1日目の最後に、(株)パソナテック代表取締役社長 森本宏一氏、(株)ゼロスタートコミュニケーションズ代表取締役社長 山崎徳之氏、リナックスアカデミー学校長 濱野賢一朗氏によるパネルディスカッションが行われました。モデレータを務めたのは、技術評論社クロスメディア事業部の馮富久。IT業界の今、そしてエンジニアの未来まで多岐にわたる内容で展開されました。
PART 1:IT業界の今、ITエンジニアの仕事環境、ワークスタイル
広い意味を持つ“IT業界”
まず、お三方それぞれの自己紹介の後、IT業界の今というテーマからスタートしました。ここで、IT業界という非常に幅広い業界に対して、「たとえば、ITと一括りにしてもソフトウェア開発やネットワークシステム、SIのような受託開発、Webサービス事業、さらにはモバイルや組込み機器まで、非常に幅広い製品やサービスが対象になります。こういった前提において、私を含め濱野さん、またモデレータである馮さんは、とくにソフトウェア開発やWebサービスといったところに対してのコミットや経験が豊富です。そのため、今回の座談会では、ソフトウェア/Webサービス、いわゆる“デジタル情報”をおもに扱っていくという意味合いでのIT業界を前提に話を進めさせてください」と山崎氏による事前説明が行われました。
これは、IT業界を語るうえで非常に重要なポイントで、IT業界というテーマで討論をしたり、打ち合わせをする際、その人が対象としている顧客、関係者、また実際の製作物が何になるのか、これをきちんと摺り合わせておかないと会話にすれ違いが生じてしまいます。その点で、まず、IT業界という枠の中で、エンジニアはどのポジションにいるのか、どういった目的(ゴール)を持っているのかを考えるべきという、基本的かつ重要な前提条件を考えさせるコメントからスタートしました。
一方で、森本社長の立場からは「私どもの会社では、ソフトウェア開発やWebサービス事業者だけではなく、先におっしゃったモバイルや組込みエンジニア、各種ハードウェアエンジニアなど、いわゆるIT全般のエンジニアの方を対象としたサービスを提供しています。その中でも、デジタル情報の位置付けは高まってきており、今後ますます重要になっていくと感じています」と、全体を見ているポジションからの、ソフトウェア開発・Webサービス事業に対するコメントがありました。
ITエンジニアの仕事環境
続いて、パソナテックが調査した「ITエンジニアの意識調査2008」の調査結果を引用しながら、ITエンジニアの仕事環境、ITエンジニアのワークスタイルについて話が展開されました。
まず、以下のように、現在ITエンジニアは「全体的にやや不満。」という結果が現れています。
この結果を見る限り、多くのエンジニアは福利厚生や日常生活との関係についてはほぼ満足している一方で、仕事内容や仕事の進め方など、実際の業務に関わる部分について不満を抱えていることが読み取れます。
「おそらく仕事としてエンジニアをしていると割り切っている方は、今回のパネルディスカッションのテーマである“モチベーション・ポイント”について考える必要はなくて、エンジニアをしたい、エンジニアで活躍したいと考えているエンジニアを対象にすることが重要だと感じています。このアンケート結果で不満を持っている層というのがまさに今回のパネルディスカッションで対象にしたい人たちではないでしょうか」と、山崎氏が述べ、それに対し「私どもパソナテックとしても、まだまだ適正な場所で働けていないエンジニアに対して、モチベーションを持てる環境を提供すること、そして、それによって裾野を広げていくことが、私たちの使命だと感じています」と森本氏はコメントした。
また、濱野氏は「最近のエンジニアを目指す若手で感じるのが「ITが好き、エンジニアリングが好き」と言える人が減っていることです。そういう点で、好きとか興味があるといった部分を、企業側が拾い上げることによって、業界全体の活性化、さらに改善にもつながると思います」と、教育という立場にいる方ならではの意見が出ました。
ITエンジニアのワークスタイル
続いて、ITエンジニアのワークスタイルという観点から話が展開しました。現在のエンジニアの働き方は非常にさまざまである一方で、IT業界は、比較的働きやすい面があるというコメントが出ました。「おそらく他の業界、たとえば建設業と比較して、IT業界は歴史が浅い分、しきたりのようなものが少なく、自分たちの感覚に合わせて働きやすい環境が多いと思います」と濱野氏は述べました。実際、IT業界を見渡したときに、とくにベンチャー企業と呼ばれる企業では、エンジニアの働く時間帯に合わせて勤務体系がとられたり、服装などの面でもそれほど規制されない状況が増えています。
また、一方で「企業側(経営側)としては、エンジニアが考えるアイデアや成果物をどのように利益につなげるか、それをきちんと考えずに進めてしまうと、経営悪化など悪い結果が出てしまったときに企業もエンジニアも不幸になります。その点で、見積もり感覚や金銭感覚というのを摺り合わせておくことが大事ですね」と山崎氏はコメントしました。
森本氏は「ITエンジニアの理想的なワークスタイルを実現するためには、企業側がきちんとした評価軸、標準化した体系が必要だと感じています。現在は、まだこの部分が整備し切れていないので、企業側の取り組みとしては、その点への注力も必要ですね」と、雇用側の立場でのコメントをしました。
PART 2:ITエンジニアの教育、そして未来
15分の休憩をはさんだ後、後半がスタートしました。後半は前半で討論された内容を元に、フリーディスカッションの形で、おのおのが感じること、またそれに対するコメントや意見をぶつけ合うスタイルで進みました。
まず、最初に、前半の最後に取り上げられたワークスタイルという展開から、では、実際にITエンジニアを教育することについてどう思うか、とういことについて、Linuxアカデミー学校長の立場から、濱野氏がコメントしました。
「私たちのようなスクールでは、どうやって教育するかというのが本当に大切だと感じています。たとえば、パソナテックさんに登録したスタッフの教育1つとっても、即戦力として働けるようにするにはどうすればいいか、具体的なスキルセットはどうするのか、など非常に悩ましいところです。IT業界のように、覚えるべき内容が日々更新される場合、一過性の技術ではなく、普遍的に活かせるものを教えていくことが重要だと感じています」。
これに対し、山崎氏は「実は、企業から見て仕事ができるエンジニアというのは、スキルを持っていることよりも“責任感”を持っていることなのではないかと思っています。つまり、自分が与えられた場面・与えられた課題に対して、解決することを最優先に考えられること。たまに勘違いしてしまうエンジニアを見かけるのですが、スキル優先で考えてしまって、技術ドリブンで物事を解決しようとしてしまう人がいるのです。その結果、効率が悪くなったり、利益面で損失することが起こりえます。これは企業側から見ればこれはメリットどころか、デメリットでもあるわけです。
なので、スクール側で教育するというよりも、どうやって仕事をするべきか、また、その学び方について教えることも大事なのではないかと考えています」と意見を述べました。
「さらに言えば、本当の意味でエンジニアとして成長していくのであれば、一度営業職のように、対クライアント、対ビジネスというポジションを経験することが重要ではないかと感じています。これによって、技術のみではなく、広い視野で物事見て判断できるようになるからです」と述べました。
濱野氏も「おっしゃるとおり、企業という利益追求体において、経営側とエンジニア側が同じゴール(企業の利益)を目指せるようになることが大事です。そうなるためには、お互いがパートナーであるという認識を持てる環境作りをしていくことが1つのカギになりそうですね。スクール側でも、それを意識した教育モデルというのを考えていく必要があると思います」と返し、これからのIT業界の目指すべき姿についてまとめました。
日本にエンジニアが集まる未来に
最後に、本カンファレンスの主催の代表でもある森本氏が「現在、エンジニアのあこがれとして“シリコンバレーで働くこと”という声をよく聞きます。これはまさに本音である一方で、私たち企業側、経営側の人間からすれば、自分たちに対しての意見とも取れるわけです。ぜひ3年後、5年後を見たときに、シリコンバレーではなく、日本で働きたい、日本のあの企業で活躍したい、と多くのエンジニアに期待される、そういう環境作りを目指していきたいです。そのためにも、経営側とエンジニア側の理想的なパートナー作りを実現するお手伝いをできればと思っています」とコメントし、パネルディスカッションの締めの言葉としました。