまなツールの利用、そしてそこで作成したデータをオープンなクラウド環境に向けてデータを保存し共有できるという観点から、ユーザとクラウドコンピューティングの関係性を説明していました。
もう1つは、「 Sun Software Library」です。いわゆるクラウドコンピューティングではありませんが、ここにはSunの技術以外にも、各種オープンテクノロジおよびベンダテクノロジのサマリ付きリスト、リンク、連絡先がアーカイブされています。情報のクラウド化という観点から展示されていたブースと言えるでしょう。あわせて「Sun Convergence」と題して、Sunの互換性に関する説明も行われていました。
Sun Software Library
https://library.network.com/
Sun Cloud Partnerの動き
以上、Sunが主体となって取り組んでいるクラウドコンピューティングのブースをご紹介しました。今回、Cloud Zone以外にも、Sun Cloud Partnerというカテゴリで、各種ベンダの展示が行われていました。そのうち、興味深い2つの企業を紹介します。
RICOH
複合機メーカのRICOHがSun Cloud Partnerとして展示を行っていました。取材したとき、「 あれ?どういう関係性があるの?」と一瞬とまどいましたが、展示している内容を見て、ハードウェアベンダからのクラウドコンピューティングに関する取り組みを体感することができました。
それが、このブースで展示されていた「documentmall 」です。これは、セキュアかつシンプルなドキュメント管理ソリューションで、オンデマンドによる提供が行われます。
システムとしては、フロントエンドにJavaベースのデータアクセスオブジェクト、JSP、そしてSpring Frameworkを利用し、APIを通じてHTTP経由での独自Javaアプリケーション実装が行えます。このデモでは、複合機でスキャンしたデータをインターネット経由でやりとりし、タッチパネル上で加工を行って、ネット上のストレージに保存するというものでした。
現在、RICOHは「Ricoh Development Program(RiDP) 」を提供しており、開発者の支援を行っています。
写真4 RICOHのブース。実際に手前のJava搭載複合機を利用したデモが行われていました
SNS&ソーシャルメディアアプリを開発できる「KickApps」
クラウドコンピューティングに親和性が高いアプリケーションの1つがソーシャルアプリケーションです。ここでも、KickApps という、SNSプラットフォームおよびソーシャルメディアアプリを構築できるサービスを提供するベンダが展示を行っていました。
KickAppsを利用すると、ユーザは自分が見たい、使いたいSNSやソーシャルメディアを選んで、それらを表示する1つのページを構築できます。ユーザは自身のメディアを構築できるだけではなく、各ソーシャルネットワーク間との連携が行え、そこからソーシャルグラフを構築できるようになります。
写真5 KickAppsのデモ
今後の展開に期待したい―Cloud Startup
この他、Cloud Startupと題して、クラウドコンピューティングに関連したスタートアップ企業の展示が行われていました。
たとえば、Satx Networksのように、すでに実績のあるクラウドコンピューティングEC2向けのJavaEEプラットフォームの提供や、ControlTierといったコンサルティングサービスなど、これからの需要が期待される展示に注目が集まっていました。
写真6 これからの展開が気になるSatx Networks
その他、Wowdはすでに似たサービスがありますが、現状ではこのジャンルの決定版サービスが見あたりません。これからどうなるか未知数名という点を含めて、Webサービスとしての可能性、その先の展開に注目したいところです。
他にも注目技術が―Clued-In
Cloud Zone以外にも、Sunのブースで注目を集めていたのがClued-Inです。これは、GlassFish v2/v3およびMySQLをバックエンドプラットフォームとして、その上に
が乗るというアーキテクチャで、たとえば、Twitterのようなマイクロブログ、Flickrのようなメディアコンテンツ、携帯電話コンテンツなどクロスプラットフォーム間でのメッセージ通信をクラウドコンピューティング上で実現する仕組みです。
写真7 Clued-Inのアーキテクチャ。写真は初日のテクニカルセッションで紹介されたスライドです
以上、クラウドコンピューティングという切り口でJavaOneを振り返ってみました。こうして見ると、新しい技術の登場と言うよりも、ハードウェアやストレージ、OS、ミドルウェア、アプリケーションに至るまで、これまでSunが開発し培ってきた技術をうまく組み合わせて実現しているものが多くあり、実績、信頼性という面から見ると非常に期待できる内容でした。
また、とくに日本においては「クラウド」という言葉は流行り言葉のように扱われ、言葉だけが先行してしまっている面も見られます。一方で、GoogleやAmazonといったネット企業がすでに実用に向けた動きを見せてきており、さらにSunのようなハードからソフトまでを提供する企業が本格的に取り組み、パートナー企業の採用が少しずつ始まっています。こうした実用化に向けた動きからもわかるとおり、今回のJavaOneは、これからのコンピューティング、インターネットの中におけるクラウドコンピューティングの重要性がますます高まることを予感させる内容が多く見られた内容だったと言えます。