同じサービスやプロダクトを手掛けていながらも、コミュニケーションの齟齬や連携不足、知識・経験のギャップから時にすれ違ってしまうディレクターとデベロッパ。
6月8日に開催されたshibuya meets techでは株式会社ミクシィの鈴木理恵子氏と株式会社バスキュールの西村真里子氏をゲストに招いて、「どうすればお互いに100%の力を発揮し合えるのか?」という普遍のテーマに挑戦します。
ディレクターとデベロッパの連携
最初のテーマはディレクターとデベロッパの連携について。
クライアントとの打ち合わせで盛り上がったディレクターが案件を持ち帰ってきたはいいものの、それを見て思わず開発側がストップをかける、などというエピソードはよく挙げられますが、こうした行き違いはどう回避したらいいのでしょうか。
鈴木氏はコミュニケーションと情報共有の大切さを述べます。「チームごとに取り組み方が違うミクシィですが、どのチームも基本的に密なコミュニケーションを大切にしていて、開発と企画が毎日ミーティングをして進捗を共有しています。」
これに賛同する西村氏。「バスキュールもコミュニケーションを大切にして仕事を進めています。東京オフィスはフラットでワンフロアにみんながいるので常にコミュニケーションが取れるようになっています。どんなに蜜にコミュニケーション取っていても、「やっぱりやり直し!」など手戻りも発生しますが、チーム全員が納得して進めていけるように出来る限り心がけています。 そして、モノ作りをする人の『自分の意見をサービスに反映させたい』という気持ちをできるだけ表に出すようにもしたいと考えています。」
さらにテーマを深堀して、日常発生するディレクターからデベロッパへの指示・依頼についても気をつけないといけない、と鈴木氏は加えます。
「ディレクターから『ちょっと修正してよ』と軽いノリで指示を出される時があります。でも、画面上は簡単な処理に見えていて、実は裏側の仕組みを変えなければならない『ちょっと』では済まないケースもあるんです。」
西村氏も自身の経験を振り返ります。「そのケースはよくあります。ディレクターもシステム部分を知っていないと、すぐ対応できる修正なのか、工数のかかる修正なのかが判断できないんです。」
「『対応してほしい』と依頼するだけではなく、どのくらい工数のかかる作業なのかをちゃんと聞いてスケジューリングを心がけたい」と、コミュニケーション不足から発生する作業見積もりのトラブルについて注意を促しました。
コミュニケーションを円滑にするもの
コミュニケーションは二人の現場に共通して大切な要素だと話し合った上で、コミュニケーションを円滑に進める考え方や手段についても意見を交わします。
西村氏は、ビジュアル資料を持ち寄りながら共通の認識を持って議論することを勧めました。
「『良いモノを作ってお客さんに提供したい』というビジョンは社員共通なので、議論の軸はブレません。そして、それを実現するために、(プロジェクトメンバーでなくても)開発チームを交えてブレストを重ねながら『みんなで作る』ということを大切にしています。こうした打ち合わせの時に絵やモックアップなどビジュアルがあると一気に話が進むので、できる限り具体的なイメージやメニュー項目を元に議論を進めるようにみんなで心がけています。」
鈴木氏も、「私もディレクターと話をする時は絵を持っていくようにしています。特に私はAPIの開発をしているので、基本的にビジュアルがありません。レビューするときコードを見せても伝わらないので、紙芝居のように『APIをつかうとこんなことができます』と説明するんです。」と、ビジュアルを使ったコミュニケーションは社内でもクライアント先でも有効だと述べました。
また、現場にあったコミュニケーションのあり方にも留意したいと切り出したのは鈴木氏。
「ディレクターはいつでも相談OKという雰囲気を出していますが、プログラマーは『今は集中しているので触れないで!』という雰囲気を出している方も多いです。人によってやりやすいコミュニケーションの手段は違うので、コミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールなどを上手く使ってそういう方にも配慮したいです。」
西村氏はバスキュールの社内コミュニケーションを引き合いに出して、ツールの使い分けを説明します。
「最近走っているプロジェクトの管理はバックログを使っています。あと社内専用Facebookグループを活用し情報共有しています。アンケートもとれるので『サービスの名前募集中!』みたいに社内の意見を集めたりするのに便利です。あと気軽に情報共有できるので、○○さんのアップする情報は面白いなぁなどメンバーの特性なども見えてくるのでFacebookグループでの情報共有はおススメです。」
また、鈴木氏はツールの他にも社内のコミュニケーション活性の取り組みについて紹介しました。
「ミクシィでは年4回、WC2.5という社内ハッカソンを開催します。2.5日間を利用して、mixiに関連したサービスを思い思いに開発し、実際に動くもので発表するという社内イベントです。はじめはデベロッパしか参加しませんでしたが、徐々にディレクターなど非エンジニアリング部門からの参加やチームでの参加も増えてきました。こういった限られた時間で開発するイベントでは、普段できないような遠慮のないコミュニケーションが生まれます。」
デベロッパの巻き込み
続いて、仕事の中でデベロッパをどう企画に巻き込んでいるのか、効果測定やユーザーテストのシェアを例に話し合いました。
全社員でデータをシェアすることを前提にサービス作りしているという西村氏。
「企画の段階から社内はもちろんクライアント/協業パートナーを巻込んで繰り返しレビューをします。また、ターゲットと近い人に使ってもらいながらユーザビリティテストもします。サービスリリース後の結果検証、効果測定も実施しており、データに基づくUI/UX変更、機能変更などには積極的に取組んでおります。こうして集めたテスト結果はセクションに関係なく全社で共有するようにしています。バスキュールには調査部門があるわけではないので、むしろ開発者もデザイナーも制作時から、結果をどう検証・レポートするか念頭に置きながら開発しています。」
鈴木氏もデータは広く共有することに賛成します。
「ミクシィは人数規模が大きいので部署ごとに効果測定しています。でも、原則、ミクシィが集めたデータや調査結果は開発者も見れるようになっていて、実際に、そういったデータを見て改善の声を挙げる開発者もいるので、情報のシェアによって一体感が出ています。」
ただし、巻き込む際はコミュニケーション相手のキャラクターに配慮したいと西村氏は付け足しました。
「やっぱり会話をして、相手がどんな人なのか知ることが大事です。『ディレクターになりたい』と考えるエンジニアと『ずっとモノ作りをしたい』エンジニアでは、それぞれ働き方のスタンスや追求したいポイントが違います。この点を知っておくと、円滑なコミュニケーションが出来ると考えています。」
さいごに
イベントの最後に参加者から、「技術者(あるいはアートディレクター、テクニカルディレクター)主導の現場が増えている中でディレクターにしかできないこととは何でしょうか」という質問が挙りました。
この質問に西村氏は、「技術者で、収益の仕組み作りや次の仕事に繋げるためのリレーションをしっかりできれば、それこそスーパースターだと思います。ただみんながみんなそのように振る舞える訳ではないので、技術者、デザイナーの方には集中して作業いただけるような環境を準備したいと考えております。チームで同じゴールを共有し、集中できる作業環境も提供する、そのような環境作りをする上でディレクター/プロデューサーの価値を考えています。」と答えます。
続いて鈴木氏も、「私の所属しているチームはエンジニアしかいない現場なので、サービスを育てていくための分析や調整がエンジニアに偏った視点になりがちです。そういうところをディレクターに助けてほしいと感じています。」と述べ、二人はディレクターとデベロッパそれぞれに異なった役割があるため、密度の高いコミュニケーションから互いを理解して補い合う関係にあるのだと締めくくりました。