昨今の組込み機器は、単なる制御システムではなく、情報端末として位置付けられることが多くなりました。そこで、2日目は企業情報システムに精通したITライターの目から見た「組込み総合技術展」の様子をお届けします(組込みプレス編集部) 。
インテル
インテル のブースでは、組込み機器業界への展開への意気込みを感じさせる多彩で大々的な展示が行われていました。テーマは現代日本人の一日。自宅ではやさしく起こしてくれる生活ロボット、会社への出勤途上に通過する改札口、街なかで見かけるデジタルサイネージ、オフィス内で利用するデジタル複合機。それだけではありません。退社後に楽しむアーケードアミューズメントの世界でも、インテルのチップはさまざまに活用されているようです。なかでもデジタルサイネージでは、ブースで展示するパネルをすべてこの技術で実現。中央サーバから画面を制御したり、中央の大型スクリーンに展示パネルの画面を映したりといったデモが披露されていました。
「組込み機器の領域においても、インテルのテクノロジーがすでにここまで利用されていることを実感いただければ」というメッセージを感じました。
写真1 インテルブース(その1)
写真2 インテルブース(その2)
カスペルスキーラブスジャパン
カスペルスキーといえば、アンチウイルスソフトウェア。今回は組込み機器への具体的な展開事例を打ち出してきました。組込み機器になぜにアンチウイルスが必要なのか? カスペルスキーラブスジャパン 代表取締役の川合林太郎さんに話を聞きました。
最近は組込み機器もネットワーク機能やプログラムアップデートのためのI/O機能を備えるようになっており、そこにUSBメモリなどを通じてウイルス感染する例が増えているのだそうです。そこでディスコの被加工物を切断または切溝を加工する装置であるダイシングソーでは、アンチウイルスのコアになるエンジンとそこに読み込ませる定義ファイルをカスペルスキーラブスジャパンが提供、ディスコ側がウイルスが侵入するとただちに検知して警告を発したり、隔離や駆除を実行する機能をカスタマイズで付加しました。ネットワークに接続されていない組込み機器では、定義ファイルの更新が課題になりそうですが、そこは定期的に保守点検するフィールドエンジニアが担当するなど、組込み機器業界向けの運用ノウハウも徐々に蓄積されているようです。
写真3 カスペルスキーラブスジャパン代表取締役の川合林太郎さん(奥)と筆者(手前)
NECグループ/NECエレクトロニクス
NECグループ およびNECエレクトロニクス では、低消費電力All Flashマイコンの最新ラインアップや新統合開発環境「CubeSuite(キューブスイート) 」など多彩なソリューションが紹介されていました。なかでも個人的におもしろいなと思ったのは、エリアを限定した「ワンセグ送信ソリューション」です。これはNECソフト、NECエレクトロニクス、シマフジ電機 などが共同で開発したOFDM変調モジュールで実現したもの。「 世の中にワンセグ受信機がたくさん出てくる時代になったのだから、ワンセグ送信機があってもいいじゃないかと思って開発した」とNECエレクトロニクスの根木勝彦さんは語りました。
写真4 エリアを限定したワンセグ送信ソリューション
会場には微弱な電波を発する小さなパネルが何枚か用意されており、動物園の入口という設定で、入園券を購入したり、園内の動物園情報やスタンプラリーの案内を携帯電話で受信したりするデモや、警備員さん向けに警備のチェックポイント通過管理をするデモが行われていました。あるいは企業内に設置して、その前を通過すると携帯電話で業務連絡のための電子メールを受け取るといったことも可能なようです。特定エリア向けの情報発信ポータルという発想がユニークでした。
QNXソフトウエアシステムズ
QNXソフトウエアシステムズ は、今月の3日に発表した最新版のバージョン6.4.0の展示のほかに、QNXミドルウェアのデモを通してリアルタイム性と信頼性を両立さえるQNXの技術を紹介していました。QNXデジタル計器クラスタのデモでは、スピードメーターやタコメーターなどの情報をナビゲーションディスプレイやバック用カメラ、車線逸脱警告、携帯電話などのデジタルコンテンツと統合する技術です。なお、同社では最終日(21日)にオープンプレゼンテーションとして、15時から「QNXコア技術:複雑なシステムをベースから支えるマイクロカーネル」 、16時から「自動車向けQNX OSおよびミドルウエアの概要」が予定されています。
写真5 QNXデジタル計器クラスタのデモ(右)
富士通ソフトウェアテクノロジーズ
組込みLinuxや組込み開発支援ソリューションで定評のある富士通ソフトウェアテクノロジーズ ですが、今回目をひいたのは、既存の商用アプリケーションを、Androidの利用により拡張可能というソリューションです。具体的にはAndroid応用例として紹介されていたのですが、すでにLinux上で稼働している1枚の静止画から動画像を生成するというモーションポートレートのMotion Portraitを、通常ならLinuxとAndroidの間で発生してしまう入力処理や描画処理の競合を、調停しながらスムーズに動かすというデモが披露されていました。
写真6 車載向けAndroidのデモ
富士通ソフトウェアテクノロジーズの山本英雄さんからは、「 われわれはAndroidを競合としてみるのではなく可能性を広げる選択肢として考えています。既存のアプリケーションにAndroidのメニューやネットワーク機能だけ使いたいというようなときに便利にお使いいただけます」というコメントが得られました。
横河ディジタルコンピュータ
横河ディジタルコンピュータ は、今回の展示会のタイミングで3件のプレスリリースを発表しました。その中の1つとして披露されていたのが、LCD 一体型組込み機器向けプラットフォーム「Armadillo―500 FX液晶モデル」をベースにしたWindows Embedded CE 6.0デベロッパーズキット「WA5501FX-D00Z-60」です。これは「Armadillo―500 FX 液晶モデル 開発セット」と「専用BSP(Board Support Package) 」と「Windows Embedded CE 6.0評価版」と「ユーザサポート」がすべてセットになった製品およびサービス。オプションでアットマークテクノ製の無線LANカードも提供されます。今回の会場でも、Armadilloは至るところで見られる人気端末。『 「 WA5501FX-D00Z-60」を利用することにより、この端末を活用した組込み製品や試作機の開発を迅速かつ容易に行えるようになります』と、横河ディジタルコンピュータの北村晃さんは説明してくれました。実際、タッチスクリーンで画面を切り替えたり、地図を動かしたりするデモも紹介。iPhoneライクな画面操作はもはや組込み機器でも主流になっていくのかもしれません。
写真7 「 Armadillo―500 FX液晶モデル」をベースにしたWindows Embedded CE 6.0デベロッパーズキット
コア
電子機器への組込みソフトウェア開発事業を幅広く展開するコア は、今回NECエレクロトニクスのARM9向け開発キットT-Kernel SDK for ARM9(MP201)をはじめ、T-Engineソリューションを幅広く展示。開発コスト削減に寄与できる選択肢として来場者に訴求していました。それとは別にUIツール開発に一石を投じる製品として、コアの大地秀二さんが紹介してくれたのが、オーストラリアのFLUFFY SPIDER TECHNOLOGIES社のFANCYPANTS。“ 次世代組込みグラフィックス” と銘打たれた視覚効果ライブラリです。「 最近はUIをきれいに見せたいというニーズが増えていますが、しかし、3D表示にしたり動画的に見せようとすると、それ相応のハードウェアリソースが要求されます。そこまでコストはかけられないというときにFANCYPANTSが役に立ちます」( 大地さん) 。
写真8 次世代組込みグラフィックス「FancyPants 2.0」
デモで携帯電話大のパネルでさくさく動いていたiPhoneライクなUIアプリケーション。バックエンドのCPUはSHレベルでクロック数は266メガヘルツだといいます。ふつうならFlashは動かず2Dの画面表示が精一杯なのに、リッチコンテンツを難なく実現しているのが印象的でした。
日本テキサス・インスツルメンツ
日本テキサス・インスツルメンツ のブースでは、ARM Cortex OMAP35x汎用アプリケーション・プロセッサ活用によるパートナーソリューション例をいくつか見ました。
ネットディメンジョン は、3D描画「Shdaer」に対応するマルチメディア・オーサリングツール「MatrixEngineSDK」を展示。これによって、従来は高い技術力が求められたShader対応アプリケーション開発の敷居が下がるそうで、プログラマーのみならずデザイナーがコンテンツを開発できる時代を実現するといいます。携帯コンテンツの一例としてデモされていたドラゴンのバックエンドで炎のようにゆらめくShaderは、とてもきれいでした。
写真9 マルチメディア・オーサリングツール「MatrixEngineSDK」のデモ
ARM Cortex OMAP35x汎用アプリケーション・プロセッサでは、画像コーデック処理ソリューションも記憶に残りました。PDA端末を想定した機器にピクサー社の映画コンテンツを走らせていたのですが、これも非常に高精細。このデモではOMAP3530プロセッサを利用しているそうで、日本テキサス・インスツルメンツの担当者さんは、「 CPUのみでも高機能を発揮するんですが、これはビデオアクセラレータや2D/3Dグラフィックス機能も同時に搭載しているため、ここまでできるんです」と胸をはっていました。
アクセル
グラフィックLSIやサウンドLSIなどの開発に特化したファブレス半導体メーカーのアクセル では、現在開発中のPCI Express対応グラフィックスLSI「AG10」のFPGAボードを用いた独立3画面出力のデモシステムを展示していました。これは、POSシステムやATM、計測機器などで高解像度な描画パフォーマンスを発揮し、システムコストの低減と低消費電力をできます。このようなデモを見ると、今後の組込み機器のディスプレイは利用者にとってもより見やすく、使いやすいものになっていくのでしょう。
写真10 グラフィックスLSI「AG10」を用いた独立3画面出力のデモ
日本アルテラ
PLD(プログラマブル・ロジック・デバイス)を提供する日本アルテラ では、システムに必要な周辺機能だけを実装可能な32ビットRISCプロセッサ「Nios II」で実現する柔軟な組込みシステムが紹介されていました。9つのソリューションでは、エコシステムや必要な機能ブロックを1セットにしたもの、プロセッサ内蔵FPGAで実現するタッチパネルによるラダー制御などの産業機器、消費電力やパッケージサイズの要求に対応するCPLD MAXIIZのなど実機で紹介されていました。このほかにも、FPGA初心者を対象にした基礎情報なども紹介されていました。
写真11 Nios IIプロセッサで実現する組込みシステムのデモ