11月18日に行われたWeb関連メディアの編集長による座談会の後編
- モデレーター 林千晶氏
(ロフトワーク 取締役) - 日経ネットマーケティング 編集長 渡辺博則氏
(日経BP) - Web担当者forum 編集長 安田英久氏
(インプレスビジネスメディア) - ウェブエキスパート 諏訪光洋氏
(ロフトワーク 代表取締役) - Web Site Expert 編集長 馮富久
(技術評論社) - Web Designing 編集長 馬場静樹氏
(毎日コミュニケーションズ)
目利きが気になる、企業の注目技術
- ロフトワーク 林千晶氏
次のテーマに移りましょう。先ほどのテーマとも重なりますが、
「この会社では、 こんなテーマで、 こんな技術をおもしろく使っている」 というような、 注目の企業ってありますか? - Web Site Expert 馮富久
最近
「クラウドソーシング」 といわれるサービスで、 リクルートのメディアテクノロジーラボが始めた 「みんなのクリエイティブエージェンシー C-TEAM に注目しています。それからアルカーナという会社の(シーチーム)」 「アポロン」 というビジネスマッチングコミュニティのサービスです。この2つはCGM(Consumer Generated Media) であったり、 群衆という数の多さをビジネスにしようとしていて、 スゴイなと思いますね。 C-TEAMは取材させてもらいました。リクルートの戦略は、
今のように全般的に広告費が削られている中で、 「出す側の効果を上げることで、 市場を大きくしよう」 というものです。 - ロフトワーク 林千晶氏
もう少し具体的に説明していただけますか?
- Web Site Expert 馮富久
C-TEAMはクリエイターがサイトに登録する。企業側から、
たとえば 「バナーを作ってほしい」 という案件が来たときに、 登録クリエイターは仕様に合ったものをどんどん投稿して作っていく。企業側はその中で良いと思ったものを採用して使っていくというスタイルをとります。しかも投稿されたバナーは、 「CTR (クリック率) が高かったのはこれだ」 というデータをもとに、 より効果的なバナーに改善されていく。そうすると、 いちばん効果のあるものができあがってくる。作っているクリエイター側も、 「自分の作ったものがお金になる」 「人に見てもらえる」 というよろこびにつながっています。 広告代理店と考え方が少し違っていて、
「はじめに大枠の予算をとって、 それを割り振る」 というのではなく、 「最初に作ってもらって、 良い効果を出したものに対しては、 ふさわしいフィーを発生させていく」 という考え方です。そうやって (広告の市場を) 大きくしていけるところが、 Webの強さかな、 と思います。クラウドソーシングをサービスにつなげているという意味で、 おもしろいと思います。 アポロンは、
まだそれほど事例を聞いていませんが、 企業側が良い人材をスポットで契約したりだとか、 「買い手のニーズと売り手のスキルをマッチングさせていって、 ビジネスを成功させていこう」 というものです。 「バイヤー (買い手)」と 「セラー (売り手)」がそれぞれ登録するという形でやっています。 こういった考え方は、
どんどんビジネス化していくのではないかと思います。単に、 たとえばブログを書いてもらうだけではなく、 その先のマーケティングだったり、 戦略といった部分ともリンクしていくのではないかと思って、 僕は今注目しています。 - 日経ネットマーケティング 渡辺博則氏
僕がおもしろいと思うのは、
Amazonの 「windowshop. です。Amazonは今までは検索して商品を探すスタイルでしたが。ここではcom」 「ウィンドウショッピング」 みたいな演出をしています。Amazonがこういうのやるのっておもしろいな、 と。出会い系というか……このようなサービスを始めるということは、 いわゆる 「欲しいもの」 を、 買う側が見に行くだけでなくて、 売る側が引っかけに行かないと買ってくれないない。ECショップでも、 見せ方を工夫し始めているということですね。 - Web担当者forum 安田英久氏
Eddie BauerのUSのショッピングサイトが、
すごく良くなってました。JavaScriptをうまく使って、 一昔前のショッピングサイトとはぜんぜん違う感じのインターフェイスになっています。 - Web Designing 馬場静樹氏
IKEAのWebサイトもちょっとおもしろいですよ。IKEAのお店と同じようにレイアウトされた部屋のイメージが画面上に流れていて、
「これおもしろそうだな」 と思ってクリックしたら、 商品説明が出てくる。Webのデザインにおいても実店舗と同じIKEA商法を展開していて、 しっかりとブランディングできているなと思いました。 - Web担当者forum 安田英久氏
Amazonで、
「この本を買った人は、 こういう本も買っています」 と出ますが、 あれは協調フィルタリングと呼ばれる技術なんですよね。過去の行動履歴パターンから、 「この人にはこういうもの」 という形で、 最適なレコメンデーションを出すためのものです。 米国のDVDレンタルの会社
「Netflix」 が、 過去の行動データのログを1億件ほど提供して、 「いちばん性能の良い協調フィルタリングエンジンを作って」 というコンテストを実施しています。はじまってから2年ほど経っていますが、 ここですごいのが、 ずーっと普通にやっていたのに、 ある人が 「プレフィルタでまずこの処理をしてからやるといいよ」 というのを発明すると、 みんながそれを使うようになったりして、 協調フィルタリングの技術がすごく進んでいるのです。 こうした技術は、
「おもてなし」 の部分ですね。広告でどう集めるとかじゃなくて、 「来た人をどうやってがっちりとつかまえて金にするか?」 の部分。協調フィルタリングでレコメンデーションをうまくやると、 効果は上げやすいです。そのあたりの技術は、 日本でもホットリンクとかPFIとかデータセクションとか、 いろいろな企業ががんばって開発しています。
2009年、企業のWebサイトはどうなるのか?
- ロフトワーク 林千晶氏
最後に、
「2009年、 企業のWebサイトはどうなる?」 ということで、 皆さんに発言していただきたいと思います。 - Web Designing 馬場静樹氏
「アメリカでは、 紙の広告をもう作らなくなった」 という話が、 数年前から言われてますよね。最近では紙で会社案内を作らないところもかなり多くなってきている。日本はまだそういう状況はあまり一般的ではありませんが、 もうすでに、 自分たちの行動を考えてみると、 興味があったときはWebサイトを見て企業を調べているじゃないですか。 2009年には、
そういう時代が本格的に来るだろうな、 と、 すごく感じています。とくに景気が悪くなると、 その傾向が強くなると思うんです。最近になって急に。 「おもてなし」 という言葉が声高に語られるようになって驚いていますが、 企業サイトに訪れたときのエクスペリエンスというのが、 すごく大事になっていくのは間違いありません。そのWebサイトで感じたものが、 その会社や商品の印象を大きく左右する時代が確実に来ています。いくら広告費としては削られる部分があったとしても、 企業のバリュー、 商品のバリューに直結している本質的なところですから、 そこは強化されていくところではないかと感じています。 - ロフトワーク 林千晶氏
Webの重要性がますます高まる、
ということですね。 - Web Site Expert 馮富久
どちらかというと今までは、
「おもてなし」 の部分まで気にしなくても、 Webサイトを作るだけでお金がとれていたのではないかなと思います。それがどんどん技術も発達してきて、 次に 「何を価値として生むのか?」 と言ったとき、 「おもてなし」 というキーワード、 「ユーザエクスペリエンス」 の部分が、 重要視されるようになったのだと思います。そうなったとき、 作り手は何をすればいいかといえば、 作ったものに対しての作り手の思い、 「何をやりたかった」 とか 「自分が好きだから」 とか、 そういうのも含めてデザインをしてもらえるといいのではないかと思います。流れ作業の一環で作ってしまうものなど、 Webにはありません。人に伝えるという意味では、 作り手の思いだったり、 温度の部分が大事になっていくのではないかと思います。 あともう1つ気になるのは、
Webのアクセシビリティのガイドラインです。Web Content Accessibility Guidelines 2. 0 (WCAG2. 0) がまもなく勧告されるので、 メディアがいろいろ取り上げると思いますが、 「100%合わせる必要がどこまであるのか?」 というところに注目しています。たとえばAdobe AIRのアプリケーションや、 Flashのアプリケーションを採用したサイトを、 杓子定規にWCAG2. 0に合わせて作ってしまうのではなく、 作っている人がバランスをとることが重要だと思います。そういう意味ではロフトワークさんの良い事例を教えていただければ取材したいと思いますし、 期待しています。 「作っている人がどう考えているか?」 をしっかり伝えていくというのが、 来年のうちの雑誌のコンセプトですね。 - ウェブエキスパート 諏訪光洋氏
2009年は間違いなく、
不況というか、 ビハインドの年になると思います。それは制作においても広告においてもメディアにおいても、 いろんな意味で逆境になる。そういう中で企業サイトは、 当然予算も削られてくるでしょう。とはいえ、 「100%ちゃんと情報を出す。その予算を削ったら身も蓋もないよね」 というのが、 絶対条件としてあると思います。そして、 もうひとつ。ディフェンシブな時というのは、 全体として 「面で押し返す」 というのは無理だと思います。そういう時には、 企業の中から 「人」 が発言することが有効だと考えています。 「この企業の××です」 というふうに、 名前を出して情報発信していくことが着実に増えてきていると思います。社長ブログなんかは典型的ですが、 そうではないレイヤーでも、 「広報の○○です」 「商品開発の□□です」 というふうに、 名前を出して情報発信をする例が増えてきています。不況でディフェンシブになっているところを、 ブレイクスルーするのは、 個人のリーダーシップだったり、 タレントだったり、 カリスマだったりすると思います。 2009年は個人がもっと企業の中からでも情報発信をしていき、
「押し返して」 いってほしい。個人だったら、 そういう力を生み出せます。 「広告主は予算を削るかもしれないけれど、 それでもわたしに任してくれれば大丈夫です」 というような発言。あるいは、 「このサービスはわたしが自信を持って出しました。買ってくれれば、 あなたもたのしいはずです」 というような発言。そういう自信を持った発言でリーダーシップを発揮する個がいればいいと思うし、 そういう個を出してくる企業が、 勝つのではないかと思います。 - Web担当者forum 安田英久氏
話の流れに反しますが、
「Webだけの話なんてどうでもいい」 と思うんですよ。 「Web」 とか 「携帯」 とか 「リアル」 という分け方なんてどうでもよくて、 「アテンションとりたいのか?」 「ブランド認知を高めたいのか?」 「直接売上を伸ばしたいのか?」 「見込み客情報をとりたいのか?」 「アップセル (Up Sell) したいのか?」──その目的に応じて、 適切なコンタクトポイント、 適切なおもてなしの仕方があるはずだと思うんです。それは、 その目的と、 ユーザの動きから判断すべきです。 「Webで何をする」 とか、 「携帯で何をする」 とかいうのは、 あくまでも目的達成の手段にすぎないので、 そこはスタート地点ではなく、 うまく使い分けるだけなわけですから。 - ロフトワーク 林千晶氏
そうすると、
目的とかターゲットはどうやって作るのですか? - Web担当者forum 安田英久氏
ビジネス上の組織としての目的というのは、
組織の上から順番に降りてきますよね。 (自分で考えるなら) 会社の持っていきたい方向と、 現在の経営状況から、 あわせて判断できるはずですし、 それができていないのならば、 Webとかそういう次元じゃなくて、 組織で働く社会人として問題がありますよね。 - ロフトワーク 林千晶氏
マーケティングの現状として、
「人が見えていない」 から、 企業は苦しんでるいるのではないでしょうか? 人が見えている人はニーズも見えているから、 おのずと設計できる。 - Web担当者forum 安田英久氏
直接会いに行けばいいじゃないですか。全部を見るのは無理ですよ。でも、
たとえばあるC向けメーカーさんは、 ユーザ登録葉書をくれたお客さまの家に 「こんにちは!」 って話を聞きに行くらしいですよ。地方出張して。B (企業) 向けでも、 C (消費者) 向けでも、 会いに行って聞けばいいじゃないですか。 - ロフトワーク 林千晶氏
確かにそうですね。
- Web担当者forum 安田英久氏
直接行って、
酒を飲んで、 おいしいものを食べながらだと、 情報なんて出てくるし、 顕在化してないニーズにしても、 それを繰り返すことで見えてきます。顧客層全体に対する情報を知ろうとしても無理ですよ。でも、 特定の一部の人の表層的な特徴を知るのも目的ではない。ユーザ層をざっくりとセグメント分けしておいて、 そのセグメントのなかで何人かサンプリングして、 複数の顧客に共通する要素を抽出していくと、 だんだん見えてくるわけです。複数セグメントあればそれを繰り返していきます。 「全体」 のニーズを一気に知ろうとしても無理ですが、 適切なセグメント化ができれば、 地道に進められますよ。 でも、
2009年のWeb戦略って話になると、 結局は、 目的設定と、 UCD (User-Centered Design、 ユーザ中心設計) が求められる。 「ビジネス目的を明確にして、 それを達成するためにユーザをおもてなししましょうよ」 という話になるのです。 - 日経ネットマーケティング 渡辺博則氏
「2009年のWeb戦略」 ということでいうと、 消費者も買いたいものがなくなってきているということは確かだし、 先ほどのAmazonの例にもありましたが、 「満足してもらう」 だとか 「ヒントを与えられる」 といったことが、 2009年のポイントになってくるかなと思ってます。 「そんなに欲しいものはない」 ところでも 「楽しいから行く」 とか、 「ここに行くとウキウキするから行く」 とか、 そういう 「作り」 を、 来年はしなければいけないと強く思っています。そういう意味でも 「おもてなし」 の姿勢だとか、 サイトを作っている人が 「ほんとに伝えたいことはこれなんだ!」 って熱く語っちゃうというようなことが必要なんだと思います。 企業のWebサイトは
「メディア」 になってしまっていますから、 メディアとしての振る舞いをもうちょっと強化して、 来た人が心の満足感を得ていくようなWebサイトを心がけることがポイントになるだろうな、 と。あとは逆に、 それをやれば、 業績が伸びる企業Webサイトになるのかなと思います。 - ロフトワーク 林千晶氏
ありがとうございます。今までのような、
Webがどんどん伸びていく、 テクノロジー主体で 「あんなこともできる」 「こんなこともできる」 といった上昇の時代が終わって、 今は踊り場の時期に変わったということですから、 来るべき2009年は、 先ほど安田さんのお話にもありましたが、 「誰に?」 「何をしたいの?」 という本質的なところからはじめていく必要があるということですね。 「CMSがどうの」 ということからはじめるのではなく。 - Web担当者forum 安田英久氏
そうですね、
「CMSというツールがあるらしいから導入する」 とか 「アクセス解析って入れておいたほうがいいらしい」 レベルの人って、 まだまだすごく多いと思います。でも、 本来は 「ワークフローの問題があるからそれを解決するためにCMSを導入する」 とか、 「ユーザのこういう側面でのサイトでの動きを把握してサイトを改善するためにアクセス解析を導入する」 とあるべきなんですよね。 - ロフトワーク 林千晶氏
本質的な部分、
「誰に見せるの?」 「そもそも見せたい人は見つかっているの?」 というところからはじめる。Webも今は、 本当にメジャーな媒体になってきているということですよね。だからこそマーケティングも、 ロジックにあてはめてやっていかないと成果が出せない時代になっているんだな、 と、 お話をうかがっていて思いました。貴重なお話しをどうもありがとうございました。