shibuya meets techレポート

#2"意思を持ったデザイン"で社会を変える─中川直樹氏

6月5日に開催されたshibuya meets tech 2は、株式会社アンティー・ファクトリーの中川直樹氏をゲストに招き、クリエイターがクライアントとユーザそれぞれに持つ課題をどのようなデザインで解決していくべきなのか、クリエイターの視点で包括的に考察しました。

参加者に「今日はTipsをメモするのではなく、クリエイターがどんな仕事をするべきなのか一緒に頭を働かせて考えてほしい。」と伝え、中川氏の講演がスタートします。

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「人の心を動かすコミュニケーション」をデザインする

「デザインを構成する要素は色と線と文字(と写真)しかなく、デザイナーの王道は今も昔も変わらない。」

と、講演を切り出した中川氏。

インターネット黎明期から15年間Web制作に携わった自身の経験を紹介した上で、HTML5やCSS3、レスポンシブデザインなどテクノロジーのトレンドと身につけるべきTIPSは日々変化するものの、デザインの領域では色、線、フォントが不変の基本要素であり、これだけ押さえておけばデザインは、ピカソの名画やモーツァルトの名曲と同じく永遠に残ると続けました。

次に、Microsoftのフューチャービジョンを観ながら、

「デザインの目的は『人の心を動かすコミュニケーション⁠⁠。Webはそれを実現するためのツールです。」

とデザインの肝要を述べます。

ムービーに登場するデバイスや表現は遠い未来の話に感じるけれど、私たちがこうしたデバイスを手に取る未来は近づいています。

しかし、デバイスや表現手法が新しくなってもコンテンツを構成しているのは基本的に色、線、文字であり、様々なメタファーを詰め込んだインフォグラフィックであると繰り返しました。

こうした時代に、クリエイターが学ぶべきことは「かっこいいデザインとは何なのか?」という審美眼と、それに付随するテクノロジー。また仮に自身が全て実装できなくても、それを実装できる人とコミュニケーションをとりながら一緒に仕事ができればデザイナーとしてやっていける、とデザイナー自身のコミュニケーション力の大切さについても触れました。

Webを取り巻く環境に目を向ける

デジタルデバイスが出揃ってきた昨今、あと一息足りないのはテレビや冷蔵庫に代表されるスマート家電。たとえば誰もが必ず1日一度は触る冷蔵庫は、スマート家電としてコミュニケーションや生活機能(家電操作やインフォメーション)のハブになり得ます。あるいは、掲示板と置き換わって設置してあるタッチパネルや、クラウドと連携したスマートカーなど、デバイスは多様化しています。

中川氏は、広告代理店や建築業者、システム会社などクライアントから新しいデバイスや表現を求める声が挙れば、Web制作の仕事もシフトしてくると展望しました。

また、ユーザも変化すると言います。

1988年以降に生まれたデジタルネイティブ世代はWebに対して新しい価値観、感覚を持っている。たとえば、彼らポスターやパネルなど平面上に描画されたをボタンを見て極めて自然にその機能を理解して操作します。デジタルネイティブ以前の世代のように「ボタンは物理的な出っ張りを押すモノ」という先入観やセオリーを持っていない。もっと若い、生まれたときからiPadがある世代はキーボード操作よりもタッチパネル操作にこそ馴染んでいます。

そういったクライアント、ユーザが多くなりつつあることを認識しなければいけないと述べた上で、デザイナーの仕事については

「しかし、デバイスが変わってもコンテンツは基本的に現存の機能を組み合わせるだけであって、インターフェースの設計自体はPCやスマートフォンと変わらない。デザイナーは潮流に取り残されないよう、10年後、20年後を見据えてWebを取り巻く情報や環境、インターフェースの変化を敏感にキャッチアップしておくことが大切。」

とまとめました。

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また、中川氏はWebを取り巻く環境に注目すべきと先に述べた上で、続けていくつかキーワードを挙げながら、新しい潮流を紹介しました。

モバイルファースト

スマートフォンの急速な普及状況を考えると、PCに先立ってスマートフォンのコンテンツを作ることが重要となります。

実装において、フィーチャーフォンでは限られた表示面積と表示速度に合わせて極力無駄を省いたシンプルなUIが大切でしたが、スマートフォンでは認知工学や行動学に基づいた操作感(ピンチ、スライド、ローンチ)が何よりも大切です。

ゲーミフィケーション

これから、全ての情報接触はエンターテイメントになります。日々、膨大な情報に接触して取捨選択しなければいけない現代では、ゲーム感覚で楽しみながら情報を消費できることが大切です。

2000年~2010年は人と人がつながるソーシャルメディアの時代でしたが、これからの10年は生活の中にゲーム性を取り入れて、人々が互いに影響を与え合う時代となります。

SOLOMO

Social×Local×Mobile。

ユーザの行動に対してプッシュ型で情報を作っていきたい企業のニーズがあり、これに対してクリエイティブの提案をできるデザイナーは生残れるでしょう。

デジタルサイネージ

たとえばロンドンオリンピックで設置されるスマートゴミ箱(デジタルサイネージが埋め込まれたゴミ箱)のコンテンツを作るのはデザイナーです。デジタルサイネージの中を走るプロトコルはhttpだし、コンテンツはWeb技術で実装されているのですから。

社会が変わっていく中でデザイナーの仕事はどう変わっていくのかを常に考え、自分の仕事の幅を広く持つ感覚がとても大事であると参加者へ強く訴えました。

これからのデザイナーは「ブランド」を考えるべき

制作ツールが充実し、普遍的なデザインのセオリーやスタンダードが広く知られたことで、誰でもそれなりに見栄えするWebサイトを作れるようになりました。

一方で、似たデザイン、レイアウトのWebサイトが溢れています。それでも情報伝達には申し分ありませんが、ブランドは伝わりません。だから、デザイナーにはブランドについても考えて欲しい、と現状を鑑みる中川氏。

いま企業は、かつてのような作りきりのWebサイトではなく、運用しながらアクセス効率を上げるためにレイアウトを変えたり、ファンをロイヤル化する仕掛けを展開できる柔軟なWebサイトを持ち、長期間のコミュニケーションによってブランディングをしたいと考えています。

特に、スマートフォンやタブレットだとコミュニケーションに必要最小限の情報だけを伝えるシーンが増えてきます。そういう状況で注目したいのがインフォグラフィクス。さらに単純に情報を整理してビジュアルで伝えるだけではなく、ブランド感も加えてコミュニケーションを作っていくことがデザイナーには求められているとします。

そして、そういった表現力を往年のグラフィックデザイナーから学ぶべきだと、米国のグラフィックデザイナー・Saul Bassの手掛けた企業ロゴやデザインを紹介しながら語りました。

「webデザイナーからみるとグラフィックデザイナーのデザインはインタラクティブ性に欠けると感じることが多々ありますが、ブランドを際立たせるビジュアルを作る必要がある今だからこそ、精緻なグラフィックや美しい文字の置き方などへの拘りを持つ必要があります。」

最後に

デザイナーの未来を展望してきた中川氏は、最後に「ユニバーサルデザインの7原則」⁠ピーターラムズの10原則」⁠人間中心設計」といったコンセプトを引き合いに出しながら、

「クリエイターは『webシステムを作る』という感覚ではなく『家電を作る』という感覚を持つ事が大切。つまり、ソフトウェア思考ではなくヒューマンウェア思考を持たなければならないという事です。プログラムを組み合わせて何が作れるのかを考えるのではなく、⁠生活の中で何が必要か?』という発想で世の中の機能を組み合わせてコンテンツ作りをしていくべきなのです。

また、ユーザが求めているのはかっこいいインターフェースではなく、感動できるコンテンツそのもの。だからデザイナーは『本当にすばらしいデザインは目に見えない』ということを頭においてストレスを与えないインタフェースをつくるよう心がけましょう。」

と述べた上で、

「⁠⁠着眼大局着手小局⁠⁠。日々の仕事は目の前の案件をデザインしたりコーディングすることだけれども、未来を明るく考えながら仕事していきましょう。」

と、セミナーを締めくくりました。

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