イベントの概要
2015年1月29日(木)に、横浜みなとみらいにある大さん橋ホールにて「エンジニアサポートCROSS 2015」が開催されました。本稿では、イベントセッションである「超高齢化社会到来!介護の現状とこれから我々IT業が出来る事とは?」についてレポートします。
セッションのはじまりに
本セッションは、CUPA理事でもあり、初代JAWS会長のセッションオーナーの竹下康平氏の司会のもとはじまりました。
セッションの冒頭、竹下氏は参加者に向かって、今日は次のことを持ち帰って欲しいと言いました。
これらにより、エンジニアとして何が出来るか、ちょっとでも考えることをして欲しいということです。
エンジニアの介護に関する知識・意識の実態
スピーカーである飯塚裕久氏は会場へ呼びかけて挙手のアンケートを取りました。
- 「身近に介護が必要になったときに、どこに相談すればよいか知っている人」
- 「介護のサービスの種類は大体分かっている人は何人ですか? だってみんないずれはお世話になるよね?」
このように、参加のエンジニアは介護のことをほとんど知らないという現実の確認からセッションは始まりました。
我が国は他国に類を見ないスピードで超高齢社会に突入する
セッションオーナーの竹下氏は、介護のエバンジェリストであると飯塚氏を紹介しました。飯塚氏は、都内文京区で介護サービスを運営しています。また、介護を題材とした人気漫画「ヘルプマン」の第23巻[1]の表紙のモデルにもなったと言うことです。
飯塚氏は、日本の近い将来の介護問題を次の様に説明しました。
- 来る2025年には超高齢社会に日本が突入する。しかも、他国に類を見ないスピードで突入することになる。
- 日本国民が総力戦でその社会を乗り切らなければいけない。介護保険の計画では、IT技術に期待されている事が明確に示されている。
- しかしながら、一方では、ITに頼らず人海戦術でしか対応ができないであろうという計画も垣間見られている。
日本の現実
超高齢社会の実情について、説明がありました。まずは、用語の定義から説明です。高齢者というのは、65歳以上の方のことを指すと言うことです。
高齢化率により、次の様に定義されます。
- 人口に対して7%が高齢化社会
- 人口に対して14%が高齢社会
- 人口に対して21%が超高齢社会
今日の日本の状況は、日本全国でばらつきはあるけれども、全体的にみると25%を超えており、すでに超高齢社会と言えます。
さらに、今後の見通しは、2025年には、30%になり、10人に3人が高齢者となります。しかし、その先2055年は10人に4人が高齢者となり、高齢化率は39.4%となってしまいます。
高齢化率には元気なお年寄りも含まれるのですが、後期高齢者(75歳以上の人を指す)の半分以上の方が、要介護状態、つまり介護が必要な時代が来ると予想されている状態です。
簡単に言えば、今後、生活できづらくなる人が増えてくるということです。
都市部は深刻
生活出来づらくなる人が増えるのは、都市部の方が深刻化している状況です。
「埼玉」「千葉」「神奈川」「大阪」「愛知」「東京」では、全体の1/4の人が、この要介護状態となり、2010年から2025年までには、その人数が1.7倍~2倍になると言うことです。
人口ピラミッドの変化による1人あたりの負担の増加
日本は、高齢化により人口ピラミッドが変化してきています。また、少子化により拍車がかかってきていると言われています。
日本の人口ピラミッドは、高齢者1人を9.1人で支える「胴上げ型」から、2.4人で支える「騎馬戦型」へ、そして1.2人で支える「肩車型」へ変化します。つまり、財政負担も増えてくると言うことです。
今は、INVISIBLEな状況
飯塚氏は、「街中にお年寄りは沢山いますか? 今はいませんよね」と話します。今はINVISIBLEな状態になっていると説明しました。
介護が必要なお年寄りが居る場所として、イメージするのは、「老人ホーム」が多いのではないでしょうか。でも、その老人ホームには既に簡単には入れない状況になっているのです。
でも、その老人ホームには簡単に入れない状況にすでになっています。
徳島県は、お年寄り7人に1人分の老人ホームのベットがあります。しかし、東京は、222人に1ベット、神奈川は152人に1ベットしかないということです。
都心は、土地が高くて、「施設」を作ることができない状況になっています。施設がないということは、これからは、街中に沢山のお年寄りが「見える」状態になってきます。
4人に1人が高齢者
2050年には、39.4%が65歳以上の高齢者です。つまり、4人に1人が高齢者です。
4人に1人というとどういう感覚かというと次のとおりです。
- めがねをかけている人の割合
- 20代の男性の交際経験なし率
- 近年の紅白の視聴率
- 2001年の大学進学率
これだけの高齢者がいるようになるわけですから、高齢者が町中にあふれてきます。しかも、老人ホームには入れません。
日本の施策は
老人ホームに入れなくなった高齢者は、街で暮らすことになります。
この方たちを支える仕組みとして、日本は「地域包括ケア」という施策を取ることになりました。地域包括ケアとは、1万人を1つの地域ととらえ、ユニットにします。
1万人を1つの地域ととらえて、この地域包括ケアというユニットにします。このユニットを全国に1.2万ユニット作っていこうという計画です。人口1万人に対して、要介護率が16%なので、介護が必要な方が400人います。この400人をユニット単位とした介護への取り組みをして、乗り切ろうとしています。
このユニットには、医師や看護師、老人クラブや生活支援をするボランティア、そして介護サービスを組み合わせていきます。
そして、このユニットで働く介護人材は、現行の210人から約1.7倍の360~380人くらいに増やさないといけないと言われています。
では、ITで出来ることとして、日本は次のPointを施策として明記しています。
- Point1
- Point2
- Point3
- 安全確保
- 高齢者の安全を確保するデバイスやシステム
- 高齢運転者の交通安全の確保
- Point4
- ビックデータ活用して地域全体で認知症予防にとり組むスキームを開発
介護ロボというのは、パワードスーツのようなものもあれば、介護を支援するセンサーまでと、幅広く考えられます。
また、安全確保として、センサーとネットワークを構築するということも考えられます。ビーコンなどの利用も良いでしょう。
このように、我々エンジニアにも、期待されていることが多く挙げられている状況です。
介護マーケット
高齢者向け市場全体推計は、2007年では、62.9兆円市場でありました。2025年には、101.3兆円市場になると言われています。実に、61.0%の伸び率です。ITばかりではなく、高齢者向けの商品やネットスーパーなども統計に含まれていますが、IT市場だけでも600億円~700億円になり、さらに増え続けるであろうと言われています。
ジャパンモデル
2014年11月5日~7日に日本で認知症サミットが行われました。世界保健機構(WHO)や各国の行政担当者や医療従事者が300名程参加し、各国から注目されていたと飯塚氏は話していました。
日本は、世界に類を見ないスピードで、1番最初に超高齢社会に突入します。世界は、日本がこの超高齢社会を乗りこえるために、クリエイティブなことを考えて実行していくであろうと期待されているということです。
まとめ
このような施策として示されているように、日本はITを活用することで、この超高齢化社会を乗り切ろうとしています。それについてはエンジニアへの期待が高まっているところだと言えます。
また、世界を見たときに、超高齢社会に対応するための技術のイノベーションが期待されています。
総力戦で、もう来てしまっている問題に立ち向かう必要があるということを実感させられるセッションでした。
ASCII誌のインタビュー記事で1位にヒットするお2人の記事『超高齢化時代を迎えた介護業界のIT化は「やりがい」がある』も興味深い記事ですので、ご覧ください。
今後、介護×ITをテーマに、介護職やエンジニア向けのイベントを精力的に開催していきたいと話す、竹下氏と飯塚氏に注目をしてきたいと思います。