2008年11月19日(水)から11月21日(金)までの3日間、「 ET2008」( 組込み総合技術展)がパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催されます。今年は出展小間が過去最大規模の956となり、応用テーマ「デジタルコンシューマ」「 オートモーティブ」「 モバイル/ユビキタス」「 FA/ロジティックス」の最新技術などが紹介されています。ここでは、いくつかの出展ブースの見どころを紹介します。
写真1 パシフィコ横浜
モンタビスタ ソフトウェア ジャパン
モンタビスタ ソフトウェア ジャパン のブースでは、MontaVista Linuxがサポートするプロセッサのひとつ、TI OMAP3プロセッサー上で動作するAndroidモバイル・プラットフォームのデモを行なっていました。半年前のESECでは、かなり重い印象だったものから軽快な動作をしているのが印象的です。そして、同社はこれに合わせて、Androidプラットフォーム向け高品質商用Linuxを提供することを発表しました。このことについて、来日していたMontaVistaのマーケティング担当副社長 Joerg Bertholdt氏は「Androidプラットフォームに対応するのは、興味を示すお客様が非常に多いため」と言います。
写真2 Google Androidデモ
また、パートナー企業として同社でプレゼンなどを行う東芝情報システムのエンベデッドシステム・ソリューション事業担当の小柳勉 常務取締役は、提携する理由として「MontaVista Linuxを搭載する製品に同社のソリューションを提供することができる」ことなどを挙げます。やはり、Linuxでも組込み分野では高い品質保証やサポートが必要ということが伺えます。
写真3 Joerg Bertholdt氏(中央)と小柳勉氏(右)
アックス
独自開発の高機能化した組込みLinux「axLinux」を提供するアックス では、これまで電子手帳ザウルスやオリンパス社のデジタルカメラに採用されてきたハイエンドな要求に応える技術を提供してきました。AUTOSARやJasParのメンバーとして車載用OSの標準化にも積極的に取り組んでいるとおり、次世代車載用OSのAUTOSARに準拠した「AXE-AUTOSAR」が大きく展示されていました。また、低消費電力CPUでも高い実時間性能を実現するPOSIX準拠のRTOS「絹」は、NECエレクトロニクス「V850」やARM「Cortex-M3」などに対応し、複数OS APIの同時使用などは開発中ということです。
写真4 アックスの製品ラインナップ
リネオソリューションズ
組込みLinuxのディストリビューションから開発やサポートまで展開するリネオソリューションズ では、組込みLinux高速起動ソリューション「Warp!!」を前面に展示していました。これは2次記憶装置(Flashなど)に確保したハイバネーション領域に、アプリケーションを起動した状態でのシステムメモリおよびハードウェアの状態(レジスタの内容)のスナップショットイメージを保存しておき、電源ON時に保存したスナップショットイメージからシステムメモリを一挙に復元し起動高速化を実現します。一挙にシステムメモリを復元することにより、初期化コードの実行の軽減、メモリアクセスの軽減がされ高速化の可能性が期待できます。また、さまざまなCPUにも対応できるそうです。
写真5 組込みLinux高速起動ソリューション「Warp!!」
TOPPERS
TOPPERSプロジェクト のブースは会員企業と共同で運営されています。同日に「組込みプラットフォームフレームワーク」の構築を発表したヴィッツとキャッツでは、鉄道模型を使ったデモが行われていました。
モデル記述によるソフトウェアのフレームや処理設計を行う「ZIPC Toys!」のデモシステムでは、警報機や信号機、遮断機の制御を簡単に切替えできるしくみが紹介されていました。
写真6 ZIPC Toy!のデモ
また、機能安全対応自動車制御用プラットフォームとして、さらに大きな鉄道模型が置かれています。機能安全について、具体的なモノでの解説はとても理解しやすいです。
写真7 機能安全対応自動車制御用プラットフォームのデモ
日立製作所
日立製作所 では組み込みデータベースのEntier(エンティア)を使ったデモシステムです。Entierはコンパクトで高性能、高機能なリレーショナルデータベースで、柔軟な検索・更新機能で、高度なデータ管理を簡単に実現できます。地図上の位置情報の検索に利用できる「空間検索」 、名称の途中のキーワードでも検索を可能にする「全文検索」が体感できる。また、昨今は低価格向けのカーナビなどの情報を目にしますが、本ブースでも低価格向けとして、ルネサステクノロジ の「SH-NaviJ1」とエイチアイ の「MascotCapsuleUI」とのコラボレーション事例が紹介されていました。
写真8 Entierのコラボレーション事例
日立情報制御ソリューションズ
LSIの論理設計から無線通信までの幅広いソリューションを提供する日立情報制御ソリューションズ では、組込みソフト向けデバッグ・性能解析支援ツールの「SagePro/eDEBUG」を展示していました。これは、OSの視点で収集したトレースデータに基づいて組込みソフト全体の動作を可視化することで、これまでは技術者の経験と勘に頼っていたデバッグや性能解析を支援してくれるツールです。キャッツ の状態遷移表CASEツール「ZIPC」と連携したデモシステムでは、各タスクから状態遷移表レベルの動作を確認し、追跡することができます。
写真9 ZIPCと連携するSagePro/eDEBUG
グレープシステム
組込み開発のトータルソリューションプロバイダのグレープシステム では、無線LANソリューションやワイヤレスUSB関連を展示しています。デジカメやプリンタ、オーディオプレーヤーなど、ワイヤレスUSB(「 UWB」( Ultra Wide Band)と呼ばれる高速無線通信技術)のニーズは今後ますます増えてきます。ルネサステクノロジの「Wireless USB ASSP R8A66580BG(開発中) 」のデモシステムでは、ネイティブデバイスの通常のUSBメモリと同じ大容量記憶デバイスとして動作しています。
写真10 ワイヤレスUSBのデモシステム
ソフィアシステムズ
マイコン開発ツールを提供するソフィアシステム では、TAGケーブルの付け替えとソフトウェアライセンスの追加購入により、ハードウェア資産は共通でさまざまなCPU搭載ターゲットのデバッグ、プログラムデータのフラッシュメモリへの書き込みに流用することができる「EJ-SCATT」を展示しています。EJ-SCATTは、 ハードウェア1台で複数のCPUシリーズをデバッグができ、PC不要のスタンドアロン型フラッシュライター機能があります。実際に手に取ると、小型軽量で携帯に便利なことがわかります。
写真11 EJ-SCATT
イーソル
イーソル のブースです。組込みソフトウェアプラットフォーム「eCROS」は、実績のあるシングルコアでのシステムの信頼性をマルチコアシステムに展開しながらも、逆にマルチコアでの最新技術をシングルコアにフィードバックさせているそうで、採用事例を交えた紹介がされています。なお、昨今は異なるシステムを統合するケースが増えてきており、相互のメモリ破壊を防止するためにシステムレベルで保護する仕組みが必要です。こういったニーズを受けて開発されたシステム保護機能「eT-Kernel Multi-Core Edition Memory Partitioing」などの最新機能なども紹介されています。
写真12 eCROSのデモや採用事例
アドバンスド・データ・コントロールズ
アドバンスド・データ・コントロールズ(ADaC) では、プログラミングからデバッグまで、一連のソフトウェア開発における各作業フェーズを、統一されたGUIで効率よくサポートする統合開発環境「MULTI」が大きく紹介されていました。今年末にはv5.0にバージョンアップされそうです。また、RTOSの「INTEGRITY-178B」が商用OSとして初めてのコモン・クライテリア「EAL6+」( セキュリティでは最高レベル)を取得したことが、緊急発表されていました。
写真13 統合開発環境「MULTI」
アーム
アーム では、ローエンドからハイエンドまで幅広く対応する開発ツールについて聞きました。
「RealViewマイクロコントローラ開発キット」はARM7/9、Cortex-M1/M3を搭載したMCUデバイスに対応する統合開発環境で、ローエンドで低消費電力のシステムに対応されます。
写真14 RealViewマイクロコントローラ開発キットの画面
逆にハイエンドなシステムには、「 RealView Development Suite v4.0 Professional」がさきほどの横並びに展示されています。これは、ARMプロセッサ搭載デバイスの能力を最大限に引き出すツールで、従来のv3.1からRealView Profilerのよりパフォーマンス向上やメモリサイズ低減など多くの変更点があるそうです。Eclipse 3.3のプラグインとして実装され、関数の実行サイクル数や命令レベルのカバレッジ情報の表示など、長時間のプロファイリングが可能になっています。
写真15 RealView Profiler 2.0の画面
東陽テクニカ
東陽テクニカのブース では、ソースコード解析ツールのほかに、ソフトウェアの構造を可視化する「Imagix 4D」が展示されていました。これはリバースエンジニアリングの支援ツールとして位置付けているそうです。複雑なソフトウェアの構造的な問題を見つけることができ、さらに構造図やクロスリファレンス図などさまざまな視点で見ることができます。リバースした構造図の中のシンボルをクリックすることにより、連動したエディタ内のソースコードと関連付けられるので、不具合調査や改造などの生産性を向上できます。さらに個々の関数内におけるコードのフロー(構造やロジック)を可視化し、開発者が容易に理解/把握できるようになります。
写真16 Imagix 4D
アフレル
ロボットキットを活用した教育開発販売と研修サービスを行うアフレル では、これまではレゴマインドスームの「CRX」( 8ビット)を使用していましたが、来年度より新たに「NXT」( 32ビット)を用いた教育カリキュラムを同社オリジナルで開発し、提供するそうです。実際にロボットを活用することで、開発工程全体を体験でき、UMLの表記やモデリング開発を通して、開発成果と研修成果が見える化できるそうです。
写真17 レゴマインドストームNXT
ヴァスダック義塾
技術者支援・教育支援パビリオンでは、「 組込み研修あります」というノボリが目にとまりました。これは、豆蔵 、イーソルエンベックス 、ヴァスダック義塾 が共同で立てていました。その中のヴァスダック義塾は、組込み専門スクールの「技塾 」を立ち上げています。組込み関連技術は多岐に渡るため、法人会員と協力し合う環境を作ることで、この問題点を解消するという新しい構想だそうです。技術者の育成というと、これまでは各社で閉じた世界でしたが、横展開で広がっていくような話を聞くことができました。これには、技術者の求人サイトサービスを提供するソラリック もサポートするようです。
写真18 技術者支援・教育支援パビリオン