年に一度Webテクノロジーに関わる人たちが集まり、Web技術を横糸に、過去・現在・未来を縦糸として語り合うイベントであるエンジニアサポートCROSS 。
D会場の最初のセッションは、「 ハードウェア×ソフトウェア 」と題して最近注目を集めているハードウェアの分野についてディスカッションが行われました。
本稿では、このセッションの模様をレポートします。
セッションオーナーは株式会社鳥人間の郷田まり子 さん。スピーカーはpigmal, LLCの@itog さん、株式会社ブリリアントサービスの株式会社の近藤昭雄 さん、株式会社Cerevoの岩佐琢磨 さんです。
盛り上がるInternet of Things
自己紹介を兼ねて自作のハードのデモやその時のエピソードが披露される中で、口火を切ったのは昨夜までアメリカにいたという岩佐さんでした。自己紹介してもセッションが盛り上がるとは思えないと断った上で「インターネット家電などのIoT(Internet of Things)が今年マジヤバイ。とにかくこの分野はとにかくホット。すごくいい波が来ている」と断言、インターネット家電を巡るハードウェアベンチャーについての解説を行いました。
岩佐さん
岩佐さんによると、この分野では大手メーカーもベンチャー企業も同じ地点のため「後追いの方が有利な状況」とのこと。昨年の終わりくらいにかけてモノのインターネット(IoT)とも呼ばれるインターネット家電が大きな盛り上がりを見せていると言います。そのような中で、従来大企業の独壇場だった家電の開発に多数のユニークなベンチャー企業が参加するようになり、シェアをじわじわと浸食しつつあるのだそうです。
その一端としてラスベガスで行われたばかりのハードウェアの巨大見本市、CES(Consumer Electronics Show)を取り上げました。インターネット系のベンチャーが活発に進出している様子や、ユニークなシリコンバレー流の宣伝活動について報告しました。
大仏の掌から抜け出し世界にただ一つのプロダクトを
次に岩佐さんは大仏のスライドを映し、「 馬鹿にするわけではないし、ハードウェアの操作ツールとしても重要だが、スマートフォンのアプリでは結局プラットフォームという大仏の掌から抜け出せない。しかしハードウェアならば大仏の全身に触れることができ、視界が広がる。できることが増える。だからハードが面白い」と述べました。
Crunch Baseのデータを引いてきて、Webサービスやスマートフォンアプリの分野は過当競争に陥っているのに対して、ハードウェアはまだ数が圧倒的に少ないと指摘しました。イベント当日の3日前にGoogleに買収されたスマート家電ベンチャーのネスト・ラボの買収金額が同じGoogleに買収されたYoutubeのほぼ倍であることを挙げ、将来性と可能性の高さを強調しました。
では、どのようなプロダクトを作ればいいのでしょうか?
岩佐さんは自社のコンセプトでもあるグローバルニッチ、マイナーでもいいから世界にただ一つのプロダクトを作ることだと言います。油圧シリンダーを使用した十万円もするレーシングゲーム専用のゲームパッドをサンプルに「日本には百人しか客がいないようなプロダクトでも、世界に広げれば十分な顧客がいる」とし、世界のニッチ、グローバルニッチを目指そうと語りました。
ローレベルに降りよう
岩佐さんの話が終わった後、セッションは会場からの質問も交えてディスカッションに移りました。ハードウェアの市場は広がっているのか、広がっているとしたらなぜなのか、ハードウェアを始めるにはどこから学べばいいのか、そういったテーマについてスピーカーの皆さんは議論していきました。
ハードウェア市場が広がっていることは間違いなく、理由は製造技術が進歩してハードウェアの製造が容易になったのが大きいとのことです。また、「 大仏の存在に気が付いた」と岩佐さんは指摘していました。
大きく盛り上がったのはハードウェアを始めるにはどこから学べばいいのか?という質問です。
近藤さんがAndroidの初期にほとんど情報がない中、仕事で手探りでやらざるを得なかった自身の経験を引いて「モチベーションが大事。やらざるを得ない状況に自分を追い込む。むしろ今は情報が多すぎる」と答えました。
近藤さん
岩佐さんは「警鐘を鳴らしたい。Arduinoは全体像を取り込むのはいいが、個別に専門家になるのならばきちんと掘り下げていくほうがいい。普通のLinuxが動くハードが今は組みでも主流」と指摘。さらに「一レイヤーずつ降りていくといいのではないか。組み込みLinuxスペシャリストが求められている」と述べました。
郷田さんも「Arduinoは動かすにはいいが、非力でできないことが多い。もっとクロックの高いものがいいのではないか」と答えていました。
郷田さん
@itogさんは「ハードはmain関数を動かすまでが大変。そこにとどまっているのはまずいが、最初の一歩としてはArduinoやkonashiのような簡易的なものでもいいのでは」と述べました。それには「main関数に行ったら動いたねー、という感じ」( 岩佐さん)「 画面を出すまでが大変。ハードウェアはバッドノウハウしかない」( 近藤さん)と賛同の声が挙がっていました。
@itogさん
しかし、Webエンジニアは低いレイヤーになかなか降りてこないという問題もあり、「 Androidが正式に始まった時、これでWeb系エンジニアが大量に降りてくるかと思ったらそうでもなかった」と近藤さんは言います。その理由として、近藤さんは「ググれない」こと、郷田さんは「コードが落ちてない。一人で詰まると心が折れる」と言及し、情報の無さを指摘しました。その原因として岩佐さんはNDAが厳しいことを挙げました。
では、そういう状況は今後改善されるのでしょうか?
「チップメーカーが懐を開き始めた」と岩佐さんは言います。動きは速くなり、開発キットも安くはなっていて、オープンな開発コミュニティの出現にも希望が持てるようにはなってきているのとのことです。ただし、それでも「結局は低レイヤーをきちんとしないとつらい」と@itogさんは述べていました。
新しい場所に向かおう
ディスカッションを聞いて、新しい技術ジャンルが登場する時の熱気を感じました。ハードウェアを動かすには課題が多いですができることもそれだけ多い、エンジニアとして挑戦しがいのある新しい場所です。一歩を踏み出すのならば、今がその時ではないでしょうか。