「PyCon APAC 2016 in Korea」参加レポート

第1回現地の様子とカンファレンス1日目 ~pandas開発者によるKeynote~

こんにちは、芝田 将です。2016年8月13日(土⁠⁠~8月15日(月)の3日間、韓国で開催されたPyCon APAC 2016 in Koreaに参加してきました。このレポートでは最初の2日間に行われたConference Dayの様子をお届けします。

昨年、台湾で開催されたPyCon APAC 2015の参加者数は約700名であったのに対し、今年のPyCon APAC 2016は約1500名の参加者が集まった非常に大規模なカンファレンスとなりました。昨年のPyCon APAC 2015には筆者も参加し、gihyo.jpにてレポートしています。興味のある方はぜひそちらも合わせてご覧ください。

今回は、現地の様子とカンファレンス1日目の内容をお届けします。

PyCon APAC 2016 in Koreaについて

PyConはPythonユーザ間の情報の共有や交流を目的として、世界各国で開催されているイベントです。その中でもPyCon APACはアジア、太平洋地域のさまざまな国からPythonistaが集まる大規模なイベントとなっています。

PyCon APAC 2016 in Korea公式サイト

PyCon APAC 2016 in Korea公式サイト

今回のカンファレンスでは「海外のカンファレンスに興味はあるが、予約などが不安」という人のために、一般社団法人PyCon JPが企画したPyCon APAC 2016 in Koreaツアーが実施されました。このツアーを利用して7名の参加者が集まり、全体では計11名ほどが日本から参加していたようです。

韓国での移動や食事

7人のツアー参加者は、お互いに初対面の参加者もいました。そこで参加者同士の交流を兼ねてカンファレンス前日(ツアー初日)には焼肉を食べに行きました。日本では自分でお肉を焼くのが当たり前ですが、店員さんがお肉を焼いてくれました。最初は少し戸惑いましたが、とても親切で素敵な文化だなと感じました。ツアーの初日から韓国の食を満喫できました。

また、今回のカンファレンスの会場であるCOEXには数多くの飲食店があり、カンファレンス中でも食事には困りませんでした。韓国の料理は辛いものが多くありますが、中華料理店や和食料理店などもあり辛いものが苦手な方でも安心です。また朝はおにぎりが無料で配られ、受付時に5枚配布されるチケットはコーヒーに引き換えることができました。

コーヒーはチケットと引き換えで飲むことができます
コーヒーはチケットと引き換えで飲むことができます

ソウル市内はt-moneyカード(交通カード)と呼ばれるICカードを購入しておくことで、手軽に移動できます。また利用料金も地下鉄が1250ウォン(約125円⁠⁠、タクシーも初乗り3000ウォン(約300円)と日本に比べ非常に安価でした。タクシーでは英語が通じないことも多いためあらかじめスマホなどで行き先を表示しておくとスムーズです。

PyCon APAC 2016 in Koreaの雰囲気

今回のイベントのテーマは「Respect, Diversity⁠⁠。多様性を表現し受け入れ合うかのような、さまざまな色が交じり合ったデザインとなっていました。

当日受付にて配布されたパンフレット
当日受付にて配布されたパンフレット

会場ではパンフレットやトートバッグ、Tシャツ、ステッカーなどが配布されました。一方で空きスペースには多くのソファが並べられており、多くの来場者がくつろいでいます。ソファは筆者もセッション間の休憩時間等で利用していましたが、非常に居心地がよく快適でした。面白い取り組みですね。

ソファに座って作業をする筆者
ソファに座って作業をする筆者

今回のイベントのチケットの売上枚数は1700枚以上と、相当大規模なイベントだけあって、もちろんたくさんの人が会場にいました。また場内では韓国の有名企業やスタートアップなどがスポンサーブースを出展しており、ブースの方も非常にもりあがっていました。

場内の雰囲気
場内の雰囲気

Wes McKinney氏(pandas開発者)による基調講演

Openingが終わるとすぐに、pandasの開発者であるWes McKinney氏のKeynoteが始まりました。

pandasはデータ解析の際に便利なデータ構造やさまざまな役立つ機能を提供する強力で非常に人気のあるライブラリです。Wes McKinney氏はOSSのコミュニティのあり方について話した後、pandasの今後の動向について話を続けました。

KeynoteセッションでのWes Mckinney氏
KeynoteセッションでのWes Mckinney氏

pandas周辺のエコシステムは過去5年間、進化を続けてきました。それによっていくつかの破壊的な変更が必要となってきたため、メジャーバージョンを1つあげた2.0の開発が始まったとのことです。pandas 2.0はよりpandas独自のデータ構造であるSeriesオブジェクトやDataFrameオブジェクトの実装に対して大幅にリファクタリングを行い、より高速かつ省メモリで動き、より拡張性に富んだものになるとのことです。

またWes McKinneyさんの人気書籍Python for Data Analysis』の2nd Editionが来年発売されることを告知していました。どちらも非常に楽しみなニュースですね。

PyCon JP スタッフのIan Lewis氏のセッション

こんにちは、塚本英成です。

ここからは筆者から見た1日目の注目セッションについて触れていきたいと思います。1日目のセッションのうちEnglish speakerのセッションは、⁠TensorFlow関連⁠⁠asyncio / aiohttp関連」が多かった印象です。

TensorFlowといえばPyCon JPのファウンダー・スタッフでもあり、 Google Cloud Platform Teamの開発者の Ian Lewis氏による「Deep Learning with Python & TensorFlow」というセッションがありました。

Deep learningは近年、研究分野にかぎらず広い領域で注目を集めていますが、 彼の発表はPythonistaのためのTensorFlow入門のような発表で、 TensorFlow初心者の筆者にとって非常に有益な発表になりました。

また彼の発表中でPyCon JPが紹介され、 韓国のカンファレンス会場に大きく今年のPyCon JPのロゴが映し出されたのも、 PyCon JP 2016のデザイナーである筆者としては印象的でした。

PyCon JP 2016のロゴが韓国でお披露目
PyCon JP 2016のロゴが韓国でお披露目

日本のアニメで盛り上がる会場

Tensorflow関連の内容でもうひとつ「Creating AI chat bot with Python 3 and TensorFlow」という発表が非常に特徴的でした。発表者のJeongkyu Shin氏がプロジェクターの出力テストを行った時、会場が湧きました。そこには「THE IDOLM@STER」という日本で有名なアニメのキャラクターが大きく映っていました。

内容は「アニメのセリフデータを教師データにし、 TensorFlowとPythonを利用してChat botを作ろうとした」というもの。

セッションはかなりウィットに富んだ内容になっており、⁠僕が作りたいのは可愛い女の子のChat botだ」と強調したり、 実際にデモムービーでChat botが動いているところ、思ったような会話ができていないところを見せたりと、 場内のウケも上々でした。

ウケを抜きにしても、よりリアルなChat botを作るために、教師データにセリフとその時のキャラの感情を利用した点や、 韓国語のうまいレスポンスを返すためにさまざまなライブラリを利用して工夫をした点が興味深かったです。

セッションの後、Twitterを利用してやり取りをしていく中で実際にお話をさせてもらえる機会をいただき、 名刺交換などもさせていただき、日本のアニメの話で盛り上がったり、 セッションの感想を伝えられたりと、韓国のスピーカーとの貴重な交流の機会となりました。

開発者自身によるaiohttpの紹介

asyncio/aiohttp関連では、PythonのCore Developerでもあり、aiohttpの開発者でもあるAndrew Svetlov氏の発表が印象的でした。タイトルは「AIOHTTP INTRODUCTION⁠⁠、自身の開発するライブラリであるaiohttpの紹介でした。

Andrew Svetlov氏のセッション
Andrew Svetlov氏のセッション

Microserviceや各種WebAPIなどの利用が盛んになっていて、 クライアントのみでなくサーバサイドでもhttpのリクエストを大量に発行するようになりました。大量のリクエストが必要だと、どうしてもパフォーマンス向上のため非同期処理や並列処理を行いたい場面が出てきます。

aiohttpでは、httpのリクエストを非同期で処理できるほか、 並列でhttpのリクエストを発行できたり、websocketのクライアントとしても使えます。更にサーバサイドとしてもhttpサーバや、websocketのサーバサイドとしても利用でき、 非常に多彩なライブラリでした。

非同期処理でネックになるのはデバッグやテストかと思いますが、テストのためのライブラリが用意されていたり、Debug Toolbarというブラウザでデバッグを行えるツールが用意されていたりして、開発もかなりやりやすくなっているようです。

非同期処理・並列処理で速度も早くなるaiohttpに注目です。発表資料にはここに書ききれないTipsなども載っているのでぜひご覧になってください。

台湾の有名なスピーカーによるセッション

English sessionの中でも、かなり毛色が異なっていた発表がありました。Mosky Liu氏の「Boost Maintainability」です。

Mosky Liu氏のセッション
Mosky Liu氏のセッション

彼女はアジア圏のPyConでは有名で、登壇経験も9回とかなり多いスピーカーです。以前のPyCon JPでも登壇しています。

発表内容は、変数名や処理順に気を配って保守性をあげようというもの。改めて公式がPEP 8のようなスタイルガイドを用意するPythonという言語の良さを実感できました。

次回は

第2回では、PyCon APAC 2016の2日目の様子をお届けします。2日目には筆者のライトニングトークやPyCon JPとPyCon Koreaのデザイナー同士の出会いなどがありました。第2回をお楽しみに!

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