学習ツールとSNSを組み合わせたサービスとして、リリース直後から注目を集めている「iKnow! 」。
今回、このサービスがどのようにして生まれたのか、そして今後どのような展開を目指しているのか、セレゴ・ジャパン エリック ヤング氏、アンドリュー スミス ルイス氏、マイケル 長谷川氏の3名にお話を伺いました。
エリック ヤング氏
米国Cerego社CEO。Ceregoの共同創業者。事業戦略の立案と財務を担当。
<経歴>
イェール大学を卒業。バンカーズトラストのデリバティブトレーダーを経て、西ドイツ証券のアジア地域会社のCEOを3年務める。豊富な金融経験を活かした財務戦略の立案を得意としている。
アンドリュー スミス ルイス氏
セレゴ・ジャパン(株) 代表取締役社長。Ceregoの共同創業者。事業開発と新製品開発担当。
<経歴>
バージニア大学を卒業。21歳のとき、MBA/大学院留学指導の予備校「アゴス・ジャパン(旧ザ・プリンストン・レビュー・ジャパン)」を立ち上げる。2002年に日経BP社から発売された著書『最強の記憶術』はベストセラーに。
マイケル 長谷川氏
セレゴ・ジャパン(株) シニア・バイス・プレジデント。事業開発本部長。
<経歴>
米国シリコンバレーで20年間ハイテクノロジービジネスに関わり、4年前に帰国。デル・ジャパンにて営業本部長を務めセレゴに入社。
学習エンジンの開発からスタート
大学研究期間とともに
iKnow! (アイノウ)を提供するセレゴ・ジャパンは、もともと学習エンジンの開発を行っていました。そのときのミッションが「人が学習するメカニズムを脳科学・認知心理学の見地から解明し、学習効率を飛躍的に高める」こと。
「私たちは7年前から研究に基づき、記憶学習のシステムを開発していました。当時から、ハーバード大学などの教授を含めた専門家たちと一緒に研究やテストを行い、記憶学習方法論を確立することに成功しました」。同社代表取締役社長のアンドリュー スミス ルイス氏はこう語ります。そして、この研究開発結果をベースに、教材としての展開を目指しました。
いつでもどこでも学習してもらうために
実際にサービスとして提供するにあたってのコンセプトは「いつでもどこでも学習してもらえること」(米セレゴ社CEOエリック ヤング氏)。そのため、ユーザデバイスとして、当初はPDA(SHARP ZaurusやWindows CE)をターゲットにしていました。しかし、その後PDA自体のシェアが減り、結果としてWebを対象としたサービスへと方向転換をしました。
BtoBからオープンスタンダードへ
当初、サービスの展開方法は企業を対象としたもの、つまりBtoBのモデルを採用していました。具体的には、セレゴ・ジャパンがある企業に向けて学習システムをASPモデルで提供し、それを受けた企業が、社員向けなどの学習教材として利用するものです。これについて、セレゴ・ジャパン シニア・バイス・プレジデント長谷川氏は「学習教材として展開するうえで、どのように生徒(学ぶ人)を集めるかが最初の課題でした。そこでまずシステム的にはASPモデルにし、特定企業内でのトップダウンによる提供を目指したのです」と述べています。こうして徐々に採用企業および利用者が増えていきましたが、ある段階でその伸び方が鈍くなります。
「BtoBのモデルの場合、1つの採用によりまとまった数のユーザが獲得できます。しかし、ある程度の規模になってくると広げ方が難しいです。とくにGate Keeper(企業の窓口となる担当者)との折衝が最大の課題となり、場合によってはそこが障壁となって採用までに時間がかかります」(ヤング氏)。
こうした状況に加えて、もう1つセレゴ・ジャパンとして気付いた点がありました。それは、実際のユーザからの快い反応です。
「一度使ってくれた生徒の皆さん(ユーザ)が、こぞって良い反応を示してくれたのです。皆、喜んで積極的に使ってくれました。この反応を見て、BtoB以外の展開の可能性もあるのではないか、と考えたのです」(ヤング氏)。
SNSとして誕生したiKnow!
Webの流れに乗って
こうした背景のもと、セレゴ・ジャパンは従来BtoBで展開していた学習システムを、刷新して展開することを決めたのです。ちょうどその時期は業界的に“Web 2.0”の概念に注目が集まり、1つの大きな潮流が生まれていました。ヤング氏は当時を振り返りながら「私たちはいつもトレンドを意識しています。当然、当時のトレンドだったWeb 2.0も然りで、Webのトレンドに逆らわずにいこう、と。さらに自分たちのサービスはユーザの満足度が第一であり、自分たちがコンテンツを生み出すのではなく、コンテンツはユーザに生み出してもらえる環境作りこそが一番重要だと考えました」とコメントしました。つまり、UGC(User Generated Contents)と呼ばれる概念、そしてユーザ同士がつながれるSNSへの取り組みが検討されたのです。
そして、2006年後半に入り、学習エンジン+UGC/SNSを組み合わせた新しいサービス「iKnow! 」の開発がスタートしました。
Web 2.0を意識した開発・運用体制
iKnow! の開発は、Ruby on Railsをベースに行われています。これもWeb 2.0のトレンドを汲み取ったもので、日々アップデートできるWebサービスになるためにどうするか? 若いエンジニアにとって最適な環境は何か?といった項目を件とした結果、選択されています。
バックエンドのシステム開発・運用環境は、データベースにMySQL、メールシステムにmongleなど、迅速な開発が行え、ライセンスとして扱いやすいオープンソースソフトウェアを採用しています。また、インターフェース部分に関しては、当初からFlashを採用することで、よりリッチなもの、ユーザにとって操作しやすいものを意識して作られています。
ピンポイントのバランス
iKnow! で最も注目したいのがサービスコンセプトです。すでに話したとおり、もともと学習エンジンを開発し、ユーザに向けたサービスを展開していましたが、SNSの要素を取り込むにあたり、「ユーザにとって入りやすい環境」を生み出すことを最優先課題として意識していたそうです。そこで、ユーザ満足度をどう上げていくかについて、多くの時間を割いて検討し、中でも「ユーザがコンテンツをアップしやすい環境」「コミュニティを作りやすい環境」など、UGCやSNSとして持つべき要素を、学習エンジンとどのようにリンクさせるかが一番難しかった、とヤング氏は開発当初を振り返りながら述べています。
その答えとなったのが「ゲーム(遊び)感覚」です。ゲーム感覚という部分について、もう少し詳しく聞いてみたところ、「人気ゲームというのは、ちょうど良いバランスの難易度が設定されていますよね。たとえばロールプレイングゲームであれば、最後の敵がすぐに倒せるぐらいに弱くもなく、逆に、倒すために子どもでは対応できないぐらい難しいわけでもなく。この“達成感”と“フラストレーション”のバランスがピンポイントでうまく捉えられることが、ゲームとして成功する要因につながると考えています。
iKnow! でもこのバランスをどうやって取るかをすごく意識して検討しました。あまり簡単すぎず、かといって難しかったり飽きやすくしないなど。また、学習ツールであるので、遊びの要素という見方だけではなくて、“自分が勉強すべきもの(新しい知識)”と“忘れていくもの(過去の知識)”をバランス良く盛り込むようにしています」(ルイス氏)。
これこそが、iKnow! が、これまでになかったSNSと学習ツールという新しいサービスとして認知され受け入れられた理由でしょう。
気になるビジネスモデルは?
気になるビジネスモデルは
- 広告収益
- コアユーザに向けたプレミアムオプションの課金
の2つを検討しているとのことです。
広告については単に広い層のユーザを獲得し、シェアの大きさを目指すのではなく、セレゴ・ジャパンの最大の強みである“学習エンジン”を前面に出し、ラーニングエキスパートとして工夫していくとのことです。もう1つのプレミアムオプションは、コアユーザからの高いデマンドに対して提供できるものに対価を支払ってもらえるような仕組みを目指しているそうです。いずれも2008年中のスタートが予定されています。
なお、現在提供されているサービスに関しては将来的にも無料です。
これからの展開
公開後の反響
公開後の反響について長谷川氏は「サービス開始の2007年10月1日にはそれほど大きなプロモーションはかけませんでした。そのため、開始直後に大きな反響はなかったのですが、10月後半になり、アーリーアダプターと呼ばれる方々に使われ始め、さらにアルファブロガーのblogに取り上げられた後、爆発的にユーザ数が増えました。加えて、はてなブックマークなどのソーシャルブックマークにも多数登録され、まさにWeb 2.0のクチコミを体感できた瞬間でした」と述べています。
その後、iKnow! は着実にユーザ数を増やし、取材時点(2008年1月17日)で5万6,000人のユーザを獲得し、日々1,000人単位で増えています。
継続だけではない、断続しても使える環境として
学習ツールとして使われるのであれば、継続性が最も大事な要素になるのですか?という質問をしたところ、「たしかに継続性は大事ですし、一過性のサービスでは終わらせたくありません。しかし、使いたいときにだけ使える、無理矢理続けてもらわなくても良いシステムが理想的です。
たとえば、あるユーザが大学受験時にこのiKnow! を使っていたとして、大学入学後にはまったくログインしない場合を考えてみます。普通であればそのまま使われなくなってしまうでしょう。しかし、iKnow! の場合、一度使ったユーザの学習進捗度をキープし続けます。こうすることで、仮に社会人になってからまた英語の学習が求められたときに、当時の状況からまた使い始められるのです。
私たちはこれを“ブレインバンク”と呼び、ユーザ1人1人に対して、アイテムや単語の記憶定着率をデータとして残しています。このようにレッスンベースではなく、コンポーネントベースでデータを記録することにより、断続した後に再び使ってもらえる環境が生み出せるのです」(長谷川氏)という答えが返ってきました。
このような長期的なビジョンをあらかじめ盛り込んでいる点も、iKnow! の魅力の1つと言えるでしょう。
キーワードはPMMとSLR
最後に、iKnow! が目指すもの、そしてセレゴ・ジャパンの展望についてお聞きしました。
「私は、将来、学習アルゴリズムを意識しないで知識を習得する時代がやってくると思っています。たとえば、最近はそろばんではなくExcelを使って計算することが多いでしょう。このように、コンピュータ側である程度仕組み(アルゴリズム)を包んでくれ、さらに、それを使用するユーザごとの知識レベルを汲み取ってくれるものと思っています。私はこれを、
- Peronalized Memory Management(個人記憶管理)
- Social Learning Revolution(ソーシャル学習革命)
と呼んでいます。こういう状況が来たときに、私たちがこの分野のリーダーにいること、それが目標ですね」(ヤング氏)。
「セレゴ・ジャパンとして、日本だけではなく、欧米やアジア各国までの展開を目指しています。将来的には、私たちがコンテンツを提供するのではなく、すべてユーザがコンテンツを創っていけるような場となりたいですね。そのために、英語以外の言語はもちろん、その他の学習分野もフォローしていく予定です」(ルイス氏)。
「私たちの開発チームは、日本人、アメリカ人だけではなく、ルーマニア人や韓国人など、さまざまな人種が混在しています。現在クローズドではありますが、彼らが学ぶための環境としてiKnow! のコンテンツを作っています。こうしたものも順次公開し、ユーザの皆さまに使ってもらいながら育てていっていただければと思います」(長谷川氏)。
日本初の新スタイル学習コミュニケーションサービス「iKnow! 」――これからの展開に注目しましょう。