10月9日、株式会社技術評論社、クックパッド株式会社 主催のイベント「第1回Webエンジニアバトルロワイヤル」が開催された。
第1回Webエンジニアバトルロワイヤル公式サイト
http://gihyo.jp/event/2009/webbr01
開催の経緯と狙い
今回のイベントは、「 創る心とおもてなし―第1回Webエンジニア料理対決 」に続く、クックパッド×技術評論社コラボレーション第二弾となるもの。
前回同様、たくさんのユーザを獲得しているWebサービスにフォーカスを当てている。注目されるWebサービスというのはどれも「独自性」を持っているものだが、それらを生み出すのは開発者自身の「楽しむ心」と「発想力(アイデア) 」によるところが大きい。
加えて、アイデアが出た後にそれらを形にするための「実装力」や「技術力」は欠かせない要素である。今回のイベントは、この「実装力」「 技術力」の部分を重要視し、参加者全員によるLT大会、さらに形にあるサービス限定という形で開催された。
イベント開催にあたっての挨拶をする、クックパッド株式会社最高技術責任者橋本健太氏。
イベント全体の司会を務めた株式会社技術評論社馮富久(右)と、クックパッド株式会社鷲見美緒氏(左) 。
ネギ振り、スイカ割り、ピアノ演奏!?バラエティに富んだLT大会
ここから写真とともに発表されたLTの様子についてレポートする。
Open Your Libido
株式会社ミクシィ 井上恭輔氏
トップバッターを務めたのは、日本最大のSNS「mixi」を運営する株式会社ミクシィより、井上恭輔氏が「Open Your Libido」と題したLTを行った。このタイトルを訳すと「欲望を開放せよ」となり、これは井上氏が先輩エンジニアから受けた言葉を引用したものとのこと。その言葉の通り、とても勢いのある、かつ本音を出したプレゼンテーションとなった。
井上氏が取り上げたのは、2009年8月に公開され、着実にユーザ数を伸ばしているmixiアプリについて。中でも、同氏が開発した「ネギ振りカウンタ」は予想を上回るユーザを獲得し、当初自前のサーバで運用していたアプリがすぐにダウンしてしまった、想定以上のアクセスにより一旦公開を中止したなどの裏話を聞くことができた。
ちなみに、発表時点で利用者数6万2,645人、累計ネギ振り回数6,770万振り超という数字を残している。
「ただ、誰よりも早くmixi上でネギを振りたかった」と、熱く語る井上恭輔氏。
開始当初、mixiアプリのトップランキングにまで登場するほどの注目アプリとなった。
SUICUP2009
東京スイカ研究会(株式会社ワンパク、株式会社レベルQ)
ネギの次はスイカの登場。株式会社ワンパクおよび株式会社レベルQの二社の有志が集まってできた「東京スイカ研究会」のこの夏の取り組み「SUICUP2009」について発表された。プレゼンターを務めたのは株式会社ワンパク代表取締役 阿部淳也氏。
全員、東京スイカ研究会の正装白衣を着ての登場。
「そもそもスイカが好き」というところから始まったこのプロジェクトは、「 スイカはコミュニケーションツールになり得る」という考察が導き出され、それをさらに進めて「Webカメラを利用したネットスイカ割り」にまで発展した。具体的には、Webブラウザ上のボタンをコントローラとして水着モデルの女性を音声で遠隔操作して、ブラウザ越しにスイカ割りを行うというオンラインスイカ割り。技術として、BlazeDSやFlashを活用しながら、ネットとリアルの融合を実現したサービスとなっている。実際にサービスが稼働していたのは3日間だけではあったものの、7,000ユニークユーザを獲得したそうだ。
詳細については東京スイカ研究会のブログ に公開されている。
オンラインスイカ割りのイメージ。左はブラウザ越しにスイカ割りを見ている様子、また、スイカ割りをする時間以外にもモデルの方がメッセージを送るなど、さまざまなコミュニケーションを取っていた。
遠隔操作には、BlazeDSやFlashなどの技術を活用し、それを音声に変換してブラウザ越しにリアルタイムスイカ割りを実現した。
ネットの今を知る技術
萩原崇之氏
3番目は、一般応募からのエントリとなった「ネットの今を知る技術」 。これまでの2つのような派手さはないものの、最近流行となっているイベントや勉強会の情報を、マイクロブログを通じて収集することを目的とした「livernal.net 」という、利便性の高いサービスについて紹介した。
ネットに流れている「今」をまとめることを目指したとコメントする萩原氏。
これは、Twitterをはじめとしたマイクロブログを通じて発信された情報を元に、それらを集約して1つのサイトに集めたまとめサイトを作るためのサービス。シンプルな作りではあるが、OpenIDの対応など使い勝手が良いものとなっている。
今後は、Twitterのbotシステムや対応WebAPIの拡大、携帯・スマートフォン向けサイトの準備などを検討しているそうだ。
シンプルな画面構成。自分のOpenIDを登録し、必要な情報を入力すれば、Twitterに流れるTweetsや動画情報などをまとめたサイトが簡単にできあがる。
今風の画像共有・お絵かきモジュール Spicky(スパイキー)
株式会社声優ニュースドットコム 時田正彦氏
4番目の発表は、株式会社声優ニュースドットコム 時田正彦氏が開発した画像共有・お絵かきモジュール「Spicky(スパイキー) 」 。これは、GPLv2+MIT Licenseで公開されているオープンソースのXOOPSモジュールで、5分でセットアップできるのが特徴。
時田氏は、XOOPSディストリビューションhodajukuに含まれている字幕付き動画モジュールcinemaru(しねまる)などの開発なども行っている。
また、現在は、Adobe Flexを利用した画像ツール「nextpaint」を自作したり、Windowsで動作する画像アップロード専用ツール「SpickyUploader」の開発などを行っているとのこと。
Spicky自体も、発表前日の公開したばかりにもかかわらず、sourceforge.jpの活発なユーザランキング6位にランクインされるなど、今後の展開に注目したい。
会場でも、非常にサクサクと動くデモンストレーションを行い、その手軽さがアピールされた。
Twitterで食材をつぶやくとオススメ料理を紹介してくれるbot「recipetter」をやってます
有限会社プラスワンデジタル 松鵜琢人氏
5番目は、有限会社プラスワンデジタル 松鵜琢人氏が、非公式の形でレシピデータを活用したTwitter bot「recipetter 」および関連Twitter botについて紹介した。recipetterは、Twitterを利用して@コメントに対してレシピを返すという実装がされている。
発表当日現在、回答数は2万を超え、フォロワーも5,570を数えているとのこと。
同氏は「Twitterの手軽さを活用したかった」とのことで、recipetter以外にも、カレーを食べた人を補足する「currykutter」やラーメンを食べた人を補足する「ramenkutter」などのbotシステムをはじめ、Twitter APIを活用したサービス開発に取り組んでいるそうだ。
ユーザからの反応を見ながら、botのコメントについても工夫しているそうだ。
イベント支援ツール招待くん
株式会社ジュノウ 伊藤貴史氏
6番目は、株式会社ジュノウ 伊藤貴史氏によるイベント支援ツール「招待くん 」の発表が行われた。伊藤氏は「元々、社内の同僚の結婚式パーティの出欠を取りたかったのが目的」と話したように、「 招待くん」は、ITやWeb関係者ではない人でも手軽に、誰もが使えるようなサービスとして作ったとのこと。
そのため、OpenIDなどの認証実装は行わず、シンプルに登録のみを行い、それらのリストをCSVなどで出力するだけの単機能のサービスとなっている。
「技術者だけではなく、誰もが使いやすいサービスを目指す」と話した伊藤氏。
具体的には、使い捨てSNSというようなイメージを思い浮かべて、1つのイベントに対して1つのページを発行し、そこに書き込みが行えるようにしている。これにより、ユーザのID/パスワードは必要なく、誰もがURLに直接アクセスすることで使えるようになる。
シンプルな作りである一方で、インターフェースは馴染みやすいものとなっているのが特徴。
Blogopolisの平面分割手法
浜本階生氏
7番目は、サービスリリース直後、はてなをはじめとしたネット上で非常に注目を集めた「Blogopolis 」を開発した浜本階生氏によるLTが行われた。Blogopolisとは、各種ブログをビジュアライズして検索できるシステムで、2次元と3次元をうまく利用した表現が特徴となっている。
オープニングからBlogopolisを使って、クックパッド関連のブログをサーチするデモを行った。
今回は5分という短い時間だったこともあり、Blogopolisの中から「平面分割手法」にフォーカスして解説が行われた。
Blogopolisの平面分割のポイントは、「 ボロノイ図」と「疑似築道法」の2つの手法を使っている点。まず、ボロノイ図を利用して平面空間を分割していき、分割したものをさらに見栄え良くするために浜本氏自身が考えた「疑似築道法」という、道路のように分けて表現する方法を利用している。また、あたかも疑似生活空間である「自然」さを表現するために、不定形・非対称・自己相似といった点にも考慮したそうだ。
今回は平面分割のみのプレゼンとなったが、会場からは細かな表現方法についての質問が多数挙がるなど、注目度の高さが伺えた。
途中、複雑な数式を使ったプレゼンが行われるなど、まるで大学の講義を聴いているような発表だった。ボロノイ図の詳細については、同氏のブログエントリ なども合わせて参照してほしい。
音によるUIの構築と破壊
クックパッド株式会社 根岸義輝氏
最後は、主催者でもあるクックパッド株式会社根岸義輝氏が「音によるUIの構築と破壊」と題して、GreasemonkeyおよびHTML+JavaScriptのUIを利用した、音を媒介にした表現技術について発表した。
なんと根岸氏はこの日が28歳の誕生日。会場全員からお祝いされた。
まず、可聴化について、音の出し方の3種類として「音を生成するFlashへのブリッジ」「 MP3、Firefox+QuickTimeによる再生速度変更」「 base64エンコードされたMIDIをJSで動的生成」という方法について説明した。その他、ゲームへの応用などについて触れた後、実際に、プレゼンテーションデータを使った音のビジュアライゼーションのデモを行った。
このデモでは、根岸氏が発する音をマイクから拾い上げ、その音量に合わせてプレゼンデータに表示される文字表示が変化するというもの。
「音のビジュアライゼーションはこれからの領域」と根岸氏も話すように、今後の展開に期待したい内容だった。
実践では、根岸氏が発する音に応じて、表示される文字列が異なる、リアル感溢れるプレゼンテーションとなった(画面のブレがその様子) 。
飛び入りですみません~訊いていたら発表したくなった2009~
株式会社Abby代表取締役 米林正明氏、株式会社キャピタルアセットプランニング係長相当 片山暁雄氏
さて、以上8組でLT大会は終了……となるところが、今回、浜本氏の応援に来ていた株式会社Abby 米林正明氏、株式会社キャピタルアセットプランニング 片山暁雄氏の両名から、「 ぜひプレゼンを行いたい」という要望があがり、急遽最終組として登場した。
「スミマセン!皆さんのLTを見ていたら僕たちも発表したくなりました」と乱入した米林・片山両名。
この両名は、先のSeasar Conference 2009 Autumnにて「T2ハックス!」と題して、JavaフレームワークT2を使ったデモを行った。そのときに発表した、T2を利用した遠隔ピアノ演奏サービスについて、実際に会場にいる参加者を含めて演奏を行えるデモについて紹介された。
具体的には、Flexクライアントからの入力を、AMF(ActionScript Message Format)を利用して、HTTP/HTTPS経由で転送し、Java Objectしてサーバに転送される仕組みとなっている。このアーキテクチャに、T2と呼ばれるJavaフレームワークを利用している。
会場からのノートPCからもアクセスしながら、その場で簡単なネット経由でのピアノセッションが実現できた。
懇親会&表彰式
懇親会
LT大会後は、前回と同じく副島シェフによるお手製料理とお酒とともに、参加者同士の交流会が行われた。皆、それぞれのサービスに関して議論を行ったり、また、今注目している技術やアイデアの発送の仕方など、Webを軸に、エンジニア・クリエイター達が交流するひとときとなった。
乾杯の挨拶をする、ワンパク阿部氏。
前回のイベントに引き続き、料理を担当した副島シェフ。
色とりどりの料理が並んだ。
歓談のひととき
表彰式
懇親会後、参加者全員の投票による審査が行われ、グランプリ(クックパッド賞)と準グランプリ(技術評論社賞)が決められた。
まず最初に、準グランプリに輝いたのはBlogopolis 浜本氏。サービスの独自性と、その実装および裏付けとなる技術力が評価された結果となった。
準グランプリを受賞した浜本階生氏(中央) 。
そして、グランプリには、トップバッターで発表したミクシィ井上氏が輝いた。「 発表の機会を頂けるだけではなく、こんなに素晴らしい賞までいただけるとは」と恐縮していた井上氏ではあるが、今回の発表にあったように「Open Your Libido」を実践している開発スタイルと、若さ溢れるプレゼンテーションが評価されてのグランプリ受賞となった。
グランプリを受賞した井上恭輔氏(右) 。受賞賞品はクックパッドオリジナルバッグとクックパッドのレシピをまとめたレシピ本3冊セット。
今後も、技術評論社やクックパッドではこういったエンジニア・クリエイター魂を刺激するイベントを開催していく予定なので、お楽しみに。