21日~23日の3日間、東京、秋葉原ほかで開催される世界的なLinux開発者イベント「第1回 Japan Linux Symposium」 。その開催に先立ち10月21日(水)、東京、汐留にてLinux創始者でありトップメンテナーであるLinus Torvalds氏の記者会見が開かれた。
会見には基調講演でLinus氏と登壇予定のLinux Foufdation Jim Zemlin氏、同テクニカル・アドバイザリー・ボードのチェアマンであるJames Bottomley氏も同席。
「難しさ」ではなく「面白さ」
最初にZemlin氏から、日本で初めての開催となったLinuxのカーネルサミット、そしてJapan Linux Symposiumの意義についてひとこと。「 直接Linuxカーネル開発者のトップ75人が一堂に会する場はまたとないチャンス。日本をはじめとするアジアの開発者と意見交換できることを非常に期待している」 。
続いてLinusとの質疑応答に入った。まず事前に集められた質問の中から、Linuxのトップメンテナとしての難しさについて質問を受けると、「 困難といった言葉は使いたくないね。そうした苦労をぼくはあえて『面白さ』と呼びたい」と前置きした上で、「 さまざまな領域にさまざまな動機をもってLinuxに関わる人たちが集まってきている。そうしたあらゆる人たちに満足して使ってもらえるように調整していく点」と答えた。では、その状況を乗り越えるために秘訣はあるのかだろうか? 「 ぼくにはわからない。みんなが期待しているような秘訣はないと思う。ただ、同じこと-どうやって人々の力を合わせて協力できるのか-を18年の間ベストを尽くして考えてきたんだ」 。
次にLinuxの開発は今後も「バザールモデル」という形で5年、10年と続いていくのか? との問いには「将来のことはわからない」としながらも「これまで複雑化し、人数も非常に増えたコミュニティに対して、構造を変えてうまく対応してきた。今後の変化にも新たなモデルを作って対応できると思う」と、これまでコミュニティを引っ張ってきた自信をのぞかせた。
では、以前と比べて規模や役割が変わってきたOSそのものの変化については、「 携帯電話やカメラなどのデバイスにもOSが載り、実際にLinuxが使われるようになり、クラウドのクライアントとしても活躍している。今後どのようなものが出てくるかわからないが、非常にわくわくしている」 。あくまで変化に対してポジティブだ。
明日Windows 7が発売なんて、知らなかったよ
OSつながりで、ちょうど発売前日となったMicrosoftの新OS Windows 7や、話題を集めているGoogleのChrome OSとLinuxを比べてどう思うかとの問いには、「 ぼくのポリシーとして、LinuxをほかのOSと比べたりはしない。過去のLinuxと新しいバージョンとの比較しか考えたことがないんだ。Windows 7の発売日なんてまったく知らなかったよ!(笑) 」 。Bottomley氏が補足して「Chrome OSについて言えば、あれはLinuxのスタックの上にブラウザをかぶせたもの。Linuxの汎用性の高さを証明している」と答えた。
コミュニティは「生物」化する
日本でも非常に注目され、今回のSymposiumでも話題になっている組込み向けのLinuxについては、開発モデルとして非常におもしろいと感じているとのこと。「 組込み向けの開発の多くは1回の開発で何百万のリリース。それで終わりというやり方。次のものはまた別に開発を行うため、継続性がない。このような組込みモデルと継続性のあるLinuxの開発モデルのミスマッチをどう解消していくか、そこがおもしろい点だ」と述べた。
コンピューティングが多くの人に広まる一方、複雑化していく点をどう解消するかについては「それは聞く人を間違っている。だってぼくは複雑なものが大好きだから(笑) 」とかわした後、「 携帯電話や組込み機器などOSは『隠れた存在』になりつつある。Linuxはそうしたデバイスにもうってつけだ。今後はその流れの中に乗っていくことになるだろう」と答えた。
これだけの規模で広がりをもつプロジェクトを成功させた方法として、コンピューティングだけでなく、他のものつくりの分野でも共通のものとなるのではないかとの問いには「よくわからない」としながらも「複雑化が進めば、我々自身、つまり生物に近くなっていくかも知れない。カーネルの開発は進化のようなもの。発展していくことで、独自の方向性がうまれてくるものではないかな? 科学技術の発展にも似ていると思う」 。
ぼくが望んでいるものはすべて実現した
そう言いながらも、ではLinus自身の「Linuxはこうなったら良い」といった希望が、そのやり方では反映しにくいのではないだろうか? その点について尋ねると「実は、ぼくがLinuxについて望んでいたものはすべて実現しているんだ。あとはみんなの希望を聞いて、対立するものがあったらどう調整して、できるだけ多くの人の要望に応えることができるようにするか、というのが仕事だ。よく言っているんだけど“ Good Taste” というのが必要なんだ。ぼくの選んだもの通りにならなくても良くて、結果的に良いものになれば良い。後知恵で気づくこともあって、それでも良いと思っている」と、開発当初とは自らの立場が変わっていることを繰り返し強調した。
LinuxコミュニティをLinusが例えるように生物だとすると、Linusは頭脳でもあるが、もっとプリミティブな、神経の反射のような役割を果たしているように感じた。コミュニティが成長していく際、頭脳的な部分につい目が行ってしまうが、もっと重要なところを束ねる役割こそが発展の鍵をに握るのかもしれない。