滑川海彦の TechCrunch40 速報レポート

TechCrunch40 現地取材速報 9/18 #4

5万ドル大賞はパーソナル会計管理のMintへ

でかいモヒート3杯(後述)の後、チャイナタウンでアサリの広東風ピリカラ炒めなどを食べて、一夜明けた。2日目のセッションも盛りだくさんだったが、やはりTechCrunch日本版で詳報されているのでご参照いただくとして、飛行機の出発までもうあまり時間がないので、こちらは一足飛びに結論から行こう。5万ドルのTechCrunch40大賞はMintというサービスに決定した

受賞者を発表する共同主催者のマイケル・アリントン
受賞者を発表する共同主催者のマイケル・アリントン

すべてのセッションがすべて終了した後、参加者にはメイン会場の隣でモヒートがふるまわれた。砕き氷の上にラム、ライムジュース、ソーダを入れ、大量のミントの葉で香りをつけてある。アメリカで最近人気がある。一昔前だとこういうときにはマルガリータがよく出されたものだが、飲み物にも流行りすたりがあるようだ。

いささかぐったりしてくだらないことを考えているうちに、メイン会場に呼び戻される。聴衆に賞品が当たる福引があった後、マイクが大きなボードを抱えて登場。⁠受賞者はMint!」と発表。ドラムロールも審査委員長講評もなしで、至極あっさりしている。

Mintは簡単にいえば「オンライン自動家計簿」だ。ユーザーは最初に自分の銀行、証券、クレジットカード、ローンなど、あらゆるオンライン口座の情報をMintに登録する。するとMintは定期的にそれらの口座を巡回して最新情報を収集し、分類整理してユーザーに報告してくれる。アメリカではQuickenというパーソナル会計ソフトが定番だが、金の出入りを日々漏れなく入力していくのはたいへん面倒な作業だ。それを自動的にやってくれればたいへん助かる。

また収集した情報を独自のアルゴリズムで解析し、ユーザーの支出をモニタする。項目別の合計を取り、特定項目に異常に大きな変動があったり、クレジットカード口座の残高が不足しそうになったりすると警告を出す。また口座残高の動向や現在の利率を分析してさらに有利な口座での運用を薦めたりもする。 Mintに対するエキスパートたちの評価についてはこのページ(一番下までスクロールしたところ)にある。

Mintのサービス画面のイメージ(TechCrunch)
Mintのサービス画面のイメージ(TechCrunch)

これはアメリカでは非常に便利なサービスだろう。アメリカではほとんどの買い物にクレジットカードが利用されている。スーパーマーケットの行列に並んで観察していると、10人中9人くらいがカードを使う。しかもスナック菓子などあきらかに10ドル以下の買い物にもカードを使うのが珍しくない。金融機関も口座情報をオンラインでユーザーに通知するのが普通だ。もちろん給与も金融機関振込みが当たり前。つまり国民の大半にとって金は出るのも入るのも、ほとんどがオンライン上に記録されていることになる。口座をクロールしてモニタすれば、たしかに家計の財務動向はほぼ完全に把握できるだろう。

日本でもMint的なサービスは可能だろうか?

なるほど、たしかにマスにアピールしそうな有望なサービスだ。現在ベータテスト中で、この段階ではまったく無料のウェブサービスなのでビジネスモデル的にはまだ未知数だが、巨大なトラフィックさえ確保できれば広告モデルにせよ、広告プラス有料レミアムサーブス・モデルにせよ、まちがいなく成立する。

問題はユーザーの急増に対してサーバー能力の拡張が追いつくか(そのための資金調達が間に合うか)だが、TechCrunh大賞の受賞でベンチャーキャピタルからの資金調達については心配がなくなった。あっという間にメジャーリーグ入りする可能性も十分だ。

ひるがえって日本ではどうだろうか? スーパーでクレジットカードを使う消費者はまだ少ない。またオンライン・バンキングの利用者の割合もまだネット利用者の半分未満。オンラインでモニタ可能な資金の流れの割合はまだそれほど多くないはずだ。しかし考えてみると、コンビニで「おサイフケータイ」をかざしてアイスクリームを買っていくのを見るのは珍しくない。ある程度高額な取引はカードで、小額の支出はケータイでということになり、個人の金の流れが完全にオンライン化する時代は日本でも案外近いかもしれない。

ただ、その場合でも携帯での買い物の状況をウェブサーバからクロールして把握するのは難しそうだ。むしろ携帯キャリア側で「おサイフケータイ用家計簿」のような付加機能を充実させ、ウェブ側と連携するかたちをとるのが現実的なのか? Mintの受賞を見ていろいろなことを考えさせられた。

BeFunkyで自分そっくりのアメコミ風アバターを

2日目で印象に残ったサービスをランダムにあげてみる。

BeFunkey「写真からカートゥーンを自動的に生成する」サービスで、開発したのはトルコのスタートアップ企業だ。昨夜のクラブFluidでのパーティーで知り合いになってかなり詳しく話を聞き、よさそうな感触があったのだが、デモを見ると予想以上に完成度が高くて驚いた。Photoshopなど高度な画像処理ソフトには輪郭線抽出機能があるが、手動で補正する必要があるし、そもそもこういったソフトは操作、価格両面で敷居が高い。

BeFunkyは予備知識のない一般ユーザーでも、写真をアップロードするだけで簡単にカートゥーン(アメコミ風イラスト)が作れる。当面の用途としてはブログやSNSのプロフィール欄に掲載する「ユーザー本人そっくりなアバター」を作ることだというが、これほどの機能があれば、用途はいろいろ考えられる。

重要なのは、処理して得られた成果物はベクターデータだという点だ。任意の場所をマウスでつかんでドラッグするだけで簡単に画像の変形処理ができる。この点を強調するためにマイケル・アリントンがトルコを訪問したときの写真を例にデモをしてみせた。

マイケルはオリジナルの写真では背景の椅子の背いっぱいに座っていたのだが、わき腹をつまんでぐっと引き寄せるとご覧のとおりスマートに。顔も2割ほど細面に整形してみせて、会場に受けていた。プライベートベータ段階のようだが、トライアル用のコードを会場に配っていた。さっそくトライしてみたが、例によってアクセス殺到で動かない。ぜひ試してみたいサービスだ。

BeFunkeyのデモ画面。太めのアリントンがドラッグ数回でスマートに(TechCrunch)
BeFunkeyのデモ画面。太めのアリントンがドラッグ数回でスマートに(TechCrunch)

XTR3Dは第二のWiiコントローラーになるか?

最後にもうひとつ、面白かったのが、ハンドパワーで画像をコントロールしてみせたこのデモだった。XTR3Dという。

ハンドパワーで操作するXTR3Dのデモ画面(TechCrunch)
ハンドパワーで操作するXTR3Dのデモ画面(TechCrunch)

この画像は実はパソコンの上に取り付けられたウェブカムからプレゼンターを映しているところ。左下の輪の中がモーション認識領域。ここに手をかざしてジェスチャーをするとシステムがその動作を3次元的に認識して、たとえばGoogle Earthの画像を傾けたり横にずらしたりする。

要は3Dモーショントラック機能なのだが、従来のモーショントラッカーは複数のカメラを用意したり、被写体にトラッキング用の目印をつけたりする必要があった。こちらは安価なウェブカム1つだけで、被写体側にはなんの目印もいらない。当然機能は限られるが、利用範囲は飛躍的に広くなる。

開発者はゲームへの応用をまず第一に考えているようだった。第二のWiiコントローラーを目指しているらしいが、ビジネス戦略としてこれが成功するかどうか注目。エキスパート側には、それならサンフランシスコ(TechCrunch40)へ来るよりシアトル(Nintendo)へ行った方がいいのでは、という微妙な空気もあったようだが、注目の技術には間違いない。

ほかにもFacebookのファウンダー、マーク・ザカーバーグが童顔を通り越してビールを買うにも免許証を見せろといわれそうなほど小柄な少年にしか見えないことや、MCハマーがブルックリンの繁盛している酒屋のオーナーくらいに普通の人にしかみえなかったこと、ヘザー・ハードCEOの美貌、ジェイソン・カラカニスの気配りと腰の軽さなど、おもしろかったことは山のようにあるのだが、そろそろ空港へ向かう時間になってしまった。ひとまず現地からの速報はここまでとして、TechCrunch40全体のまとめは帰国後となるが、評価や分析もまじえて引き続きご報告したい。

すっかり油が抜けた? MCハマー
すっかり油が抜けた? MCハマー

(続く)

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