ET2009(組込み総合技術展)レポート

ET2009(3)__モンタビスタの通信事業向け高信頼性Linux―MontaVista CGE 5.1 オープンソースソフトウェアでキャリアグレード製品を提供

モンタビスタは、オープンソースのLinuxを組込み機器のプラットフォームとした製品やソリューションを展開するトップベンダだが、2009年10月末に、通信機器に特化した組込みLinuxであるMontaVista Carrier Grade Edtion 5.1(CGE 5.1)をリリースしている。その製品概要や特徴について、MontaVista SoftwareのMarketing DirectorであるDean Misenhimer氏にお話をうかがった。

Dean Misenhimer氏
MontaVista Software Marketing Director, Dean Misenhimer氏

――まず、キャリアグレードということで、CGE 5.1の特徴や現状についてお聞かせいただけますか。

Misenhimer:
MontaVista CGE 5.1は、キャリアグレードという名前が示すとおり、通信事業者やサービスプロバイダが使用する高性能で高信頼性が要求される通信機器のための組込みOSとして開発されたものです。NEC、シスコシステムズ、ノキア、アルカテル・ルーセントなど、世界中に展開する通信機器ベンダ7社に採用される実績も持っています。その信頼性は、99.9999%、いわゆるシックスナインズの領域での稼働実績が物語っています。これは、故障時間にして1年あたり31秒以下という数値になります。

ご存じのように、電話会社やサービスプロバイダは非常に高い信頼性、高い帯域速度、高い稼働率が要求されます。使用する機器もそれに応えなければなりません。MontaVistaのCGEはそのようなクリティカルな市場で実績を積んできました。

――旧バージョンである5.0との主な違いはなんですか。

Misenhimer:
いくつかありますが、NGNといわれる次世代ネットワーク技術であるLTE、4G、WiMAXといった最新の通信規格に対応するプロトコルを実装したことでしょう。NGNの鍵交換技術の実装としてIKEv2に対応しました。実装は、LinuxでのIKEv2プロジェクトであるStrongSwanをベースにしています。もうひとつは、20~50万人といったユーザーの接続を処理する基地局のフェイルオーバーに欠かせないSCTP(Stream Control Transmission Protocol)にも対応しました。SCTPは、ルータなどのネットワーク機器のフェイルオーバー機能とマルチホーミングを可能にするプロトコルです。

――NGNといった場合、日本ではNTTが進める光ファイバによるインターネットアクセス回線の計画が進んでいます。CGE 5.1は日本のNGNにどのように対応していきますか。

Misenhimer:
CGEはさまざまな通信機器に応用可能で、バージョン5.1もLTEやWiMAXなど通信方式を問わず対応します。通信メディアも無線から光ファイバ、同軸などもカバーしています。おそらくNTTのNGNとはサービスレイヤが異なる部分の話になるかと思います。アクセス回線や接続回線がどのような構成やリンク層になっていても、CGE5.1によってNTTのNGN回線にも適用できる機器は開発できるでしょう。

――プロトコルより上の層で動作するOSなので特定キャリアの方式にはとらわれないということですね。他にもCGE 5.1の追加機能はありますか。

Misenhimer:
5.1では、サーバなどへの複数の接続を仮想的に分離させるVRF(Virtual Routing and Forwarding)を実装しました。VRFを実装したLinuxはCGE 5.1が最初のはずです。サーバが1台でも、仮想的に独立した接続を複数提供できるようになると、サーバの管理コストやデータセンターなどのクラウドニーズにも対応できるでしょう。

また、OpenSAFを実装したLinuxもCGE 5.1が最初です。OpenSAFは、ライセンス保護された高可用性(HA)ミドルウェアにとってかわるオープンソースソフトウェアによる実装です。これもCGE 5.1に対応することで、ライセンス保護されたプロプライエタリなソフトウェアや製品で構成していたネットワーク機器を、オープンソース製品にリプレースすることが容易になります。従来は、OSだけLinuxにしても、プロバイダのサーバのように負荷分散やフォールトトレラント機能を実現するHAミドルウェアがオープンソースソフトウェアでないため、コストの問題やポーティングの問題が移行のハードルになることがありました。CGE 5.1にオープンソース版のHAミドルウェアが提供できるということは、市場での意義は高いと思います。

最後に、分散ストレージ環境を提供するDRBDのサポートです。これはネットワーク越しにRAID環境を構築するようなソフトウェアです。DRBD自体は5.0でもサポートされていましたが、5.1ではDRBDが最新のものにアップブレードされています。

――OSだけでなくアプリケーションプロトコルからミドルウェアまでオープンソースソフトウェアで構成して、キャリアグレード品質を維持できるという実証事例ですね。

Misenhimer:
はい。さらに、すべてのLinuxの実装の中で、CGL4.0、LSB3.0、IPv6 Readyの3つを承認されたのもCGE 5.1だけです。CGLとLSBはLinux Foundationが認定するキャリアグレードLinuxの認証とLinux標準の認証です。IPv6 ReadyはUSAGIプロジェクトのロゴ認定プログラムです。また、開発環境もEclipseのプラグインなど強力なソリューションを用意しています。

――最後に、11月12日に発表したCavium Networksによる買収についてお話いただけますか。

Misenhimer:
今回の買収によって、両社の社名、ブランド、本社所在地などにまったく変更はありません。それぞれが、これまでどおりお互いの事業を継続します。ただし、MontaVistaの株は、100%をCaviumが所有します。したがって、MontaVistaはCaviumの連結対象の子会社ということになります。

Caviumは組込みLinuxの市場に対して高い成長を見込んでおり、収益の高いソフトウェアビジネスに期待しています。したがって、今後もさまざまなベンダのデバイス、CPUのサポートや製品開発は続けられるでしょう。もちろんOCTEON、PureVuといったCaviumのプロセッサのサポートも続きますし、ECONAへの対応も進めています。

――今回の買収によって、新しい製品やソリューションの開発プランはありますか。

Misenhimer:
特定のプランは現時点ではありません。買収も12月までは確定したとはいえない状態です。ただし、MontaVistaでは四半期ごとに製品のアップブレードを行っています。そのときの最新技術や改良点などを随時取り込んでいます。これは、Caviumの買収後も継続されます。現在、われわれは非常にエキサイティングしています。

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