2009年7月末日、都内某所。RubyKaigi2009 を無事に終えて一息ついた運営委員長の角谷信太郎さん に、今回のRubyKaigi2009についてインタビューさせていただきました。また、偶然居合わせた実行委員の島田浩二さん にも同席いただきました。
角谷さん
RubyKaigi2009
──さっそくですが、質問させていただきます。RubyKaigiについて、去年までと大きく変わったと感じた点はどこでしょうか。
角谷 「まずは国際化です。本格的に世界のRubyistを相手にしてみたというのが最大の変化です。規模もRubyKaigi史上最大です。といっても毎年史上最大規模なので、これは変わっていない点なのかもしれません。あと、正式にマルチトラックを採用したことです」
──開催規模は、例年より大きくするという意志はあったのでしょうか。
角谷 「ありました。実行委員長である高橋さん の思いは『来たいと思っている人がチケットが売り切れで来られないのはよくない』なので」
国際化
──「 国際化」についてお聞かせください。RubyKaigiの運営チームとして、国際化のためにどのようにアプローチしたのですか。
角谷 「以前から話だけは出ていたんですが、自分たちの心の準備ができていなかった。ところが昨年のRubyKaigi2008 は、何件か海外から発表応募があったり、参加者にも日本に住んでいる日本人じゃないRubyistの姿が見られるようになった。これはDave Thomas をはじめとして 、海外の大物Rubyistが応援してくれたからだと思います。さらに、昨年遊びに来てくれたChad Fowler からは『来年はもっと、海外からの参加者がくるといいね 』とも言われました。これは半分冗談だったとは思うのですが、具体的な数値目標を一緒にもらいました。『 50人』と。なので、2009は日本以外でも本気を出して宣伝しました。私はRubyConf2008のライトニングトーク で、レオ はシドニー で、高橋さんは台湾 で宣伝してきました。おかげで、まつもとさん がEuRuKo2009 でRubyKaigiへの参加について訊かれたみたいです」
角谷 「それにRubyConfに2回参加して確信したのは、発表の質に関してはRubyKaigiはRubyConfに負けてない。だったら、海外のRubyistにRubyKaigiのことも知ってもらいたい、という思いもありました」
──英語の発表は本当に多かったですね。
角谷 「RubyKaigiのセッションは基調講演以外はすべて公募なのですが、まさかあんなにたくさん海外からの応募が来るとは思ってませんでした」
──海外発表の配置、セッションの組み方で苦労した点などあればお聞かせください。
角谷 「セッションの配置を考えるのは楽しいのであんまり苦労はありません。幸いなことに応募がたくさん来たため、リジェクトしないといけないのが心苦しかったのですが、これは贅沢な悩みですね。結果的に海外からの発表応募がたくさんあったので、海外から来た人たちが日本語が分からなくても楽しめるようにも組めました」
──なるほど。発表者ではない、海外からの一般参加者もケアしたんですね。
角谷 「そうです。ただ、英語と日本語のセッションを分けすぎたかな、という反省はあります。日本人で『英語だからいいや』と敬遠した人もいるだろうし、逆に海外からの参加者が『日本語だからいいや』と思ったかもしれない。もうちょっと混ぜたほうがよかったかもしれません」
──英語の発表をセッション単位でまとめておくと、レオさんがメインで担当してくれている通訳のお仕事はやりやすいですよね[1] 。
角谷 「それはあるとは思いますが、通訳中心でプログラムを編成するのは本末転倒だと思います。今年だってレオが不在の英語セッションはあったし。そういうときは、他の英語ができるスタッフや会場の参加者がフォローしてくれてました。こういうのは素敵だな、と思います」
──スライドに日本語訳を載せてくれているものも多かったですよね。あれは助かりました。
角谷 「あれはスライド翻訳のボランティアを募集してお願いしたり、手が回らないところは実行委員がやってくれました」
──おお、そうでしたか!感謝ですね。
角谷 「今後は海外の発表者に日本人の発表の内容をもっと伝えられるようにもしていきたいです」
セッションについて
──RubyKaigi2009のセッションの内容はいかがでしょうか。
角谷 「RubyKaigiのセッションって、現場ではほとんど聞けないんですよね。毎年聞けるのは最後の基調講演ぐらい。それも聞けないスタッフもいますし。RubyKaigi参加してみたい! どのセッションを聞こうか迷ってみたい(笑) 」
──セッションを組む上では、どのようなことを意識されましたか。
角谷 「今年のプログラム編成で意識したのは、RubyKaigiが『日本Rubyの会』とつながっているプロジェクトだということです。るりま 、るびま 、Regional RubyKaigi とか、日本Rubyの会のプロジェクトの変化についての話を入れました。青木さんからの指摘の反省 を活かしたつもりです」
角谷 「実はプログラム委員長の笹田さん は、テーマが『変える/変わる』だということを忘れていた (笑) 。でも、まつもとさんと高橋さんがキーノートでテーマを意識した話をされたので、それが要になって全体がつながっていたと思います。さすが基調講演」
企画部屋
会場内には、自由に企画を行うことができる「企画部屋 」という場所だけが確保されていました。「 Kaigi」らしく、いくつかの会議が催されました。
田舎Ruby親方会議
「地方でRubyで仕事をしている個人事業者、または同じくらいの規模の法人経営者の情報交換の場」として「田舎Ruby親方会議」( Twitterのハッシュタグは#inakaoyakata )が開催されました。
──田舎Ruby親方会議は、ずいぶんと盛り上がったようですね。
角谷 「田舎Ruby親方会議は、参加者の満足度がすごく高かったようです。自分の心配事とか、想いを吐き出せたからですかね? Rubyでゴハン食べたいって人がどうやって自分の想いやスキルをお金にしていくのかを考える場を提供できたというのは運営側としてはとても嬉しいです」
島田 「ただ、こうした企画に参加される皆さんはセッションも聞きたいので、休憩時間に集まらざるをえない。そこはもっと工夫したいと思ってます。例えばOSC (オープンソースカンファレンス)は、休憩時間を長めに設定して人が自然にブースに流れるようにしてます。RubyKaigiでも、参加される皆さんがもっと自分たちの会議を開けるような工夫をしていきたい」
島田さん(左)と角谷さん(右)
Regional RubyKaigi会議
RubyKaigi2008の終了以後、日本全国の各地で開催されているRegional RubyKaigi に関する会議「Regional RubyKaigi会議」が開催されました。
──Regional RubyKaigi会議で、角谷さんが受け取ったものはなんでしょうか。
角谷 「とにかくそれぞれのRegional RubyKaigiに運営なり発表なりで関わった人が、全開催分集まったというのが感慨深い。私は関西Ruby会議01 以外はすべて参加したのですが、そこで感じた『同じRegional RubyKaigiと名前がついているけれども、それぞれ全然違う』ということを共有できたことがよかった。あと、『 去年はすごく盛り上ったけど、これからどうしていきましょう』という私の悩みを聞いてもらえたこともよかった。悩みもそれぞれ全然違うんですよね。特に、東京と東京以外とでは全然違う。地方ごとでの違いと、違いを踏まえたうえでRubyistとしてどうつながっていくかを考えるきっかけになったんじゃないかと思ってます」
──RubyKaigiがなかったら、こうやって集まることもできないわけで、RubyKaigiの『場所』としての役割は大きいですね。
角谷 「そうですね。そういう場として育ってきているというのは、すごく素敵だと思います」
参加者同士の交流
──セッションや企画部屋の他には、どんなRubyKaigiの楽しみ方があるでしょうか。
島田 「田舎Ruby親方会議みたいな『自分たちの会議』はどんどんやってほしい」
角谷 「似たような悩みや思いを抱えている人がいるかもしれない。そういう人と会って話せる場として活用してほしい。セッションやライトニングトークでの発表は、それをアピールする手段にしてほしいです。RubyKaigiとは別のイベントですけど、RejectKaigiはそういう場としてうまく活用されているように思います。ただ、RejectKaigiはそもそも本編からリジェクトされた人たちのためのイベントなので、まずはリジェクト覚悟でセッションやライトニングトークにどしどし応募してほしい(笑) 」
──企画部屋で行われるような議論をパネルにしてみてはいかがでしょうか。
角谷 「企画部屋でのセッションはどれも、ギャラリーが居ないところで自分たちの話を気兼ねなくできたというのが良かったんだと思います。そりゃあ、自分の言いたいことを言って自分の聞きたいことが聞けるんだから、参加者の満足度は高いのは当然ともいえますが。パネルディスカッションだと、どうしても見せ方を考えないといけないし、見応えのあるパネルって仕込みが重要なので準備も大変」
島田さん(左)と角谷さん(右)( 2)
海外Rubyistからのメッセージ
──角谷さんと言えば、RubyKaigiの度に、海外Rubyistからメッセージをもらって大事にしていますよね。今年は、誰から、どういった言葉をもらいましたか。
角谷 「直接もらったわけじゃないんですけど、私のRubyConfでの宣伝を見てドイツから来てくれたDanielさん の発表の質疑応答が印象に殘ってます。『 ドイツにいて、Rubyのどういった情報がほしいですか』という会場からの質問に対して、Danielさんがこう答えたんですね。『 Where are WE going?』と。ああ、youじゃなくてweなんだ、『 ぼくらRubyist』なんだ、と。また彼は『ドイツからは日本の状況が見えないんで、svn upしたら突然大きな変更があったりしてビックリするんだけど、日本人は大丈夫なんでしょ?』と会場に訊いていたのですが、それに対する会場からの回答は『日本人も大体同じ状況です』と(笑) 」
「RubyKaigi」とは何か
──さて、ここから大きな話をしていきたいと思います。RubyKaigiとは、一言で言うとなんなのでしょうか。
角谷 「難しいこと聞きますね(笑)……まだ一言で言えません」
1年に1回のお祭り
──RubyKaigiは、世界中のRubyistたちにとっての、1年に1回のお祭りのようなものかもしれませんね。
角谷 「たしかに、ひとことで言えばお祭りなのかも。私は人と人が直接会って話すことに価値があると思ってます。RubyKaigi2008の参加者からのフィードバックに、Ustream中継の品質が高かったこともあって『いずれ会場に行かなくても十分に楽しめるようになるんじゃないか』という意見がありました。だけど、今年のRubyKaigiを終えてみて、そんなことはないと確信しました。誤解を恐れず言えば、セッションを聞いているだけの人は素人なわけですよ。セッション以外の場所で、誰と話したとか、知り合いが増えたとか、アイデアを交換したとか、そういったことに価値があるはず。日本のカンファレンスでよくある光景として、セッションが始まると、ロビーや廊下に誰もいない、というのがあります。RubyKaigiもそうでした。これがたとえばRubyConfだと、最終日の午後なんかは下手をすると廊下にやたらと人がいるんですよね。まだ休憩時間なのかと思ったら実はセッションが始まっている。カンファレンスでしか会えない人と議論したりハックするのが当り前。RubyKaigiもああいう風になったらいいな、と思ってます」
──なるほど。じゃあこのイベント自体に、そういったコミュニケーションが発生しやすいような仕掛けを用意していたのでしょうか。例えば初日の懇親会のときに配布された色紙とか[2] 。
角谷 「懇親会で色紙を配ったのは高井さん の発案です。『 シャイな人でも誰かに話しかけるきっかけをつくれるように』と。そのときに実行委員のあいだで『まつもとさんや高橋さんみたいな有名人は、サインを求められるばかりでゴハンを食べられないんじゃないか』という意見が出たのですが、『 懇親会でゴハンを食べられると思うのは素人。懇親会では懇親しろ!』という結論になりました」
[2] 懇親会の参加者全員に色紙が配られ、著名人に気軽にサインを求めたり、参加者同士で名前を交換したり、コミュニケーションを円滑化する仕掛けがありました。自分の色紙に最も多くの名前を集めた参加者には、景品も贈られました。
RubyKaigi暦
──角谷さんの「地域Ruby会議の報告」セッションの中であった「RubyKaigi暦」というのが、なるほどなぁと思いました。「 今日からまた1年が始まるんだ」と、みんなで思う場所がRubyKaigiということなのでしょうか。
角谷 「セッションではただの小ネタのつもりだったのですが、それは良い解釈ですね(笑) 」
──でもRubyKaigiがなかったら、こういったオープンな世界で、みんなでひとつの話をしたり、同じときに同じものを見たりするタイミングはないじゃないですか。RubyKaigiに向けて、何かひとつ完成させよう、とか。
角谷 「そうですね。『 RubyKaigiだからリリースしよう』と、RubyKaigiを意識してもらえるのはとても嬉しいです」
――発表以外のtDiary会議とか、Regional RubyKaigi会議もそうですよね。みんなで集まるから実現できる。そういった意味で「RubyKaigi暦」って言葉を使っているのだとしたら、とても味わい深いです。
角谷 「よくRubyKaigiのことを理解していらっしゃる(笑) 」
島田 「僕にとってRubyKaigiは、1年間Rubyを使ってきて『ありがとう』という場なんですよ。コミッタやライブラリ作者のみなさんに対して、普段Rubyに貢献できないけど、RubyKaigiを通して精一杯、感謝の気持ちを伝える。Rubyをつくっている人たちと、Rubyをつかっている人たちが、1つの場所に集う、1年に1回だけのイベントですから」
実行委員・スタッフのありかた
──会期中の出来事で、印象に残っていることはありますか。
角谷 「個人的な話になりますが、自分が困っているということを打ち明けて、みんなに助けてもらえたことが強く印象に殘っています。最終日の朝会で、『 悪いニュースがあります。僕のスライドができていません。助けて』と言ったら、本当にみんなが助けてくれた。発表の準備が終わるまで、全体のオペレーションをみんなに肩代りしてもらいました」
──助けてもらえた、というのは、4年目だからできたことだと思いますか。
角谷 「そういう面はなくもないですが、今年はじめて運営に参加したスタッフもいるので。4年目だからというかRubyKaigi2009の3日目だったからかな、と思います」
──RubyKaigiのスタッフは、継続的に同じメンバーが担当しているわけではないのですね。
角谷 「個人的にはRubyKaigiの運営というのは良い経験になると思うので、これまでRubyKaigiを経験したことがない人にも経験してもらいたい。それに、運営に携る人の新陳代謝はあったほうが健全だと思います。だから、ある程度はメンバーが入れ替わっていくのが望ましい。これは当日スタッフに限らず、実行委員もです。高橋さんの基調講演ではないですが、私もいずれ新陳代謝されるべきだと思います。もうそろそろいいんじゃない? 島田さん、どう?」
島田 「まだいいです(笑) 」
角谷 「じゃあ引き取ってもらえるようにもっと精進します :(」
──先ほども話に出ていた「朝会」は、会期中は毎日開かれるそうですが、どのような指示を出されるのですか。
角谷 「具体的な連絡事項以外だと、『 今年のRubyKaigiはまだ誰もやったことないから大丈夫だ』『 とにかくNiceにしてればなんとかなる』『 ちゃんと挨拶しましょう』それぐらいかなあ」
島田 「行動規範として『Niceであれ』というのは大きくて、いちいち承認を取って行動しなくてもよいんですよね。それはすごく心強いです」
角谷 「まあ、私たちが参加者の皆さんに対して直接できることって挨拶ぐらいなので。だったらまずはそれをちゃんとやろう、と」
島田 「ぼくはRubyKaigiの中で最もNiceなのは当日スタッフだと思っています。場をいきいきさせようとすると当事者たちがいきいきしてくるという相関関係があって、参加者も場に感化されてくるんだと思います」
──「 Niceなエピソード」があればぜひお聞かせください。
島田 「参加者がすぐにフィードバックを残せるようにと、高橋さんの基調講演中に、講堂を出てすぐのところにふりかえりボードを準備していたんです。そうしたら、お願いしなくても他のスタッフがペンを使いやすいように配置し直していたりして。よくしようというのを各自が勝手にやっている。みんなが同じものを共有してるから、全体としてひとつのものができあがっている。すごいよかった。細かい話ではあるんですが『これだよなあ』と思いました」
──それはNiceですね! スタッフのひとりひとりがNiceであり、Niceなチームができあがるということでしょうか。
島田 「RubyKaigiをやると、みんなできると思うんですよ。みんなできるはずなんだけど、でも会社で上手く行かないのはなぜだろうと思い返す。RubyKaigiには、そんなことを思い返すきっかけを与える役割があるんです。一個の価値観をおしつけて持ち帰らせる場所じゃなくて、それぞれがもっているモチベーションを思い出してもらうための装置なんです」
インタビューアーの大和田さん (右) 、白土さん (左)
Ruby、日本Rubyの会、RubyKaigi
──「 Ruby」につながる入口としての「RubyKaigi」の役割も大きいですよね。
角谷 「個人的には、Ruby本体の開発をしていたり、ライブラリをつくっていたりとRubyを良くしていくことに直接貢献できていない人が、なにかしら恩返しできる場所があってもいいと思っていて……というのは私のことなんですが。今までがちょっとそういう場が無さすぎたんじゃないかと」
──Ruby界で、ということでしょうか。
角谷 「はい。参加者の方の感想 にもありましたが、RubyKaigiの一般参加者は『GUEST』とか『VISITOR』じゃなくて『ATTENDEE』だから、みんなに会議の参加者でいてほしい。単に『RubyKaigiがあってよかった』ではなくて、自分にも何かできたらいいなと思ってもらえると嬉しい。Rubyに対してできることって、RubyKaigiのようなイベントだけじゃなくて、るりまのドキュメントやるびまの記事とか、他にもみんながやれることはいっぱいあると思います。RubyKaigiがそういうことを始めるきっかけになればとても素敵だと思います」
──以前インタビュー記事の中で「すごくなくてもやれることはどこにでもいっぱいあるんじゃないですかね」と言及されていたことが、とても印象に残っています。Yuguiさん もRubyKaigi2009でそういうことを話されていました。
角谷 「まあでも、Yuguiさんはすごいから(笑) コードとコードで殴りあう世界の住人だから(笑) 実際にすごくなくてもやれることはいっぱいありますよ。私だって声でかいだけのRuby厨だから……。でもまあ、Ruby厨だって突き詰めればキャラとして成立するんだな、と」
──角谷さんご自身にとっても、RubyKaigiは「Rubyに貢献できる場所」の代表格なんですね。
角谷 「そうですね。『 私にはこれしかないから。これに乗るしかないから』(笑) といった感じで。高橋さんと笹田さんはまた違う目的があるんじゃないかな。それぞれ違う風景を見ている気がする。どんな風景なのかは直接訊いてみないとわからないんですけど」
──三者三様に、それぞれの思うRubyKaigiがあると。
角谷 「私の場合は、最初のRubyKaigiの頃にはまだ、Rubyのイベントの運営をやりたいと感極まって押し掛けてくる人が少なかった。タイミング的にたまたまそこが空いてたので、RubyKaigi2006 以来、RubyKaigiを自分の居場所として居座っている。これが個人的な執着にならないように気をつけたいとは思ってます。『 ぼくが一番RubyKaigiをうまく運営できるんだ!』みたいになっちゃいけないなと」
Regional RubyKaigi
──RubyKaigi本体もそうですが、Regional RubyKaigi も盛り上がっていますよね。これらのイベントを入口として、Rubyにつながろうとする人が増えていると思います。
角谷 「自分で煽ったのではありますが、我ながらよく釣れたな、と(笑) 。想定していた以上に開催されました。東京を入れて4開催ぐらいできれば上出来かな、と思っていたのですが、実際には1年で8開催。大漁ですね。ただ、これはRegional RubyKaigi会議でも話したのですが、『 多様であること』と『バラバラである』とは違うと思っています。それぞれの思いを大切にしながらも、もう少し大きな『Rubyのコミュニティ』とのつながりを持たせていきたい。といっても『Rubyコミュニティ』というモノ、実体があるわけではないのですが」
──8回の開催すべて、それぞれが別々の、多様な「RubyKaigi」なんですね。
角谷 「それぞれ別々の思いや目的をもっているんだけれども、それでもどこかでつながっているような状態というのは実現できるのか。高橋さんはRegional RubyKaigi会議で『日本Rubyの会が、日本のRubyistに対してなんらかのメリットを提示できるかどうか』がRubyKaigiだと言ったんですが、そこを保ちつづけられるのかどうか。RubyKaigi暦がひとめぐりした後のこれからが正念場だと思います」
RubyKaigiの「これから」
──来年のRubyKaigi2010は、どのようなものになるのでしょうか。
角谷 「来年は……どうなるんだろう。実行委員長としての高橋さんからの趣意書次第かな。やる/やらないでいえばやりますよ。RubyKaigi2009のチケットも結局、すぐに売り切れちゃったので、規模は大きくするんじゃないかと思います。そのうえで続けられるようにするための仕組みも常に考えていきます」
──「 来年もやります」と、クロージングのときに高橋さんが宣言するようになったのも、継続する意志の現れでしょうか。
角谷 「そうですね。高橋さんから来年の話が出たのはこれで2年連続なので、今後はもう毎年あると思っていいんじゃないでしょうか。運営形態や規模はともかくとして、『 Rubyistの、Rubyistによる、Rubyistとそうでない人のための場』はあったほうがいいと思いますし」
「終わってみるべき」に対して
Ruby1.8系のリリースマネージャである卜部さん が書かれたエントリ「あえて言うがRuby会議はそろそろ一回終わってみるべき。 」は、Rubyやそのまわりのコミュニティに衝撃を与えたように思います。この意見に対してどのように感じているのかを尋ねてみました。
──「 品質が過剰」であると述べられていることに対しては、どう思われますか。
角谷 「まだまだやれていない部分がたくさんありますよ :)」
──「 RubyKaigiで燃え尽きてる場合じゃないはず」とも言及されています。
角谷 「少なくとも私に関しては、Ruby厨として『ここが私の居場所だから』という感じなので、燃え尽きるべき人が燃え尽きている分にはいいんじゃないかと。たとえばこれが『RubyKaigiが原因で笹田さんがRubyの開発を進められていない』だとまずい。事実、最初のRubyKaigi2006では笹田さんに負担が集中して大変だった。あれを繰り返してはいけない。コードを書ける人はコードを書くべきだし、話せることがある人は発表すべきだと思ってます。まあ、でも『燃え尽き』についても以前よりは軽症になってるんじゃないかと思います。それでも、卜部さんの発言の意図が私や島田さんのような実行委員に対して"お前らにはもっとほかにやるべきことあるんじゃないか"ということなのであれば、それは叱咤激励の言葉として受け止めたい」
──「 RubyKaigiってキモくない?」という発言についてはどうでしょう。
角谷 「よくよく見れば、発表してる人で『愛』とか傍目にキモいこと言ってるのはごくごく一部じゃないですかね? そういう意味で私はアウトだと思いますけど、年にいっぺんぐらい、自分が好きなものを堂々と好きだと言わせてくれたっていいじゃないですか(笑) 」
──熱しやすく冷めやすいのは危険であるとも。
角谷 「4年を長いとみるか短いとみるかは視点によると思いますが、運営側としては熱くなってもなければ冷たくなってもないと思います。参加者にとってどう見えているのかはわかりませんが」
──また、「 毎年『薄氷を踏み抜くような』とか言いながら続けるのはもうやめようよ」と言及されています。
角谷 「粛々とRuby 1.8メンテをされている卜部さんに言われては返す言葉もないです。うっかり『しんどい』とか言っちゃうからダメなんだよな。でも心理的なプレッシャーはどうしてもあるわけで……世界中から700人のRubyistが集まってるイベントを運営するとか考えるとしんどい(笑) ああ、また言ってしまった。ただただしさん からは『そのスリルがたまらないんだろう?』と言われました。まあ確かに、多少はそういう面もあるかもしれない。スタッフの打ち上げでは誰かから『お前らはRubyKaigiから逃げられない』とも言われましたし……まあ、なんだかんだ言いつつも、本心としてRubyKaigiは続いてほしい。幸い、手伝ってくれる仲間も増えてきましたし、これからもやっていけると思います」
「変えない」ために「変える」
──高橋さんは基調講演で、日本Rubyの会をどう変えるかについて話されました。角谷さんはあの基調講演をどのように受け止められたのでしょうか。
角谷 「変わらないためには何を変えなければいけないか。Rubyの『たのしさ』を維持していくためには何を変えなければいけないか。それが基調講演の問いのひとつだと思いました。Rubyコミュニティに関する話でいえば『高橋征義なしに、高橋征義的な活動は可能なのか』と。一方でその場で『会長を辞めます』とは言わないのが興味深いですね。本人が生前葬してるみたいな不思議な時間でした。それにしても、あの基調講演に感銘を受けてる私とか島田さんみたいなRuby厨の人たちというのは何なんだろうな。こんなだから『キモい』とか言われるんだよな……。同じLL系のイベントにしても、YAPC::Asiaなんかはスマートですよね。自分たちの技術との距離のとり方や、戯れ方をよく知っているように見える」
島田 「ぼくらというか、ぼくは……」
角谷 「我々は……なんか泥臭いよね(笑) だから憧れはあります。最初のRubyKaigi2006にとってYAPC::Asia は偉大なお手本でした。もちろん今でもいろいろと参考にさせてもらってます。なので、去年miyagawaさん に『Ruby(Kaigi)はキーノートができる日本人が豊富でうらやましい 』とTwitterに書かれたときは嬉しかったです」
RubyKaigiの「継続」
──高橋さんの基調講演では、日本Rubyの会を継続するために変えようという意思を感じました。RubyKaigiの運営委員長として、RubyKaigiを「続ける」ことについて、どのような思いがありますか。
角谷 「いまRubyKaigiは、過去に4回開催したことが実績になって、日本のRubyistが全国から集まる口実になってきている。RubyKaigi2009の感触だと、海外のRubyistが日本にやってくる入口にもなれそう。RubyKaigiが続いていけば、いずれは日本のRubyistが海外に出ていくきっかけにもなれるかもしれない。とはいえ、実際にRubyKaigiがどこに行くのかはわかりませんが、RubyKaigiという場が回数と年月を重ねてなお『日本でもこういう感じのRuby Conferenceをやりたいねえ 』という最初の思いを持ち続けられるのか。規模とか体制の話も大事なのですが、そもそもの話として、Ruby界の豊かさがあってこそのRubyKaigiなので、そこは絶対に見失わないようにしたい。言い方を変えれば、RubyKaigiはRubyの豊かさに何らかのかたちで貢献できる場であり続けてほしい。そのためにやれること、やらなければいけないことはたくさんあるし、もっと色んな人たちに手伝ってもらえるような枠組みを考えていきたい」
──これからのRubyKaigiも楽しみです!ありがとうございました。
長時間にわたり、インタビューさせていただきました。ありがとうございました!