9月14日~16日に開催される札幌Ruby会議。その見どころを紹介する事前特集の第2回目は、1日目のセッション内容と、会期中に開催されるアンカンファレンスである「ぬRubyKaigi」について紹介します。
セッション紹介 1日目
"Heroku" - 相澤歩
Webアプリケーションのホスティングサービス「Heroku」(へろく)のエヴァンジェリストで、Rubyコミッターでもある相澤歩さんの発表です。
このセッションではHerokuの特長が説明される予定です。Herokuとは、Rubyを含む多数の言語に対応したWebアプリケーションのホスティングサービスであり、RubyについてはRackに対応しています。このためRuby on Rails・Merb・Sinatraなど、様々なフレームワークによって作られたアプリケーションを動かすことができます。
Herokuの特長として、クラウド上で運用されることが挙げられます。このため、サーバを管理する手間を省けることはもちろん、サーバのハードウェアリソースの追加・変更なども容易にできます。またこれにより、開発者がアプリケーションの開発そのものに注力できるというメリットもあるとのことです。
RubyでWebアプリケーションを作って動かしたい方はもちろん、そのための実行環境を作ることについてもっと深く知りたい方にとって、興味深い話が聞けることでしょう。
"RubyやLinux対応を積極的に進めるマイクロソフトのオープンソース<3(LOVE)戦略" - 平野和順
日本マイクロソフト株式会社にて、クラウドプラットフォーム推進担当をされている平野和順さんの発表です。
プロプライエタリなOSを販売しているマイクロソフトがオープンソース対応を推進しているというのは意外に感じる方もいるかもしれません。しかしマイクロソフト株式会社のクラウドプラットフォームであるWindows Azureでは、Linuxやnode.jsをサポートするなどオープンソースの対応に積極的に取り組まれており、RubyのキラーアプリケーションであるRuby on Railsも使用することができます。
本セッションでは、マイクロソフト株式会社のクラウド戦略とともに、Widnows Azureの最新情報および、最適化されたRuby実行環境の「能楽堂」をご紹介いただきます。Windows×クラウドそしてRubyの繋がりを見ることができる、非常に興味深いセッションになるのではないでしょうか。
"ふつうのソーシャルコーディング" - 高橋健一
3番目は、永和システムマネジメントの高橋健一さんによる「ふつうのソーシャルコーディング」です。永和システムマネジメントでは普段の受託開発プロジェクトにおいて積極的にアジャイルな開発を実践しているそうです。
2010年の日本Ruby会議では、永和システムマネジメントの開発スタイルが「Head First ふつうのシステム開発」(スライド)と題して発表されています。
今回は、以前の発表で紹介されたPivotal trackerやIRCに加えて、ここ2年間でより身近な存在となったGitHubを用いたソーシャルコーディングやHerokuなどのサービスを組み合わせた、永和システムマネジメントの受託開発プロジェクトにおける「ふつうのシステム開発」の姿をご紹介いただきます。
「受託開発プロジェクト」と「ソーシャルコーディング」とは結びつきにくいイメージがありますが、どのように活用されているのでしょうか。受託開発を行なっている方、もっといきいきとした開発をしたい方にとって非常に参考になるセッションになるはずです。
"クックパッドのつくりかた" - 井原正博
レシピサイトとして有名なクックパッドは、国内最大規模のRuby on Railsサイトであることも知られており、多くの優秀なRubyistが働いています。そのクックパッドの人事部副部長兼エンジニア統括マネージャーである井原正博氏による「クックパッドのつくりかた」は開発を裏側で支えるための組織づくりに関する考え方や、数々の取り組みをご紹介いただきます。技術やコミュニティの話とは方向性が異なる点で注目です。
井原氏は、数ヶ月前まで技術開発部長として、クックパッドの技術を統括する立場でした。しかしながら、現在は技術の最前線から少しだけ離れ、人事部でエンジニアをサポートする立場にあります。
技術的なことが好きでエンジニアになった人にとって、組織作りの手法や取り組みを積極的に知る機会はあまりないかもしれません。クックパッドは、優秀なRubyistが集まる組織をどのように作り上げているのか、そのレシピは要チェックです。
"料理を支える技術 2012" - 舘野祐一
舘野祐一さんは、元はてなブックマークのリードプログラマ・ディレクターで、現在ではクックパッドの技術部長です。
クックパッドといえば、お料理レシピのサイトで有名であり、月間利用者数は何と1,500万人を超えているとのことです。今回の発表では、それだけの大規模サイトの裏事情をご紹介いただきます。
セッションでは、大規模システムの開発や運用、Ruby on Rails 2.3から3系への移行、大規模ならではの苦労話やプログラミングコードのメンテナンスについても話を聞けることでしょう。
舘野さんのブログには、大規模WebサービスのロギングやRails3への移行での苦労話が掲載されています。こちらも必見です。
"Sqale の裏側" - 宮下剛輔
宮下剛輔さんは北海道根室市生まれでドクターペッパーが大好きなエンジニアです。Paperboy&Co.社に勤務する一方、5人のお子さんを育てながら、大学で情報工学を学んでいる大学生でもあります。YAPC::Asia等、プログラミング言語・Perlのイベントでも発表を行っています。
開発したWebサービスを公開する際、自分でハードウェアやOSを調達しなくても稼働に必要なソフトウェアがあらかじめ導入されているサーバ環境をレンタルするということも、ここ近年珍しいことではなくなってきました。
そんなPaas(Platform as a searvice)のうち、Ruby on RailsやSinatraなどのRackアプリケーションにも対応しているサービスがPaperboy&Co.社が提供する「Sqale」です。2012年8月22日に正式版がリリースされたばかりのサービスです。
「Sqaleの裏側」と題された今回のセッションでは、Sqaleのサーバ構成や利用しているミドルウェア等、Sqaleの裏側で利用している様々な技術に関して発表を行っていただきます。
"Scaling in the unknown, how GitHub develops, ships and supports GitHub Enterprise." - David Calavera
ソースコードなどをgitベースでホスティングするサービス「GitHub」の開発者であるDavid Calaveraさんの発表です。また氏はJRuby関連に強く、Rack向けのウェブアプリケーションをApache Tomcat上で動かすためのツール「Trinidad」などを公開しています。
このセッションでは、サーバ等のインフラを拡大すること(スケールアップ)に比べるとあまり議論されない、逆の事象「スケールダウン」を扱います。
GitHubには有料のenterprise版があり、これを用いることで、ユーザで用意したサーバにGitHubのシステムを導入することができます。しかしこれはすなわち、システムを稼動させるサーバの性能が低かったり、稼動させるサーバが変わる可能性があることを意味します。
この問題に対し、サーバの性能が低くてもGitHubが持っている機能をいかに維持するかといった話や、どのようにユーザが用意したサーバ・インフラにこのGitHubのシステムを導入するかといった話をご紹介いただきます。
"Ruby + iOS = Super awesome!" - 増井雄一郎
「Titanium Mobile」の開発元として有名なAppcelerator,Inc.にてPlatform Evangelist(プラットフォーム・エバンジェリスト)として活躍されている増井雄一郎さんの発表です。
増井さんはRubyを用いてiPhoneアプリを開発することのできる「MobiRuby」の開発者で、今回は「MobiRuby」を使ったiPhoneアプリの作成方法と「MobiRuby」の仕組みをご紹介いただきます。
これまでも「RubyMotion」や「Rhodes」といった Ruby言語でiPhoneアプリを開発できるフレームワークはいくつか存在していますが、「MobiRuby」はそれらと比べてどのような点で異なるのか、また「MobiRuby」はiPhone開発者にどのようなインパクトを与えるのかなど、iPhoneアプリをRubyで開発したいRubyistにとっては非常に興味深い発表ですね。
"Release Early and Release Often: Reducing deployment friction" - Josh Lane
Engine YardでRubyプログラマとして働いているJosh Laneさんによる発表です。
JoshさんはWebアプリケーションの開発とその自動化テストを専門にしており、このセッションではEngine Yardでのテストやデプロイの自動化を中心とした継続的デリバリー手法を紹介いただきます。具体的にはEngine Yardで提供している"Engine Yard Cloud"というPaaSサービスにおいて、円滑で頻繁なリリースを実現するために、どのようにテストやデプロイといったプロセスを自動化しているのかについて取り上げられるでしょう。
Engine Yard社での継続的デリバリー手法の実例ということで、少し突っ込んだ話やノウハウが聞けるかもしれません。自動化手法やリリースプロセスの改善に興味のある方にとっては特に気になる話になりそうですね。
"Ruboto - Ruby on Android" - Saurabh Bhatia
インドでSafew LabsのCEOをされている、Saurabh Bhatiaさんの発表です。
Bhatiaさんは、Ruby Users Group Bangaloreの設立者であり、Mumbai Ruby Users Groupや、Openstack India、Ubuntu Indiaなどにも参加しています。
今回のセッションではRubotoというAndroid上でRubyを動かす環境を取り上げます。Rubotoの紹介と、Rubotoを使ったAndroidアプリの開発方法がメインの話題となるでしょう。
なお、今回はAndroidのアプリに関わる発表ですが、Rails Conf Brasil 2011で発表された、HTML5 websockets and Railsについても気になるところです。
ぬRubyKaigi
ぬRubyKaigiは、参加者が主催してひらくイベントを集めたアンカンファレンス形式のイベントです。コンセプトは「ぬるく、気楽に!」ということで本編とはかなり雰囲気の異なるものになりそうです。
開催期間は2日目から3日目の昼過ぎまで、会場はなんと4部屋を開放して開催する予定とのことです。アンカンファレンス形式ですが、プレゼンに限らず勉強会やペアプロ、ustの視聴などでも開催可能となっており、1コマ30分を自由に使えます。
プレゼンテーションやLTの選考から惜しくも漏れた方、ぬるく語りたいことがある方、試しにやってみたいことがある方などは、気軽に自分の会議を開催できる絶好の場です。参加を検討してみてはいかがでしょうか。
次回予定
次回は2日目のセッションとLTの紹介を行う予定です。お楽しみに!