(株)パソナテックは12月6日、現場で第一線で活躍するインフラエンジニアが一堂に会し、日々の仕事への心構えから利用している管理ツールなど幅広い内容でディスカッションするイベント「インフラエンジニア討論会2008~インフラエンジニア進化論~」を開催した。
ゲストエンジニアとして登壇したのは、楽天(株) 国際開発室 インフラ担当エンジニア 和田修一氏/(株)スカイホビット 代表取締役 越川康則氏/(株)ミクシィ 開発部 運用グループ 長野雅広氏/モトローラ(株) ホーム・ネットワークス・モビリティ IPTV事業開発 シニアマネージャー 石原篤氏/(株)paperboy&co. 事業戦略本部 副本部長 技術責任者 宮下剛輔氏の5名。パネルディスカッション・モデレーターを技術評論社 クロスメディア事業部 部長代理 馮富久が務めた。
インフラエンジニアって何だろう?
「楽天市場」など大規模なWebサイトのインフラを管理する和田氏によると、インフラエンジニアは大きくデータセンター/ネットワーク系/ミドルウェア/DB系に分かれるとのこと。それぞれは設計/構築/運用と細分化される。
一方、インフラ全般の設計から管理までを企業から請け負うことが多いスカイホビットの越川氏は、「小さい企業ではデータセンターでの物理的な作業からシステム監視まで全て行う」と述べた。
また、「自分はネットワークエンジニアに近い」と語るモトローラの石原氏は、交通整理を例にとり「大きなトラックが通る道は強固に設計し、渋滞や事故が起こりやすいところには信号を設ける。同様に、いかにトラフィックを問題なく通すかがインフラエンジニアの仕事」と説明した。
ひとくくりにインフラエンジニアと言っても、企業やネットワークの規模などにより、どこまで担当するかは異なるようだ。
大規模サイトの運用、スケールアップ・スケールアウト
「スケールについてとく問題になる1つのケースは新機能追加のとき」と語った長野氏は、ミクシィに「エコー」を追加したときの事例を紹介した。「サービス開始時は、落ち着くまでの数倍のアクセスがあるので、その分を吸収できるようにサーバを余計に追加しておいた」とのこと。
「楽天市場」などのサービスを提供する楽天では、「とにかく落とさないことが重要」と和田氏。「お歳暮などにより注文が増える年末はとくにトラフィックが増えるので、システムの増強などを行う」。
1年の中でとくにアクセスが増える年末年始の管理体制は、当番制を取っている企業が多いようだった。
インフラエンジニアを実感した瞬間
“やはり自分はインフラエンジニアだな”と感じる場面は、仕事以外の場面でもあるようだ。たとえば、スカイホビットの越川氏は、「家の水槽の魚の数と寿命を計算し、何ヵ月後には何匹になるから稼働率は何%で…と計算してしまう(笑)」とのこと。
宮下氏は、『30days Album』というpaperboy&co.の新サービスの誕生までについて触れた。本サービスは社内のプレゼン大会から生まれたものであるが、プレゼンを聞いたときから「これは実際にサービスになる」と宮下氏は感じ、「そのときにはすでにサーバ構成を考えていた」という。
またミクシィの長野氏は、「サービスが停止したときは休みでも直しに行ってしまう。動いていないと気持ちが悪い」と語った。
お勧め運用管理ツール
技術評論社『Software Design』2006年12月号や2007年10月号などにおいて、システム管理ツールについての記事を執筆していただいているスカイホビットの越川氏は、「Hobbit」「RRDtool」をお勧めの管理ツールとして挙げた。Hobbitは、「Nagiosよりも設定が容易に行え扱いやすい」とのことで、社名も本ツールに由来しているとのこと。また、「Perlを習得しておくと、手作業だと大変な処理を一瞬で終えることができるケースもある」とも語った。
和田氏は、台湾の楽天市場を例にとり、デフォルトでシステム管理に必要な多くのことができる「ZABBIX」、プロセス監視ツール「Monit」を挙げていた。
長野氏は、ミクシィでは「Nagios」を利用しており、「設定はスクリプトを自作して自動生成できるようにしている」そうだ。その他、「自作ツールとRRDtoolを組み合わせ、CPU/ネットワーク/memcachedのクエリなどをチェックできるようにしている」とのことだった。
paperboy&co.の宮下氏は、システム自動管理ツール「Puppet」により、ソフトウェアのインストールなどの作業を自動化している。Puppetではインストールパッケージや設置ファイルなどは独自の言語で記述するが、「シェルスクリプトよりも見通しが良い」と語った。このスクリプトをSubversionで管理し、「Archer」というデプロイツールと組み合わせ、大規模なシステムを効率的に管理している。
ワークスタイルの勘所
最後に、インフラエンジニアとしてのワークスタイルの勘所について、ホワイトボードに記入してコメントが付け加えられた。
- 宮下氏:「楽」
- インフラエンジニアの仕事はハードなので、良い意味でいかに楽をするか。先に苦労して後で楽をするのが大事。
- 石原氏:「ネットワークの酸素」
- インフラエンジニアはネットワークになくてはならないもの。ネットワークをより良いものにしていく意識を持つ。
- 長野氏:「地図にのこる仕事」
- 大成建設のCMに出てくるフレーズ。インフラエンジニアも同様で、目立たないけどプライドを持って仕事をする。主役のアプリケーション開発者が、いかに気持ち良く仕事ができるかを考える。
- 越川氏:「オールラウンドプレイヤー」
- インフラエンジニアは4番打者っぽくはないが、小さい積み重ねが活きてくる仕事。わからないところを1つ1つ調べていくような地道な努力が重要。
- 和田氏:「サービスの最前線」
- アプリケーションが脚光を浴びることが多いが、インフラエンジニアも大きな役割を果たしている。アプリケーション開発サイドと積極的に連携する。
インフラエンジニアの評価
会場の参加者から、インフラエンジニアの評価についてどのように行うべきかという質問があった。
インフラエンジニアを評価する立場にあるpaperboy&co.の宮下氏は、「たとえば夜間対応などで、問題が起こって対応したときに報酬が支払われるのは、問題を起こした人ほど報酬を得られることになりおかしい」と述べた。公正な評価は「難しい問題で、現在模索中」とのことで、現在考えているアイディアとして「サービスの稼働率やダウンタイムなどを評価に組み込む形にできれば」と語った。
モトローラの石原氏は、「必要十分なシステムをキャパシティプランニングにより算定し、実稼働後、余剰があれば減らしてコストを削減する。このような行動が、評価につながるのではないか」と述べた。
インフラエンジニアは、「インフラは動いていて当たり前で、問題があったときだけ文句を言われて対応に追われる」というイメージを持たれがちであるが、ネットワークにとってはなくてはならない存在である。監視の方法など工夫できる部分も多く、技術力も求められるので、ゲストエンジニアはやりがいを感じて仕事をしていることが窺えた。
- (株)パソナテック
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