最初のセッションは松尾谷徹氏(デバッグ工学研究所代表/PS研究会代表)による「モチベーションの理論と実践のギャップ ~ 『頑張ろう!』の功罪」でした。松尾谷氏はモチベーションを高めすぎると燃え尽きてしまう危険性を指摘しつつ、いかにコントロールしていくべきかを説きます。
モチベーションの功罪
テストを含め日本のソフトウェア産業の現状を見ると、労働環境として劣悪と言えます。「キツい」「帰れない」「気が休まらない」から「新3K産業」と見ることもできます。仕事に対するモチベーションを高めるのは当然のことながら、一方でモチベーションを下げざるを得ない労働環境があることも否定できません。労働環境の改善無くしてモチベーションを上げると、「廃人モデル」となってしまいます。つまり、労働環境の改善とモチベーション向上の両立が必要なのです。
モチベーションを上げすぎると体力・気力を消耗し、危険な状態に陥るため、むやみにモチベーションを上げないことが防衛策として必要です。PS(パートナー満足)計測では元気なチームとそうでないチームが明らかになり、元気がないチームでは疲労が大きいケースが多く見つかりました。つまり、そこには「モチベーションを低下させる合理的な意味がある」と言えます。
準備段階の重要性
劣悪な職場をつぶさに見ると、短期間・高品質・低コストという立派な目標を掲げつつ、実践との間に大きなギャップが存在する点が共通しています。これは準備段階なしにいきなり実践段階に進もうとするために生じるのです。
成功している組織では、まず最初にWBS(作業分解図)や役割など現実的な計画を立てます。続いてスタッフィングとチーム作りを実施し、チームでの作業によりモチベーションを維持し、成果を挙げています。成功のためには計画段階や適切なスタッフィングなど、準備段階が重要なのです。
PS調査の有効性
モチベーションには、どのような要素が影響するのでしょうか。実は「測ってみないとわからない」し、「測れないものは制御できない」のです。原因を可視化すること、および対策箇所を明らかにして制御することが必要です。
可視化には定量的な計測が必要であり、その手法として日本科学技術連盟が開発したPS調査があります。PS調査にPS分析を加えたPS測定によって、人的リソースの状況を測定できます。その結果を受けて、問題があるチームやプロジェクトに対して改善を実施する、またはこれから立ち上げるプロジェクトで予防処置を行うことが可能になります。
まとめ
仕事の成果はスキルとモチベーションにより決まりますが、モチベーションを高め続けると疲労度も上昇します。また労働環境を報知してモチベーション向上を叫び続ける「エセ・モチベーター」が登場しないよう、あるいは自らがエセ・モチベーターにならないよう、注意しなければなりません。
チームワークにおいては個人のモチベーションよりもチームの形成段階、すなわちチームの出来映えや成熟度が重要です。成果につながる活動しか考えないのではなく、チームを作ること、すなわち準備段階に時間と費用を費やすべきです。
モチベーションの制御にあたっては「測れないものは制御できない」ため、科学的な視点が必要です。測るためにはPS計測が有効であり、制御するためにはまずモデル化することが必須なのです。