滑川海彦の TechCrunch40 速報レポート

トレンドは「マルチメディアWiki」「DNS=データ正規化サービス」:TechCrunch40 分析編 #6

今回のTechCrunch40では大きくわけて2つのトレンドが目立った。ひとつはWikiの手法をマルチメディアに拡張したもので、多数のユーザーがひとつのページにテキストに加えて動画や音声などを簡単に貼りこんで共有できるというもの。Googleのオンライン・プレゼンテーション・サービスPresentlyはじめ非常に多くのサービスがこのジャンルで製品を発表した。

もうひとつのDNSは聞きなれない名前だが、共同主催者のジェイソン・カラカニスがブログで命名したもの。⁠サードパーティーのサービスからユーザーに代わってデータを収集し、統一したフォーマットに正規化(=normalize)したうえで、さまざまな処理をしてくれるサービス」だ。5万ドルの大賞を受賞したパーソナル会計支援サービスのMintをはじめ、これもかなりの数のサービスが発表されていた。

TechCrunch40カンファレンスのまとめとして、この2つのトレンドについて少し詳しく見ていきたい。

マルチメディアWiki・大企業編

マルチメディアスライドショーを制作・共有 AOL Bluestring

いちばんストレートなマルチメディアWikiはAOLが発表したBluestringだろう。画像、動画、音楽をアップロードしてマルチメディア・スライドショーが作成できる。友達や家族でグループを作って共有でき、またグループのメンバーが素材を追加アップロードすることもできる。

ローカルのコンピュータに専用のフォルダを作っておくと自動アップロードができ、重要な素材のバックアップにも使える。

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教師向けの教材作成・共有サービス Yahoo! Teachers

これはマルチメディアWiki機能を教育というバーティカルな分野を狙って特化させ、SNS機能を加えたもの。小中高の先生たちがマルチメディア教材をつくり、ソーシャルネットワークを通じて共有して利用できる。

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メンバーはまずGobblerという素材ページを開き、教材に役立ちそうなウェブページをドラッグ&ドロップでどんどん収集する。次にマルチメディア編集機能で教材を作成し、科目・学年などでタグづけして共有する。

他のメンバーは地図上で学校の地域を選んだり、タグで検索したりして、必要な教材を探して利用し、さらに改良していく。Yahoo!では全米各都市でYahoo! Teachersの紹介やメンバーの交流を図るワークショップを開催してフォローする予定。

PowerPoint のGoogle版 Presently

Googleはここしばらく噂されていたPowerPointに相当するオンライン・プレゼンテーション・ツールを「Presently」というネーミングで発表した。これでGoogle Docsには文書、表計算、プレゼンテーションとMicrosoft Officeに対抗する三種の神器が揃ったことになる。

使ってみればわかるが、Google Docsの最大の強みは「Wiki的」な共有機能にある。アプリケーションとしてどれほどデスクトップ版が優れていようと、友達、同僚、仕事相手と情報を共有するまでの手間(仮に共有できる環境があるとして)は、個別機能の優越性を帳消しにしてしまう。

Google Presentlyは、日本語環境の場合「Googleドキュメント」のメニューから「新規」を開き、⁠プレゼンテーション」を選ぶ。ご覧のとおり機能としてはもっともベーシックなもので、利用できるのは画像だけだ。そういう意味ではまだマルチメディアWikiとはいえないが、やがてこのプラットフォームにマルチメディア機能を含むさまざまな機能が強化されていくはず。Googleの圧倒的なパワーを考えるともっとも注目のサービスだろう。

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マルチメディアWiki・スタートアップ編

ビデオクリップ作成共有 Kaltura

TC40では応募社のうち39のスタートアップが本会場でのプレゼンテーションに招待された。残る1枠はデモピットでの人気投票によって選ばれることになったのだが、その勝者がこのKalturaだった。ニューヨークのスタートアップでビデオクリップをアップロードして編集、公開、共有するサービスだ。作成されたビデオにはエンベッドコードが提供され、ウェブサイトやブログに簡単に埋め込むことができる。

エキスパートパネルのメンバーではMCハマーが気にいっていたが、これからデビューを狙うバンドやアーティストがミュージックビデオを簡単に作成してプロモーションに利用できると考えたのかもしれない。

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オンライン・メディアセンター Wixi

こちらはユーザーのメディアセンターのオンライン版。ユーザーがローカルに持っているビデオ、音楽、画像を自分のページに整理して並べ、オンラインでどこからでも自由に再生できる。

KalturaやBluestringが写真やビデオクリップなどを素材にマルチメディアスライドショーなどの新しいプレゼンテーションを作成できることに重点を置いているのに対して、こちらはマルチメディア素材をバーチャルデスクトップ上で並べて管理し、バックアップや共有を図るサービス。

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画像掲示版 Stixy

これはデモピットからの製品だが、ひとことで言えばレイアウト自由な掲示板サービスだ。下の例は写真と地図とテキストを自由に貼りこんだ「旅行の思い出アルバム⁠⁠。ウェブの開発チームがスクリーンショットを共有、テキストで注釈をつけてコミュニケーションを図る例などもあげられていた。一見地味だが、なかなか便利ではないかと思う。

筆者はBasecampを共同作業のプラットフォームとして利用している。これは信頼性も高く、ユーザーインターフェースがシンプルで新しいユーザーが簡単な説明で使いこなせるのでたいへん便利なのだが、残念ながらテキスト以外は添付ファイルでしか扱えない。画像に注釈を加えたりしたい場合Stixyのような掲示板があると便利だ。

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これ以外にもさまざまなフレーバーのマルチメディアWikiがあったので、詳しくはTC40特集日本語版でチェックしていただきたい。Adobe AIR、Microsoft Silverlightなどの強力なプラットフォームの利用が普及するにつれてこの分野への参入はますます加速されることになりそうだ。

バーティカルないしニッチなマーケットを狙うと十分な数のユーザーを集めるのが難しく、汎用的なサービスでは多数の同種のサービスとの競争に勝ち抜かねばならない。どちらにしても厳しい生存競争になる。こうしてユーザーから選ばれたサービスが世界市場を制覇することになるのは当然といえるだろう。官僚や大企業のサラリーマンが机上のプランをユーザーに一方的に押し付けようとしてもうまくいかないのと対照的。

DNS データ正規化サービス

TechCrunch大賞のMintについてはすでに詳しく紹介したが、これ以外にもCake、TripIt、Clickable、mEgoなどがDNS=データ正規化サービスの範疇に入る。データ正規化サービスでは、複数のオンラインサービスからユーザーに代わってデータを収集し、統一的に処理できるフォーマットに変換(=正規化 normalize)した上で、さまざまな処理を加える。

Mintの場合であればクレジットカードの請求項目をカテゴリーに分類して(レストラン、食品、書籍など)支出一覧を作成したり、さまざまな銀行の口座の利息を比較したり、支払い資金の不足を警告したり、さまざまなやり方で個人の金銭管理に役立つ情報を提供する。

非常に有望な市場だということは間違いないが、いくつかの前提が必要となる。ひとつはユーザーがアクセス情報をサービス提供者に登録しなければならないこと。サービス側の信頼性がよほど高くないと、ユーザーは銀行やクレジットカードの口座情報へのアクセスを認めるのを躊躇するだろう。また、間違いなく「正規化」を行なうためには、対象となる情報のフォーマットがある程度統一されている必要がある。もっとも、この点ではPowersetのような自然言語解析技術の出番だともいえる。

日本での応用を考える場合、運営者の信頼性と自然言語解析という点が、アメリカ以上に問題になるかもしれない。

以下、TC40に出展された情報の「正規化」を行なうサービスの代表的なものを紹介する。

オンライン広告を管理する Clickable

これはMintのオンライン広告管理版。Googleその他のオンライン広告の出稿者に、クリックスルー回数、率、費用、単価など広告管理に必要な情報を一覧形式で提供し、費用対効果などが正確に把握できるようにする。

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個人投資家のパフォーマンスを管理する Cake Financial

CakeはMintの投資家版だ。ユーザーは自分の投資口座の情報をCakeに登録する。Cakeは自動的にユーザーの投資活動をモニタしてパフォーマンスを一覧にして提供する。またユーザー同士は匿名で他のユーザーのパフォーマンスを閲覧し、自分と投資傾向の似たメンバーを自分の「ネットワーク」に加えて常時モニタできる。ユーザー中でもっとも高いパフォーマンスを示しているユーザーのポートフォリオや投資活動をモニタして参考にすることができる。

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自動旅行日程作成サービス TripIt

飛行機、ホテル、レンタカーなどをオンラインで予約すると確認のメールが返信されてくる。TripItにこのメールをForwardボタンを押して転送すると、システムが内容を解析(=正規化)して、自動的に旅行日程が作成される。

さらに関連あるGoogle地図やドライブ経路などを日程表にメニューから簡単に追加することができる。生成された日程表は家族や同僚と共有することができる。頻繁に出張するビジネスマンにはたいへん便利だ。日本でもぜひ欲しいサービスだ。

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複数のプロフィール情報を同期する mEgo

これは基本的にはアバターのカスタマイズサービスだが、基本となるユーザープロフィールをMySpaceなどのSNSのプロフィール欄から自動的に収集する。ユーザーはFacebookその他、自分が加入しているSNSのログイン情報を登録しておくと、mEgoが自動的にそれらのアカウントにアクセスしてアバターを含めたプロフィール情報の同期をとってくれる。ちなみに、mEgoはエミーゴと発音する。amigo アミーゴとmultiple Egoを掛け合わせたネーミングらしい。

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以上、駆け足でTC40の内容をレポートしてきたが、次回はこぼれ話や雑感を少し書かせていただいて最終回としたい。

(続く)

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