パソナテックは「AI・IoTの流れをキャリアに活かしたいエンジニアに贈る2days」と題し、「 PASONATECH CONFERENCE 2017」を実施しました。5月13日に開催されたのは、そのうちの1つである「デベロッパday」で、著名なエンジニアが講演を行っていました。
PASONATECH CONFERENCE 2017
https://www.pasonatech.co.jp/lp/conference2017/
前回に続いて、2017年5月13日に行われたデベロッパーdayから、IoTトラックの2セッションの模様をお届けします。
「タチコマ」に見るIoT製品開発~IoT開発を取り巻く環境の今後と、そこで求められるスキルとは
新しいスタイルのネット接続型家電メーカ「Cerevo」
Cerevoのアプリケーションエンジニア 水引孝至氏
IoTトラック最初のセッションは、Cerevoのアプリケーションエンジニアである水引孝至氏による「IoT製品開発のいまとこれから」です。講師を務めた水引氏は、楽器をはじめIoT機器と一緒に使うアプリの開発などの経験を持つアプリケーションエンジニアです。
Cerevoは“ コネクテッド・ハードウェアで生活をもっと便利に・豊かにする” をコーポレートスローガンに掲げ、ネット接続型家電の企画・開発を手掛ける新しいスタイルの家電メーカです。これまでに、PC不要のライブ配信カメラ「LiveShell.X」や、Googleカレンダーと連携する目覚まし時計「cloudiss」 、IoT自作モジュール「BlueNinja」 、アニメ作品「PSYCHO-PASS サイコパス」の劇中に登場するアイテムを再現したスマート・トイ「DOMINATOR」などのヒット商品を開発、販売しています。
水引氏は、Cerevoがまもなく一般販売される予定の「うごく、しゃべる、共有する 1/8 タチコマ」について紹介しました。タチコマは、アニメ作品「攻殻機動隊 S.A.C.」に登場するキャラクター。商品は、話の内容を理解し、自然言語で対話できることや、搭載したカメラで物体を認識できることが特徴で、学習した内容はタチコマ同士で共有します。これらの機能を実現するために、Googleの音声認識「Cloud Speech API」 、Jetrunテクノロジの対話システム「TrueTALK」 、エーアイの音声合成「AITalk」 、マイクロソフトの画像認識「Computer Vision API」などのクラウドサービスを活用しています。
「タチコマ」が活用するクラウドサービス
タチコマの開発には、プロジェクト管理、メカ(筐体) 、電気回路、組み込みソフトといった従来のチームのほか、IoT製品開発のためにスマートフォンアプリとサーバ・インフラのチームが加わったと説明。水引氏は苦労した点として、重心を安定させながらスムーズに動かすことや、初期設定のUIを挙げました。初期設定では、インターネットに接続してアプリやアカウントとのひも付けを行うのですが、タチコマのハードウェアはシンプルなUIで文字入力も難しいものが多く、通信方法もさまざまだったので、アプリ上での連携、統合に苦労したといいます。
IoT機器開発の「これまで」と「これから」
そして水引氏は、セッションのテーマである「IoT機器開発のこれから」を、開発環境、技術情報、デバイス性能、IoTの4つの視点で紹介しました。開発環境は、これまでは開発に必要な機材が高価でしたが、今後は評価ボードをはじめ量産製品にそのまま組み込める小型モジュール型デバイスが安価になるとしました。技術情報は、これまでは環境が多様でノウハウの共有が困難でしたが、今後は汎用開発ボードの登場でノウハウが共有しやすくなった傾向がさらに進み、開発者向けの情報公開や、開発者コミュニティに注力するデバイスベンダが増えるとしました。
デバイス性能については、これまではCPUの性能が低く処理を外部にオフロードすることが必要でしたが、今後はCPUの性能向上が進み、ソフトウェアで処理できる領域が増えていく。特定用途向けにはGPGPUを使ったシステムも普及すると指摘しました。IoTについては、これまではインターネット上のデータをダウンロードして使用、表示することが中心でしたが、今後はクラウドサービスの直接使用に加え、4G/5Gの回線を安価で利用できるようになり、IoTデバイスからの情報収集やネットワークブートなどがパッケージになったサービスが一般的になるとしました。
IoTの「これから」
水引氏は最後に、こうした変化の中で求められるスキルとして、「 開発環境を簡便、安価にするために、プロトタイピングしつつ最終製品に最適な選択ができること」 、「 公開・共有されている開発情報を効果的に活用するために、広大な情報源から所望の情報を見つけだせること、そして自分の情報を公開すること」 、そして「クラウドサービスの活用は、組み合わせの妙を活かすこと、ポテンシャルの見極め」を挙げました。「 Cerevoでは仲間を募集しています。興味のある方はWebサイトにおいでください」と、水引氏はセッションを締めくくりました。
IoT時代に求められるスキル
IoT時代にエンジニアが持つべき知識と技術、そして考え方
ユニークなキャリアパスを持つ松村氏
インフォテリアのPlatio事業部部長 である松村宗和氏
続いて、IoTトラック2つ目のセッション、インフォテリアのPlatio事業部部長である松村宗和氏による「『 働く現場』を変えていくモバイル、IoT、VR/ARの最前線」の模様をお届けします。
松村氏は、インターネットにはまりすぎて大学を中退し、フリーランスとして活動。その後ベンチャーに参加して財務状況や理論株価を算出するサービス「シェアーズ」をRuby on Railsにより独力で実装したところ、大手証券会社が購入、最終的にGMOクリックに事業買収され、その社長に収まりました。そして2012年にインフォテリアへ転職したという、ユニークな経歴の持ち主です。
松村氏が独自に開発したサービス
松村氏はインフォテリアを「『 ソフトウェアを輸出産業にしたい』と思いながらSIもカスタマイズ一切なしでやっている法人向けソフトメーカ」と表現します。インフォテリアでは、コードを書く必要のない独自のグラフィカルプログラミング環境により開発のスピードを向上し、開発やメンテナンスのコストを削減する汎用のシステム連携プラットフォーム「ASTERIA」や、モバイル用コンテンツ管理システム「Handbook」 、IoT向けモバイルアプリ開発基盤「Platio」などを提供しています。
インフォテリアに入社した松村氏は、Handbookのプロダクトマネージャー、シリコンバレーでの米国セールスマーケティング、ロンドンでの海外版UX開発、日本での国内マーケティングを経て、Platioの事業責任者となりました。これらの経験をもとに、モバイル用コンテンツ管理システムの現場におけるメリットや、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)について紹介していきました。VRにおいては、理想的な特性に「三次元の空間性」「 リアルタイムなインタラクション」「 自己の投射」があり、機器の高性能化、小型化、低価格化が進んでいるとして、エンジニアが役に立てる機会が増えるとしました。
IoT時代にエンジニアがすべきこと
松村氏はIoTについて、「 『 いろんなものがインターネットにつながってすごいよね』というただの言葉」という認識が大半だと思いますが、すでに多くの業界や家庭にIoTが入り込んでいるとして、人工衛星を活用して世界中の建設機械の情報を把握できるコマツの「KOMTRAX」や、歯ブラシをIoT化して子供向けのゲームと融合させた「Grush」 、高齢者などの見守り目的で電球がつかないと通知する「Miima」などのサービスを紹介しました。
時代はPCからモバイル、そしてIoTへと向かっていますが、これによりユーザ層が非常に広くなると松村氏は指摘します。PCやモバイルへのサービスは、それぞれ端末を持つユーザが対象となりますが、IoTではあらゆる人が対象となるためです。IoTでは、端末となるセンサーやカメラのデータを近接接続によりエッジ・コンピュータ(ゲートウェイやルーターとも呼ばれる)に送られます。エッジ・コンピュータはクラウド上にあるデータレイクとデータをやり取りし、データレイクはやはりクラウド上の処理系サービスに送られ、モバイルワーカーやオフィスワーカーとデータをやり取りします。
エンジニアが注目すべき「エッジ・コンピュータ」
松村氏はこのエッジ・コンピュータがエンジニアにとって重要なポイントであり、活躍できるエリアとしました。ここはセンサーからデータを吸い上げ、事前処理をしてクラウドとデータを送受信します。処理プログラムにはJavaやC、Node-REDが普及しているといいます。条件に合わせて、エッジとクラウドの接続方法とセンサーとエッジの接続方法を組み合わせるあたりは、エンジニアの腕の見せ所であるとしました。
さらに松村氏は「Platio」について詳しく紹介した上で、IoT時代に求められる知識や技術として「エッジコンピューティング」「 センサー・エッジ間通信」「 大容量データ保存とデータ処理」を挙げました。そして、エンジニアに必要なこととして「エンジニア以外の人の声を聞く」「 日本人以外と接して常識を見直す」「 新技術は地方で」「 職種を変えつつ『もの作り』 」 「 業態の変化も貴重な経験」の5つを挙げ、セッションを締めくくりました。
IoT時代のエンジニアに求められるのは「非○○」