国内外のIT業界の経営者、経営幹部が500名集まった招待制イベント、Infinity Ventures Summit 2010 Fall Kyoto(IVS)。初日の後半では、CFOが支えてきたベンチャー企業の成長や、世界を視野に入れた成長について熱い意見が交わされた。
CFOの役割はブレーキを掛けることではなくアクセルを踏めるようにすること
「ビックベンチャーを目指せ!―CFOトーク」では、グリーの成長を資金調達の面から支えてきた青柳直樹氏から興味深いエピソードがいくつも紹介された。青柳氏はSNSとして競合であるmixiに当時20倍の会員数の差がつけられているタイミングでグリーに入社。上場をすることを将来の目標にしていた同社だったが、そのためには売上の拡大が必須と考え、青柳氏はKDDIから4億円の資金提供を獲得し、KDDIとの共同事業にこぎつける。
しかし、そこで資金調達した4億円が2億円を切り、さらに追加で資金が入ってこなければ1年後に資金がそこをついてしまうというタイミングで数千万円をかけて開発された「釣りスタ」がリリースされ、グリーの大躍進が始まる。
釣りスタで利益もでてきて、上場前に5億円のキャッシュが集まったところで今度はグリーは3億円を使ってTVCMをうつ。たとえうまくいかなくても会社がまわることを確認した上で、勝負に出たという。
釣りスタのリリース時、そして上場前にTVCMをうったときに勝負に出たグリーだが青柳氏は「CFOの役割はブレーキを掛けることではなくアクセルを踏めるようにすること」と話し、ベンチャーとして勝負に出れるようにリスクをコントロールしていくことの重要性を語った。
世界を変えるベンチャーになるには?
IVSの初日の最後は、パネリストとしてグリーの田中良和氏、元NTTドコモの夏野剛氏、KDDIの髙橋誠氏、GMOインターネットの熊谷正寿氏が登場し、「世界を変えるアントレプレナーシップ」をテーマに熱いメッセージが飛び交った。
ベンチャーの社長は自分よりも優秀な人を自分よりも高給で雇うべき
「もしも自分がドコモの社長だったら、すべての端末をAndroidベースで作り直す」と大胆な発言でスマートフォンのコンテンツビジネスをどう構築していくべきかを語る夏野氏。
その夏野氏からは日本のベンチャーが持つ問題として「ひとつは資金。この国の中だけでビジネスをやっていても長期的には生き残れない。グローバルというマーケットを考えざるをえないがインターネットの事業を理解できる投資家が日本には少ない。もうひとつは人の問題。0からスタートアップを立ち上げるのと、立ち上げたものを大きくするのは違う才能だが、人材の流動性が少ない」と話し、ベンチャー起業では社長が「自分よりも優秀な人を自分よりも高給で雇うべきだ。」と会場に集まった経営者に伝えた。
またベンチャーとって「一番大切なことはビジョン。何がビジョンなのか。お金などを考えるのではなく、ビジョンを考えるベンチャー経営者が素晴らしい」と語り、尊敬する社長としてこのようなビジョンを持つ2割の経営者であると語った。
5年後にはガラケーがなくなり、自分たちのビジネスはなくなっている
グリーの田中氏は「5年後にはガラケーがなくなる。(そうすると)自分たちのビジネスは5年後にはなくなるよ」と社内で話しているという。インターネット業界の激しい市場の変化と慢心することなく危機意識を持ち続けていることが窺える発言だ。「FacebookとかOSとかわけわかんない部分で融合が始まっていたりする。5年後には終わっているなーと言われたり、逆に逆転していたりする世界。」と業界の競争の厳しさについて語った。
また、世界でどのように戦っていくのかを問われると、世界向けにサービスを出す上で小さな国ごとの市場にカスタマイズを細かく行っていくことは難しいこと、その上で市場をどのように分けてサービスを作り込み競合に対してどのように優位性をつくっていくのかが難しいと話し、「世界にただ出すだけならどこでもできる。世界で勝っていく、成長していくことは別。そのためにはあきらめずに成功するまでやりきること」とその難しさを述べた。
さらに、田中氏が尊敬する社長としてソフトバンクの孫社長と楽天の三木谷社長の名前を挙げ、「『これからは口だけではなく、何か事実を成し遂げて、その既成事実を人に見せつけて変えていかなけれないけないんだ』と三木谷さんが社員6名で既成事実のないころに言っていて、その時はこの人は何を言っているんだろう?と思った」というエピソードを紹介し、実際に世界に通用する会社を実例で示していくことが大事であるとの抱負を語った。
世界各国で乱立していくAndroidアプリマーケット
独自のAndroidアプリのマーケットプレイスに力を入れているGMO熊谷氏も、グリーの田中氏があえて極端にいうようにガラケーのビジネスはすぐにはなくならないが、「数年後にはAndroidが4、iPhoneが3、ガラケーが2くらいの割合のマーケットになっているのではないか?」という。そしてそのAndroidアプリを配信するマーケットは世界中で乱立していくだろうと見ているという。そのためにはアプリ提供者側は可能な限り、全部に出していくべきだと話す。
一方でAndroidアプリを海外のマーケットに出していくときの問題として、「たとえば 中国のAndroidアプリのマーケットにアプリを出すとDRMがないので、24時間後に、人気AndroidアプリというCD-ROMに入れられて売られてしまうことがある」と語り、 同社が展開するDRM付のマーケットの優位性をアピールした。
その熊谷氏が尊敬する社長はグリーの田中氏であると述べ、「5年後のことなんか誰もわからない、ではなく5年後の世界をこの会場にいる皆でつくっていかなければない」と締めくくった。
Infinity Ventures Summitを通じて感じられたのが、業界動向の変化の大きさ、そして訪れつつあるAndroid端末などを含めたスマートフォン市場の隆盛に各社が備え始めているということだ。一方でスマートフォン市場の出現は、ガラケーという世界的に特殊な状況で成長してきた日本の各社を否応なくグローバルでの競争に巻き込むことにもなる。そうした状況の厳しさとそこで成長していくための決意が会場の各所から感じ取られることができたイベントとなった。