2010年10月26日(米国時間)、サンフランシスコにて決済サービスPayPalの開発者向けイベント「PayPal X Developer Conference Innovate 2010」が開幕した。
イベント会場となったのは、サンフランシスコ市街地にあるMoscone West。AppleのWWDCをはじめ、さまざまな開発者向けイベントが開催されている。
急激に伸びているPayPal利用者・利用率
キーノート開幕にあたり、PayPal PayPal Senior Director of Developer NetworkのNaveed Anwar氏から「Don't be shy」のメッセージとともに、カンファレンスでのたくさんの交流を期待するコメントが述べられた。
続いて、PayPal President、Scott Thompson氏が登壇し、まずPayPalの昨年からの成長について数字とともに紹介した。
PayPalは昨年と比較して、
- 5万人の新しい開発者
- 129ヵ国での利用
- 1,000を超える新しいPayPalアプリケーション
- 10億ドルの支払い(決済)額
- 1億2,000ドルのVCからの資金調達
という実績が上がっているそうだ。
そして、これからの展望を述べながら「これから発表される新しい機能やサービス、そして今回のイベントをきっかけに、PayPalがさらに発展していくことを期待している」と、コメントし、オープンニングの挨拶を述べた。
決済サービスのキーワードは「モバイル」「ソーシャル」「ローカル」
再びMCのNaveed氏が登壇し、これからの決済システムのポイントとして、
の3つのキーワードを挙げた。つまり、モバイルで利用できること、ソーシャルネットワークを活用できること、そして、各国の地域で利用したうえで国を越えて横断的に連携が取れることが、オンラインでの決済に求められる要素というわけだ。
Payment Solution for Digital Goods
その上で、まず、PayPalの新機能として「Payment Solution for Digital Goods」が発表された。Payment Solution for Digital Goodsの特徴は、
- 2クリックでの決済
- 簡易な管理とコスト効果
- 世界レベルでの詐欺防止
といったことが特徴となっている。
現在、PayPalのサイトから試せるようになっている。
とてもホットなマイクロペイメント
コンテンツを売るということ
続いて、Payment Solution for Digital Goodsを利用している各種サービス・サイトの関係者が登壇した。
- Ooyala
最初に登場したのは、オンラインビデオプラットフォームベンダの「Ooyala」。同社では、提供するコンテンツに対して、試聴から課金までをシームレスに行えるよう、PayPalの決済システムを利用している。
- FT.com
続いて、経済誌『FINANCIAL TIMES』(FT.com)のHead Product Management、Mary Beth Christie氏が登場し、FT.comでのPayPalの採用について、とくにマイクロペイメンツ(少額課金)の効果を述べた。インターネットの普及により、Webコンテンツの課金が常に課題となっている新聞業界において、マイクロペイメンツの効果がとても大きいそうだ。また、機能実装のしやすさについて述べていたのが印象的だった。
- GigaOM
ブログメディアのGigaOMでもPayPalシステムを採用しているそうだ。GigaOMでは、特定記事(GigaOM PRO)の切り売りをする際、PayPalのマイクロペイメントを利用している。
- Payvment
次に登場したのは、Facebook上に無料のストアを構築できるサービスPayvment。これまでは自社サービス・サイトでPayPalを利用していたが、PayvmentはFacebook上に構築したストアでの購入・決済においてPayPalを利用しているのが特徴だ。2クリックでの決済に加えて、マイクロペイメントの改善により、ますます利便性が高まったと言えよう。
The Web is "not" dead
ここまで4社のデモを紹介した後、再びNaveed氏が登場した。ここで同氏は『WIRED』の記事"The Web is dead"を引き合いに出したうえで「本当にWebは死んだのだろうか?」と会場へ投げかけ、改めてWebビジネスの可能性について考察を始めた。
氏曰く、「PayPalのビジネスは2008年から比べて30倍に拡張している。これは本当にすごいことだ。そして、2014年の予測では1トリリオン(10の12乗)ドルの市場が期待されている」とコメントし、新発表に続けた。
Mobile Express Checkout
ここで発表された新機能は「Mobile Express Checkout」。その名のとおり、これまでのMobile Checkoutと比較して高速で処理できることが特徴の新機能である。ユーザは2クリックで決済完了ができる他、スマートフォンアプリへの簡単な実装、ゲストアカウントからの決済といった機能が特徴となっている。
- Mobile Express Checkout
- URL:https://cms.paypal.com/us/cgi-bin/?cmd=_render-content&content_ID=developer/e_howto_api_ECGettingStarted
Mobile Payments Library
次に、開発者向けライブラリ「Mobile Payments Library」についても発表された。このライブラリを使うことで、iPhoneやAndroidをはじめとしたモバイルデバイス向けのPayPalアプリケーション開発が可能となる。特徴は以下の通り。
- アプリケーションとプラットフォームを横断できること
- (アプリ上で)分割・統合決済が可能になること
- 新規モデルのビジネスを構築できること
この他、詳細は公式サイトを参照のこと。
- Mobile Payments Library
- URL:https://www.x.com/community/ppx/xspaces/mobile/mep
多様化する決済サイト
モバイル関連の新発表に続いて、実際にモバイルアプリケーションやデジタルコンテンツでPayPal決済を搭載したサービス・サイトの担当者が登場し、さまざまなデモンストレーションを行った。
- Spotify
音楽コンテンツ共有・検索サイトのSportifは、同サービスのiPhoneアプリにPayPal決済システムを実装し、直接購入を行うデモを実演した。このアプリを使うと、ユーザはアプリ間をまたいで直接コンテンツを購入できる。
- LAYAR
LAYARは位置情報とARを融合したソーシャルサービス。今回、LAYARにPayPalの機能を実装し、ARで得た情報から商品の購入が行えるようになった。
- FOURTHWALL Media
ビデオコンテンツを販売するFOURTHWALL Mediaでは、試聴からコンテンツ購入までをシームレスに行う仕組みとして、動画コンテンツ上にPayPalの決済画面を重ねる機能を搭載した。これにより、短時間の試聴→完全版の購入を、画面遷移なく行えるUIを実現できる。
PayPal Mobile App 3.0 for iPhone
ここまではサードベンダがPayPalのAPIを利用して開発したデモが紹介されてきたが、PayPalが開発しているアプリケーションの新バージョンも発表されている。それが「PayPal Mobile App 3.0」だ。
- PayPal Mobile App 3.0 for iPhone
- URL:http://itunes.apple.com/us/app/paypal/id283646709?mt=8
これにより、販売者はiPhoneを通じて直接決済を行うことができる。その1つとして、Drugstore.comのデモが行われた。
見えてきたモバイル決済の未来像
その後、さらにモバイル決済の未来像とも言うべきデモがいくつか紹介された。
- VeriFone
VeriFoneはクレジットカード決済を行うハードウェアとデバイスを提供しているベンダで、この日、PayPalとの提携を発表した。提携によるソリューションの1つとして、スマートフォン用情報共有アプリ「Bump」の機能を使い、PayPal経由での個人間取引ができるようになった。
- Bling Nation
さらに、今回会場内でも用意されていた「Bling tag」を提供するBling Nationのデモが行われた。Bling tagを使うと、PayPalを通じて直接モバイルデバイスから支払い・決済が行える。
- FreshBooks
また、現在PayPal自体をプラットフォームとした、PayPalアプリケーションの開発環境も提供している。その1つとして、FreshBooksのアプリが紹介された。画面にあるように、PayPalアカウントの画面から直接ネイティブアプリを呼び出し、そこでトランザクションを発生させることができる。
- DISCOVER.com
クレジットカードを提供するDISCOVERは、PayPalアプリを通じた取引の例として、複数人での食事支払いを、後日割勘するといったデモを行った。これは、ある一人がまとめて支払った後、メールを通じて個別に代金を徴収できることになり、支払い時の煩雑さが解消できるようになる。
世界最大のSNS「Facebook」への採用
初日のキーノート最後には、世界最大のSNS「Facebook」から、COOのSheryl Sandberg氏が登場した。Facebookは最近日本でも盛り上がりを見せてきているSNSで、とくにソーシャルアプリケーションプラットフォームとして注目を集めている。
今回、Facebook内での課金システムとしてPayment Solution for Digital Goodsが採用された。具体的には、さまざまなソーシャルゲームで発生する課金について、PayPal経由で少額から取引ができるようになった。
Sheryl氏も「これにより、Facebookでのコネクションがより活性化されると予想する」と、PayPalの機能、そしてオープン化によるメリットを歓迎するコメントを残した。
共通のペイメントシステムがもたらす価値
以上、非常に盛りだくさんの実例とともに、PayPalの新しい機能、これからの展望を体感できるキーノートとなった。2009年にX.com、そしてAPIのオープン化を推進しているPayPalが目指す新しい決済・取引の1つの方向性が見えた内容だった。とくに、モバイル、スマートフォンと連動したサービス、日常生活に密着できる機能などは、今後のコンシューマの体験を豊かにしていくものと思われる。
現状、日本でのPayPal利用はまだまだ少ないが、同社が提唱する「クロスボーダーコマース(国境を越えた取引)」の実現において、PayPalの存在価値がますます高まっていくだろう。興味のあるエンジニアは、ぜひPayPal X Developer Networkにアクセスしてほしい。
- PayPal X Developer Network
- URL:https://www.x.com/