中村泰之氏(名古屋大)により、KETpicをGUIで利用するツール(Maplet for KETpic、MapletはMapleのGUIライブラリ)が紹介されました。Maplet for KETpicでは「個々のグラフの線種や座標軸などに関する各種の設定」といったコマンド指定では手間のかかる操作が容易にできるように工夫されています(写真3)。プロットデータの書き出し・読み込みも可能であったり、日本語・英語・韓国語に対応していることなどにより、図版データの共有(および複数人による編集)に役立つことも期待できます。なお、現時点ではKETpicの機能のうち2次元グラフの描画のみがサポートされていて、3次元グラフの描画などの機能への対応は今後の課題とのことです。
独自数式入力システムの開発とTeXのWebアプリケーション化
町野明徳氏(東大)により、Webブラウザ上での数式入力システム(Suim)が紹介されました(写真4)。従来、Web上で数式を扱うには「(ときとしてTeX風な)テキスト表記」を用いたり「画像化したものを表示」したりしています。しかし、前者は(難しくはないものの)多少の学習が必要であり、後者には「画像であるために検索などの処理ができない」という問題があります。一方、今回紹介されたSuimを用いると、「int sin x / root x dx」のようなシンプルな記述からそれに対応する数式を(MathML経由で)生成・表示できるようになっています。また、「int」と「sekibun」のどちらでも積分記号を表せるという具合に、表記の多様性も考慮されています。ただし、「通常の変数」(ただのイタリックで表記)と「ベクトル」(ボールド・イタリックなどで表記)との区別といった数式表記の細かい点をどう扱うかについては今後検討がなされるようです。
中野賢氏(ネクストソリューション(株))による招待講演「TeXとDITA」が午前の講演の最後を飾りました(写真6)。講演の前半はpTeXの開発の歴史についてで、昔話のほかに「文芸的プログラミング」、「Pascal→Cの変換(web2c)」、pTeX拡張をTeXに組み込む方法などの要点について触れていました。後半はDITA(Darwin Information Typing Architecture)についてのお話でした。このDITAは複数の「トピック」(「タイトル」、「節」などの構造をもった、ひとまとまりの情報(文書の断片))を「マップ」を通じて組み合わせることによって多様な文書を生成できるシステムです(写真8)。DITAには、コンセプト・トピック(「概念説明」)、タスク・トピック(「手順説明」)のような基本的な情報タイプから特殊化させることでデータ内容に応じた(機械処理しやすい)情報タイプを作成・利用できるといった特徴があるそうです。また、EWB(Editor's Work Bench、TeXをバックエンドに用いた編集支援システム)を用いてDITAのようなことをするというアイデアにも触れていました。
轟眞市氏(物質・材料研究機構)による、プレゼンテーション技術「Rule of Three」の適用支援についての報告がありました(写真14:※1)。この「Rule of Three」というのは「提示するものは3個にする」、「重要なことは3回提示する」といった方針です。ただ、この方針を何から何までユーザ自身の管理のもとで適用するのは手間がかかり、難しいようです。そこで、この講演では、LaTeXのプレゼンテーション用クラスファイル(轟氏の場合にはprosper)を用いた場合にどのようにして「Rule of Three」を利用しやすくしているかの実践例が説明されました。まず、「(TeX)ソースの書法」の面では、「定型文字列のマクロ化」、「統一的な色指定」などが挙げられ、「(TeX)ソースの管理」の面では「用途に応じた『文書テンプレート』の自動生成」、「Makefileを用いた、(プレゼンテーションスライドとハンドアウトの同時作成といった)文書作成作業の自動化」が挙げられました。また、それらの「書法」と「管理」の「波及効果」としては「執筆行程・資料の見通しのよさ」などが挙げられました。
岡山友昭氏(東大)により、Fink(Mac OS Xでのパッケージシステムのひとつ)でのTeXの状況が紹介されました(写真16)。まず、2004年に東大の計算機システムがMacintoshに変更された一方、当時のMacintoshの(標準的な)環境では情報教育で用いられていたソフトウェア(TeX関連ソフトウェアを含む)が利用できなかったり日本語対応が不十分であったことが、パッケージシステムの整備を行う背景であったようです。また、Mac OS X向けのパッケージシステムの中でFinkを選択したのは、Finkではソースコードだけでなくバイナリでもインストールできることによるそうです。なお、東大Finkチームの活動は積極的にFink本家にも提供していて、現在Fink開発者の約1割が東大Finkチームで占められるに至っているそうです。
Vine Linux 5.0における日本語TeX環境の特徴――利用者・現場・開発者の情報共有――
山本宗宏氏(Project Vine・(株)ウルス)によりVine Linux 5.0でのTeX環境の変更点などについての報告がありました(写真17)。まず、task-tetexパッケージをインストールすることでTeX環境が構築されるという点は従来通りですが、beamerなどのプレゼンテーション用クラスファイル、OTFパッケージなどが追加されているそうです。また、リュウミンL-KLなどの標準的なモリサワフォントのOpenType版を用いる場合、フォントファイル名とCIDフォント名にずれがあるという点がフォント(mapファイル)の管理上の問題でしたが、それを解決する方法が提案されています。また、tt2001のfmex7.pfb、fmex8.pfb、fmex9.pfb(数式での可変サイズの括弧を含むフォントのType1版)の左パーレン(丸括弧)の一部がPDFでのプレビュー時に欠落するという問題への対処もなされたそうです。