PyCon Taiwanの2日目と3日目の様子についてレポートします。キーノートスピーカーによる発表、筆者自身の発表、PyNight、Open Spacesなどについて紹介します。
2日目キーノート「Programming Language Tourism: Leave Python and see the world!」 ―Paul Ivanov
Paul Ivanov氏(@ivanov )はJupyterのSteering Counsil メンバーであり、Bloombergのシニアエンジニアです。
Paul Ivanov氏のキーノート
「私たちはどこにいますか? いま私たちはPyCon Taiwanにいます。」と問いかけたあとに「『 どこから来ましたか?』と参加者に問えば、それぞれ異なったスケールで回答があるよ」と言いました。Jupyterの人に聞いたら「地球(笑) 、アメリカ、カリフォルニア、サンフランシスコ、ベイエリア」のようにさまざまな尺度で答えるだろうと言っていました。
余談ですが、「 私は台湾ははじめてで、日本やドイツには行ったことはないんだけど…」というくだりで「Have you heard of PyCon JP?(PyCon JPのことを聞いたことがありますか?) 」と1日目のLTのネタにかぶせて笑いを取っていました。
次に、プログラミングを自分の場所と考えたときにPythonはどこにいるかという話になりました。そこでStack Overflow の質問投稿数を表すグラフを紹介し、この10年間でPythonは上位のタグになったそうです(上にはJavaScriptがいますが) 。GitHubを見てみると、作成されたリポジトリの数は上位からJavaScript、Java、Pythonという順番だそうです。
Pythonは素晴らしい言語だが、仕事でPythonを使用している場合は、たまにプログラミングの休暇を取ることを参加者に勧めました。休暇というのは、プログラミング言語を場所と考えると、別の場所に行くようなことを指しています。またプログラミング以外のことを行って気分転換をしようという話がありました。
また自身が主催しているイベント「Jupyter Open Studio Day」について触れました。このイベントは2日間開催され、プログラミングについて、普段の仕事ではなく自分自身のために学んで向上することができます。そのイベントにはPyCon MalaysiaのキーノートスピーカーでもあるCarol Willingもいたり、さまざまな年齢やバックグラウンドの人が参加しており、参加者にとって別の場所となっていると述べていました。
私はPython mini Hack-athon というイベント主催者の1人ですが、このイベントが誰かの別の場所になるといいなと思いました。
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自分の発表:「Automate the Boring Stuff with Slackbot」
いつものSlackbotを開発する内容で発表をしてきました。スライドで大きく変更した箇所は以下です。
自己紹介のところでPyCon JPとPyCon TWの交流があるという話を追加
今年の自分の各国PyConへの参加を地図で表示
書籍が台湾でも出版されていることを紹介
Block Kitを使用したサンプルコードを追加
筆者の発表の様子
発表時間が30分と短めなため、はしょり気味に説明しました。具体的には細かいコードの説明をあまりしないことで、発表時間を調整しました。
PyCon Taiwanでは質疑応答はsli.do というサービスで質問を受け付けています。文字で表示されるので質問を聞き取れないという問題がない反面、質問者に直接「今の回答でよかったか」といったことが確認できないため、メリットデメリットがあるなと思いました。
以下は質疑応答の内容です。
Q:SlackのAPIでは3秒のリミットがあるが、slackbotではどのようにして防いでいるのか?
A: SlackbotではRTM APIの使用が推奨されているので3秒の制限はないはず。Botの場合は手でコマンドを送ってそれに反応しているので3秒のリミットは関係ないはず(後で調べてみたところ、これはEvents APIに対してレスポンスを返すリミットなので、botの場合は関係がなさそうです) 。
Q:Slack APIを使用してメッセージを送信したが表示されないときに、どのようにデバッグをしているのか?
A: slackbot_settings.py
のERRORS_TO
にチャンネル名またはユーザー名を設定すると、エラー時にそこにエラーメッセージが表示されます。
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2日目ライトニングトーク
カンファレンス2日目のライトニングトークでもいろいろな発表がありました。いくつか紹介します。
高校生たちによる発表
高中生做點事
言葉がわからないので意味は全くわかりませんでしたが、元気な高校生4人組の発表でした。あとで調べてみたところソフトウェア関係の部活のようで、小学生にプログラミングを教えることもしているようです。発表の中では自分たちの活動とLINEBotを紹介していました。
個人発起的小小小社群
PyCon JPにも参加していたKK氏による発表です。小さいコミュニティを作って継続しようということを参加者に勧めていました。
高雄發大財
Kaohsiung(高雄).pyの主催者による発表です。高雄は台湾の南にある都市で、将来的にPyCon Taiwanを高雄で開催したいという発表をしていました。また、LTの冒頭に「Do you know Kaohsiung.py?」と1日目のLTのネタをかぶせてきました。
My PyCon diary in 2019
日本から参加したLina KATAYOSE氏(@selina787b )の発表です。今年US、Thailandにも参加している自身の体験を共有して、みんなも海外PyConに行ってみると楽しいよという話をしていました。今年は5回参加しているけど、筆者とNoah氏がさらにたくさん参加しているよと言及されていました。またこの発表の後にインドからの参加者に「PyCon Indiaにも来てね」と誘われていたようです。
SprintSeoul
韓国のYounggun氏(@scari_net )による発表です。ソウルでは2ヵ月ごとにSprintSeoul という開発イベントを継続的に開催しているそうです。内容もPythonのみに限らずさまざまな言語で行っているようです。他の地域でもぜひやってみてねと促していました。
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2日目:PyNight
カンファレンス2日目の夜はオフィシャルのパーティーであるPyNightでした。ピザなどの軽食とドリンクが振る舞われたカジュアルな会でした。
PyCon Taiwanのいつものパターンだとアルコールはないだろうなぁと思っていましたが、なんとサングリアやカクテルなど数種類のアルコールが提供されていました(しかしビールはありません)!!
奥の方でなにやら演奏がはじまりましたが、チェロの五重奏です。写真の一番左に写っているのはPyCon Taiwan 2019のChairであるTaihsiang Ho氏です。彼はチェロやピアノが演奏できるそうです。多才ですね。
チェロの演奏
PyNightのあとはいつものようにビールが飲みたくなったので、友人数名とRedpoint Brewing Co. に行きました。この店には「台.P.A.」という名前のIPAスタイルのビールがあります。なかなかいいネーミングですね。写真の真ん中に写っているのが韓国のYounggun氏で、私がPyCon MalaysiaにPSFのBooth Kitを持って行く原因となった人物です。
naoy、Younggun、selinaとビール
3日目:Open Spaces
カンファレンス3日目の夕方はトークセッションはなくOpen Spaces が行われました。Open Spacesとはその名の通り「オープンなスペース」で、場所を確保しているのでそこで「こんな話がしたい」とカンファレンス中に申し込んでディスカッションなどが行われるものです。
10個くらいのテーブルが用意されており、例として以下のようなテーブルがありました。
asyncio
PyCon Taiwan 2020 @ 高雄
Health care
Numeric software
PyCon [A-Z]{2}
私は一通り見て回ったあとに「PyCon [A-Z]{2}」という海外PyCon参加についてディスカッションしているテーブルに入ってみました。主催者はWei Lee(@clleew )氏で、PyCon JP参加時のさまざまな写真をスライドショーで紹介していました。
Open Spacesの様子(奥の白いTシャツがWei Lee氏)
Wei Lee氏が他の参加者に私のことを「彼は日本から参加していて、各国のPyConで発表している」といったことを説明していました。
その後、他の参加者から「日本と台湾のPyConはどう違うのか?」という質問があったので「開発Sprintのありなしとか、チュートリアルが別の日だったりとかの細かい違いはあるけど、みんなUSのPyConやお互いを参考にしあっているのでそこまでの違いはないと思います。」という説明をしました。
ここにいた人が他国のPyConに興味を持って参加してくれるとうれしいなと思いました。
3日目キーノート「The Different Paths We Take As Programmers」―Tracy Osborn
カンファレンス3日目は夕方にもTracy Osborn氏(@tracymakes )によるキーノートがありました。
現在はDjangoの書籍(『 Learn how to build a web app 』 )なども執筆しているスピーカーが、自身がプログラミングを学んでいった険しい道について語りました。
Tracy氏と著作
氏は現在35歳だそうですが、高校生のころにシンプルなHTML(h1とpタグしかないような)を書いてWebサイトを作りはじめたそうです。それを見て先生は「おお、Webサイトが作れるなんてすごいね」と驚いたといいます(笑) 。コンピューターやWebサイトが好きなので大学に入ってコンピューターサイエンスを学ぶことにしたとのこと。大学に入ってプログラミングを学べると興奮して「コンピューターサイエンス基礎」を受講し、10分経つとわけがわからなくて呆然としたそうです。その後JavaやGUIなどを学びましたが、途中でデザインなどのクラスをとり、最終的には真逆の芸術の学位をとって卒業しました。
卒業後はデザイナーとしてWebのフロントエンドを作成するようになり、そこでJavaScriptを使い始めたそうです。その後自分のスタートアップを起業し、技術に強い共同創業者を探します。そしてDjangoを学び6週間でWebサイトを立ち上げたそうです。以下がその経験を書いたBlogです。
このように、プログラミングを学ぶときには初心者→中級者→上級者という一本道ではなく、さまざまな道があるという話がありました。そして自身がDjangoを学んでWebサイトを作成できるようになった経験をもとに書籍を執筆したそうです。また、現在は大学以外にもさまざまなPython等のプログラムを学ぶためのWebサイト、サービス、動画などが提供されています。そういう大学などとは異なったパスからプログラミングを学ぶこともできるという話がありました。
さまざまなバックグラウンドを持った人がプログラミングを学ぶことに対して背中を押す、素晴らしい発表でした。トークの終了後に「持ってきた著書をプレゼントする」と言うと、参加者が一斉に群がり即席サイン会がはじまって面白かったです。
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クロージング
カンファレンスの最後はChairであるTaihsiang Ho氏によるクロージングです。スポンサーへの感謝などが述べられたあとに、TaiwanメンバーがPyCon JPに参加したときの写真を引用して、今年はツアーを行ったことが紹介されました。また「Do you know PyCon JP?」にかけて、PyCon JP以外にもアジアや各国のPyConがあるので、ぜひ知って参加してみてほしいという話がありました。
PyCon JPに参加したTaiwanメンバー
最後に壇上に主催者とボランティアが集合し、参加者から感謝の拍手が送られました。このあと参加者全員が壇上に集合して記念撮影を行い、PyCon Taiwan 2019は終了しました。
PyCon TaiwanのOrganizerとVolunteer
打ち上げ
カンファレンス後はスタッフ打ち上げに参加させてもらいました。打ち上げ会場へはみんなでバスで移動です。バスに乗るとJames(PyCon MalaysiaのChair)一家がいました。どうやら今回は家族旅行を兼ねていたようです。息子さんはLEGOが好きらしく、移動のバス中で先日沖縄のパルコシティで撮影してきたLEGOの写真を見せてあげたら、興味深く見ていました。LEGOは国や言語を超えますね。
左からJames氏、筆者、息子さん、Noah氏
打ち上げ会場は台北のほど近くにあるタイ料理中心のビュッフェです。ここのビュッフェには生ビールが付いていました。すばらしい!!! ここでもデブ活に励みながら、いろんなスタッフやキーノートスピーカーと交流しました。
打ち上げが終わって何人かはNight Marketに行くそうですが、私はクラフトビールが飲みたいのでそのチームとは分かれて台湾メンバー数名と一緒に飲みに行きました。別れ際にキーノートスピーカーのPaul Ivanovが「Do you know?」と私にフリを入れてきたので「PyCon JP!!」と答えて別れました。Paulさんめっちゃ面白い人だ。
ビールのお店はZhang Men BreweryのBreezeSongGao店です。この店は屋上に出られて、その屋上から台北101が見えるというとてもシャレオツなロケーションにあります。心地よい夜風に吹かれながら、台湾のみなさんと楽しく過ごしました(何を話したかほぼ覚えていない) 。
クラフトビールと台北101
おわりに
以上でPyCon Taiwanのレポートは終了です。振り返ってみると私を含めて4名の日本人がトークを行い、LTでも5名が登壇しました。「 Do you know PyCon JP?」はキーフレーズとなって、参加者のみなさんに浸透したんじゃないかなと思っています。
今後もこの日本と台湾の関係性が継続して、たくさんの人が行き来するといいなと思います。ご飯もおいしいし、漢字の意味がなんとなくわかるので、初めてのPyConとしてとてもおすすめです。
日本からの参加メンバー
私の次のPyConツアーはシンガポールです。次はどんな出会いがあるでしょうか(実はこの原稿を書いている時には、すでにPyCon Singaporeは終わっているんですけどね……) 。