こんにちは。PyLadies Tokyoです。PyLadiesとはPython好きな女性のための国際組織です。Pythonを利用している女性たちのためのサポートネットワークの提供やリーダーの育成などを目的として活動を行っています。
先日、2017年8月26日(土)から8月28日(月)の3日間に行われた「PyCon APAC 2017 in Malaysia」に、日本から13名(Pyladies Tokyoのメンバー4名を含む)のPythonユーザが参加しました。
本レポートでは、26日、27日に行われたカンファレンスの様子を、PyLadies Tokyoから参加した山下・赤池・石田の3名がお伝えいたします。
PyCon APACとは
PyCon APACとは、Pythonユーザの情報共有や交流を目的として世界各国で開催されているイベント「PyCon」のアジアパシフィック版イベントです。
マレーシア・シンガポール・韓国・台湾・日本など東アジア各国のPythonユーザが集い交流を深めます。PyCon APACの開催地は毎回異なり、東アジアの各国で年に1度開催されます。毎年異なる国へ訪問できることもまた、PyCon APAC参加の醍醐味と言えるでしょう。昨年は韓国で行われました。昨年の様子は下記レポートをご覧ください。
今年は約200名のPythonユーザが集い、熱く楽しくセッションや交流を行いました。PyLadies Tokyoからは4名の参加があり(過去最多)、いろいろな出会いや議論を堪能しました。
マレーシアと今年のカンファレンス会場
今年の開催地はマレーシアのクアラルンプール。電車などの公共交通機関が整備され、大変治安の良い街です。イスラム教徒の比率が高い国であるため、物価に対してお酒が高いです。
今回のカンファレンスは、クアラルンプールの主要駅であるKLセントラル駅から4駅離れたUniversiti駅近くのホールで開催されました。ホールの入っている建物は新しく綺麗な建物でした。
カンファレンスでは1日につき軽食2回とランチブッフェ1回が提供されます。どの料理も大変美味しくつい食べ過ぎてしまいました。ランチタイムは大きなテーブルをいろいろな人とシェアして利用するタイプであったため、たまたま同じテーブルになった方と会話を楽しむことができました。一日中コーヒーと紅茶のサーバーが常設されているのも嬉しかったです。
Day1 Keynote ~ Luis Miguel Sanchez氏
Sanchez氏は 『DATA SCIENCE HANDBOOK』などの著作をもつデータサイエンティストです。今回の講演では、Bitcoinの取引データをCythonやpandasなどを駆使して解析し、マイニングやトレーディングを自動化する例やディープラーニングを使って新しい音楽を自動生成した例など、Sanchez氏が手がけた分析とその成果について語ってくれました。
特に音楽の自動生成の話は、とても興味深いものでした。クラシック音楽をディープラーニングを使って解析して各作曲家の特徴を教え込み、「この作曲家っぽいフレーズ」を自動生成させることに成功していました。会場では、各作曲者の特徴量の可視化や、バッハのG線上のアリアのバリエーションミュージックとヴィヴァルディ風テクノミュージックのデモを聞くことができました。想像していたよりもずっとテクノミュージックにヴィヴァルディっぽさが滲み出ていてとても楽しかったです。
翌日Sanchez氏とお話しする機会があったのですが、その際も「音楽の部分で多くの人から反響があった。質問などあればぜひ連絡してほしい」と話されていました。音楽のためうまく言葉で表せず残念ですが、多くの参加者の印象に残るデモであったようです。
Sanchez氏の手がけているプロジェクトの情報はSGX Analytics で見ることができます。気になる方はぜひチェックしてみてください。
Programing the BBC micro:bit with MicroPython - For Students by Students
Zilong氏、Siyin氏、Zixin氏、Pearlyn氏の4名の学生による、MicroPythonを使ったmicro:bitのデモセッションです。micro:bit とは、子供向けの開発キットです。実際に教育の現場ですでに使われている国もあるそうです(授業風景がスライドに表示されました)。
MicroPythonは、micro:bitのようなボードに対して直接Pythonで命令できる組込のための軽量Pythonです。MicroPythonを使用して、micro:bitに付随している2つのボタンにLED点灯命令を組み込むライブコーディングを行ったり、実際にこのボタン機能を使って作りこんだ2Dスクロールのゲームデモや、Accelerometerという加速度計から得た情報を操作するコンポーネントを使ったデモを行ったりと、40分のセッション時間中ずっとデモしてるのでは? と思うほどデモ盛りだくさんのセッションとなりました。
4人でセッションを担当していることを強みにして、1人がメソッドの説明など前で話している間に残りの3名で次のデモの準備をしていたり、どのタイミングでスライドをめくるのかなどが計算されて進められていたりと、とてもよく作りこまれていて感動しました。喋っている最中の体の使い方(手の動かし方etc.)や全体の構成など筆者自身大変勉強になりました。
何よりも、「Pythonでモノを作ってこんなに楽しい!」という気持ちで溢れたセッションで、筆者(石田)の中でPyCon APAC 2017の中で一番お気に入りのセッションでした。日本のイベントでも、もっともっと学生さんのパワーが炸裂すると素敵ですね。
Introduction to the data analysis using python ~野中哲氏
day1のお昼過ぎのセッションでは日本から2名が登壇されたのでご紹介します。
1人目の野中氏のセッションは競馬のデータ分析についての内容で、この分析は自分の生活においても重要なのだとユーモア溢れる発表で会場を沸かせていました。野中氏は競馬データを分析するにあたり、主にpandasを使用したそうです。コース距離と馬の走るスピードで多項式回帰分析を行っており、その結果の考察からドメイン知識の重要性を展開していました。
たとえば、競馬場が異なるとカーブや直線距離など形状が異なり、同じ競馬場だったとしても芝やダートなど競技によって使われるトラックの性質が異なります。トラックの形状や性質が異なると、馬のスピードに影響があるため、回帰分析を行うときはトラックの形状や性質ごとに判断していかなければならないといった気づきがあったそうです。
実際に行った試行錯誤の過程を交えた発表は、分析にドメイン知識がどう効いてくるのか、仮説検証をどうやったのか、など納得感のある説明で興味深いものでした。
Introduction to Analytics studies in real business ~赤池奈津子氏
こちらは実際のビジネスにおける分析事例についての発表です。赤池氏は今回がはじめてのPyCon参加で、登壇にチャレンジでした。内容は、ディープラーニングによる文章校正とダイレクトマーケティングの最適化の2つの事例について取り上げています。文章校正の事例では、形態素解析とn-gramでLSTMを学習させて次の単語を予測するモデルを作成し、予測した言葉と実際の単語を比較して文章を構成する手法について扱っていました。
敬語の使い方や漢字とひらがなの使い分けなど、日本語の難しさについて他の国の方々には驚きがあったようで、会場内では「日本語って難しいんだね」といった会話が聞こえてきていました。
Conference Dinner
8月26日のConference Day1のセッション終了後、ミッドバレーメガモール横のホテルのレストランにて、カンファレンス参加者のためのConference Dinner(懇親会)がありました。広々としたテーブルでおいしいマレー料理や日本料理のビュッフェに舌鼓を打ちつつ、参加者トークに花が咲きました。
実はこのDinnerには裏イベントが併設されていました。その名も「Ladies meetup」。事前に連絡を取っていたWomen Who Code Kuala Lumpur / Rails Girls KL / PyLadies Seoul / Pyladies Tokyoの4つの女性エンジニアコミュニティ+翌日のkeynoteスピーカーJessica氏の計10名で集まってわいわいおしゃべりをするというものです。
国籍も公用語も扱ってるプログラミング言語も異なりますが、抱えている問題(現場に女性が少なくて寂しいetc.)はどこのコミュニティも同じなんだなぁと改めて実感しました。女性エンジニアのコミュニティは小さなところが多いですが、今回のように声を掛け合って集えば大きくなることをしっかり自覚し、差別ではなく区別として女性エンジニアがもっと元気にエンジニアリングや人の輪を広げていけたらいいなぁと思いました。
今後も連絡とりあって、タイミングが合えばまた一緒にイベントをやりたいなと思います。
以上でday1のレポートを終わります。day2も楽しいセッションが目白押しです。お楽しみに。