ネット接続が直ったところで、引き続き1日目のスタートアップ紹介セッションをレポート。
例によって公式発表はTechCrunch日本版記事をご覧いただきたい。こちらでは1日目の2回目以降のセッションで印象に残った場面をランダムにあげていこう。
StoryBlenderというソーシャル・メディア共有サービスの紹介では、エキスパートのドン・ダッジが「ああ、著作権の問題が気になるんだが」と発言をしたところ、会場から忍び笑いが上がった。というのは、ダッジはマイクロソフトのビジネスデベロップメントの責任者なのだが、風貌、物腰がどう見てもビル・ゲイツそっくり。
「いかにもそういう興ざめなことを言いそう」という予感が当たった笑いだったようだ。これには本人も苦笑。
TripItは、航空券、ホテル、レンタカー情報の検索とオンライン予約に加えて、旅行日程表を自動的に作成し、必要な相手と簡単に共有できるというサービス。当方も今回の出張でけっこうたくさんメールのやり取りをしたので、頻繁に動き回る人間にはたいへん便利だろう。実用性という点ではイチ押し。
musicshakeは、簡単に作曲ができるアプリケーションなのだが、韓国から来たファウンダー自ら壇上に踊りながら登場するという気合のパフォーマンスで大いに注目を集めた。敢闘賞まちがいなし。しかし、韓国からは2社も参加しているのに、日本からは1社もなしというのは、ちょっとさびしい。
CrowdSpiritとPonokoはオンラインのソーシャルウェブを利用して、ユーザーがデザインした製品(CrowdSpiritはエレクトロニクス、 Ponokoは家具などさまざまなハードウェア)を現実の製造工程に結びつけて、いわば「群集の英知による製造業」を目指す試み。普及までにはいろいろなハードルが予想されるが、Wikinomicsの次のステップとして注目される。
ここでエキスパートの一人、業界の名物男、イスラエルのベテラン起業家であり学者でもあるヨシ・バルディが、パネルを始める時間になっても戻って来ない。
すると共同主催者のジェイソン・カラカニスがヨシの声色で逸話を語り始めた。
「ヨシが昔、ぼくにこう説明してくれたことがある。ジェイソン、あんたが立派なでかーいベンツの新車を買ったと思え。ぴかぴかでまっさらの皮シートやなんかの新車だ。でかーいベンツの新車だぞ。そのドアを開けたとたんにだな、どこからか野良犬の野郎が飛び込んできて、運転席に座りこんで、でかーい糞をしたと思え。山盛りの糞だ。どうだ? どう思う? せっかくのベンツの新車が台無しだ。つまりそれがユーザーインターフェースのデザインというものだ。デザインが悪いサービスだと、他がどんなによくても、運転席の犬の糞みたいにすべてを台無しする」。
満場爆笑しているうちに無事に本人が到着した。
カラカニスはWeblogのファウンダーであり、Web2.0業界のビッグネームの一人なのだが、まったく大物ぶったところがない。襟にピンマイクを付けて、司会進行、時間管理を取り仕切るだけでなく、聴衆の質問のときにはマイクを持って走って行って手渡すという張り切りぶりだ。このサービス精神はアイルランドとギリシャの血をひくブルックリン生まれというバックグラウンドが影響しているのかもしれない。まずは愉快なキャラだ。「無愛想な大男」のマイク・アリントンと絶妙の漫才コンビぶりを発揮していた。写真は5万ドルの最優秀賞の発表を前に最後のかけ合いをしている2人。
AOLのBlueStringとYahoo!のYahoo! Teachersの新サービス発表や、マイケル・アリントンとFacebookのファウンダー、マーク・ザカーバーグとの対談についてはTechCrunch日本版の記事を読んでいただくとして、ここで一気にパーティーへ。
会場はパレスホテルのすぐ裏の古いビルの1階にあるFluidというクラブ。
Citysearchのようなクチコミサイトでは「狭い」「おのぼりさんが多い」「評判だおれ」などと書かれているから、有名な店なのだろう。
中は四角いバーカウンターを囲んで口の字形のフロアがあるが、たしかに広くはない。そこに300人はつめかけただろうか。東京のラッシュ時の電車とまでいかなくてもラッシュ時のプラットフォームくらいには混雑している。
まずはTechCrunchのCEO、ヘザー・ハードにご挨拶して写真を撮る。
News Corp(FOXテレビとMySpaceの親会社)のM&A担当上級副社長からブログのCEOに転身ということで、さすがのシリコンバレーでもかなり話題になった。日本では徳力基彦さんが「ブログがCEOをメディア企業から引き抜く時代」というエントリをFPNに書いている。長身、スリム、実物はジュリア・ロバーツ風、この写真の倍くらいの美貌だ。
それからお約束のマイケル・アリントンと記念写真。無愛想な大男もカンファレンスの大成功で珍しく上機嫌だ。2500ドルのカンファレンスに900人が来れば(それにプラス、スポンサーがついている)、上機嫌にならないほうがおかしい。
中央がMellowtoneの新井俊一さんと、台湾版Jetroの情報誌の梁中偉編集長、女性編集部員。新井さんは経済産業省の「未踏ソフトウェア創造事業」で「天才プログラマー」の称号を得た方で、福岡でスタートアップを経営されるほかに、Winny事件では金子勇氏の応援団「ソフトウェア技術者連盟」を設立するなど幅広い活動をされている。
jig.jpの福野泰介さんはダウンローダブルな携帯用日本語ブラウザを開発している。大量の文字を表示して軽快に動くので感心した。来年はこのカンファレンスに応募しようかと考えているという。やっとそういう元気のいい日本人に会えて心強い。当方、偏狭なナショナリストではないつもりだが、次第に冷えていくぬるま湯につかっていると本当に日本は「ガラパゴス島」化してしまうのではないかと不安になる。
同じP2Pソフトの作者でもKazaaのファウンダー、ニクラス・ゼンストロームとジェイナス・フリースはその技術を利用してSkypeをつくり、 eBayに売って、シリコンバレーを代表する成功者になっている。一方で金子氏はKazaaに勝るとも劣らないシステムを開発したのに逮捕されてしまった。結果として日本はSkypeなみの巨大ビジネスが生まれる可能性をつぶしてしまったことになるのかもしれない。
と、いささか深刻な話になってしまったが、パーティーはますます盛り上がっていった。トルコから来たCTO、チェコのCEOなどと話をする。バーカウンターの周囲をぐるぐる回っているうちに、なんとなく雰囲気の違う女性たちに気づいた。プログラマーやベンチャーキャピタリストではなさそうだ。マーケティング? PR? 「プレスです。くだらない質問をしてまわるのが仕事なんだが、きみたちはどこの会社の人?」と聞いてみると一人はきゃっと言って逃げてしまった。もう一人が「友達の友達がカンファレンスに来たので連れてきてもらった」と告白。「こういうパーティーは女性が少ないね」というと「実は、それが狙い!」とポーズをとってくれた。
入稿しなければならないのでこのあたりで失礼したが、今朝のマイケル・アリントンのぐったりした顔を見ると、かなり遅くまで続いたようだ。
(続く)