引き続き、12月4日に開催された、FITC Tokyo 2010 のレポートをお届けする。
Andre Michelle氏「拍動性クラックル」
Andre Michelle(アンドレ・ミシェル)氏は、ドイツのコロンで活動しており、3年前からaudiotool.com の開発を続けてきた。audiotool.comは、エフェクターやシンセサイザーなどををリアルに組み合わせ、実際の制作に非常に近い形で楽曲を生み出せる。日本でも話題になったことは記憶に新しい。
写真1 Andre Michelle氏
はじめに音の合成の基礎を解説した。音を数値化してビジュアライズすることが基本となる。オシロスコープを想像するといいだろう。音は様々な波形をもち、その中でもサイン波(正弦波)は有名であるが、氏はサイン波に関して"音の原子"だと述べていた。サイン波を数値化しアウトプットしたときの音は、ほかの倍音がない状態なのである。我々が本来聴いてる音で例えばピアノのように聴きなれた音でも、人間には認知できないだけで実際には複数の倍音によって成り立っているのだ。サイン波をアウトプットしたときの音は倍音がそれのみの純粋な状態であり、つまり原子なのである。
他にもビジュアライズされた音として、三角波やノコギリ波、矩形波、ノイズを紹介。ノイズとは"想像しうる周波数がすべて入っている状態"であるという。
写真2 音のビジュアライズ化
こうした音の波形を、フィルタリングすることで様々な形に変えることもできる。ローパスフィルターは、鋭角な音波すなわち高周波をスムーズにする場合に用いられる。逆に低周波を減衰させることをハイパスフィルターを用いるという。
デジタルサウンドは、なにもいかにもな電子音だけではない。KARPLUS-STRONGアルゴリアズムを応用することで、弦楽器の音色もシュミレートすることができる。現実のギターではできないことでも可能になるとして、実際にサンプルを紹介。氏は、こうした音のマニピュレーションはディレイ(音の反響)が基本となっており、ディレイを理解すればフランジャー、エコー、リバーブなど多くのエフェクトを自在にできる説明した。
写真3 ディレイを使ったマニピュレーション
音の合成のアルゴリアズムとしてFFT(フーリエ変換)を利用したサンプルを紹介。「 あらゆるサイン波は一つのサイン波に再構成することができる」と語る。波形を合成することでシームレスな音の合成が可能になり、よりイキイキとした音色になるという。
写真4 FFTを利用した音の合成
また、氏は物理学と音の関係と連携についてFlashを用いて10年間研究を続けてきたことを踏まえ、「 一般の人が特に勉強しなくても、音のプロのようになれるのは素晴らしいことだと感じている」と述べ、日々10年間制作してきた作品の一部を紹介。
紹介されたサンプルではオブジェクトがぶつかると音を奏でるシンプルなものから、ユーザーが実際に触れるものまでさまざまだ。特に、物理エンジンを利用した表現に熱心な氏は、物理法則とランダム性から生まれる音のパターンとリピートを突き詰めたいとしている。
写真5 物理エンジンを利用して音を出すサンプル
そんな氏が3年にわたり開発を続けているaudiotool.com。本イベント開催の3日前にはなんとこのサービスで作られた楽曲のアルバムが発売されたということなので、ぜひ視聴してみてはいかがだろうか。
Tom Higgins氏「Unity入門 − ハイクオリティ・インタラクティブ・3Dコンテンツ」
今、3D市場で最も注目されているUnity。"ゲーム開発の民主化"と"あらゆる人に、誰でもゲームが作れる力を"といったコンセプトを掲げるこの強力なアプリケーションは、他の3D開発環境とは異彩を放つものだ。UnityのエバンジェリストであるTom Higgins(トム・ヒギンズ)氏がその魅力を伝えた。
写真6 Tom Higgins氏
Unityは、簡単にいえばリッチ3Dコンテンツのマルチプラットフォーム化を実現する開発環境である。元来3Dコンテンツ・ゲームというものは、PCネイティブ、PCWEB、コンシューマゲーム、モバイルなど様々な環境が存在し、それぞれまったく別の開発手法を採用するしかなかった。それが、Unityを利用することですべてを集約できるのだ。また非常に直感的かつシンプルであり、スクリプト言語としてC#、JavaScriptをサポート。Unityの成功事例として、22歳のプログラム未経験の学生が卒業後12週で開発した、mikamobileを紹介。Andoroidマーケットで上位ランキングを獲得しているという。また、ElectoronicArtsが開発したゴルフゲームTigerWoodsPGATourOnlineなども、Unitiyを採用しており、コンシューマゲームではWii、PlayStation3、XBOX360も対応。6〜7タイトルでUnityを採用しているそうだ。
WEBに関してはプラグインによって動作。マルチプラットフォームかつすべてのブラウザで対応しているが、インストールはもちろん必要。延べダウンロード数は3,500万で、毎月2〜2.5万人のインストダウンロードしているという。
実際にUnityWebPlayerのデモが行われ、上述のTigerWoodsPGATourOnlineのほか、raptor-safari(恐竜狩カーアトラクションゲーム)などを紹介。raptor-safariはサファリを舞台にを車に乗って縦横無尽に駆け巡りラプター(恐竜)を轢き殺して狩るという少々残酷なもので、あまりのシュールさに会場は大きな笑いに包まれた。
写真7 ElectoronicArtsが制作したTigerWoodsPGATourOnline
写真8 raptor-safariでは、車の後ろにラプターを引っ掛けるフックがついている
写真9 2Dゲーム制作用途としてUnityが使用されている例として挙げたPaper Moon
気になるのはライセンスとコスト。ライセンスは一人ーライセンス原則で、マシン2台までプラットフォームを問わずにインストール可能。プランはベーシックとプロ、どちらかを選択することになる。ベーシックは無償で非営利・商用・教育用問わず利用可能だが、前年度の売上が10万ドルを超えた場合は、ベーシックライセンスは使用できず、プロライセンスを使用しなければならない。なお、プロライセンスは136,000円。とはいえ、8〜9割の機能はベーシックに入っているという。
注意としては、これは基本プランということ。これに加えてモバイルとコンシューマでは別の拡張プランが必要だ。モバイルでは、Unity iOSが36,500円、プロライセンスは13,6000円。iOSバージョンはMacOSXが必須となる。Androidでは現在プロライセンスしか存在せず、136,000円となっている。コンシューマのプラットフォームでは、コンソールごとにライセンスが異なり、基本プランのProライセンスが必須となる。価格に関しては会社の規模によっても変動するため確認が必要ということだ。
写真10 iPhoneやAndroid向けの追加ライセンスがある
将来的には、iPhone、Androidアプリのための実機によるデバッグ用アプリUnityRemoteを公開するという。Androidは未対応だが現在iPhoneベータ版をテスト公開中している。また、最新バージョンについては来年3月までにはなにか発表できるだろうとコメントしている。
全体的にセールスセッションといった感じで、技術的な内容にはあまり触れられなかった。Unityは3Dコンテンツにおけるマルチプラットフォーム化の有力馬であり、非常に魅力的なプロダクトなだけに少々残念だった。とはいえ、今後本格的に3D化していくFlashPlayer・AIRとどういった勢力関係になるのか。注目しておきたいところである。